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天泪 ソラノナミダ  作者: 柊
17/33

□□□の記憶




「―――、髪紐はどうしたんだ?」

「稽古の時に切れた」


うだるように暑い、夏の日だった。

髪が首や背に張り付くのが鬱陶しくて顔を顰めると、あの人はおいで、と手招きした。


向かったのは屋敷の奥。誰も近づきたがらない、掃除の時も入らない部屋。

だが襖の向こうは予想に反して、埃ひとつなく、色と花が溢れていた。


蘇芳、桃、紫、山吹、浅葱、萌黄の布に、牡丹が、百合が、薔薇が、桜が、咲き誇る。


この家では誰も着ないような、派手な着物。繊細な花模様が彫刻された箪笥、小物入れ、全てがこの家から浮いている。


「・・・まだ続けているのか」


溜息交じりに、あの人が呟いた。でも顔を上げると、そこにはもういつもの笑顔。


「すまない、やっぱり違う部屋に行こう」




好きなものを選んでいいよ、と差し出されたのは、さきほどの色彩の波よりは随分と落ち着いているが、それでも様々な色を合わせた組紐たち。


「昔、付き合いで作ったんだが、私には使い道がないから」


確かに使われている糸は可愛らしい色ばかりだ。

でもそういう色は、私にも似合うとは思わない。


髪は切るから要らない、と言おうとして――――その色に、手を伸ばした


「ああ、目の色と同じだな。きっと似合うよ」


あの人はそう笑って言ったけど、選んだのは違う理由。



あの日、


あの秋の日、この人が好きだといった夕暮れの色


それから、私の好きな色



この人の、黄金色





―――赤と黄の色は、それからずっと、彼女を彩っている






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