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異世界恋愛短編集

悪役令嬢はいつかお姫様になる為に生きています

作者: 来留美

「ちょっと、私の王子様に手を出すのはやめてもらえるかしら? 凡人」


 上から目線で笑顔がムカつく彼女に私は言うの。

 そして私はその彼女の悔しそうにする顔を見たいのに、今回は違うみたい。

 やっぱりあの展開になるのね。


「僕のお姫様に何てことを言うんだ」


 来たよ。

 この王子様よ。

 昨日まで私と笑いながら楽しそうに話していたのに今の私を見ただけで私を嫌う。

 そして笑顔がムカつく彼女を一目見ただけで恋に落ちるの。


 私はいつも不幸になる悪役令嬢を何度も繰り返す。

 何度、生まれ変わっても私は悪役令嬢。

 いい加減、飽きたわよ。

 そりゃあ最初は楽しかったわよ。


 あの笑顔がムカつく彼女の悔しい顔とか、泣く顔とか、諦めた顔とかそれを見るのが楽しかったの。

 最初は本当に私は悪役令嬢だったの。

 

 でもそれを何度も続けていると飽きてきたの。

 そして私も幸せになりたいって思ったの。

 一度だけ自分の幸せの為に良いことをしたことがあるの。

 でもその良いことをした後、私は死んだの。


 私は悪役令嬢として生まれ、長生きしたいなら悪役令嬢として生きていかなきゃならないのよ。

 ヒドイと思わない?

 私の人生って何?

 何の為に悪役令嬢を繰り返しているの?


 だから私は今日も悪役令嬢になりきるの。

 なりきれば少しは幸せに暮らせるからね。

 さあ、笑顔がムカつく彼女に王子様を取られたから私の人生ももうすぐで終わるかな?


 王子様とお姫様が幸せになると私の人生はスピードを上げて終わりに向かう。

 その中でどれだけ私が幸せになれるのかが重要なの。

 私だって幸せになりたいんだから。

 好きで悪役令嬢になっている訳じゃないのよ。


 そんなこんなで私の人生は終わりました。

 今回の結果は死ぬ間際に笑顔の可愛い(ムカつく)お姫様にありがとうと言われました。

 やったあ。

 悪役令嬢が感謝されるなんてすごい進歩よ。

 私の幸せがまた増えた。


 その前の私は王子様のお父様のお兄さんの友達のその友達のいとこの人と結婚したの。

 少し王子様に近づいた感じよ。

 その前はもっと凄いの。

 たくさんの猫を飼っていたの。


 猫は魔女が飼うっていう決まりがあるのに私がたくさん飼ったの。

 魔女に好かれて猫をたくさん貰ったの。

 悪役令嬢が人に好かれることもあまりないのにすごい事でしょう?


 他にも色々あるけどその話はまた今度ね。

 それじゃあ新しい私のストーリーが始まるわ。

 さあ、私は赤ちゃんからやり直しよ。


「おめでとうございます。とても元気な女の子でございます」


 何処かの国で可愛い女の子が生まれました。

 唇も頬もそして髪の毛もすべてが赤く可愛らしい子はローズと名前がつけられました。

 それが私。


 悪役令嬢の私は何故かお姫様になっていました。

 お姫様の私は親の愛情をたくさんもらい育ちました。


 こんなに幸せでいいのでしょうか?

 こんな幸せを一度も経験したことのない私はそれは嬉しく楽しかったです。


 結婚できる歳になると王子様が現れました。

 王子様の名前はロイス王子です。

 王子様と出会った時の話をしましょう。


「可愛いリスさん。どうしたの?」


 私は怪我をしているリスを見つけたの。

 リスを両手で持ちお医者さんの所へつれていく。


「お嬢さん。そんなに急いでどうしたのですか?」


 王子様が白馬に乗って現れたの。

 よくある話って感じよね。


「このリスさんが怪我をしているみたいなんです」

「ちょっと見せてくれる?」


 すると王子様はリスに呪文のような言葉を言うと、リスは起き上がり元気にかけていったの。

 そして私は王子様に恋をして幸せに暮らすはずだったのに、それは彼女に奪われた。


「ローズ姫、今日も君はバラのように綺麗だよ」

「ありがとうございます。ロイス王子」


 愛を囁き合う仲になって私は幸せの絶頂にいたのに、これからどん底へと落とされる。

 彼女の手によって。


「ローズ姫様、今日は新しいメイドをつれて参りました」

「そうなの? どんな方?」


 年配のメイドが新しいメイドを紹介してくれた。

 私はそのメイドを見て驚いたの。

 そのメイドはいつものお姫様だったから。


「メイドのローズと申します。どうぞこれから宜しくお願い致します」


 メイドの彼女は深々と頭を下げた。

 この時、私はイヤな予感はしていたの。

 彼女と同じ名前で、彼女が現れたということは何か起きるんだって思った。


 そして事件は起きた。

 王子様がメイドのローズと楽しそうに中庭で話していた。

 前の記憶の彼女の笑顔と今の彼女の笑顔が同じだった。

 彼女は王子様に恋をしている。

 そして王子様も彼女に恋をしている。


「ローズはいるか?」


 いきなり私の部屋に王様が入ってきた。


「おかしいとは思っていたんだ。その髪の毛の色は誰に似たのか」

「何を仰っているのですか?」

「君は私達の娘ではないんだよ」

「何を仰っているのですか? 私が娘ではないのでしたら誰が王様の娘なのですか?」

「それはこの子だ」


 王様がそう言って執事に目配せをした。

 すると私の部屋にあの笑顔がムカつくお姫様がいつものメイド服ではなくお姫様のドレスを着て現れた。


「君とこの子は同じ日に生まれ二人は病院のミスで間違って君が私の子供として家へ来たんだ」

「それは本当なのですか? 何か証拠はあるのですか?」

「この子が教えてくれたんだよ。それに君の髪の毛は真っ赤だ。私達、王族にそんな髪の色を持つ者はいない」

「そんな。今まで私を娘として可愛がってくれたのはなかったことになるのですか?」

「すまない。私は国を背負っているんだ。ちゃんと正しいことをしてあげないと国民が何て言うか分からないんだ」


 正しいこと?

 正しいことが私を捨てること?

 やっぱり私には幸せなんて訪れないのね。


 それから私はお城を追い出された。

 王様は私に小さなお家を与えた。

 それが私への償いなんだと思う。


 私は悪役令嬢なのよこれが私の運命なのよ。

 何を悲しんでいるの?

 私にはお似合いの人生でしょう?


 そう思っていても私はあんなに暖かい幸せを知ってしまって悲しまない訳がない。

 涙は止まらない。

 一人で寂しく泣く私。


 一人で泣いて私は気付いたの。

 私は悪役令嬢。

 お姫様に嫌がらせをする悪役よ。

 それならお望み通りにしてあげる。

 私を甘く見ないでほしいわ。


 それから私は笑顔のムカつくお姫様の嫌がらせを考える。

 そして嫌がらせなら何でもした。

 脅迫状を送ったり、お城の真っ赤なバラを全て抜いたり、王子様の大事な白馬を逃がしたり、お姫様の悪い噂話を流したり。



 ある日お城に忍び込んで兵士に見つかってしまい、牢屋に入れられた。


「どうしてこんなことをするの? 私はこのお城に昔は住んでいたのよ」


 私は兵士に聞こえるように叫ぶ。


「あなたはもう、関係ないのよ」


 そう言って暗闇の中から顔を出したのは紛れもなく笑顔のムカつくお姫様だった。

 でもその顔はどう見てもお姫様には相応しくない悪い顔。


「お姫様?」

「そうよ。私はお姫様よ。大人しくか弱いお姫様」

「いつもと違う?」

「あなたは悪役令嬢。誰にも好かれない可愛くない悪役令嬢なのよ」

「どうしてそんなヒドイことを言うの?」

「あなたなんて嫌い。大嫌いなの」


 お姫様はそう言って暗闇に消えていった。

 何?

 私がお姫様に何かした?

 そりゃあ意地悪はたくさんしたけど。


「混乱してるようだね」

「えっ」


 私の後ろから声がした。

 この牢屋には私以外に人がいるの?

 後ろを振り向くと私と同じ歳くらいの男の人が手枷に繋がって座っていた。


「あなたは?」

「俺はこの国の隣の国の王子、シーファだ」

「シーファ王子? 聞いたことがないわね」

「そりゃそうだよ。俺は遠い昔に死んだことになっているからね」

「えっでもここにいるのに?」

「この国の先代の王様が俺をここに閉じ込めたんだ。そして戦いの末に俺は死んだと国に伝えた」

「どうしてそんな嘘を?」

「お金と権力の為だよ」

「欲の為にあなたをこんな所に閉じ込めているの?」

「そう」

「あなたはどのくらいここにいるの?」

「分からない。でも君は何度も見ているよ」

「えっ」

「君に似た女性は何度も見てきてるよ」


 私に似た人ね。

 私が何度も悪役令嬢になってるなんて彼が知る訳ないわよね。

 

「あなたはここから逃げようなんてもう、思っていないでしょう?」

「どうして?」

「だってそんなに長くここにいるのに逃げていないなんて諦めているからよね?」

「諦めてなんかないよ。いつもどうしたら逃げられるか考えているけどこの手枷のせいで力が出なくて」

「手枷?」

「そう。この手枷には魔法がかかっているんだ。俺の力を発揮させないようにね」

「この手枷が取れればあなたは自由になれるの?」

「そうだね」

「私が取ってあげる」


 私が手枷を取ろうとしてもビクともしない。

 私の力じゃ無理だよ。

 どうしよう。

 私は諦めなかった。

 近くに落ちている石で叩いたり、引っ張ったり、何でもしたけど傷さえ入らない。


 こんなにすれば彼の手首にも傷が入る。

 それに気付いたのは何でもしてもう、何も思いつかない時だった。

 彼の手枷の位置を変えた時に私は気付いた。


「えっこれって私がつけた傷なの?」

「あっ気にしなくていいよ」

「気にするよ。どうして痛いって言わないの?」

「君が一生懸命に俺を救おうとしてくれるからね」


 彼は笑った。

 こんなに傷だらけの手首なのに痛い顔もせずに私に笑顔を見せたの。

 彼を救いたい。

 救わなきゃ。

 私は彼の手首を撫でていた。

 少しでも痛みが和らぐように。


 それから彼の手首の傷が治るまで手枷を取ろうとすることは少しお休み。

 その代わり彼と色んな話をした。

 彼は私の百倍は生きていると思う。

 それほど長生きができる種族みたい。

 私だって今までの悪役令嬢の人生を足したら彼と変わらないくらい生きているのかもしれない。


「おいローズ、お前はもう帰っていい」


 いきなり牢屋のドアが開き、私は兵士に呼ばれた。

 でも彼の手枷はまだ外れていない。


「お前はこの城に立ち入ることが禁止になった」

「えっそれは困るわ。何でもしますから私をここに置いて下さい」

「はあ? そんなことは許されていない。早く出ていけ」


 私は兵士に手を捕まれ牢屋から引っ張り出される。


「分かったから待って。最後に彼とお別れがしたいの」


 そして私は彼の両手を握って彼を見つめる。


「良かったね。もう戻って来たらダメだよ」


 彼は私に笑顔を見せてくれた。

 彼はこの暗い牢屋で何十年、何百年と過ごしてきてどんな思いなんだろう?

 それでもここから逃げ出すことを諦めない彼はどんな気持ちなの?

 私には耐えられない。

 こんな思いをするなら生きていたくないなんて思うよ。


「生きて」

「えっ」

「君は精一杯、生きて」


 彼は自分よりも私のことを考えて言ってくれた。

 自分はこれからまたずっとこの暗い牢屋の中から出られないのに。

 どうしてそんな笑顔でそんなことが言えるの?


「あなたは?」

「俺も生きるよ」


 彼の目には諦めなんて微塵もない。

 真っ直ぐ私を見つめて言っている。


「生きて。あなたも生きて。私の為に」

「うん。君の為に生きるよ」


 彼の言葉に私の目から涙が零れる。

 いくつも零れて彼の手に落ちる。

 彼の手首に、彼の手枷に。


 すると彼の手枷が光って姿を消した。


「えっ」


 私は驚いていたけど彼は驚くこともなく私を横抱きにした。

 そして兵士の横をすり抜け城を抜け出す。

 飛んで。

 彼には大きな黒い羽が生えたの。

 

 城から抜け出して彼は早いスピードで城から離れる。

 私はこの状況についていけずただ流れていく景色を見ていた。


「大丈夫?」


 何も話さない私に彼は飛びながら聞いてきた。


「ちょっと混乱してるの」

「そうだよね。君の涙で手枷がなくなるなんて驚いたよ」

「それもだけど私はあなたにも驚いているの」

「俺に?」

「その黒い羽はまさかだけどあなたは悪魔なの? 天使じゃなくて」

「そう。悪魔だよ」

「えっ」

「嘘だよ」

「嘘?」

「俺達の種族は魔力を持つ魔族。知らない?」

「そういえば魔女以外に魔法を使う種族がいるっていうのは聞いたことがあるよ」

「そして魔族の力を継承した者だけが手に入れることができるこの黒い羽。この羽が君の国のお金になっていたんだよ」

「羽がお金?」

「この羽は俺にしか生えていない。だから高くで売れるんだよ」


 彼はそう言いながら私を見る。

 彼は疲れているように見える。


「少し休もうか?」

「いい? 久しぶりに飛ぶと体がついていかないんだ」


 そして私達は大きな草原に降りた。

 見渡す限り辺りは私より背の高い草ばかり。

 そこに彼は寝転んだ。

 そして目を閉じている。

 私も彼の隣に寝転んだ。


 空が青くて綺麗で、そよ風が気持ちいい。

 彼は何百年か振りの大地を感じているようだった。

 だから邪魔をしないで私も目を閉じた。


「ねえ、君って帰る場所あるの?」


 私は彼に話しかけられ目を開ける。

 目の前には彼の顔があった。

 彼をよく見るとなんとも美しい顔だった。

 暗闇で見ていた彼の顔はほとんど見えなかったけど今はよく見える。

 何か恥ずかしくなってくる。


「もう、私の家には住めないと思う。あなたと逃げちゃったからね」

「それなら俺の国においでよ」

「えっ」

「君は俺を救ってくれたんだ。国民には俺の救世主って紹介するよ」

「私は救世主になりたい訳じゃないの」

「それなら何?」

「女の子なら一度は夢にみる、お姫様よ」

「えっ君は最初からお姫様だよ?」


 彼は驚いて言っている。

 彼の言葉に私も驚く。


「初めて見た時は君はキラキラしていたよ」

「牢屋の中で?」

「違うよ。昔、見た君に似た人。あれは君でしょう?」

「どうして私だと思うの?」

「だって君はいつも最初はキラキラしていて幸せそうなんだよ。でもそれは最初だけ。君に似た人達はみんなそうなんだ」


 そうなのかも。

 最初は王子様と仲良くしていて楽しいのに、いつもお姫様が私達を邪魔するの。


「お姫様に戻りたい」


 私は小さな声で呟いた。


「それなら俺の国においで。君をお姫様にしてあげる」

「でも、私とあなたの時間の進み方は違うでしょう?」

「それは大丈夫だよ」

「だって私はあなたより先に一生が終わっちゃうでしょう?」

「君が俺とこれからもずっと一緒にいたいと思っているのなら君と俺の時間は同じ進み方になるよ」

「あなたとずっと一緒にいたいよ」


 私は彼にそう言って笑いかけた。

 彼も私と同じなんだと思う。

 だって彼も私に笑いかけてくれたから。


「目を閉じて」

「どうして?」

「君に俺と同じ時間を与えないといけないから」

「そうなの?」


 そして私は目を閉じた。

 そして彼にキスをされた。

 嫌なんて思わない。

 だって私は彼が好きだから。


 彼の唇が離れて私は目を開ける。

 彼は私を愛おしそうに見ていた。

 私は彼に両手を差し出した。

 彼は私の腕を引っ張り私を抱き締めた。


 私は彼に抱き締めてほしくて手を差し出したの。

 それに気付いてくれた彼。

 私と彼は同じ気持ちなのよ。


「さあ、俺の国へ行こうか?」

「うん」


 そして私は彼に抱き締められながら彼の国へ向かう。


「あの山の向こうが俺の国だよ」

「楽しみ」

「君はあの山の向こうの国に入ったらお姫様だよ」

「やっと私のなりたかった幸せなお姫様になれるのね」

「悪役令嬢じゃないんだよ」

「えっ」

「さあ、行こうか」

「うん」


 彼は私が悪役令嬢だということを知っていたのかもしれない。

 でも私は敢えてそこを聞かないでいてあげる。

 だってあんな苦しい昔のことなんてもう、思い出したくないでしょう?

 今が幸せならそれでいいのよ。


 私の王子様は黒い羽が生えた悪魔のような見た目の天使のような優しい人。


 そして私は悪役令嬢として生きていたお姫様になりたい女の子。



 二人が出会ったら不幸なんて言葉は何処にもありません。

 幸せという言葉しか生まれませんでした。


 私が何度も悪役令嬢になっていたのは彼に出会う為だったのかもしれません。

読んで頂きありがとうございます。

楽しく読んで頂ければ幸いです。

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