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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第十六話 ペンドールとの夕食

  肝心のワロウの宿の引っ越しはそう時間はかからなかった。元々言っていたように荷物も少ないし、しかも二人で運べば更に楽だ。


 宿に戻ると、ペンドールが夕食に招待してくれた。娘を救ってくれた恩人をぜひもてなしたいとのことだ。ワロウとしても断る理由はない。時間的にもちょうど空腹になってきていたところだ。


 ワロウが了承すると、ペンドールは笑顔で食事の場所まで案内してくれた。そこはこじんまりとした部屋で4人掛けのテーブルがある部屋だった。


 テーブルは4人掛けだったが、用意されている椅子は3つ。どうやら今回はペンドール、バルド、ワロウの3人だけで席を設けたようだ。


 ワロウとしても使用人が大勢いるような状態でお客様として扱われるのは勘弁だった。


 そもそも人に傅かれるようなことは今までなかったし、そのせいで変に緊張して上手い飯を食ったとしても味がわからなくなりそうだったからだ。


「さて...では、わが娘を救ってくれた偉大な薬師に...乾杯!」

「薬師様様だな!ハッハッハ! 」

「薬師じゃねえよ、ただの冒険者だっつーの...」


 ワロウはぼそりと反論したが、上機嫌な二人の耳には入っていないようだ。そのまま無視されて、酒は進み、話は盛り上がっていく。その中でいつの間にかワロウの薬に関する知識の話題になった。


「いやあ、それにしてもワロウ君はすごい。何人もの薬師に聞いてもわからなかった原因を突き止めてしまったのだからね」

「...原因が毒で、オレもたまたまその毒に詳しかったってだけだ。これが病気だったら他の薬師の方が詳しかっただろうぜ」


 ワロウ自身は本当にただの偶然だと思っているのだが、二人はワロウが謙遜していると思ったようだ。


「そう謙遜するなよ、ワロウ。お前は十分にすごいと思うぜ?知っていただけじゃなくて、その解毒薬の作り方も知ってたんだからよ」


 そんな他愛もない話をしていると、ペンドールが少し身を乗り出してワロウに質問してきた。


「それにしても...ワロウ君のその技術はどこで身に着けたんだい?...おっと、秘密というならもちろんそれでも構わないよ」

「そんな大した話じゃねえさ。一応、昔師匠がいてそのじいさんに色々習ってたんだ」

「お前、師匠なんていたのかよ。初耳だぜ」


 驚いたような声をあげるバルド。今日、ギルドの薬部屋で話した内容だったのだが覚えていなかったのだろうか。


(そういや、そのことを話したのはアネッサと二人きりのときだったか)


 ワロウが師匠...ルーロンのことを話したのはアネッサにのみである。そのことを思い出しているとペンドールがさらに深く聞いてきた。


「ちなみに...その師匠の名前を伺ってもいいかな?私の個人的な興味なんだが」

「多分、知らねえと思うけどな。...ルーロンだよ。薬師ルーロン」

「...ルーロン?どこかで聞いたような...」


 ペンドールはルーロンという名前に聞き覚えがあるようだった。そういえば、アネッサも同じような反応をしていた。


 しばらく考えていたペンドールだったが、ついに思い出したらしく、椅子から少し飛び上がった。


「…そうだ! 薬師ルーロン! 王都薬師会の会長じゃないか!」

「は?何だって?王都薬師会?」

「商人の私でも聞いたことがあるくらい有名な方だよ。君はルーロン師の弟子だったのか」


 まさか、と思った。あの風変わりなじいさんがそんなに偉そうな立場にいるとは思えなかったのだ。


 それに、ルーロンという名前自体そこまで珍しいものではない。ワロウが知っているルーロンとその王都薬師会会長のルーロンが違う人物である可能性は十分にある。


「たまたま名前が一致しただけだろ。あのじいさんが会長なんてあり得ねえよ」

「そうか?お前、結構すごい技術を持ってるじゃないか。その師匠ならあり得るんじゃないか」

「んな馬鹿な…」


 バルドの言葉を否定するワロウ。だが、ふと気づいてしまった。


(今、改めて考えてみるとあのじいさん...いくつかおかしいところがあった...)


 ルーロンにはいくつか不可解な点があった。


 例えば、流れの薬師にも関わらず高価な魔法装置を持っていたこと。

 高価な魔石を惜しみなく調合に使っていたこと。

 そして、知る者の少ない"毒"に関する知識が豊富であったということ。

 

 こうして考えてみると普通の薬師ではありえない点がいくつもある。だが、もしルーロンが王都薬師会とやらの会長であるというならば、そのどれもに説明がついてしまうのだ。

 

 王都薬師会会長という立場ならば、金は十分に持っていただろうし、魔石に関しても特別な伝手があった可能性もありうる。更に薬に関する知識が他の薬師よりも飛び抜けて多かったというのも全く不思議ではない。


(...あり得る...のか?...しかし...)

(もし本当にそうだったとしたらディントンに来る理由がない。別人...のはずだ)


 ワロウが複雑な表情をして黙っているとペンドールもなんとなく察したようだ。


「どうやら...全く心当たりがない...というわけではなさそうだ」

「...どうだかな。可能性は低いと思うぜ」

「薬師会は王都にある。もし、気になるんだったら会いに行けばよいのではないかね?」

「...いや...別に気にもなってないさ。それにそんなお偉いさんに会えるようなコネはないぜ」


 ワロウはただの冒険者だ。そんな一般人が王都薬師会の会長に会いに行くというのは流石に無理がある。門前払いが関の山だろう。


「ふむ...そうかね。まあ、そこは君の自由だ。だが...」


 そこでペンドールはあるものを懐から取り出した。ワロウが受け取った金属製のプレートだった。ペンドール自身も持っていたらしい。


「もし、会いたいと言うならば先ほど渡したコレを見せてみるといい」

「...何?どういうことだ」

「私の商会は王都でも活動をしている。関係者だと言えばもしかしたら何とかなるかもしれない」


 ペンドール商会の名前は王都でもある程度通用するようだ。

 普通、王都に店を持つだけでも相当成功していると言ってもいいのだが、ペンドール商会はさらに周囲に対する影響力もあるということだ。

 そう考えてみるとペンドール商会がいかに規模の大きい商会かということが伝わってくる。

  

「...アンタに迷惑かける気はないさ。さっきも言ったが、別にそこまでして会いたいわけでもない」


 だが、ペンドールの名前を出すということは彼に迷惑がかかる可能性もある。そこまでしてルーロンに会いたいかと言われると答えは否だ。...今のところは。


 ワロウが首を横に振ると、ペンドールはあっさりと引き下がった。


「わかった。...じゃあ、今度は他の話をしようか。冒険者らしく、魔物退治の話とかね」


 ペンドールは茶目っ気たっぷりにウインクする。確かに冒険者と言えば腕っぷし自慢の話をするのが大好きだ。その自慢の中でどれだけの強敵を倒したかというのはもはや定番と言っても過言ではない。


 ...が、ワロウはあいにく普通の冒険者ではない。あまり腕っぷしに関する話題は豊富ではないのだ。


「残念ながらそっちの方はあまり面白い話はないな。如何せん、腕っぷしが強い方じゃないんでね」

「おや、そうなのか。バルドと知り合いだったし、てっきり凄腕の冒険者とばかり思っていたよ」


 そういえばペンドールにはワロウの冒険者ランクを伝えてなかったような気がする。別に改めて言うほどのことではないのだが、誤解は一応解いておきたい。


「Eランクだよ」

「は?」

「オレの冒険者ランク。びっくりしたか?」

「...うん。びっくり...したね」


 これは完全に予想外だったらしく、ペンドールは少しの間固まってしまった。その様子に少し笑いながらワロウは続けた。


「じゃ、オレの苦労話にでも付き合ってくれ。多分面白いとは思うぜ...聞く分には」

「は、はは...実際に体験はしてみたくないね...」


 若干引き気味で笑うペンドール。その後のワロウの話はおもしろく、盛り上がりはしたが、ペンドールとバルドから同情の視線を受けることになってしまったのであった。

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