第十五話 バルドとペンドール
Side バルド
お前も経験してるからわかるとは思うが、冒険者の駆け出しの頃って一番きつい時期だろ?なにせ報酬は少ないし、受けれる依頼も少ないし...まあ、俺もその頃は散々だったって話だよ。
そんな中でも何とか仲間を見つけて、パーティを組んで、依頼を受けて...自分で言うのもなんだが、俺たちには才能があったんだと思う。だから俺たちのパーティはEランクまですぐに上がっていったんだ。
だけど、快進撃はそこまでで止まった。俺たちの前にDランク試験という大きな壁が立ちはだかったのさ。
これを言うと驚かれるかもしれないが、実は俺、Dランク試験を一回落ちているんだ。...ほら、やっぱり驚いただろう?Cランク冒険者って言っても実はそこまで優等生ってわけじゃないんだぜ。
経験して初めて分かったが、やっぱりDランク未満の昇格試験とDランクの昇格試験はわけが違う。大体冒険者はDランクになったら一人前って言われてるだろ?だからその分だけ試験も厳しくなるってわけだ。求められるもんだって多い。
ん?なんだよワロウ。顔色が悪くなってきたぞ?何?...ああ、そうか。お前もDランク試験を受けるわけだもんな。いや、悪い悪い。受ける前からこんなこと聞かされちゃビビっちまうよな。
じゃあその心配を取り除くためにも少しだけ内容について話しておこうか。
おっと...もちろんギルドの連中には内緒だぞ?多分機密事項だからな。後、これは俺が受けたときの話だからな。今は違うかもしれないことを忘れないでくれよ?
まず、試験は二部構成になってるんだ。最初がギルドで選ばれた試験官との模擬戦闘。ここで、最低限Dランクにふさわしい実力があるかを見ているらしい。試験官は大体Cランク冒険者がやるが...たまにBランク以上も出てくるらしいぜ。
ん?ああ...残念ながら俺は試験官はやったことは無いぜ。どっちかっていうと俺たちみたいな拠点をどんどん変えていくやつらよりも地元の冒険者を使ってるんじゃないかな。
話を戻すぞ。俺が受けたときもCランク冒険者とやりあったんだ。もちろん武器はギルドが貸し出してる練習用の武器を使った。ただ、いくら模擬用とはいっても材料は同じだからな。当たり所が悪ければ結構大ケガすると思うぜ。
まあ、相手はこっちよりも格上だから、そこら辺の手加減はしてくれるけどな。で、俺の結果はというと、コテンパンにされた。まあ、そりゃそうだよな。明らかに格上だったし。
でも、参加者の中では結構戦えてた方だったらしくてな。一部はそのまま合格になったんだ。
問題は第二部だ。ここでは他の試験者たちと一緒に一つの依頼を受けることになるんだ。ここでは元々のパーティの面々と同じになることは無い。つまり完全に初めての相手といきなり組まされるわけだな。
ここで確認したいのは他の冒険者と一緒に行動するときに問題がないか、また、いきなりいつもと違うメンバーと組んでも連携が取れるかっていうところらしいぜ。
いつも同じメンバーと一緒に行動してるからそんなことをやる必要はないって駄々をこねる奴もたまにいるらしいが、複数のパーティで組むこともあるし、必要ないことはないんだよな。
で、まあ察してると思うが、俺はこの第二部で落ちたんだ。なんで落ちたと思う?
...え?他の冒険者と喧嘩したからだって?馬鹿野郎、俺がそんなに血の気の多い奴に見えるか?...なんだよその微妙な顔は。
ま、結果から言っちまうと試験途中で武器が壊れちまったんだよ。俺だって武器にガタが来てることはわかってたんだが、どうしても金が無くて新しいのを買う余裕がなかったんだ。それで、ちょっと硬めの敵に剣を振るったらポキッて根元から折れちまったのさ。
もちろんその時は予備の武器なんか買う余裕はなかったから、俺がその時持ってたのは採取用のナイフくらいしかなかった。それで、もうそれ以上戦えないって判断されて途中棄権ってことになっちまった。
まあ、そんなわけで最初の試験は落ちちまったわけだが...それからが大変だったんだ。
なんてったって予備の武器がないから俺の戦う手段が完全になくなっちまった。それに新しい武器を買う余裕もない。
今から考えてみると随分と恐ろしい状態でやってたなと思うよ。俺だけじゃなくて誰かの武器が壊れたらもう新しいのを買えませんって状態でずっとやってたわけだからな。
貯金しとけって?若いころはそんな考えなかったのさ。依頼を達成してある程度まとまった金額が手に入ったらすぐにパーっと使っちまってたんだ。でも、冒険者ってそういうやつがほとんどだろ?仕方がなかったんだって。
...この時点でうすうす察しがついたかもしれんが、武器が無くなって途方に暮れてた時に声をかけてくれたのがペンドールさんだったってわけだ。
俺がまだEランクに上がりたての頃にペンドールさんの護衛依頼を受けたことがあってな。その時ちょっと活躍したから名前を覚えてくれていたのさ。
それで、俺が武器が無くて困ってるんだって相談したら、じゃあ一本剣をくれてやると言ってくれたんだ。その時はすげえびっくりしたよ。だって剣だぜ?普通に一番安い数打ちの剣だって金貨10枚はするんだからよ。
それにペンドール商会は今となっては商人だったら誰もが知ってるような大商会だけど、昔はまだ小さい商会だったんだ。当然金貨10枚なんておいそれと出せるような金額じゃなかったはずなのさ。しかも、ちょっと護衛依頼で活躍した程度の仲の相手にだぜ?信じられないよな。
流石に話がうますぎるってんで、俺も最初は疑ったんだ。何か裏があるんじゃないかって。で、色々と探ってみたんだけど、まあペンドールさんにもすぐに疑っているって気づかれたんだ。
“どうやら疑われてしまったようだ。大丈夫だよ。今回の話に裏なんてないさ”
“...じゃあ、なんで剣をくれるとか言い出すんだ?剣だって安くはないぞ?”
その時に苦笑しながら言われた言葉をまだ覚えてるよ。お前も聞いた覚え、あるんじゃないか?
“これは私の商人としての勘だ。君に恩を売っておいた方がいいとね”
“恩を売るって...Eランク冒険者に恩を売ってどうすんだよ?”
“青田買いというやつさ。君がもっと上位のランクになったら...そうだな...私の商会の専属の護衛になってくれないか”
“...わかった。それでいいんだな?”
“ああ、もちろんだ。男に二言はない”
で、まあ結局その時にもらえた剣で、もう一回試験を受けに行って、今度こそ受かったってわけだ。
それ以来ペンドールさんは色々と俺たちのサポートをしてくれたんだ。指名依頼を入れてもらったり、仲間の武器の調達とかもやってもらったりしたな。
商人っていうとなんか頭がよくていけ好かなさそうな腹黒い連中ばかりだと思ってたんだが、ペンドールさんは違った。俺たちみたいな冒険者にでも丁寧に接してくれたし、馬鹿にもしなかった。
そんなペンドールさんの人柄に触れて、俺たちはどんどん仲良くなっていったんだ。だからまだ専属護衛でもないのにずっと一緒に旅してまわってたりした時期もあったくらいだぜ?
そして、俺たちが十分な実力をつけてCランク試験に受かったときに誘ってもらったんだ。”専属護衛になってくれないか"ってね。
もちろん俺たちは二つ返事で回答した。もうその時にはほとんど専属護衛みたいになってたしな。で、今に至るってわけだ。
「だから、ペンドールさんがいなければ俺もここまでこれなかったかもしれない。恩人ってやつだな」
「...なるほどな。そこまで長い仲だったのか。お前がDランク試験を受けた頃って15,6年前だろ?」
「もうそんなになるか…」
バルドはしみじみとそう言うと、天を見上げた。
「ま、俺とペンドールさんとの付き合いはそんな感じだよ。だからお前にも感謝してるってわけ」
「…まだ、目を覚ましたわけじゃねえが。ご期待に沿えたようで何よりだ」
こうして感謝されるのは悪い気分ではない。ワロウが今まで培ってきた薬に関する知識が役に立った。今まで自分のやってきたことは無駄にはならなかった。
それだけで、少し報われた気持ちになったワロウであった。




