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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第十三話 犯人は誰なのか

 ギルドの薬部屋で、魔法装置が止められないとアネッサがひどく焦っていた頃、ワロウはペンドールの泊っている宿の前まで来ていた。


 相変わらず宿の門番の男が突っ立って見張りをしている。早速その男に頼んでバルドを呼んでもらうことにした。


「なあ、ここに泊ってる冒険者でバルドってやつがいるんだ。そいつにワロウが来たって伝言頼めるか?」

「バルド?...悪いが宿泊客全員の顔と名前を覚えてるわけじゃないんでな。なにか特徴はあるか?」

「ああ、それもそうか...ここにペンドール商会の連中が泊ってるだろ?そこの雇われだ」

「ペンドール商会...わかった。取り次いでくるから少し待っていろ」


 そう言うと門番は宿の中へと入っていった。そして幾許もしないうちにその門番が後ろにバルド連れてやってきた。


「ほら、連れてきたぞ」

「おお、ありがとよ。...バルド、どうする?すぐに入っていっても大丈夫か?」

「ああ、問題ない。...詳しくは中で話そう」


 バルドは門番の方をちらりと見やると、そのまま翻して宿の中へと入っていった。ワロウもその後を追う。そして辺りに人がいないことを確認すると、歩きながらひっそりとバルドに尋ねた。


「今、どんな感じなんだ?犯人捜しの途中なんだろ?」

「いや、もう終わった。犯人はもう捕まえてある」

「何だって?いくらなんでも早すぎるだろ?」


 ワロウがバルドと別れてからまだ数時間程度しか経っていないはずである。この短い時間でどうやって犯人を捕まえられたのだろうか。


「ブミンの毒はバレないだろうと高をくくってたみたいでな。油断していたところをとっ捕まえた感じだ」

「あのマリーとかいうメイドはどうだったんだ?」


 マリーは当初あの部屋の中を香水まみれにして、その甘ったるい匂いを充満させていたのだ。そのせいで毒のブミンの匂いが誤魔化されていた。普通に考えると彼女が最も怪しい。


「...まあ、それくらいならいいか。結局マリーは関係なかったんだ。だが、彼女に香水を渡した人間がいて、そいつを問い詰めてみたところ犯人だったってわけだ」

「なるほどな。香水を渡したやつ、か」

「さっきも言ったが完全に油断してたみたいで、奴の部屋を漁ってみたら証拠がぼろぼろ出てきたんだ。あそこで言わなかったお前のお手柄ともいえるな」


 犯人の方もまさかこの毒殺計画がバレるとは思っていなかったようだ。実際にペンドールたちはつい昨日まで娘が倒れた原因は病気であると思っていた。犯人がもうバレないと思って油断したのも仕方がないのかもしれない。


 その犯人にとって不運だったのはワロウがここに来てしまったことだ。ワロウはブミンの毒のことを知っており、更にあの場では犯人を逃がさないためにわざとしらばっくれてわからないふりをしたのである。


 そのおかげで、犯人は自分が問い詰められるまで疑われていると気づかず、証拠も消し損ねた状態で取っ捕まってしまったのだ。


「まあ、取っ捕まってくれて何よりだ。誰がとか、どうしてとかは聞かない方がいいんだろ?」

「...そうだな。一番のお手柄だったお前に、ことの顛末を伝えないというのもどうかとは思うんだが...すまない」

 

 バルドが申し訳なさそうに頭を下げる。


「いい、いい。オレだって余計なことに首突っ込んで、厄介事が降りかかって欲しくはないしな。知らぬが仏ってやつだ」

「そう言ってくれるとありがたい。...おっともう着いたな」


 バルドが慌てて立ち止まるとそこには見覚えのある扉がある。つい数時間前にも通った扉だ。その時と違い、今回は解毒薬を持っているが。


 バルドが扉をノックして中へ入ると、ワロウは違和感に気づいた。部屋の中身が変わっているとかそういうわけではないが...


(使用人が誰もいない?)


 数時間前にここに訪れたときは部屋の中に何人も使用人がいたはずだ。だが、今部屋の中には主であるペンドールしか見当たらない。


「よく、来てくれた...! その持っているのが...?」


 ペンドールはワロウのことが待ちきれなかったようで、詰め寄るような勢いでこちらに近づいてくる。ワロウはそれを手で制すと、持っていた瓶をかかげる。


「まあ、そう慌てなさんなって。ご推察の通りこれが薬だ」

「おお...! これで我が娘もようやく毒から解放されるというわけだね!」

「そういうこった。それにしても...」


 ワロウは改めて部屋の中を見渡す。だが、やはり人の気配はしない。本当にペンドールしかこの部屋にはいないようだ。大量にいた使用人はどこに行ったのだろう。


 そのワロウの視線から疑問を察したようで、ペンドールが簡潔にそのわけを教えてくれた。


「少し、驚いたかもしれんね。今回の犯行が身内のものだったという話は聞いているかい?」

「ああ」

「身内が裏切ったとなると、もはやだれが敵かどうかわからないんだ。だから、娘がいるこの部屋には私とバルド以外が入れないようにした」

「そういうことか...」


 ペンドールは明示こそしなかったものの、その口ぶりと行動から、ワロウは使用人のうちの誰かが裏切ったのだろうということはわかる。

 

(誰が敵かわからない、か)

(ん?バルドはさっき捕まえたとか言ってた がどうなんだ?)


「だが、犯人はもう捕まえたんだろう?」

「まだ、実行犯を捕まえただけだからね。上で指示している人間がいるかもしれない」

「共犯がいるってことか?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どこまで追えるか…そこも問題だ」


(どこまで追えるか、か)


 ワロウはその言葉に少し引っ掛かりを感じた。普通だったら犯人を追えるかどうかなど問題にならないだろう。しかし、ペンドールが呟くようにして言ったことを考えると...


(そういうこと...なのか?)


 ワロウには一つ思いついたことがあった。


「それは"捕まえられる"相手なのか」

「…!」


 変化は劇的だった。ワロウのその質問に、ペンドールは思わず目を見開き、息を飲み込んだ。そして、深く息を吐いた。


「少し、喋りすぎたようだ。流石だね。君の予想通りだよ」


 てっきりワロウは金目当ての脅迫か、他の商会の嫌がらせとばかり思っていた。だが、そう事は簡単ではないようだ。


 そもそもペンドール商会にダメージを与えたいのであれば、ペンドール本人に毒を仕込んだ方が効果があるだろう。


 それをわざわざ娘の方を狙うところを見るに、ワロウの知らない何らかの理由があるのだろう。そして、それはおそらく…


「貴族、か」

「悪いが詳しい話はできない。君を巻き込みたくないしね」


 ペンドールはワロウの言葉を肯定も否定もしなかった。だが、それはほとんどそうだと言っているのに等しい。ペンドールは申し訳なさそうに頭を下げたが、ワロウとしてもこれ以上踏み込む気は更々なかった。


「構わねえよ。知らない方が良いことなんかこの世に山ほどあるしな」

「そうか…」

「そんなことより、早いとこ薬を飲ませちまった方がいいんじゃねえか」

「…そうだね。頼めるかい?」

「任せろ」


  ペンドールから頼まれたワロウは早速薬をもってベッドの方へと近づいた。


 ベッドの上では相変わらず顔色の悪い少女が横たわっている。そして、その時ワロウは香水の匂いが無くなっていることに気づいた。


(まあ、元々ブミンの匂いを誤魔化すために撒いてただけだからな)


 香水の匂いが無くなった今、彼女からはブミンの匂いを強く感じた。不快な匂いではないが、特徴的な匂いでもある。


(ここまで強く香ってたのか…)


 最初、ワロウがこの匂いに気づいたときは微かな匂いだと思っていたのだが、こうして香水が無くなってみると、その匂いは明らかだ。


(さて、さっさと飲ませてやるか)


 ワロウは薬の入った瓶を持って、少し開けた彼女の口の中に注ぎ込んだ。彼女はそれを 少し飲み込んだようだった。


 だが、薬を飲み込んだ彼女には大きな変化は見られなかった。先ほどまでと変わらない様子で眠っているだけであった。

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