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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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八十三話 不穏な気配

「...閣下。ご報告がございます」


 ある場所のある部屋。薄暗い闇が支配するその部屋の中で二人の男がいた。


 きらびやかな衣装を身にまとった男は豪華な椅子の上に座っており、もう一人はその前で跪いている。そして、その跪いている男は覆面をしており、顔が見えないようになっていた。


「...なんだ。申してみよ」

「は...ディントン付近にいた大蜘蛛の変異種が討伐されたようです」

「大蜘蛛...?ああ、研究所から逃げた個体か」

「その通りです」


 閣下と呼ばれたその男が口にした研究所という言葉。ワロウたちがディントンで遭遇したあの変異種と関係があるような口ぶりだ。


 あの赤い大蜘蛛は自然に発生したものではなく、人為的なものだったのだろうか。しかも研究所というその言葉にはなにかしら不穏な雰囲気を感じた。


「ふうむ...ディントンと言ったか。あのような田舎ではそこまで腕が立つものがいるとは思えないが...」

「は...それが他所から来た冒険者に討伐されたようです。たまたま腕利きが訪れていた...ということだと思われます」

「なるほどな...まあ、良いだろう。別にあれが討伐されようがされまいが、我々の計画には関係ないのだから」


 覆面の男が話した情報には誤りがあった。討伐したのはハルト達3人であり、確かに彼らは他所から来た冒険者ではあるが、駆け出しとしてディントンに来たのだ。腕利きとして来たわけではない。


 彼らの持っている情報網ではそこまでの情報を得られなかったのかもしれない。...もしくは閣下と呼ばれた男に、駆け出しに倒されたなどという情報を自分の口から述べたくなかったのかもしれないが。


「その冒険者、始末いたしますか?」


 始末...とは穏やかではない言葉だ。だが、覆面の男は一切の躊躇も見せずその言葉を言い放った。このような仕事には慣れている...ということなのだろう。


 その覆面の男に対して、閣下と呼ばれた男はゆっくりと首を横に振った。


「...いや、いい。先ほども言ったが大したことではないのだ。それに...」

「...なんでしょう」

「あの町には”破砕”がいる。あまり手出しをして奴に出てこられると厄介だ」


 有名な冒険者には二つ名がつくことがある。その見た目であったり、戦闘方法であったり、性格であったり...これという決まりはないが、その冒険者を表す枕詞として使われる。


 冒険者ランクで言えば、Bランク以上になると結構な割合で二つ名をつけられる。Bランクともなれば冒険者のほぼトップに位置していると言っても過言ではないからだ。 


 今、男が口にした”破砕”は元Bランク冒険者のボルドーの二つ名だ。もっとも、ボルドーはその二つ名で呼ばれるのを嫌がっていたので、知るもの自体は少ないのだが。


「破砕...破砕のボルドーですか。ですが、あの男ももう結構な歳でしょう。そこまで恐れる必要はあるのでしょうか...」


 いくら元Bランク冒険者とはいえ、それは過去の話だ。ボルドーもかなり歳をとっている。往年の実力はもはやないだろう。その覆面の言葉に、男はあきれたように首をすくめた。


「たわけが。あの男自体の強さは落ちているかもしれんが、厄介なのはその人脈の方だ。元Bランク冒険者だぞ?後ろから厄介な連中が出てくる可能性だってある」


 元Bランク冒険者ともなると、様々なところに太いパイプを持っていることが多い。それは有名な大商人であったり、手練れの冒険者であったり、または貴族であったり...


 下手につつくと何が出てくるかわからないのだ。そこまでしてその外から来たという冒険者を始末するメリットはあるのかどうか...そういう話になってくる。


「な、成程...そういうことでしたか」


 感心したような覆面男の言葉に対して、男は冷たい視線を注ぐ。そのようなことも思いつかなかったのかという意味も込められているのだろう。その視線を受けた覆面男は身を縮こめるようにして黙ってしまった。


「...もうよい。下がれ。引き続きあちらの方の監視を怠るなよ?」

「は、はっ! かしこまりました!」


 覆面男は下がってよいと言われて、助かったのかと思ったのかすぐに姿を消していった。

 その様子を見ながら、男は大きく深いため息を吐いた。


(ふん...あの程度のものが私の部下とはな...落ちたものだ)

(だが...それももう終わりだ。あの計画さえ成功すればよいのだ)

(そうすれば...方法が...必ず見つかるはずなんだ...!)


「それまで...それまで、待っていてくれ、ニーナ...」


その男の切なく、懇願するような声はその誰もいなくなった部屋に響くのであった。

これで第一章完結となります。思ったよりも長くなってしまいました...

第二章は只今執筆中です。今回と同じように1章分書き終わった時点で投稿開始させていただきますので、機会があればお読みいただければ幸いです。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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