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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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八十一話 腕輪の力

 ボルドーと昼食をとったその後、ワロウは自分の家へと戻っていた。


ポーションの代金や壊れてしまった防具や盾の代金などかなりの金欠だったので、本当は依頼を受けたかったのだが、流石にそこまでの気力は残っていなかったのだ。それに、自分の体に起きた変化について頭の整理をしたかったというのもある。


 ワロウはベッドに横たわりながら、考えをめぐらせていた


(結局...オレはどうなったんだったか)

(まずは...コレ....だよな)


 ワロウは自分の手を目の前に出すと、治れ治れと念じてみた。すると、手からは淡い水色の光がこぼれ出た。こうして今も使えるということはあの時の回復術は幻ではなかったということだ。


 あの時のケガが治っている時点でそれは当たり前ではあったのだが、やはりそれは信じがたいことだった。


(今まで回復術に関して学んだことは一切ない)

(むしろ、回復術という言葉ですら聞いたことがある程度だった)

(なんでいきなり回復術が使えるようになったのか...まあ、そもそもオレが使っているのが一般的な回復術と一緒なのかすらも怪しいが)


 ワロウのうっすらある記憶だと、回復術が使えるのは僧侶のみであったはずだ。しかも僧侶であればだれでも使えるというわけではなく、それなりに貴重な能力だったと記憶している。


 そんな僧侶ですら使えるかどうかわからないものをワロウがなぜ使えるようになったのか。あの時、ワロウは一つだけ心当たりがあった。


(この腕輪...だよな)

(あの時、こいつが光っていた。しかもなんだかよくわからん言語らしきものを発していた)

(その後に回復術が使えるようになったんだ)


 明らかにこの腕輪が関係していることは間違いないだろう。あらためてワロウは自分の腕にはまっている腕輪を見やった。腕輪は沈黙しており、もちろん光ったりもしない。見た目は完全に単なる腕輪となってしまった。


(一体何なんだろうなこの腕輪は)

(回復術を使えるようになる古代の遺物...なんだろうか)

(いや...それだけじゃなかったな)


 ワロウはいきなりベッドから身を起こすと、剣を持って家の裏まで出た。あることを検証するためである。ワロウは剣をゆっくりと正眼に構えて、それを斜めに振り下ろした。


何気ない動作だったが、今まで二十年以上自分の剣の腕と向き合ってきたワロウにとっては衝撃だった。


(オレは...こんな風に剣を振れなかった。今ならわかる。どうやれば剣が振れるのか)

(それに...今まではこの剣だってこんなに軽くは感じなかった。もう年だったしな)

(だが...今はこうもたやすく剣を振れる。もしかしたら...全盛期の時くらいまで筋力が回復してるのか...?)


 こんな遺物があるのだろうか。ワロウは自分の頭の中の遺物に関する記憶をたどっていった。


 まずは回復術が使えるようになる遺物。聞いたことは無いが、魔法を使えるようになる遺物はいままでいくつか見つかっているらしい。だから、存在したとしてもおかしくはないだろう。


 身体能力が上がる遺物。これは実際に見つかっているもので、持っている冒険者もいる。ただし値段は信じられないくらい高いらしいが。聞くところによると、普通の町の住人であれば100人が一生遊んで暮らせる金額はするらしい。だが、存在はする。


 最後に剣術がうまくなる遺物。これに関してはさっぱりわからない。少なくともワロウの記憶の中では技術が向上するような遺物の話は聞いたことがなかった。だが、問題はそこではなかった。


この腕輪はそれらすべてが内包されているのだから。


(この3つが同時に付与される遺物...そんなものがあるんだろうか)

(いや...あるんだろうかというか、実際にオレの腕にはまってるからな...)

(もしかしたら...トンでもねえシロモノを見つけちまったのかもしれんな)


 一つだけでも相当貴重な遺物だといえるだろう。だが、ワロウの腕にはまっている腕輪は先ほどいった3つすべてを持っている。こんなものを世に出したら一体いくらの値がつくのだろうか。きっと天文学的な金額になることは容易に想像できる。


 だが、ワロウはこれを売るつもりはさらさらなかった。そもそも彼の腕にぴったりはまってしまって取ることはできないのだが。


(...考えても仕方がねえ...か)

(とりあえず強くなったのは間違いないんだ。それを喜んでおきゃいい)


 そう。ワロウは間違いなく強くなった。回復術を使えるようになったし、身体能力と剣の腕まで上がっている。少し前のワロウより強くなったというよりか、20代の全盛期の頃よりも今の方が間違いなく強いと言える。それだけの変化があった。


(でも、まあ...強くなったところでそれを使う機会なんてほとんどねえだろうがな...)

(ギルドの職員になっちまえば、この町を離れることもないだろうし)

(指導員とはいえ、森狼クラスと戦うこともないだろうしな)


 ワロウは思った。ギルド職員になってしまえば、せっかく強くなったのにそれを活かす機会は少なくなるだろうと。それは非常にもったいないように感じた。


(強くなった...か。まさか今更...ね)


 ワロウの頭には彼の言葉が思い浮かんでいた。


“ああ。いつになってもいい。必ずこのパーティに戻って来てほしい”


 忘れもしない、かつてのリーダーがワロウが無理やりパーティを抜けるといった時に言われたセリフだ。それに対してワロウはこう答えた。


“.........わかった。いつかオレがこのパーティにふさわしいほど強くなったら戻ってくる。必ずだ”


 “ふさわしいほど強くなったら” ...今の強くなったワロウでも、今の彼らのパーティに相応しいとは言えないだろう。なぜならば、彼らはAランクにすら達した冒険者達だからだ。

 

 ワロウが少し剣の腕が上がったところで到底彼らと同じレベルにまでなっているとは思えなかった。


(ふさわしい強さ...ね)

(今のオレなら...あの時のパーティになら...)


 だが、どうしてもその言葉が頭から離れなかった。ふさわしいほど強くなったら...あの時の、まだ、彼らと一緒に冒険していたときなら、まだ彼らもそこまで強くはなかった。



 今のワロウだったら十分に一緒に戦えるだろう。つまり、リーダーと約束したかつてのパーティに限って言えば、ワロウは相応しい実力を手に入れたと言える。


(何考えてるんだろうな...オレ)

(こじつけもいいところじゃねえか...)


 無論、ワロウにもわかっていた。そんな考え方は屁理屈だ...と。いくら昔の彼らと比較して今のワロウが強かろうが関係ない。今の彼らは...英雄なのだから。今のワロウはそれにふさわしいほどの実力はない。それが事実だった。


 何故、今更こんなに昔のことに執着しているのだろうか。自分でもよくわからなかった。しかし、どうしても頭の中で考えてしまうのだ。今のワロウは強くなった。あのころと比べて。彼らに会いに行ってもよいのではないか....そう思ってしまうのだ。


 今まではそんなことを考えもしなかった。英雄である彼らの前に、昔のままの弱いワロウの姿を見せたくなかったからだ。むしろ会いたくなかったとすら言えるだろう。


 だが、腕輪のおかげで少し強くなった今、彼らともう一度会ってみたい。心の奥深くでそう思っているのは確かだった。


(なんでだろうな...なにか心境の変化でもあったか)

(....!! そうか...あのとき...そういえば)


 ワロウは自分が3体目に森狼に噛みつかれて半ばあきらめかけていた時のことを思い出した。あのとき、もう死を覚悟したあのときにワロウの脳裏に浮かんだのは”アイツら”のことだった。


 もちろんアイツらというのは...かつてのパーティメンバーのことだ。彼らに最後、一目でもあっておきたかった...そう思ったのだ。


(冒険者への未練...か)

(やっとわかった気がするぜ。オレの”未練”が何か...)

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