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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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八十話 ボルドーの用事

 治療院から出たワロウは早速ギルドへと向かっていた。正直、さっきまでは昨日の夜から何も口にしていなかったのでさっさと飯屋に行きたいと思っていたのだが、今はボルドーの用事とやらが気になってしまいそれどころではない。


 ワロウははやる気持ちを押さえてギルドへとたどり着いた。ギルドの中は昼過ぎということもあってかなり空いている。


 ワロウが姿を見せると、受付の一人がそのまますぐにギルド長室まで案内してくれた。ワロウがノックしてギルド長室の中に入ると、ボルドーは驚いたような表情をした。


「なんだ、もう来たのか。疲れてるだろうから明日でも構わないが?」

「お前からの呼び出しがいいことだったことがないんでな。気になって来ちまった。それで? 何の用事だ」

「そんなに警戒しなくてもいい。...ポーションの件と、ギルド職員試験の件だ」


 そう言えばそうだった。今までいろいろあったせいで完全に忘れかけていたが、ワロウは一応ギルド職員試験の真っ最中なのだ。


 実技試験に関してはボルドーから合格をもらっているが筆記試験の方では試験を取り寄せるのに時間がかかっており、いつになるかまだ分かっていなかったのである。が、それよりもまずポーションのことが気になる。


「ポーションの件、もう何か動いてくれたのか」

「まあな。さっさとやっておかないと面倒なことになりそうだったからな」

「で、具体的にはどうなった?」


 ワロウが聞くとボルドーは少し疲れたような口調で話し始めた。そのポーションの件の対応はよほど大変だったらしい。


「ああ...とりあえずポーションの提供に関してはギルドからの依頼ということにした」

「...そうか。つまりあの二人は仕方なく渡したということになったわけだな?」

「そういうことだ。完全に後出しだが、文書として正式に依頼書も発行しておいた。これであいつらが始末書を書くことにはならんだろう」

「流石だな。仕事が早いギルドマスターで助かるぜ」

「それで...だ。もちろん提供してもらったからには対価を支払う必要がある」

「そりゃ当然だな。...いくらだ?」


 ワロウはおそるおそるボルドーにその値段を聞いた。ポーションは迷宮都市でしか産出されないという希少さゆえに非常に価格が高い。一番ランクが低いポーションでも金貨10~15枚はする。


 しかも、今回使用したポーションは最下級のものではない。最下級のポーションでは今回ワロウが負ったような大ケガまで治す力はないのだ。


 正直、ワロウは一本当たり金貨50枚で合計100枚と言われても全然不思議ではないと思っていた。


 一瞬とは言えないが、かなりの速度で傷を癒していったそのポーションにはそれだけの価値があると思っていたのだ。だが、ボルドーの口から出てきたのはワロウの予想を覆すものだった。


「金貨20枚だ」

「は? なんだそりゃ?一本当たりってことか?」

「いや、2本全部の代金だ」

「........」


 そんなわけがあるはずがない。2本で金貨20枚といえば、本当に一番低級のポーションが買えるかどうかといったレベルの金額である。今回使ったポーションがそんな値段なわけがない。


 思わずワロウは黙り込んで考えてしまった。何か裏があるのではないかと。そして、すぐに一つの可能性に気づいた。


「ボルドー...お前...」

「....相変わらず察しのいい奴だな」

「お前が払う必要はねえよ。今回はオレが無理言って飛び出したんだ。自分のケツは自分で拭くさ」

「...そう言うな。これは...俺の感謝の気持ちだ。そして...何もしなかった自分への罰でもある」

「...どういうことだ」


 ワロウが尋ねると、ボルドーは苦々しい表情で語り始めた。


「今回...俺は何もできなかった。やったことはあいつらを止めただけ。しかもそのまま死ぬのを諦めてみていろとまで言った」

「....あの時のお前の判断は正しかった。ギルドマスターとして冷静に、為すべきことを成していたと思うがね。ハルトとダッドを死地に送り込むわけにはいかなかったからな」

「...まあ、確かにギルドマスターとしては正しかったのかもしれないな。だが、それではシェリーは今頃死んでいただろう」


 確かに、ワロウが無茶しなければボルドーのいう通りシェリーは死んでいただろう。だが、それは単純に比較できるものではない。


「後からだったら何とでも言えるさ。あの時は最悪オレもシェリーも死んでた可能性だってあった。結果論で言えば両方とも助かったが、それありきで話をするのはよくないぜ」

「...結果論...か」

「そうだ。結果的に言えばオレがやったことは正しかったが、あの時のあの状況の判断としてはお前が正しかった。それに、お前がやってくれたことはそれだけじゃないだろ?」

「...?」


 不思議そうな顔をするボルドーにワロウは教えてやった。彼自身が気づいていない彼の功績のことを。


「あの時、ケリーを呼んでおいてくれただろ? それのおかげで薬を作れたんだ。正直あれが無かったら無理だったと思うぜ」

「ああ...あれか...だがあれは..」


 ”大したことはしていない”...ボルドーが何というか聞く前から察しがついていた。そんなボルドーに対してワロウはさらに畳みかけた。


「それに今だってポーションの件を何とかしてもらってるしな。自分が何もしてないみたいなこと言って落ち込んでんじゃねえよ。らしくないぜ?」


 ワロウがそう励ますと、苦々しい表情だったボルドーに少しだけ明るさが戻った。


「...そうか。そう言ってくれると、少しだけ気分が軽くなる。だが、さっきも言ったように今回のポーションの件はお前への感謝の気持ちもある。黙って受け取っておいてくれ」

「感謝...ねえ」

「今まで同じような状況で同じように俺は判断して対応してきた。....そして何人もの冒険者を見送ってきた」


 ボルドーはここのギルドマスターになってからかなり長くなる。それこそ、ワロウがこの町に来るはるか昔からこの町のギルドマスターだったのだ。


 そんな長い仕事の中で今回のような状況に何回もあって来ていた。...そしてそのたびに冒険者を見送ってきたのだ。


「だが、今回はそれを防ぐことができた。それだけで金貨に変えられないほどの価値がある。あの無力感に似た煮え切らない負の感情を味わうこともない。...今回のポーションの費用なぞ、安いものだ」

「...わかった。そこまで言うならありがたく受け取っておくぜ。...それにしてもそこまで払ってくれるなら全額払ってくれてもいいんだぜ?」


 ワロウが冗談交じりに全額負担してくれと伝えると、ボルドーは苦笑した。


「ギルドの人間があまり一部の冒険者に肩入れするわけにはいかんからな。そもそも今回の件自体もかなりのグレーゾーンだ。バレたら本部からなんて言われるかわからん」

「なるほどね。バレない程度にってことか」

「そういうことだ。お前もこのことはペラペラしゃべるなよ?」

「了解だ」


 何はともあれ、これでポーションの話に関しては目途がついた。ボルドーの援助によって支払う金額は金貨20枚まで減っている。今すぐに出せと言われたら難しい金額だが、頑張れば2-3カ月程度で稼げる金額でもある。支払うこと自体はそこまで苦でもないだろう。


 ポーションの話が終わったので、ワロウはもう一つの話題について尋ねた。


「それで? 職員試験で何かあるって言ってたが」

「...ああ、危うく忘れるところだったな。筆記試験の話は覚えているか?」

「なんか中央から送らなきゃいけないだとかだったか?」


 確か職員試験が終わった後の打ち上げでそんなようなことを言っていた気がする。結局方はついたのだろうか。


「そうだ。その試験だが...3日後に届く予定だ。3日後に予定はあるか?」

「今のところ、特になかったと思うぜ」

 

 職員試験が終わった今、ワロウはまた気ままなソロ生活を送っている。時間を作ろうと思えばいつだって作れるのだ。


「わかった。じゃあ、3日後に筆記試験をやるぞ。とはいっても特に準備する必要はない。本当に読み書きができるかどうかのチェックくらいで、お前が苦戦するようなところはない」

「ホントか? 前からそう言ってるが、実際は専門知識がないと解けないとかないだろうな?」

「なんで俺が嘘つかなきゃいけないんだ...俺だってお前が受かってくれることを望んでるんだから嘘なんて言うわけないだろう」

「...それもそうか」


 以前から簡単簡単と言われていた筆記試験だったが、こうも繰り返し言われると逆に怪しく感じてくる。


 もしかして油断させておいて...とも思ったのだが、ボルドーの言う通り、彼がワロウを騙す理由がない。それもそうだと納得したところでワロウの腹が鳴った。


「なんだ。まだ飯食ってないのか?」

「どっかのギルドマスターに呼び出されてたんでね。食う暇がなかったんだ」

「わかった。わかった。そうすねるんじゃない。俺もまだ昼飯前だから一緒に食いに行くか? 」

「いいぜ。どこへ行く?」

「うーむ。少しパーっとやるか....」

「パーっとできるとこなんかこの辺にあったか?」


 その後、あーでもないこーでもないと昼飯の場所について話し合っていた二人であったが、結局は空腹に負けて、ギルドから一番近い定番のゴゴットの食堂へと繰り出したのであった。

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