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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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七十七話 バレる男

「...結構時間食っちまったな。やれやれ...」


 あの後ワロウはギルド長室でこってりと絞られた。最初から順に、門番の二人からポーションを受け取ったこと、途中で変異種の死体を見つけたこと、キール花を見つけて油断したところで森狼に見つかってしまったこと、そしてその森狼を何とか撃退したこと...大体すべての出来事を話した。


 ただ、3体目の森狼の話だけはしなかった。まさか、謎の腕輪の力によって回復術を使えるようになったばかりか剣の腕まであがったなんて話をしたところで、与太話と思われるのが関の山である。


 それに回復術は奥の手にもなりうる重要なものだ。これは秘密にしておいた方がいいだろうと判断した。


 ボルドーはワロウの話した内容に驚いたり呆れたりで忙しかったが、森狼の口の中に手を突っ込んで無理やり倒しに行った話をしたら”お前は一体何を考えているんだ? ポーションがあるからといって自らケガをしに行くやつがあるか“とこっぴどく叱られてしまったりもした。


 ワロウとしてはそれしか手段はなかったと思うし、実際に切り抜けられたんだからいいじゃないかと思ったりもしていたのだが、わざわざ火に油を注ぐような真似をする必要もないだろうということでひたすらに謝り倒していた。


 その際に、門番の二人からもらったポーションを返して、彼らに迷惑が掛からないようにしたいと相談すると、ボルドーは難しい顔をしたが、何とかしておいてやると言ってくれた。ただし、完全に無罪放免ではないぞと念を押されてしまったが。


 そもそもワロウではどうしようもないことなのでボルドーが何とかしてみると言ってくれただけで御の字である。ワロウにもポーションの代金を払うくらいの覚悟はある。...しばらくはボルドーに借りることになるであろうが。


 そんなこんなで怒られつつもちゃっかりとポーションのめどをつけたワロウは今、シェリーがいるという治療院に向けて歩を進めていた。


(あいつら...怒ってるだろうな)


 ワロウは彼らが怒っているだろうと思っていた。彼らの目線からすれば、ワロウはシェリーが死にかけているときには全く役に立たないどころか、そのまま家へと帰ってしまい、挙句の果てには助かったと聞いてからのこのこと彼らの前へ姿を現したということになる。


 これでは彼らが怒るのも無理ないだろう。


(なんかちょっと憂鬱になってきたな...とはいえ)


 ワロウ自身でシェリーの無事を確かめたいという気持ちもある。ここは覚悟を決めていくしかないだろう。そんなことを考えながら歩いていると、もう目の前まで治療院が迫っていた。目的地はここだ。ウルムスの治療院。この町では最も大きい治療院である。


 治療院の受付にシェリーの見舞いに来たと告げると、そのまますぐに案内してくれた。いきなり訪ねてきた人物をそのまま案内してしまうのは少々不用心なような気もするが、この町ではそんなことをする輩もいないのだろう。基本的にディントンは田舎の町で治安もいい方なのだ。


 シェリーのいる部屋まで案内されると、ワロウは一呼吸置いた。そして覚悟を決めるとドアをノックする。すると中からどうぞというハルトの声が聞こえてきた。


 扉を押し開けて中に入る。すると彼ら3人はびっくりしたような表情でワロウのことを凝視していた。ここは何かもめる前に先に謝ってしまった方がいいだろう。そう思ったワロウは口火を切った。


「あー...お前ら。すまなか....」

「「師匠!! ごめんなさい!!」」


 ワロウが言い切る前に、ハルトとダッドが真っ先に謝ってきた。予想だにしない展開にワロウは目を白黒させた。彼らは一体何を謝っているのだろうか。


「...一体なんのことだ? 何を謝ってる? 」

「何って...昨日のことに決まってるじゃないか。...師匠は俺たちのことを思って森に行くのを止めてくれてたんだろ? でも、俺、ひどいこと言っちゃったし...」


“俺たちはもうあんたの弟子じゃない! 自分のことは自分で決める!”


 ハルトの放った言葉が頭の中によみがえってくる。確かに衝撃的ではあったが、あの時は非常事態でお互い余裕もなかった。


 ハルトに悪意があったわけではない。純粋にシェリーを助けたいという思いが昂ってあの言葉を放ってしまったのだ。それに関しては目くじらをたてて怒ることではないだろう。


「いや...あの時はお互い冷静じゃなかった。その時の発言にいちいち怒ったりしねえさ...それよりも」


 ワロウが再度謝ろうとしたとき、今度はダッドがそれを遮った。


「でも...師匠が薬を作ってくれたからシェリーは助かったっす。それなのに...師匠に散々失礼なことしちゃって...ホント申し訳ないっす...」

「.......」


 何故、ワロウが薬を作ったことを知っているのだろうか。しかも、疑問形ではなくワロウが薬を作ったこと自体は確定といったような言い草だ。薬自体はケリーが持って行ったはずだし、ワロウが関わっていることは内緒にしておけと言っておいたはずなのだが。


 そもそもワロウが彼らに薬を自分が作ったことを秘密にしようとしたのは彼らに恩を着せたくないと思ったからだ。


 いくら気にするなとは言っても、ワロウが大ケガを負いながら高価なポーションを使ってまでキール花を手に入れて薬を作ったなんて話をしたら気にしない方がおかしいだろう。


 別にワロウは彼らに貸しを作りたくてやったわけではない。だから秘密のままにしようと思ったのだ。


 それに、ハルトとダッドの前では死にに行くようなものだと忠告しておきながら、自分自身は一人で夜の森に突入してしまっている。おまけに大けがを負って死にかけてまでいる。


 これでは言っていることとやっていることが矛盾していると言われてしまっても反論できない。ワロウとしては若い彼らよりも自分のような年寄りが行った方がいいと思ってはいるのだが、それは詭弁だろうということもわかっていた。


 だが、何故かハルト達にバレている。ケリーが漏らしたのだろうか。いや、アイツは約束は守る男だ。いやでも、しかしアイツ以外からといっても...サーシャか?


 ワロウが混乱している様子を訝しく思ったのかハルトが話しかけてきた。


「師匠...? どうしたんだ?」

「ん? ああ、いや...何でもない。ところで...なんでオレが薬を作ったと思ったんだ?」


 ワロウは考えてもわからないと思ったので直接的に聞いてみることにした。これではほぼ自白しているようなものだが、ほかにいい方法が思いつかなかったのだから仕方がない。


 その質問を聞いたハルトとダッドはお互い顔を見合わせて?マークを顔に浮かべた。


「え...なんでもなにも...あの薬を作れるのは師匠だけだって聞いてたから...」

「誰からだ?」

「ベルンさんっすけど...それがどうかしたんすか?」

「ああ、いや...何でもない。ちょっとした興味だ」


(そうか...確かにベルンならこの薬はオレしか作れないことを知っている。当然ベルンからこいつらに話している可能性もある。少し迂闊だったか...)

(まあ、薬を作ったことは認めるしかないな)


「確かに薬を作ったのはオレだが...シェリーが助かったのは全部オレのおかげってわけでもねえぜ。他の奴にも感謝しろよ?」

「そういえば...師匠、キール花を譲ってくれた人って知ってるか? ケリーに聞いたんだけどなんか曖昧でよくわからなかったんだ」


 ケリーは苦しいながらもなんとか誤魔化してくれていたようだ。ワロウもどれに乗っかって適当なことを言うことにした。


「...悪いがオレもそいつに直接会ったわけじゃない。ケリーがわからないならお手上げだな」

「うーん...そうか。でも、そんな高価なものをポンと渡せるってすごいよなぁ。きっと有名な高ランク冒険者だと思うな」

「...さてね。意外とDランクくらいかもしれないぜ?」

「まっさかあ。流石にそれはないよ、師匠」


 ハルトはワロウが冗談を言ったと思って笑っている。実はそれが事実だったりするのだが、気づく様子はない。無理もないだろう。たかがDランク冒険者が夜の森に一人で突っ込んでキール花を採ってこれる可能性などほぼゼロなのだから。


 その時だった。ぐぅぅ...と腹の音が鳴る。発生源はダッドのようだ。


「なんか落ち着いたら...腹が減ったっすねぇ」

「昨日の夜からなんも食ってないからな」


 二人とも、昨日の朝に依頼を受けて町を出発してから一口も物を食べていなかった。シェリーが噛まれてから薬によって命を取り留めるまではとてもではないが何かを食べようという気も起きなかったし、助かったら助かったでこの治療院まで運んできて後は彼女の容態が急に変わらないかを見守っていたのだ。


「二人とも...ずっとそばにいてくれてありがとうございます。でも、もう結構回復しましたし、今はワロウさんもいるから大丈夫です。少し休んでください」


 先ほどから黙っていたシェリーだったが、別に寝ていたわけではないようだ。二人の会話をしっかり聞いていたようで、休憩をとるように勧める。


 腹ペコの二人は顔を見合わせたが、ワロウがいるということで大丈夫だと判断したようで、二人で昼飯を買いに外へと出ていった。

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