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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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七十六話 目覚めた男

「う...む...ここは....」


 目が覚めると、そこは見覚えのある部屋だった。...というか自分の部屋だ。薬部屋で気を失った後、どうやら誰かが家まで運んでくれたらしい。状況的にほぼ間違いなくジョーだろうが。


 起き上がろうと体に力を入れようとするが、体の節々が痛む。どうやらベッドではなくて床の上に転がされていたようだ。硬い床に寝ていたのせいで体が痛むのであろう。


「ぐあッ...イツツ...やべえなこりゃ...」


 ここでずっと寝転がっているわけにもいかない。ワロウがなんとか体の痛みに耐えつつ起き上がって、部屋を見渡してみると机の上に書置きが残されていた。ジョーの書き残したもののようだ。


“ケガは大丈夫そうだから、お前の家まで運んでやったぞ。感謝しろよ? ベッドに寝かせようと思ったんだけど、血まみれだったからとりあえずそこら辺の布の上に転がしておいた。体が痛くても俺を責めないでくれ ジョー”


「...そうか。そういや血まみれだったな」


 寝起きで頭が働いていなかったせいか忘れていたが、確かに昨日は血まみれの状態でずっと行動し続けていたのであった。


 もし、そのまま血まみれの状態でベッドに放り込まれていたら、もはやそのベッドは使いものにならなくなっていただろう。別にワロウが使っているベッドはそこまで高級なものではないが、新しく買うとなるとそれなりに値が張る。そのままベッドに放り込まなかったのはジョーの英断だったと言えるだろう。


 そしてあらためて自分の体を見渡してみると、元々噛みつかれた辺りの部分の服が赤黒く変色していた。時間がたつうちに血が乾いてしまったようだ。この様子では明らかにもう使いものにはならなさそうである。


(これは...もう捨てるしかないな。噛みつかれて穴だらけだし)

(防具の方は...どこ行った?)


 ワロウが起きたときには防具はつけていなかった。ジョーが外しておいてくれたのだろう。部屋の中を見渡してみると、部屋の玄関の隅の方にまとめられて置いてあった。


 どれも血の跡が残っていて非常におどろおどろしい雰囲気を放っている。とはいえ元々自分の血なのでそこまで恐れるほどのものではない。


 近づいて拾い上げて見てみると血だらけになっているだけではなく、穴もところどころに開いている。服と同じようにこれも使い物にならなさそうだ。森狼の牙に散々やられていたのだからある種当然の結果ではあるが。


(マントの方は...なんとか大丈夫か。穴は開いてなさそうだ)


 ワロウの愛用のマントには血があちこちについていたが、幸い穴はどこにも開いていない様子だった。運よく森狼の牙から逃れていたようだ。


(くそぉ...この有様じゃ防具は買いなおしだな...金、足りるか?)


 ワロウは慎重な性格で、普通の冒険者よりかは貯蓄というものをしていたが、さすがに防具一式をポンと揃えられるかどうかと言われると大分怪しかった。ワロウは防具のことでうんうんと頭を悩ませていたが、その最中にふともっと重要なことを思い出した。


(そうだ...こんなことしてる場合じゃない。アイツらは...薬は間に合ったのか?)


 窓から外の様子を伺うと、すでに辺りはすっかり明るくなっている。家のすぐ目の前の道を行きかう人々の喧騒も聞こえてくる。ワロウの家には時計がないので詳細な時間はわからないが、どうやらワロウが気絶してから結構時間が経っているようだ。


(ギルド...ギルドに向かわねえと...)


 ワロウは急いで家から飛び出ようとしたが、流石にこの乾いた血でスプラッタな状態で向かうわけにもいかない。血を流してから行きたいが、流石にこの寒い時期に水浴びなんかしたらそれこそ命にかかわってしまうだろう。


 体を洗うお湯を用意するため、ワロウはあわてて鍋に水を準備するとそれを沸かし始めたのであった。





「ハ、ハ....ハックショイィ!!」


(クソ...もう少し温めてからの方がよかったか...すっかり体が冷えちまった)


 結局あの後湯を沸かし始めたのはいいのだが、シェリーの生死が気になって仕方がなかったワロウは、まだ完全に水が温まりきる前に無理やり体を洗って外へ出てきたのであった。おかげで体は冷え切ってしまい、風邪を引きそうな勢いだ。


 ギルドに到着してワロウが寒さに震える手でギルドの扉を開くと、そこは閑散とした様子で何人か冒険者がいるのみだった。もうすでに朝の受付ラッシュは終わってしまった後のようだ。


 ワロウがギルド内にある時計を見ると、その時計の針は昼前を指していた。結構な時間ワロウは眠り続けていたらしい。まあ、彼がその前まで行っていた死闘を考えると仕方のないことだ。


 ワロウは受付の方を見やったが、事情を知っていそうなサーシャの姿は無かった。同じく事情を知っていそうなボルドーの姿も見えない。


 彼に関してはギルド長室にいるだけかもしれないが。とりあえずワロウは暇そうにしている受付の職員にボルドーがどこにいるかを訪ねた。


「ギルドマスターですか? 今、ギルド長室にいらっしゃると思いますが...」

「悪いが少し用事があるんだ。伝えてもらっていいか?」

「わかりました。少々お待ちください...」


 そう言って受付の職員が、奥の方へと向かっていった。すると幾許もしないうちにその当の本人が一緒になって出てきた。流石にこれまでの疲労が積み重なったのか疲れた顔をしていたが、ワロウの姿を見て少し安堵したような表情になった。


「ワロウ... お前、大分無茶をしたようだな。ケガだらけでギルドに来たと聞いたが?」

「その話なら後でいくらでも謝罪してやるよ。...それよりも、だ」

「シェリーのことだろう? ...大丈夫だ。薬は間に合った」


 そのボルドーの言葉にワロウは心の底から安堵した。心の底からよかったと思った。ワロウが死にかけながら夜の森に採取に行ったのは無駄ではなかったのだ。明らかに安堵した様子のワロウの姿を見てボルドーは続けた。


「今はウルムスの治療院に行っている。気になるなら後で行ってみるといい」


 ボルドーの言葉を信用していないわけではないが、やはり彼女の無事をこの目で早く確かめたい。そう思ったワロウは思い立ったが吉日とばかりに外へ出ていこうとする。


「そうか。じゃあ早速...」

「待て。”後で”と言っただろう。お前には聞きたいことが山ほどある。ギルド長室に来い」


 その場を去ろうとしたワロウだったが、そうは問屋が卸さなかった。有無を言わさない勢いでボルドーはワロウをギルド長室へと引っ張っていった。きっとワロウがどんな無茶をしたのか根掘り葉掘り聞かれてこっぴどく叱られるのだろう。


 ワロウとしても仕方がなかったところが多いとは思っているものの、悪いのは明らかに自分であることは間違いない。ボルドーの後ろに付いていきながら、ここは素直に怒られておこうと思ったのであった。

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