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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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五十三話 試験のご褒美

申し訳ありません。またもや手違いで昨日更新できておりませんでした。。。本日夜にもう一度更新させていただきます。



「なあ、ボルドーこの後時間はあるか?」

「この後...?まあ、なくはないが...何の用だ?」

「ここの面子でゴゴットの店で飯でも食おうじゃないか」

「なに?まあ、別に構わないが...」


 いきなり飯の話が出てきてボルドーは怪訝そうな顔をする。ワロウの意図をつかみ損ねているようだ。いつもは感が鋭い男だが、こういう時に限って鈍いのである。


 仕方なくボルドー以外に気づかれないようにそれとなく視線で3人の方を示すと、ようやくワロウの言いたいことに気づいたのか軽く頷いた。


「よし、ならワロウの職員試験合格とお前らの独り立ちの記念ということで、今日は俺がおごってやろう。好きなものを食え」


 その言葉を聞いた瞬間、3人の目が輝いた。Dランク昇格試験の権利をもらった時よりも明らかにうれしそうだ。そのあからさまな様子に苦笑しつつワロウは更にボルドーの株を上げるべく援護射撃をする。


「おー、こいつぁ太っ腹だ。流石は我らがギルドマスターだぜ。お前らも感謝しろよ?」

「「「ありがとうございますっ!」」」


 3人のお礼は息ピッタリで、よほどうれしかったであろうことがこちらにも伝わってくる。顔も満面の笑みを浮かべているが、そのうちの一人からは口からはよだれがたれそうになっている。一番背が高い少年、と言えばわかるだろうか。


「なあ、ギルドマスター様。俺たちもご相伴にあずかってもいいんだよな?」


 ついでと言わんばかりにジェドがこの機会は逃すまいとボルドーにすり寄ってたかろうとする。ついさっきまで床に座り込んでいたくせに現金な男である。その様子にあきれたのか、アデルが一発ジェドの頭にげんこつを落とした。


「イッテェェェ!!なにすんだよ!!」

「あんたねぇ...若い子たちの前であまりみっともない姿見せないでくれる?いい加減いい年なんだから人にたかるんじゃないの!」


(いい年ねぇ...オレより一回りは下だと思うがな)


 ベルン、アデル、ジェドの3人はいずれもベテラン冒険者と言ってもよい腕前だが、冒険者の中では若手の方だ。


 おそらく歳は20を少し過ぎたあたりといったところだろう。そして駆け出し3人組は多分15歳くらい。一方で自分はもう40歳近くである。なんでもない会話だったが少し自分の歳を思い出してしまったワロウであった。


「ふ....別に構わん。お前らの分もおごってやる。好きなものを食うといい」

「お! マジか! 言ってみるもんだぜ! ほらみろ、おごってくれるってよ!」

「えー?いいんですかギルドマスター?そんなに甘やかさなくていいんですよ?」


 おごってもらえることになって、ジェドの目は少年のようにキラキラ輝いている。さっきの3人組と同じ顔だ。その一方で、納得のいかないアデルはジト目でジェドをにらみつつ、ボルドーに再度確認をする。


「ああ、男に二言はない....が、その分はきっちり働いてもらうぞ?覚悟しておけ」

「うげっ...それは聞いてないぜ...」

「あはは...お手柔らかに頼みますよ、ギルドマスター」


 ボルドーのその言葉にジェドの顔が青くなる。その一方で、ある程度予想はできていたのかベルンの方は顔色を変えることなく苦笑している。


「よし、じゃあ早速行くか。行けるか?ボルドー」

「む...悪い、少しだけ待ってくれ。この書類だけ片付けておきたい」


 そういうとボルドーは相変わらず書類が山積みとなっている机へと向かっていった。こうなると彼の仕事が一段落つくまでやることは無い。手持ち無沙汰になったワロウたちは水亀との戦いについて話し始めた。


「そういや水亀の視界を奪ったとか言ってたが、どうやったんだ?光玉でやったのか?」

「いえ、光玉は魔力を消耗するので使いませんでした。肝心の炎玉を使えなくなっちゃいますからね」

「カラシンっていう植物の実を使ったんだ。知ってるか師匠?その実のにおいだけで鼻がピリピリするし、目になんか入ったら一発で終わりだぜ」


(成程な...あそこらへんにはカラシンが生えてるのか。覚えておくか)


 ワロウは森に生えている植物の分布に関しては詳しいが、草原の方にはめったに行かないためどこに何が生えているのかよく知らなかった。


 カラシンは罠としての利用価値が高いため常に確保しておきたかったのだが、森の方ではあまり生えておらず、いつも確保に苦労していたのだ。


「それ、師匠がシェリーに教えたんすから、師匠がカラシンのこと知らないわけないじゃないっすか」

「むう...そういえばそうだったか。でも本当にすごかったよな。一個実を割っただけでくしゃみが止まらなくなったし」

「俺はそれのせいでひどい目にあったからな。もうちょっと場所を考えてやれっつーの」

「そんなのジェドさんたちがそこにいるって知らなかったんすから無理っすよ...無茶言わないでくださいっす」


 カラシンで被害を被ったのはハルト達だけではなくジェドも喰らっていたようだ。少し気になったので少し詳しく聞いてみる。


「なんだジェド、お前もカラシンにやられたのか?」

「え!?あー、いや、その、少しな。目がピリピリしたくらいだけどよ」


 どもりながらワロウに返事をするジェドの目は宙をさまよっていて明らかに挙動が怪しい。心なしか先ほどまで全くなかった汗も浮き出てきている気がする。


「そ、そうよね。そういえばジェド、ちょっと話しておきたいことがあるのよ。こっちに来て」


 それを誤魔化すように少し強引気味にアデルに連れていかれてしまった。...あからさまに怪しいがワロウはそれ以上追及することをやめた。これ以上追及しても誰も幸せにならなそうだからである。


「ちょっと...! 何で自分からやらかしたことを白状しようとしてるのよ...!」

「い、いや...その...なんていうか...口が滑ったというか...」

「あんたがくしゃみして、水亀に気づかれたなんて知られたら試験やり直しになるかもしれないのよ...!気をつけなさいよね...!」

「わ、わかってるって...以後気を付けます...」


 なにやらアデルとジェドが部屋の隅でぼそぼそと会話しているのが聞こえるが、内容はよく聞こえない。ワロウの冒険者としての長年の勘が聞いたらろくなことにならないと告げているので、極力会話が耳に入らないようにする。


「師匠! 水亀の倒し方、教えてくれよ。普通の冒険者たちはどうやって倒してるんだ?」


 自分たちは魔法のごり押しで倒せたけれども、普通の冒険者達には魔法なんて攻撃手段はない。それでどのようにあの硬い水亀を討伐しているのか気になったようだ。


「いくつか方法はある。一番地味で確実なのは毒だ。いくら水亀が硬いと言っても足とかには多少傷が入るだろ?そこに毒を塗っていくんだ」

「フォレストボアもそうだったよな。硬い相手にはやっぱり毒なのか」

「まあ、そうだ。効かない奴もいるからいつでも使えるわけではないがな」


 硬い相手に対して真正面から戦うことは得策ではない。となるとやはり堅実なのは毒を使うことである。ただし、時間はかかるし取り扱いにも注意が必要だし、毒自体も安くはない。いつでも使えるというものではないのだ。


「まあ、普通に安全に倒したいなら毒ってのは悪い方法でもねえってところだな」

「ふーん。成程ね...普通じゃない倒し方ってのは?」


 毒を使う方法は先ほども述べたようにデメリットも多い。長い戦闘で他の魔物が来る可能性だってある。そういうことを嫌う冒険者は危険と引き換えに早期決着をつけようとすることも多い。


 そういう場合は普通ではない手段をとる。とはいっても、長く地味な戦い方を嫌う冒険者は多いので、むしろこっちの方法の方がメジャーともいえるかもしれない。


「噛みついてきたときにわざと盾とか剣とかを噛ませるっていう手段がある」

「わざと噛みつかせる...ちょっと危なそうですね...」

「まあ、危険なのは確かだが、その分早く狩れる。噛みついてくるときに奴は首を伸ばしてくるだろ?奴の首は伸縮自在だが、その分柔らかい。なにか噛みついている間はその首はむき出しのままだからそこを狙うのさ」

「な、成程。わざと噛みつかれる...か。正直全く思いつかなかったすね」

「その方が早かったかもなー...最初に思いつけばなぁ...」


 ワロウの話した倒し方の方がよかったのではないか、それの方が早く狩れたかもしれないとぼやく彼らに、一応注意する。


「言っておくが危険なのは確かだからな?今の作戦をやろうとして腕を食いちぎられたとか頭ごと持ってかれたなんて話も聞いたことがある」

「う、うげ...大分危ないじゃないっすか...」

「だからお前らの作戦の方が安全だし、毒でちまちまやるよりはそっちの方が早い。悪くねえ作戦だったんじゃねえか?魔法が使えるお前らしかできない作戦でもあるが」


 ワロウは彼らの作戦を高く評価していた。相手の目をつぶすことができればそれだけ安全に立ち回れるようになるし、それで防御魔法が使えずにこちらの魔法で一発で仕留められるならそれより早い話はない。


 ただこの方法では他の冒険者には使えないだろうというデメリットもあるが。


「ふふん。まあな。...作戦はシェリーが考えたんだけど」

「...じゃあなんで偉そうにしてるっすか...」


 胸をはるハルトに対して、ダッドはあきれたような表情になる。そんなことを話していると、ボルドーが立ち上がって机の上を片付け始めた。どうやら書類仕事に一区切りついたようだ。

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