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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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四十七話 作戦決行

Side ハルト


 俺たちはまたさっきまで戦っていたところまで引き返してきた。幸運なことに水亀はまだ移動していなかった。もしかしたらここは奴の棲み処なのかもしれないな。だからこの場所を離れたがらないんだろう。


 まだ、奴はこちらには気づいていない様子だった。奇襲をかけるなら今しかない。3人で集めたカラシンの粉はダッドと俺とで半分に分けて持っている。その時に応じて当てられそうな方が投げつける予定だ。


 ダッドと俺の二人でこっそりと奴の後ろ側に回り込んで近づいてゆく。まだ奴は気づいた様子はない。シェリーには俺らの後ろで待機してもらっている。奴の視界を封じた瞬間に魔法を打ってもらうためだ。


 奴に気づかれないようにゆっくりと近づきながらダッドと小声で話し合う。


「よし...まだ気づかれてないみたいだから奇襲を仕掛けよう」

「奇襲っすね。どうするつもりっすか?」

「俺が後ろから剣で切りつける。奴が振り向いた瞬間に袋の中身をぶつけてやれ」

「OKっす。タイミングは?」

「気づかれてない今のうちだ。この後すぐに行くぞ」

「わかったっす」


 最後の作戦会議も終わりだ。今すぐにでも切りかかりたいが、一応奴の隙を伺う。正直奴は硬すぎて剣は効かないことがわかってるから、隙もなにもあんまり関係ない。


 けれど、一応攻撃する前に気づかれると魔法で逆に攻撃を喰らう可能性もあるからな。念には念を入れて...だ


 俺がじっと奴に攻撃する機会をうかがっていると、俺たちがいる反対側で物音が聞こえた。


 何の音だ?何かが噴き出すような音にも聞こえたけど...水亀もその音に気づいたのかそちらの方向に注意を向けている。こちらには全く注意を払っていない状態だ。


 今だ!今仕掛けるしかない!


「うおおおおおお!!!!!」


 俺は猛然と奴の後ろ脚に切りかかった。当然剣ははじかれてしまってまともなダメージを与えられなかったが、俺の声に驚いたのか奴がこちらを振り返った。

 

 ダッド! やってくれるか!?


俺が後ろを振り返るとダッドはすでに袋を投げつける途中だった。ダッドの手から放たれたその袋はきれいに弧線を描き奴の顔面に直撃した。よくやった!


 亀の顔面に袋が当たると同時に中の粉が辺りに振り撒かれた。この粉がてきめんに効果がある...はずだ。このままこの場所にいると先ほどの二の舞になってしまうので俺は目と鼻を腕で覆いながら急いでその場を離脱した。


グオオオォォォォ.....!!グガッ!グガッ!


 奴の咆哮が辺りに響き渡る。その咆哮はどこか苦しげだ。どうやらカラシンの粉は奴にもきちんと効果があったようだ。もしかしたら魔物には効かないといった可能性もなくはなかったので一安心した。


 目が見えていない水亀はとにかく暴れまくった。俺たちがいるいない関係なしに水玉を打ちまくったり突進を繰り返したりして、近づくのは非常に危険だ。でも、俺たちは近づく必要はない。なんてったってこっちにも魔法があるからな!


「シェリー...! 頼んだぜ!」

「一応離れてくださいね...! いきますよ!」


 シェリーの炎玉が奴に向かって飛んで行く。奴は暴れまくっているがその炎玉に気づいた様子はない。完全に視界が無くなっているのだろう。この状態でシェリーの考察があっているなら奴は防御魔法を使えないはずだ。頼む...! このまま当たってくれ...!


 そんな俺の願いが通じたのかはわからないが、奴は水玉を打つばかりで防御魔法を打つ気配はなく、甲羅が光る様子もない。今度こそシェリーの魔法が奴の甲羅にまともにぶつかった。


ドォォォォン!!


 凄まじい爆発音とともにあたりに爆風が広がる。するとそれに従ってピリピリといやな感じがしてきた。マズい...!さっきばらまいたカラシンの粉が爆風に乗って飛んできたんだろう。


「ヤバい! 粉が飛んできたみたいだ! 目と鼻を塞げ!」

「うげえ!またっすか!?」


 目を隠しながらなんとか奴の方を確認すると、よく見えないが甲羅には大きく穴が開いているようだ。間違いなく致命傷だろう。確認をしているわずかな間にも鼻には先ほどと同じ刺激臭がし始めた。さっさと退却したほうが良さそうだ。


「は、早く逃げましょう! 」

「わかった! 一回引くぞ! 」


 シェリーもカラシンの粉がきついみたいで逃げようと急かしてくる。俺たちはその場をすたこらと逃げ出したのであった。



Side ベルン


 彼らを追ってさっきの場所まで戻ると、そこには先ほどと変わらず水亀の姿があった。奴らは流れがない水場を好むからね。ここが棲み処なんだろう。


 どうやら亀の方は彼らに気づいていないようだ。その隙に乗じてハルト君とダッド君が奴のすぐ後ろまで近づいていった。シェリーちゃんはその少し後ろで待機している。

 僕らは彼らの戦いがよく見えるように、亀をはさんで反対側の位置に移動した。


「あ、やべえ...またくしゃみが....」

「な、何やってんのよ! こんなとこでくしゃみしたら間違いなく気づかれるわよ!」


 困ったことにジェドがまたくしゃみが出そうになっている。さっきの粉がまだ鼻の中に残っていたのかもしれない。と、とにかくまた止めなくちゃいけないけど、さっき使った革袋は使えない。何かほかに持ってたかな....


「は、は...は....」

「ちょ、ちょっとベルン! なに探してるのよ! さっきの革袋でいいでしょ!」

「でも、ちょっとかわいそうかなって...」

「あーもう! これでも食らいなさい!」


 そういって彼女は、自分で持っていた布をジェドの口に押し込んだ。が、すこし口論していたせいでタイミングが少し遅くなってしまった。


「は...ふぐしゅ!!!」


 結局くしゃみを防ぐには間に合わず、そのまま出ることは防げたものの、くしゃみなりそこないみたいな音が出てしまった。


「うげッ...間に合わなかったじゃない、もう! 私のハンカチが犠牲になったのに!」

「...マズいね。気づかれたかな」


 あわてて水亀の方を見やると亀はこちらの物音に気付いたようで、首を左右に振りながら音の発生源を探してるみたいだ。...どうしよう。こっちに向かってきたら困るんだけど...


 そのとき、水亀の視線がこちらに向いていることを好機と見たのか、後ろの茂みからハルト君とダッド君が飛び出してきて、ハルト君がそのままの勢いで水亀の後ろ脚に切りつけた。


 水亀はほとんど無傷だったけど、切りつけられたのに驚いたのかハルト君の方へと首を向けた。


 その瞬間を狙っていたダッド君が奴の顔めがけて袋を放り投げる。中身は先ほど取っていた実を砕いたものが入っていたようで、それが水亀の顔面に直撃した。


 その攻撃を喰らった水亀は大きく悲鳴をあげて、とにかく暴れまわり始めた。周囲に水玉をばらまいて誰もいないところへ向かって突進をしている。


 どうやらあの実にやられて目が見えなくなっているみたいだ。僕たちがにおいだけで大分きつかったんだからそれも無理はないだろう。


 成程、視界を奪うというのはいい作戦だ。あの実のこともワロウさんに教わったのかな?


 でも、水亀を仕留める手段があるかどうかが問題だ。相手の目が見えないのはいいけど、暴れまわってるせいで迂闊に近寄れなくもなっている。さて、どうするつもりだろう?


 次に出てきたのはシェリーちゃんだった。またさっきの魔法をぶつけるつもりなのだろうか。でも、さっきと同じく防御魔法で防がれるだけじゃないのかな?


 そう思ってたんだけど実際は違った。その魔法は防がれることなく甲羅に直撃し、その瞬間爆発が起こったんだ。


「...当たった?防御魔法は...」

「甲羅が光ってなかったわ。使わなかったみたいね」


 なぜだかはわからなかったけど、水亀は防御魔法を使わなかったみたいだ。水球の使い過ぎで魔力が無くなったのか、それとも視界がなかったことでなんらかの不都合が生じていたのか...


 正直魔法には全く詳しくないからわからないんだけど、とにかく彼らの作戦が成功して、水亀に必殺の魔法が炸裂したことだけはわかった。


「お、おい! またあの粉が飛んできたぞ! 鼻がピリピリしやがる!」

「む...爆風で飛んできたみたいだね。いったん引こうか」

「そうね。さっきやらかした馬鹿もいることだし、さっさと行きましょ」


 アデルはさっきのジェドがやらかしたのを少し根に持っているみたいだ。まあ、もう少しで試験自体が台無しになるところだったから仕方がないかな。


 試験が台無しになったらワロウさんに迷惑をかけちゃうのもあるけど、なんと言ってもギルドマスターからの罰が恐ろしすぎる。


「やらかした?誰がだ?」

「あんたに決まってるでしょうが! あんたのせいで試験が終わるとこだったのよ! しかも私のハンカチが犠牲になってるんだから! 」

「あー..わかったわかった。悪かったって」

「何よその適当な返事! 大体ねぇ...」


 しばらくアデルの説教は続きそうだ。残念ながら今回は僕も援護はできないかな。ちょっと自業自得の部分もあるしね。とりあえず今は刺激臭が来ないところに移動することに集中しよう。


 そうして僕らは刺激臭から逃れるためにいったんその場を離れたんだ。

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