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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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四十六話 作戦会議 ベルン視点

Side ベルン


 彼らはしばらく水亀と戦っていたが、このままでは勝てないとわかったらしくハルト君が撤退を決断するとその場からさっさと逃げ出した。勝てない敵からは逃げる。冒険者の基本的な考え方だ。


 でも、意外とそれができない冒険者達も多い。むしろ今回のような特別な依頼だと多少無理してでも何とかしようとする冒険者の方が多いかもしれない。


 どうしても依頼を成功させなければという思いが視野を狭くし、逃げるという選択肢がぽっかりと頭から無くなってしまうんだ。


 僕も最初はそうだった。初めてノーマンさんからリーダーを引き継いだ時にはどうしても依頼を成功させて自分の実力をメンバーに認めてもらわなくちゃいけないと思っていたんだ。


 そこで、ある依頼で限界ギリギリまで粘ってメンバーを危険な目にあわせてしまった。幸運なことにそれで死人とか大けがとかは出なかったんだけど、ノーマンさんにはこっぴどく叱られたんだ。”なんでもっと早く退却しないんだ”ってね。


 今は逃げることの重要性もきちんと理解しているし、何年もリーダーをやってるうちにどこが引き際なのかがわかってくるようになってきたところだ。


 逆に僕よりもずっと若いハルト君がリーダーとしてきっちり退却の判断をできたということは、冒険者としてのやり方をよく理解して実践できていると言えるだろう。流石ワロウさんが教えていただけのことはあるなあ。


 僕が彼らの退却の判断に感心していると、ジェドが話しかけてきた。


「アイツら、中々冷静だな。助けに入らにゃならんかと思ってたが」

「そうだね。よく状況を判断できている」

「...でも、これじゃ倒せそうもないわよね?どうするのかしら...」


 アデルは少し不安そうな顔をしている。そこで、安心させるためにギルドマスターから聞いている話を少し共有しておくことにした。


「...まあ、ギルドマスターから聞いた話だと倒し方がわからないだろうから、ここで一回町に戻るっていう予想みたいだね。それで戻ってきたら色々ヒントをあげるって言ってたよ」

「あら、そうだったの?最初から教えてあげればいいのに...」

「いつでも事前に情報があるわけじゃないからね。依頼の途中で突然想定していない魔物に襲われことだってあり得る。その時に対応できるようにする練習ってことじゃないかな」

「...成程ね。ギルドマスターも色々考えているってわけ」


 ギルドマスターとしては、今までワロウさんから習ってきたことの集大成を見るということに加えて、この試験からも色々と学んでほしいという思いがあるんだろう。


 ...とは言ってもその見知らぬ魔物との戦い方という経験を自分たちより格上の魔物でやらせるっていうのは結構厳しいような気もするんだけど。逆にいうとにれだけ彼らに期待しているってことなのかもしれないな。



 そんなことを考えつつ彼らの後を追っていくと、彼らはさっきの池から離れた場所で作戦会議を始めた。内容をこっそり聞いていると、どうやら剣で普通に倒すのは難しそうだから、水亀の防御魔法を妨害して、シェリーちゃんの魔法で仕留めようという話になっているみたいだ。


「ほお、あいつらなかなか頭が回るじゃねえか。あの鳴き声が魔法に必要だってことも気づいてるみたいだな」

「うん...戦闘中も相手をよく見て戦えてるみたいだね」

「というか、水亀って防御魔法も使えるのね...初めて知ったわ」

「まあ、俺らじゃ魔法を使って攻撃するこたあねえからな。アイツの防御魔法なんて知らなくて当然じゃねえか?」

「まあ...確かにそうね」


 彼らは最初、頭を攻撃して鳴き声を止めて魔法を妨害しようとしていたみたいだけど、妨害役の二人が水亀に近くなるから、魔法の余波に巻き込まれてしまうという話をしていた。


 彼女の魔法ってそこまで威力があるのか...正直僕自身もまともに攻撃魔法を見たことはほとんどないから全く想像できないんだよね。


 その後、彼らはしばらく会話が止まっていたんだけど、シェリーちゃんが何か思いついたみたいで近くの茂みの中へと潜っていった。


 何をしているんだろうと思って眺めてたら、彼女は何かをもって出てきた。小さくてよく見えないけど赤い実のようなものを持ってるみたいだ。


 次に、彼女はおもむろに近くにあった石を持ち上げるとその実に向かって振り下ろした。石が当たるとその実は破裂してあたりにかけらが飛び散った。


 すると彼らがいきなりくしゃみをしだして目から涙まで流し始めた。い、いったい何が起こってるんだ?


「ねえ、大丈夫かしら?毒じゃないわよね?」

「うーん...毒だったらあんなに迂闊に実を割ったりしないと思うけどね」

「まだ様子見でいいだろ。動けなくなるようだったら助けに行けばいい」


 ジェドの言う通り、まだ手出しをするタイミングじゃない。少し様子を見ようと思ったそのとき、僕らの鼻に刺激臭が襲ってきた。


「う、うわっ! 何よ...このニオイ...!」

「なんか鼻の奥がピリピリしてきたぜ....は、は....は...」

「ちょ、ちょっと...!くしゃみはダメだよジェド! 彼らに気づかれてしまう!」


漂ってきたニオイの刺激に耐えられなかったのかジェドはくしゃみが出そうになっている。今僕らが隠れている場所は彼らのいる場所とそこまで距離はない。


 今までは小声で話してたから気づかれなかったけど、くしゃみなんかしたら一発でバレてしまうだろう。ど、どうしよう...とにかく、くしゃみを止めなくちゃ!


「そ、そんなこと言ったって...は、は...は...ふぐっ!!?」


 とりあえず強引に彼の口にたまたま持っていた革袋を押し込んだ。なにか苦しそうな声が漏れ聞こえてきたけど緊急事態だ。許してくれ。


「このままだとマズい...いったん距離をとろう」

「そうね...ちょっとこのニオイはキツイわ。わたしもくしゃみしちゃいそう...」

「ふぐぐぐ....」


 刺激臭から逃れるために僕らは一旦彼らと距離をとることにした。目を離すのは本当はあまりよくないけど、僕らの存在に気づかれる方が困るからね。


 離れる前に彼らの話を聞いていたけど、あの赤い実をもっと集めようとしているようだ。しばらくはこの場所を離れることはないだろうから少し遠くにいても大丈夫だろう。


 さきほどの場所から少し離れると刺激臭は大分マシになった。一息ついているとジェドが恨めしそうな顔でこちらを見ている。...なにかやったっけ?


「...ひどい目にあったぜ」

「まあ、そんなこともあるさ。ハハハ...」

「半分くらいはお前のせいだからな! なんでよりによって薬草用の革袋なんだよ! 」


 どうやら僕が慌てて突っ込んだ革袋は、薬草用のものだったみたいだ。袋には薬草の匂いが染みついている。


 決して臭いとかではないけど、薬草は非常に独特な匂いがするものが多いから、それを口の中に突っ込まれるのは僕も勘弁してほしい。


「大体あんたがくしゃみしそうになるから、そうせざるを得なかったんでしょうが。におい付きの革袋くらい我慢しなさいよ」

「なんだとぉ!? お前、実際に喰らってないからそんなこと言えるかもしれんが、相当ヤバいからな! 朝食った飯とまたご対面する直前だったんだぞ!」

「ちょ、ちょっといきなり汚い話始めるんじゃないわよ! 」


 やれやれ、あまり大声で話してほしくないんだけどな...まあ、距離はあるから聞こえてはないか...ん?話し声がこちらに近づいてきているような...これは...ハルト君の声のようだ。


「シッ! 二人とも静かにしてくれ...!ハルト君がこっちに来てるみたいだ」

「なに?動き始めたのか」

「...みたいだ。こっそり裏に回ろうか」

「わかったわ」

「了解だ。こっちから回り込もう」


 どうやら彼らは移動し始めたみたいだ。僕らもそれに合わせてジェドを先頭にして彼らの裏にこっそりと移動した。彼らが向かっているのは水亀のいたところへと向かう方向だ。もう一度水亀に挑むつもりなのだろう。


 先ほどは手も足もでない様子だったけど、今度は作戦を考えて挑むんだろう。ギルドマスターの予想だと倒せないで町に戻ってくるだろうと言っていたけど...どうだろうか。


 先ほどの会話を見るに彼らは、駆け出しにしては周りもよく見えているし作戦もきちんと考えて行動してるみたいだ。もしかしたら...


 彼らならやってのけるかもしれない。そんな思いを胸に抱えつつ僕は彼らの後を追った。

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