表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に名を馳せるまで  作者: niket
44/162

四十四話 作戦会議

Side ベルン


 ハルト君の叫び声が聞こえてきた。どうやら戦闘が始まったようだ。僕たち4人も急いでその現場に駆け付けて近くの木の陰へと隠れる。


 陰から池の方をこっそり見ると、そこには水亀の姿があった。水亀はレアでなかなか会えなかったりするんだけど、彼らは幸運な方のようだ。


「おーおっぱじまったか。奴らがどうするか高見の見物だな」

「ジェド、趣味が悪いわよ。わざわざ苦戦するところを見たいっていうの?」

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。奴らがどう突破するのか興味があるだけだつーの」


 ジェドはどうやら彼らがどう戦うか興味があるようだ。...正直僕も興味がある。水亀というのは普通に戦おうとするとすごい苦労するからね。


 一番先に亀に切りかかったのはハルト君だった。すごい瞬発力であっという間に亀の近くまで走りよると剣で頭を一刀両断にしようとする。けど、それを上回る速さで亀が首をひっこめる。ハルト君の攻撃は空振りに終わってしまった。


 だけども亀が首をひっこめる隙に、完全に止まっていた足めがけてダッド君が剣を振り下ろす。亀の方はそれに気づいていなかったのか気づいていても避けられなかったのかはわからないけどその剣はそのまま足に直撃した。


 ...が、そのまま剣ははじかれてしまった。水亀は甲羅だけが硬そうに見えるんだけど、足や頭も相当硬いんだ。普通に剣で切っていても倒すことはできないだろう。


(さて、どうする?...やはりここは...)


 次の彼らの行動は僕の予想通りだった。二人の後ろで詠唱を続けていたシェリーちゃんが前に出てきたんだ。魔法の準備が整ったんだろう。そして彼女は炎の玉を亀に向かって放った。


 その魔法の速度はそこまで早くなかったけど、そもそも動きが遅い水亀はそれを避けきることはできなかった。まともに被弾するかと思ったその時、水亀の怪しい鳴き声が響き渡った。


 すると、水亀の体が青く光り始めて当たった炎の玉がかき消えてしまった。ハルト君たちはそれにかなり動揺しているようだ。


「...成程。こういう感じで防御魔法を使うのか」

「初めて見たけど結構すごいのね。まるで元から無かったみたいに消えちゃったわ」


 

 それからしばらくは膠着状態が続いていた。ハルト君たちの方も有効な攻撃は無いし、水亀の方も首での頭突きを繰り返すだけで、かすりもしていない。


 そんなやり取りが続いていたんだけど、ついに水亀の方がしびれを切らしたかのように一声鳴き声を上げると、今度は水球がハルト君の方へと飛んでいった。幸いなことに彼は盾で防ぎきっていたけれど、完全には衝撃を受け止められずに後ろに倒れこんだ。


 これが水亀の厄介なところだ。奴は低ランクの魔物にも関わらず魔法が使えるんだ。とはいっても所詮は低ランクだから大した魔法は使えないんだけどね。水亀の使える魔法は二つだけで一つは先ほど炎玉を防ぎきった防御魔法ともう一つは水球を作り出す魔法だ。


 前者の防御魔法は対魔法にのみ効果があって物理的な防御力は上がらない。でも、元々物理防御はかなり高いから、対魔法まであると本当にダメージを与えるのが難しくなる。


 ...まあ、普通の冒険者たちは魔法なんか使わないから、魔法防御が上がることに関してはあまり関係ないんだけどね。僕も知識として水亀が防御魔法を使うことは知っていたけど実際に見るのは初めてだったりする。


 今回はシェリーちゃんが扱っている魔法が完全に防ぎきられてしまっていた。多分魔法の技術的にはシェリーちゃんの方が圧倒的に上だと思うから火属性との相性が悪かったのかもしれない。


 もし、ほかの属性の魔法が使えるならそれを使えばいいと思うけど、複数の属性持ちは珍しいし、火属性の魔法しか使えないんじゃないかな。そうなると奴を倒すのは相当厳しいと思うけど...


(さて、このままじゃいつまでたっても討伐はできないぞ。どうするんだ?)


Side ハルト


(落ち着いて考えるんだ...奴には剣も魔法も効かない。ということは今の状態じゃ戦ってても不利だ。いつ他の魔物が現れてもおかしくないしな...)

(だったら,...!)


「おい! 二人とも! ここはいったん撤退するぞ!」

「わかりました!」

「えっ!逃げるんすか!?」


シェリーは俺の言葉を聞いてすぐに撤退の準備に移ってくれたけど、ダッドは少し渋っていた。今逃げたら次にまたこの亀がここにいる保証もないしな。嫌がる理由もわかる。だけど...


「今のまま戦ってても、絶対に倒せやしないって! それにこのまま長期戦なんてやってたら他の魔物がいつ来てもおかしくないぞ!」

「...仕方ないっす! 戦略的撤退っす!」


 俺たちはその場から逃げ出した。幸いなことに奴の動きは遅かったから追いつかれる心配はなかった。

 それでも逃げる途中に水玉が飛んできて、いくつか被弾しそうになったけど、大半の水玉は制御が甘かったみたいでてんで見当違いの方へと飛んでいった。


魔法が使えるとは言ってもそこまで技術はないみたいだ。だからDランクなのかもしれない。


「ゼェ...ゼェ...に、逃げたはいいっすけど、どうするっすか?なんか剣も魔法もろくに効かなさそうっすけど」

「...そうだよなあ。どうするか...というかお前も考えろよ」

「ええ...頭脳労働は勘弁してほしいっす...」


 ...こんな時師匠がいてくれたらすぐに案を出してくれそうなんだけどな。まあ、ないものねだりをしても仕方がないし、いつまでも師匠に頼ってると独り立ちもできない。


 ここは俺たちだけで何とかしないとな。よし、いっちょ考えてみっか!


「.....................ダメだ! なんも思いつかねえや。シェリー、なんとかならないか?」


 やっぱり俺もダッドと同じく頭を使うのはあまり得意じゃなかったみたいだ。全然どうすればいいか思いつかない。申し訳ないけどこういうときに頼れるのはシェリーしかいない。


「...そうですね。状況を整理してみましょう。どうすれば倒せるか...剣で切ってみた感じはどうでしたか?」

「いやあ、全然ダメっすねー。足に切りかかったすけど、少し血がにじむくらいでダメージになってないっすよ」

「頭は避けられちまったからな。動きも早いし当てるのは相当難しいと思う」


 しかも、当てられたところで頭が柔らかいといった保証もない。もしかしたら足より硬い可能性だってある。頭には骨があるからな。


「...わかりました。やっぱり魔法で倒すしかないみたいですね...」

「うーん、でもあの魔法が厄介だよなあ。なんなんだあれ?」

「防御魔法の一種だと思いますが...すみません、私もよくわからないです...」


 奴が使っている魔法に関してはシェリーもよくわからないようだ。まあ魔物が使う魔法のことなんて知ってるはずもないか。とにかくあの魔法を何とかしなければ倒すことはできないんだからその方法を考えるしかない。


「うむむむ....そういえばなんで最初から魔法使ってこなかったんすかね?」

「うん?そりゃ、魔力を節約するためだろ?」

「じゃあ、水球打たせまくって魔力を減らせばいけるんじゃないんすか?」


 むむ...ダッドの奴、意外といいところ突いてくるな。もしかしたらそれもありかもしれない。でも、今回はダメだ。


「さっきも言ったけど長期戦はダメだ。他の魔物が寄ってくるかもしれないからな。それに魔力がすっからかんになるまで水球を打つほど馬鹿じゃないと思うぜ、あの亀は」


 最初、魔力を節約しようとしてたんだから、魔力がすっからかんになればまずいということはわかっているんだろう。魔力を地道に減らしていく作戦はなしだな。


「ええーじゃあどうするっすか」

「まあ待てよ...魔法で倒すしかない、魔力を尽きさせることはできないと考えると...後は...防御魔法を発動させない...とかかな」

「むむむ...そういえば魔法を使うときはアイツ、いつも鳴き声を上げてたっすよね?つまり鳴き声を妨害すれば魔法は使えないってことじゃないっすか?」

「成程! その手があったか! アイツが防御魔法を使おうとしたときに鳴き声を妨害すればいいんだな...頭を全力で殴りに行くか?」

「いいかもしれないっすね」


 これはなかなかいい案じゃないか?鳴き声を妨害するのはそこまで難しくないだろう。別に頭に攻撃が当たらなくても鳴き声さえ妨害できればいいんだから。


 妨害した直後にシェリーの魔法が直撃すれば倒すことができるはずだ。...こんな名案を思い付くなんてもしかして俺って頭いい?


「よし、この作戦であいつを討伐しに行こうぜ!」

「よっしゃ、次こそは決めてやるっすよ!」


 という感じで...俺とダッドは盛り上がっているけど、シェリーからは反応がない。どうしたんだ?

 シェリーの方を見ると、シェリーが何とも言えない表情でこちらを見つめてくる。な、なんだよ。なんか問題でもあるのか?


「......盛り上がってるところ悪いですけど、それは無理ですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ