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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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四十三話 魔法を使う魔物

Side ハルト


 俺たちが町を出てからしばらくすると、分かれ道があった。片方はそのまままっすぐ進んでいく道で、もう片方は川の方に出る道だった。


 もう結構歩いてたからそろそろ水亀が出るあたりに着いたんじゃないかってってことで川の方へ出る道に進んだんだ。


 その道を少し進んでいくと、すぐに水の音が聞こえてきた。もう結構川に近いみたいだ。


「あ...水の音っすね。そろそろっすか?」

「リザードマンの縄張りの可能性もあるので注意してくださいね。...今のところそれらしき足跡はなさそうですけど」

「..お、見えてきたぞ。こうやってみると結構デカい川だな」


 俺の視線の先の方には川面が見え始めた。町の中でもかなり大きな川だってことはわかってたけど、ここら辺は整備されてないからか余計に広く感じる。そこでふと川の上流の方を見ると雑木林が見えた。


「ん?あそこ、林になってるみたいだな」

「...川から水が流れ込んでるみたいですね。もしかしたら中に池か沼みたいなのがあるかもしれません」

「ということはお目当ての奴もいるかもしれないっすね。早速行ってみるっす!」


 見つけた雑木林に近づいていくと、シェリーが予想した通り中は沼のようになっていて淀んでいる。何かいないかよく目を凝らしてみると池の底の一部が不自然に盛り上がっていた。


 大きさはダッドと同じくらいだろうか。もしかしたらあれが水亀かもしれない。そう思って、とりあえず二人の意見も聞いてみようと思ってちょっと声を潜めながら相談しようとしたんだ。


「なあ、あれ...ちょっと怪しくないか?」

「ん?どこっすか?」

「あれだよ...あれ。ちょっと盛り上がってるところ、あるだろ?」

「んん?盛り上がってる?そうっすかね?」

「おいおい、よく見てみろよ。明らかに盛り上がってるだろ」


 俺たちがそんな話をしていたら、どうやら相手もこちらに気づいたらしい。その盛り上がりがこっちに向かって移動し始めた。それに驚いて思わず俺は叫んだんだ。


「ほら、そこだ! そこの地面が動いてるところ! こっちに来るぞ! 」


 もうその時には、ソイツの体の半分くらいは見えていた。それはダッドくらいの大きさで、高さは俺の胸の位置くらいまであるすげえでかい亀だった。でも、普通の亀と違ってそいつには顔と甲羅に変な模様があったんだ。それが魔物の証なのかもしれない。


 俺たちが慌てている間にも、そいつはもう地面まで上がってきていて、値踏みでもするかの如くこっちを見ていた。こっちもお目当ての魔物を前に引くわけにもいかない。戦闘開始だ。


「とりあえず、頭を叩く! かみつかれるかもしれないから注意しろよ! シェリーは魔法の準備だ!」


 そういって俺は、剣を抜いて頭に切りかかった。もう少しで奴に刃が届きそうになったけど、その瞬間頭をひっこめられて躱される。


 思ったよりも動きは俊敏みたいだ。でも、首をひっこめるその瞬間奴の動きが止まる。その隙にダッドも剣を抜いて足に切りかかった。


「ぐおッ!? なんだコイツ!?足まで硬いっすよ!」


 ダッドの言う通り、切りかかった部分には少し血がにじむだけでほとんどダメージは入っていないようだ。硬さ的にはこの前のフォレストボアよりはダメージは通ってそうだけどこの調子だと剣だけでは倒すのにいつまでかかるかわからない。


 水亀の方もやられているばかりではなかった。自分にダメージを与えてきたダッドを脅威として認識したのかそちらに頭を向けた。嫌な予感がした。思わず俺はダッドに向かって叫んだ。


「マズい! 避けろッ!!」


 その言葉には反応しきれず、ダッドにできたのはなんとか盾を構えることだった。

 次の瞬間、甲羅に引っ込んでいた頭が凄まじい速度でダッドへ向かってかみついてきた。

ドンという奴の頭と盾がぶつかる鈍い音が辺りに響き渡った。


「うわっ...! あ、危なかった...!」


ダッドはまともに受け止めたけど、少しふっ飛ばされただけでどうやらケガはしなかったみたいだ。速いは速いけど威力の方はそこまででもないのかもしれない。


「大丈夫か!?」

「問題ないっす。でも、フォレストボアの突進よりかは幾分マシっすけど、まともに喰らったら結構ヤバいかもしれないっす」

「二人とも! 避けてください! 」


 ダッドの様子を確認していると、シェリーの叫ぶ声が聞こえた。魔法の準備が整ったみたいだ。俺とダッドはすぐにその場を飛び退いた。次の瞬間、シェリーの炎玉が亀に向かって放たれた。


 奴はそれを脅威だと認識したのかまた甲羅にこもってしまった。でも、それぐらいでシェリーの魔法の威力が防げるわけがない。そう思ってたんだ。...その時までは。


 奴は炎玉が当たる直前に怪しく鳴いた。なんか聞いているとくらくらしそうな...とにかく変な鳴き声だった。でも、それはただ単に泣いたわけじゃなかった。


 次の瞬間、奴の甲羅が青く光りだしたんだ。そしてそのまま甲羅に炎玉が当たった。当然爆発が起きて、真っ黒こげになるそいつの姿を想像してた。


 でも実際は違った。炎玉が甲羅に当たった瞬間に、力を失ったかのようにその炎が弱くなってかき消えてしまったんだ。


「マジかよ..!?」

「ど、どうなってるっすか!?」


 今まで、迷宮やこの町の依頼で色々な魔物を見てきたけど、シェリーの炎玉の魔法がかき消されたのは初めてだった。シェリーも驚いている様子で、ありえないものを見るかのような目で奴を見ていた。


「こ、これは...!で、でもDランクの魔物が使えるわけが...」

「おい! シェリー! 心当たりがあるのか!」

「し、信じられません...あれは魔法です!魔法で炎玉を防いだんです!」

「なんだって! 魔法だと!?」


 にわかには信じがたがった。魔法を使える魔物が存在しないわけじゃあない。むしろ高ランクの魔物になれば何らかの特殊な技能を持っていることが多くて魔法を使ってくる魔物も少なくない。


 でも、まさかDランク程度の魔物が魔法を使って、しかもシェリーの一番威力の高い魔法を完全に防ぎきってしまうなんてことがあるとは思っていなかった。


 俺たちが驚いている間にも、亀はこちらに攻撃を仕掛けてくる。また頭をひっこめて突進の構えを見せたので、それに当たらないように奴の横へぴったり張り付くように位置をとる。


 幸いなことに首の突進は早いけど、本体が動くのは遅いようで横にいる俺たちに攻撃することはできないようだった。


 そのまましばらく膠着状態が続いた。こっちはこっちでまともにダメージを与えられないし、向こうは向こうで攻撃をこっちに当てられない。


 ついにしびれを切らしたのか、奴がまた怪しい声で鳴き始めた。魔法の合図だ。なんの魔法が飛んでくるかは全く分からない。俺たちができることは盾を構えることだけだった。


 次の瞬間、俺の盾に衝撃が走った。何かをぶつけられたかのような感触だ。威力はそこそこ強く、しっかり盾を構えて受けたのにもかかわらず勢いに負けてしりもちをついてしまった。


「こいつ、水の玉を作ったすよ! それをぶつけてきたっす!」


 ダッドが何があったのか教えてくれた。俺は盾を構えてて見えなかったけど、どうやら奴は魔法で水の玉を作り出してそのままぶつけてきたようだ。


 シェリーの炎玉と比べると威力は月とすっぽん並みの差があったけど、それでも盾を構えずに喰らったら痛いではすまなさそうな威力だ。


「シェリー! アイツの魔法に気をつけろ! 魔法が来たらダッドか俺の後ろに隠れるんだ!」

「わ、わかりました!」


 それから俺たちはしばらく奴と戦っていた。その中で一つわかったことは奴の攻撃自体はそこまで大したことがないってことだ。本当に喰らったらまずいのは突進かみつき位で、魔法も攻撃手段は水玉しかない。



 でも、奴の防御力は攻撃力の低さを補って余りあるほどのものだ。剣の攻撃はほとんど効いていないし、頼みの綱のシェリーの魔法も防がれてしまった。


 もしかしたら何回も当てれば防ぎきれなくなるかもしれないが、炎玉の魔法は威力が高い代わりに魔力消費が大きい。そう何度も連発できるような魔法ではないんだ。


(クソッ...!このまま戦い続けても倒せる見込みがない...!どうすればいい...どうすれば...)


 完全に手詰まりだった。剣も魔法も効かない水亀を前に俺たちはなすすべがなかったんだ。

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