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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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四十二話 いざ討伐へ

 正直ギルドの前に来たときは緊張でガチガチだった。やっぱり試験と聞くとどうしても緊張してしまう。


 そんな俺らの様子を見て師匠はあきれたように言ったんだ。”お前ら、俺が最初に話したことを覚えてるか?”って。最初は何のことかわからなかった。師匠に冒険者にとって何が一番大事かって言われてやっと思い出したんだ。


 冒険者にとって一番大事なのは自分の命。それ以外は後回しってね。確かに絶対に試験を達成しなきゃいけないっていう思いが強すぎて、そこをおろそかにするところだった。


 別に逃げたところで失格になるわけでもないし、万が一失敗したとしても自分にはそこまで影響がない。そう師匠が言ってくれて大分気分が楽になった。


 逆に言えばそこまで思い詰めていたってことだよな。このまま依頼を受けてたら危険な目に遭ってたかもしれない。...危ないところだったぜ。


 ギルドに入っていくと、ギルドマスターが俺たちのことを待っていた。相変わらず仏頂面で、別に怒ってるわけじゃないとわかっていても威圧感がすごい。そのギルドマスターが試験の説明をしてくれたんだけど、今回俺たちが受ける依頼は”水亀”の討伐らしい。


 それは今まで聞いたことがない魔物だった。師匠に聞きたいけど、師匠からの助言は禁止されている。仕方がないから受付の人に聞くことにして早速受付待ちの列に並んだんだ。


 しばらく待つと、俺たちに順番が回ってきた。幸運なことに受付にはサーシャが座っていた。彼女はおしゃべりだから色々依頼について話してくれるんだ。...たまに余計なことも話してギルドマスターに怒られてる時もあるけど。


 きっと今回の依頼についても色々教えてくれるだろう...と思ってたんだけどどうも様子が変だ。いつもだったら何も言わないでも話始めるのに、今日に限ってはなんかあっさりというかほとんど依頼について話してくれない。


 仕方がないから報酬とかに関して自分で質問してたんだけど、肝心の魔物について聞くのを忘れてしまってたんだ。いつものサーシャの親切な説明に慣れすぎてたせいかもしれない。ちょっと反省しなきゃな。


 で、その魔物の話を聞いたんだけど、硬い以外は大したことなさそうだ。ランクはDランクで少し格上だけど、俺たちは今まで同じDランクのフォレストボアを倒してる。硬いといってもサーシャの魔法なら一発で仕留められるだろう。


 そう思って、話を切り上げた。シェリーはもう少し聞きたそうだったけど、様子がちょっとおかしいサーシャを見てあきらめたみたいだ。そんなに気にしなくても魔法で一発だと思うんだけどな。


 そうして俺たちは師匠に一言挨拶して討伐へと向かったんだ。...この時はまだあんなに大変な目に合うとは思ってもみなかった。


「川の方って言ってたっすよね?あそこをそのまま上っていけばいいとかなんとか」

「そうだったな。とりあえず門から出たら川の方に行くか」

「あ、...そのことなんですが...多分やめたほうがいいです」


 とりあえず、草原の門を通ってから川の方へ向かおうと思ってたんだけど、シェリーはそれに反対みたいだった。なんでだ?


「川の付近はリザードマンの縄張りになっている可能性があるみたいです。この前ワロウさんがそう言ってました」


 リザードマンはEランクの魔物だ。強さはそこまででもないけど、群れでいるから俺たち3人で相手をするのは厳しいかもしれない。


 なんでシェリーがそんなこと知ってるのかと思ったけど、そういえばシェリーは色々な知識を師匠から得ようとしていて一緒に依頼を受けている最中とかに色々質問したりしていたんだ。その中に川の情報もあったのかもしれない。


「ええっ!そうなんすか?...サーシャさん不親切っすね。いつもなら教えてくれそうっすけど...知らなかったのかな?」

「...そうかな。ギルドの職員なら知っててもおかしくないと思うぜ」


 いくら新人と言っても、サーシャはずっとこの町で暮らしてきた人間だ。川の付近にリザードマンがいるってことを知らないってことはないと思う。...でも、そうするとわざと言わなかったってことになるよな?何か嫌われるようなことでもしたかな?


 俺が必死に何をやったか思い出そうとしてると、シェリーがそれについて予想を話してくれた。


「推測ですけど...多分試験だから情報を与えるなってギルドマスターから言われてるのかもしれません。反応が淡泊だったり、途中で何か言いかけてやめたりしてたでしょう?」

「た、確かに!」

「なんか変だと思ってたっす。いつもより口数が大分少なかったすからね...」


 流石はシェリーだ。サーシャの反応がちょっと変だったことだけでそこまで予測できるとはな。...つまり俺が何かやらかしたってわけじゃないんだよな?それでいいんだよな?


 そんな俺の不安をよそにシェリーはどんどん方針を決めていく。


「とりあえず、注意して進んでいった方がいいでしょう。まさか妨害してくるとは今のところ思っていませんが、何があるかわかりません。特にサーシャさんが水亀の情報のところで出し渋っていたのも気になります」

「そうだな。水亀を見つけたらまずは様子見から行こう」


 シェリーのおかげで危険なところを避けることができた俺たちは水亀の討伐へと出発した。と言っても川沿いを歩いていくとさっきも言ったようにリザードマンが出る可能性があるから、川から遠すぎず近すぎずの位置を保ちながら進んでいくことに決めたんだ。


 師匠は別にいいって言ってたけど俺たちが恩を返せるのはこの試験の合格ぐらいだからな。もちろん、それにとらわれるつもりはないけど試験には絶対に合格してやる! って心の底から思ったんだ。


Side ベルン


 僕の名はベルン。ディントンの町所属のしがない冒険者だ。今はワロウさんの指導者試験の監督として、彼ら3人組の様子をこっそりと見てるところだ。いざとなったときに助け出せるようにね。


「...あいつら、川沿いはいかないみたいだな」

「そうみたいだね」


 どうやら彼らは川沿いを進まないで近くの街道で現場まで行くみたいだ。誰か言ったのかはわからないけどいい判断だ。川沿いはリザードマンが出るからね。彼ら3人では少々手に余るだろう。


 もしかして、ワロウさんが試験を予想して教えてたりするのかな?...それは流石に無理か。今回の試験内容に関しては僕らも彼らと同じタイミングで知ったから、ワロウさんだけ事前に知れた可能性は低いだろう。


 でも、もし本当に予測で当ててきたとしたらそれはもう化け物レベルの洞察力だ。ワロウさんは察しはいい方だけど流石にそこまでは...いかないよな?


 そんなことを僕が考えている間にも彼らはどんどん川の上の方を目指して進んでゆく。幸運なことに途中に魔物が現れる気配もなさそうだ。まあ、元々草原にはあまり魔物はいないからね。


 しばらく彼らの後ろについていきながら歩いていると、僕のパーティメンバーのアデルが話しかけてきた。


「...ねえ、水亀って言ってたわよね?どう思う?」


 彼女はこの前大蜘蛛の変異種に噛まれて死にかけたんだけど、ワロウさんが間一髪で救ってくれたんだ。今回の仕事は実はあまり報酬はよくないんだけど、そのアデルを助けてくれた恩を返すために受けたのさ。


 ...まあ、ギルドマスターに恩を売っておこうかなというのも少しあるんだけどね。


「...どうかな。彼らだと厳しい可能性もあるね」

「それはやっぱり...?」

「うん。あえて情報を出さなかったようだけど、彼らと水亀の相性はよくない...というよりかはシェリーちゃんと相性が良くないといった方がいいかな」


 ギルドマスターからの情報によると、彼らの戦闘スタイルは二人で相手の動きを制限してそこに高威力の魔法を打ち込むというものだった。シンプルだけどその分失敗する確率は低いし単純に強い。...が、それは魔法が相手に効く前提の話だ。


「ま、いざとなったら俺らが割り込んで助けりゃいいだけだ。違うか?」


 今話しかけてきたのは剣士のジェド。興味なさそうな顔をしていたけどどうやらしっかり聞いていたらしい。


 ちなみに今回は僕とアデル、ジェドの3人で来ている。後二人パーティメンバーはいるんだけど、今回はそこまで人手はいらないだろうってことで僕たち3人だけで来ているんだ。


「ああ、間違いないさ。そのためにも彼らのことはよく見ておかないとね」


 そう言って彼らの方を見やると、彼らは早速川の方へと向かうようだった。僕たちは慌てて見失わないように、だけど見つからないようにして彼らの後を追いかけた。


 しばらくその道を進むと声が聞こえてきた。何やら相談しているみたいだけど遠すぎてよく聞こえない。もうちょっと近づいてみようかと思ったときにハルト君だったかな。その彼が林の方を指さして叫んでいるのが聞こえたんだ。


「ほら、そこだ! そこの地面が動いてるところ! こっちに来るぞ! 」


 これが、彼らと水亀の”最初”の戦いの幕を切る合図となった。


 このときの僕は彼らを侮っていた。彼らでは水亀の相手は厳しそうだし、僕らが助けにいくことになるんじゃないかと思ってたんだ。でも、彼らの戦い方を見てそれは全くの見当違いだってことがわかったんだ。

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