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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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三十七話 習うより慣れろ

 ワロウがあらかた薬草の処理を終えるころには、ケリーも魔法装置の設定が終わったようだった。丁度その時先ほどから火にかけている鍋の中の液体は沸騰し始めたようだ。


 ケリーはその沸騰した鍋の中の液体の色を確認すると、ゆっくりと鍋を持ち上げて魔法装置の中に慎重に置く。そして、魔法装置のボタンを押すとヴゥゥン...という機械音とともに装置の中がぼんやりと青く光り始めた。


「うわあ...綺麗っすねー」

「光るのか! すげーな、コレ!」

「あはは...綺麗だろ?これは光ってるだけじゃなくて抽出速度と薬効が上昇するんだ。燃料の魔石が高いから普段は使えないんだけどね」


 ハルトとダッドは光が装置から出たことに感動しているようだ。シェリーは何も言わないが、その目は興味深そうに装置の方に注がれている。この世界では光るものというもの自体が珍しいのである。


「ちなみに一回動かすだけで金貨5枚は必要だぞ」

「...高すぎっす。もう触るのも怖いっす」

「お前らは装置に触らせるつもりはねえから安心しろよ」 


 魔法装置の燃料である魔石は非常に高い。おいそれと使えるものではないのだ。ついでに言うと装置自体も半端ではない値段である。

 その額たるやワロウが今まで稼いできた全財産でも足りるかどうか怪しいレベルである。当然、壊したりしようものなら多額の借金を背負って生きていく羽目になる。


 ワロウの言った金額に怖気づいたのか、3人が装置からやや距離をとる。その様子をケリーと笑いながら、ワロウは鍋の中の様子を伺う。すると先ほどまで透明だった鍋の中の水が徐々に濁り始める。


 中の液体が濁る様子をちらちらと見ながら、ケリーがワロウの様子を伺うように見てくる。次の材料を入れるタイミングをうかがっているのだ。薬を作るときにはこのタイミングというのも一つ重要となる。


「よし、今だ。入れろ」

「は、はいっ!」


 ワロウに促されてケリーが慎重に次の材料を鍋の中に放り込んだ。すると、青い光に邪魔されて見えにくかったが、水の濁り方が一瞬変化した。どうやら調合は成功しているようだ。


「...こんなもんか。コイツを使うのは久しぶりだったが何とかなったな」

「よ、良かったです...やっぱり魔法装置を使うとタイミングが分かりにくいですね...」


 先ほどまで緊張していたのか、そこで大きく息を吐くケリー。そんな彼にダッドが質問する。


「魔法装置使うと、難しくなるっすか?」

「うん...ほら、青色の光が出てるだろ?これだと元の薬の色が見にくいんだ。後、反応が早くなる分、混ぜるタイミングとかも難しくなる」

「うーん...確かに色は違って見えるかも...」


 ケリーの言う通り、青色の光が魔法装置から出ているため、元の薬液の色とは違った色に見えてしまうのだ。

 また、抽出速度が速まることによって、いつもの感覚で作っていると抽出しすぎてしまうこともままある。魔法装置というものは便利ではあるが、万能というわけではないのだ。


「失敗すると魔石がパアになるし...できるなら使いたくないよ...」

「んなこと言ってたら、いつまで経っても使えるようにならんだろうが。ほら次だ次だ」

「せ、急かさないでくださいって...」


 その後もケリーは様子を見ながら、慎重に他の薬草を加えていく。すると、最初サラサラだった薬液がとろみを生じてきた。

 ワロウはその薬液を小皿にすくい、その色と粘りを見る。.そして、自分の手に軽く塗ってみる。...特にしびれなどはおきない。どうやら問題なさそうだ。これで火傷薬の完成だ。


「完成だ。後はこれを繰り返して作っていくってわけだ」

「こんな感じなんですね...これを飲むんですか?」

「いや、これは塗り薬だ。見る見るうちにとまではいかねえが、少しはマシになる」

「師匠~。こんなの教わっても俺たちじゃ作れないよ」


 それまでの工程を見ていたハルトが情けなさそうな顔になる。ただでさえ覚えるのが苦手なのに複雑な工程を見せられて頭が痛くなってきたようだ。


「その点は大丈夫だ。今から実際にお前らにもやって覚えてもらうからな」

「えっ! マジかよ...絶対無理だって...」


 ハルトは自分で作ると聞き少し及び腰になる。残りの二人も言葉には出さないが不安そうな表情だ。初心者の彼らにとってはとてつもなく難しく見えたのかもしれない。


「そんなに怖がらなくていい。タイミングとかはオレとケリーが横で教えてやるから、お前らはそれの通り薬草を加えていけばいいだけだ」

「それでも厳しそうっすけどねぇ...」

「さっきは魔法装置を使ったが、お前らに教えるときは使わん。時間にも余裕があるから簡単だ。ゴブリンだってできるぞ」

「わ、わかったっす...そこまで言われたらやるしかないっすね」

「いい返事だ。...さて準備だが...」


 そう言ってワロウは3人分の道具を準備しようとするが、辺りに見当たらない。


「おい、ケリー。道具はどこだ?しまってあるんだろ?」

「え。いつもは僕一人だけですから、一人分の道具しかないですよ」

「げっ...そういうことか。そいつぁうっかりしてたぜ」


 この薬部屋はそもそもケリー専用の部屋なのだ。いつもケリー一人で使っているので道具自体も一人分しかないものが多い。3人同時に作ることは無理そうだ。


 まいったことになった。そう思ったワロウだったが、一つ案が閃いた。


「あ、いや...ちょうどいいか。よし、じゃあ一人は火傷薬の方をケリーに教えてもらいながら作ってみろ。残りの二人はさっき言ってたにおい草の処理の方法を教えてやる」

「成程。それが良さそうっすね。じゃあとりあえず俺はにおい草のほうで! 」

「あ、おいお前楽そうなの先に選ぶのはズルいぞ!」

「結局やるんですからあまり変わらないんじゃ...」


 ハルトとダッドはどちらが先におい草の方をやるかでもめている。シェリーの言う通り結局同じことをやるのだからあまり関係ないのだが...

 そんな彼らを見ながらワロウは全く別のことを考えていた。


(これでもう薬の作り方も教えることになる)

(オレの教えられることはもう結構教えたな。依頼の方はもう特に教えることはねえし...後は何回も受けて慣れていくだけだ)

(後は試験だが...まあ、こればかりはやってみないとわからんな)


 3週間という短い間ではあったが、ワロウは自分に教えられることはほとんど教えつくしたと思っていた。


 彼らがその若さゆえか、どんどん知識を吸収していったということもあるが、元々ワロウが教えられることは、冒険者としての常識や依頼の受け方、そして採取の仕方くらいしかなかった。


 ほかの、例えば戦闘に関しては、この3週間一緒に依頼を受けてみた結果、彼らの方がワロウよりも強いことがわかった。元々戦闘に関しては得意でなかったこともあるが、彼らがEランクにしては強かったというのもある。


 もちろん、まだまだ採取の仕方や薬の作り方などでは教えることはいくらでもあったが、今回は彼らを薬師にするでためではなく、この町の冒険者としての独り立ちを助けるためにこの指導を行っているのだ。

 

 あまり詳しいことを教えても覚えきれないだろうし、ワロウのように半分薬師のソロとして生きていくならともかく、普通の冒険者としてやっていく分にはそこまで詳しい知識は必要ない。


 ワロウがそんなことを考えている間、3人はまだもめている様子だった。その横ではケリーが話に割り込めずおろおろしている。仕方なくワロウが3人の話を止めにかかった。


「ほら、さっさと決めやがれ。どうせどっちもやることになるんだから変わらねえよ」


 その後、ワロウが順番を決めて、ようやく薬作りが始まったのであった。


 シェリーは要領がよく、すぐに自分で作れるようになったが、他の二人は散々で何回か騒動を起こすこととなる。結局ワロウとケリーがつきっきりで教えて、なんとか作ることができるようになった。

 本人曰く”明日になったら全部忘れてる”とのことだが...シェリーはきちんと覚えられているのでいざとなったら彼女が二人に教えてくれるだろう。


 そんなこんなで苦労しながらも最終的にはなんとか全員火傷薬の作り方とにおい草の処理の方法を教えることができたのであった。

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