表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に名を馳せるまで  作者: niket
20/162

二十話 ゴブリン討伐

 ワロウは、受付に向かうとサーシャに依頼の受注をすることを伝えた。

 サーシャは頷くとどの依頼を受けるか聞いてきたので、ゴブリンの討伐を受けると言うと少し不思議そうな顔をしながら受注手続きをしてくれた。


「ゴブリンの討伐って...簡単すぎませんか?報酬もいまいちですし、しかも草原ですけど...」

「まあ、最初だからな。お手並み拝見ってとこだ」

「そういうことですかー。...はい、受注完了です。一応お気をつけて」


 ゴブリンは5~7匹程度の群れで現れるFランクの魔物だ。見た目は緑色の小人といった感じで、知能もあまり高くない。ただし、群れで現れるので油断した駆け出したちが数の暴力でやられることもある。

 戦闘力的には今の4人パーティならば、十分余裕をもって討伐できるレベルである。

 ただ、この依頼は報酬があまりよくないのに加えて、草原ではそもそもあまり魔物があまりおらず狩りで稼ぐのには向いていない。


 何故ワロウがこの依頼を受けたのかというと、ゴブリンなので何かあったとしても危険性が低いということ、町からあまり離れていない場所であるという2点がそろっていたためである。

 また、今まで見たことない冒険者の魔法使いがどのように戦闘で魔法を使うかにも興味があった。よくいる魔物の代表ともいえるゴブリンにどれだけその魔法が効くのか確かめてみたかったのだ。


「よし、依頼を受けてきたぜ。報酬とかは見たか?」

「あ...見てなかったすね。いくらぐらいっすか?」

「おいおい、ちゃんと見ておけっつーの。今回はゴブリン一匹当たり銀貨1枚だな」

「え...結構少ないもんなんすね...」


 一日普通の人間が過ごすのに必要な金額は大体銀貨5枚だ。なので、今回の依頼ならゴブリンを少なくとも5体は倒す必要がある。4人パーティなら当然その四倍の20体だ。また、武器の手入れなどにかかる費用も考えると実際はもう少し倒す必要があるだろう。


 ゴブリン自体は弱いが、それでも命の危険性がある仕事に対する報酬としては少なく感じるのも無理はない。


「まあ、所詮はゴブリンだしな。あまり高望みしてもしょうがない。それに今回は依頼主がギルドだからな」

「依頼主がギルド?報酬と何の関係があるんだ?」

「知らないのか?ギルドの依頼ってことはほぼ常設の討伐依頼だから報酬は少ないんだ」

「常設依頼....」


 どうやらピンと来ていないようなので、ワロウは常設依頼について説明をした。

 常設依頼とは読んで字のごとくギルドが常時出している討伐依頼のことである。この依頼の目的は、町の近くで魔物が増えすぎないように間引きをするということである

 この間引きは誰かが依頼しているわけではないので、報酬に関してはギルドが全額負担ということになる。もちろん、周辺の道を通る商人たちや領主からの援助が元にはなっているが、報酬としては低めにならざるを得ないのだ。


「報酬が低かったら誰も受けなくなっちゃいませんか?」

 

 シェリーの疑問はもっともである。報酬が低い依頼など誰が好き好んでうけるのだろうか。


「いや、実はそうでもないのさ。ギルドが依頼主なら報酬を誤魔化されることがないし、常設依頼を受けるとギルドの評価が上がる。一応メリットもあるってことだ」


 


 依頼主というのは意外と重要な要素の一つだ。たちの悪い依頼主の中には仕事の出来に難癖をつけて報酬を減らそうとしたり、悪い情報をわざと言わないで依頼をしたりなど非常に面倒なことになる場合もある。

  もちろん、そういう騒ぎを起こすとギルドから目を付けられて依頼を出せなくなったりもするので、そういう依頼主はあまり多くないはない。とはいえゼロではないのだ。


 その一方で、ギルドが依頼主ならそのような心配はない。報酬だってきちんと払われるし、情報だってもらえる。また、ギルドの評価も上がってランクも上がりやすくなる。まだ駆け出しのうちはギルドの依頼をこなしていった方が良いとまで言われているのだ。


「でも、報酬があまりに少ないと生活できなくなっちゃうっすよ」

「別に依頼中に討伐以外のことをやっちゃいけないなんてどこにも書いてないだろ?行ったついでに採取もやればいい。そうすりゃ黒字にはなるだろ」


 常設依頼は間引きが目的で、緊急性はあまり高くない。別に急いで倒さなければならないとかそういうことは無いので、依頼ついでに採取を行っても構わないのだ。


「な、なるほど...ちょっと盲点だったすね...採取かあ」

「とはいっても、今回の達成条件は少なくとも5匹以上の討伐だから、あまり採取に目が行ってると達成できなくなるぞ」

「えっ! そうだったんすね。危ない危ない...」


 いくら緊急性が高くないとは言っても一匹しか討伐しませんでした...というのではお話にならない。ギルド側も依頼達成の最低基準を設けているのだ。


(...依頼のやり方、思ったよりもわかってねえな。次の依頼からはそこらへんも教えた方がいいか)


 今の3人の反応を見た感じだと、あまり依頼の種類ややり方に関しては知識がないようだった。迷宮都市のギルドとはまた違うので仕方がないところでもあるが、ここがわかっていないとこの先苦労することになりそうだ。

 ワロウは改めて依頼について教えておこうと思ったのであった。


「じゃあ、依頼の内容も確認できたところでそろそろ行くか...と言いたいところだが...お前ら、まだ採取道具持ってないだろ?」

「は、はいっす」

「とりあえず馴染みの道具屋があるから、依頼の前にそこで道具をそろえるぞ。ついてこい」


 ワロウはそういうと、ギルドから出てさっさと歩き始めた。ワロウに置いて行かれた形となった3人はそれを慌てて追いかけていった。


 ギルドを出て少し歩くと、目的の道具屋が見えてくる。

 ”ドルトンの道具屋”という看板を掲げたその店は、見た目こそ古い建物なものの、中はきちんと清掃が行き届いているようで、きれいにものが片付けられており、ほこり一つも落ちていない。


 ワロウはその道具屋に入り、店の奥の方を見やったがそこには誰もいなかった。少々時間が遅いということはあるが、まさか店主が店にいないということはないだろうと考え、大声で呼びかけた。


「おい、ドルトン! いねえのか! いねえなら勝手に持って行っちまうぞ!」

「...その声、ワロウか。なんだって、こんな時間にきやがる...ん?後ろのやつらは?」


 そういうと店の奥からのそのそと小柄な男が出てきた。小柄ではあるが体つきはがっしりとしていて冒険者だと言われても誰も疑問に思わないだろう。この男がこの店の店主ドルトンである。

 ちなみに生粋の商人であり、元冒険者だったりはしない。ドルトンとはワロウがこの町に来た当初からの付き合いで、この町の中でもかなり長い付き合いだった。


 そのドルトンはワロウの後ろの3人組を見て訝し気な表情を浮かべている。彼は流石にまだワロウの試験のことは知らなかったようだ。ワロウはやれやれと首を振りながら、その質問に答えた。


「ああ、ちょっといろいろあってな。面倒を見ることになったんだ」

「ふーん、お前がねぇ...で、何が必要なんだ?」

「初心者用の採取セットみたいなのあるか?最低限のやつでいい」

「初心者用のか...確かあったと思うが...ちょっと待ってな」


 そういうとドルトンは店の奥へと戻っていった。どうやら店の奥から引っ張り出してくるようだ。その間、手持ち無沙汰になったワロウと3人は店の中を眺めていた。

 部屋の中をしばらく眺めていると、ハルトが興味津々といった様子で辺りにある道具に手を伸ばした。


「なあ、これってなにに使う道具なんだ?」

「おい、あんま迂闊に触るんじゃねえぞ。それ一個で銀貨50枚はするからな」

「うげっ...そんな高いのか...コレ」


 ワロウが警告すると、ハルトは慌てたようにその道具から手を離した。銀貨50枚は金貨5枚相当になる。とてもではないが今のハルトたちに払うのは厳しい金額だ。


「ちなみにそれは劣化の早い薬草とかを保存するのに必要な道具だ。まあお前らじゃ当分使う機会はねぇよ」

「採取に使う道具だったんすね。それにしてもすげえ高いっす...」

「魔法装置が使われているからな。使うときに魔石も必要になるからそれだけでも結構かかるぜ」


 そんなことを話していると、奥からドルトンが戻ってきた。手には3つの背嚢を持っている。背嚢は背負うために作られた荷物入れのことであり、ドルトンが持ってきたものは重いものを入れたり、乱暴に扱っても壊れないような冒険者向けの頑丈な仕様のものである。


「ワロウ、とりあえずこんなもんでいいか?」

「ちょっと見せてくれ」


 ワロウが背嚢の中身をのぞくとそこにはスコップやはさみ、薬草を取り分けるための小さな袋などが入っており、採取に必要最低限の道具はそろっているようだった。


「よし、これでいい。いくらだ?」

「一つ銀貨10枚...と言いたいところだが、駆け出しだしな。銀貨8枚にまけてやるよ」


 その値段を聞いて3人の顔が引きつった。つい最近まで食うのにも困っていた彼らには払えるような金額ではないのだろう。

 それをしり目にワロウはさっさと自分の財布から銀貨を取り出すとそれをドルトンに押しつけた。


「ほらよ。銀貨24枚ちょうどだ」

「なんだ、お前が払うのか。だったら銀貨10枚のままにしておけばよかった」

「もう遅い。ほら行くぞ」


 ワロウがドルトンから袋を受け取り店を出ると、3人も後ろをついてくる。

 ちょうど一番近くにハルトがいたので持っていた背嚢をそのまま投げ渡した。


「ほら、お前の分だ。受け取れ」

「うわ、あぶねえな! 投げて渡すなよ!」


 ハルトはいきなり背嚢を投げつけられ、一瞬慌てたがなんとかそのままキャッチした。

そのままシェリーとダッドにも背嚢を手渡すと、シェリーがおずおずと話しかけてきた。


「あ、あの...さっきの代金は...」

「オレからの餞別だ。どうせお前らほとんど金持ってないだろ?」

「う...す、すみません...ご厚意に甘えさせていただきます...」


 シェリーが小さくなって謝るが、別に彼らが悪いわけでもない。ワロウは気にするなという風に手をひらひらと振った。

その横では早速ダッドが背嚢の中を覗き込んで中身を確認している。


「おおー...こんなのが入ってるんすね」

「そのうち物足りなくなるかもしれんが、当分はそれで十分だろう。これでやっと出発できるな。草原の方の門に行くぞ」


 ワロウはそういうと門へと歩き始めた。袋の中を見ていた3人は慌ててそれについていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ