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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第六十五話 キール少年の真実

「そうだ...レイナはどこにいるんだ?周囲の警戒にでも行ってるのか?」

「ああ、いや...戦闘で大分消耗していてな。今はそこで寝ている」

「ん?...おお、なんだ...マントだけかと思ってたら中にいるのか」


 確かに今、レイナはワロウのマントにすっぽりと包まれるようにして眠っている。ぱっと見、ワロウのマントが置いてあるだけのように見えるのだ。


「寝てるのか...だが、もう日が落ちるぞ?どうするつもりだ?」

「わかってるさ。そろそろ起こそうと思ってたところだ」


 そういうとワロウはマントにくるまったレイナをゆすり始めた。


「ほら、起きろ。そろそろ出発するぞ」

「う...?」


 レイナは寝ぼけた様子で辺りを見渡す。だが、さすがは高ランク冒険者といったところだろうか。すぐに覚醒して、起き上がった。


「う...む...ある程度は休めたな。ありがとう。君のマントのおかげだ」

「...そりゃ、どうも」


 レイナはマントをワロウに返すと、バルドの方を不思議そうな顔で見やった。


「貴殿...何故、ここに?試験官の仕事はどうしたのだ?」

「ああ、それはな...」


 バルドが先ほどワロウに説明した内容と同じことを話すと、レイナは納得したようにふんふんと頷いた。


「そうか...ウシク達が...」

「こいつぁウシク達のお手柄だったな。バルドがいりゃ、大抵の魔物ならどうにかできる」

「...そりゃ、言いすぎだ。まあ、この辺に出てくる魔物なら大丈夫だとは思うがな」


 最悪、ワロウたちだけでも町に向かう予定だったのだ。ほとんど戦えない状態のレイナを守りつつ、キール少年とワロウだけでなんとかするつもりでいた。


 だが、キール少年だって急激な魔力消耗のダメージも抜けきっていないだろうし、ワロウだって疲労でヘロヘロだ。正直、今だとゴブリンの群れの相手ですら荷が重かっただろう。


 そこにCランク冒険者のバルドが加わってくれるならばこれほど心強いことはない。ワロウ自身バルドと一緒に共闘したことがあるので、彼の強さはよくわかっていた。


「じゃあ、さっそく出発するか...」


 早速出発しようとバルドが動き始める。ワロウは慌ててそれを止めた。


「あ、いや...ちょっと待ってくれ。もう一人いる」

「なに?まだいたのか」

「ほら、そこの茂みのところにな。受験生の一人のキールっていうんだが...今起こすよ」


 ワロウはそう言いつつも、地面に横たわっていた彼の体をゆすぶった。


「う、うーん...」

「おい、大丈夫か?」

「...はっ!ば、化け物は!?」


 キール少年は起きるが否や、緊張した様子で辺りを見渡し始めた。魔法を使ったとほぼ同時に気を失ってしまったので、彼の中ではまだあの化け物に氷の魔法を当てたときで時間が止まっていたのだ。


「大丈夫だ。もうアイツは死んだ」


 そう言ってワロウは化け物の死体の方を指さす。それを見たキール少年はまだ、完全には状況を飲み込み切れていないだろうが、ある程度冷静さを取り戻した。


「倒した...ですか。それはよかった...一時はどうなることかと...」

「ま、今はとりあえず町に戻ろう。...立てるか?」

「あ、はい。大丈夫です...」


 レイナとは違って、キール少年はそこまで大きなケガをしていない。なので、血が足りなくて貧血...といったこともなく、しっかりとした足取りで立ち上がった。これなら大丈夫そうだ。


「よし、おーい!バルド、待たせたな」

「おう。じゃあ、さっそく出発...」


 出発しよう。そう言いかけたバルドが完全に停止した。その目は驚愕で見開かれている。その視線の先には...


「キ、キルシェファード様!?何故ここに!?」

「....見つかってしまいましたか」


 バルドの視線の先には少しバツの悪そうな顔をしたキール少年がいたのであった。







「あー...つまり...どういうことだ?」

「私に聞くな。わかるわけがないだろう」


 これは困った。状況がまったくわからない。とりあえず隣にいるレイナに尋ねはしてみたものの、彼女も知るわけがなかった。そんな彼らの視線の先では、バルドに問い詰められているキール少年の姿があった。


「キルシェファード様!なぜこのようなところにおられるのですか!」

「それは...昇格試験を受けたからです」

「...もしや、今回の冒険者のDランク昇格試験のことをおっしゃられているのですか?」

「そうです」


 それを聞いたバルドは頭を抱えてしまった。そしてうつむきながら「いや...これは...」「あのときはいなかったはず...」「ペンドールさんに報告しなければ...」とぶつぶつ呟いている。


 なにやら大変な事態が起こっているようだが、ワロウたちにはまったく事情がわからない。とりあえず、聞いてみてもいいのだろうか。


「...で、そろそろオレ達も話に混ぜてもらってもいいか?」

「あ、ああ...すまない。だが、これはあまり話せないんだ...」


 バルドはやや口を濁しながら、キール少年の方を伺う様子を見せる。どうやら彼に関することは迂闊にはしゃべってはいけないようだ。


 しかし、視線を向けられたキール少年は静かに首を横へと振った。


「いえ。ここまで巻き込んでおいて、説明もなし...と言うのは流石に理不尽が過ぎるでしょう。私からお話します」

「し、しかし...」

「大丈夫です。何かあったら私が責任をとります」


 言いよどむバルドに対して、”責任は自分がとる”ときっぱりキール少年は言い切った。その姿には今まで感じなかった威厳のようなものを感じる。


 正直、今まで一緒に試験を受けてきたキール少年と同一人物とは思えない。だが、これが彼の本性...ということなのだろうか。


(いや...そういうわけでもないだろう)


 今まで彼と接してきて、そのような裏表を使い分けるような人間ではないことをワロウは感じ取っていた。つまり、今までの彼も、そして今の彼もキールという人間の本当の姿なのだろう。


「...少し長い話になります。ここから移動しながら話しましょう」

「そうだな。もう日が暮れそうだ。さっさと行こう」


 辺りの風景はややオレンジ色がかってきている。もうそろそろ夕方になろうとしているところなのだ。もう後2,3時間でこのあたりは完全に闇に包まれてしまうだろう。その前には町についておきたかった。


「レイナ。行けるか?」

「ああ。おかげさまでな」


 そういうとレイナはしっかりとした足取りで歩きだした。大分体力の方は回復できたようだ。


「まだ、本調子とは言えんが...まあ、町に戻るくらいなら大丈夫だろう」

「そりゃよかったぜ。流石に担いで運んでいくわけにもいかねえしな」

「む...それは遠回しに私が重いと言っているのか?」

「言ってねえよ!」


 ワロウとレイナが他愛のない話をし始める。色々と裏事情はありそうだったが、とりあえず応援にCランク冒険者が駆けつけてくれたので、少し、気が緩んでいるのだ。今まで極度の緊張の連続だったことを思えば仕方ないのかもしれない。


 その一方で、バルドが思い出したかのようにキール少年に尋ねていた。


「そういえば...キルシェファード様。首飾りはどうされたのです?」

「...あれは、目立ちますから。かばんの中にしまってあります」


(...!そうか。オレが持った既視感はそれだったんだな)


 実はこの赤い首飾りのことをワロウは知っていた。バルドに試験の内容を説明した時だ。キール少年についての感想を述べているときに、バルドが聞いてきたのだ。”その子は赤い首飾りをつけていなかったか”...と。


 だが、キール少年はその目立つ赤い首飾りをかばんの中にしまって隠していた。おそらく自分の正体がばれないように...ということだろう。


 そう。ポーション探し求めてキール少年のかばんを漁ったときに赤い首飾りがあったのだ。その時にワロウは強い既視感に襲われた。この首飾りのことを聞いたことがある...と。

今から思えば、それはバルドから聞いた話だったのだ。


 一つ疑問が解決して、ワロウは一人でふむふむと頷いた。その様子を見たレイナが不思議そうな表情でこちらを見てくる。


「...どうしたんだワロウ?急に頷きだして」

「あ...いや。ちょっとな。ちょっと疑問に思ってたことが解決したんだ」

「ふむ...そうか。まあいいだろう。今はそれよりも...」


 レイナはキール少年の方を見つめる。説明をしろということだろう。キール少年はそれに頷くと、歩きながら話を始めた。




「それでは...改めて自己紹介をさせていただきましょう。私は...」


 キール少年は改めて自己紹介をするという。その内容はある程度予想できた。


「私の名は...キルシェファード・バングニル。バンニグル伯爵家の三男です」

「ふーん...伯爵家...」

「な、なに?伯爵家...だと?」


 伯爵家といえば貴族の中でもちょうど中くらいに位置する位だ。ただ、伯爵家よりも上の侯爵家や公爵家はかなり少なく、全体の人数から見ると伯爵という地位はかなり上の方であると言える。


 ワロウは伯爵家と聞いても全くピンとこなかった。伯爵家だ侯爵家だと言われても、ワロウのような一般市民からしてみればどちらも雲の上の存在であって、実際にはどれほど偉いのかまったくわかっていなかったのである。


 その一方で、レイナはかなり動揺していた。彼女は高ランク冒険者なので、それなりに貴族と関わる機会も多かったのだ。だから、伯爵家がどれほど偉いものなのかもきちんとわかっていた。だからこその反応である。


「伯爵家と言っても、バンニグル家はそこまで大きな家ではありません。かしこまらなくても結構ですよ」

「う...まあ、そうおっしゃるのならば...」


 気を使わなくてもいいというキール少年の言葉にレイナはしぶしぶといった様子で頷いた。だが、口調は明らかに丁寧になっている。


(伯爵ってそんなに偉いのか...)


 レイナの様子を見て、ようやくワロウも目の前にいる少年がどれほど偉いのかがぼんやりとではあるがわかってきた。


 が、かしこまらなくてもいいと言われた以上、ワロウは遠慮するつもりはなかった。きっと彼もそういう態度で接してくれることを望んでいると思ったからだ。


 ワロウとキール少年のつきあいは短い間ではあったが、それなりに彼の人柄はわかっているつもりだった。

 

「...それで?なんでその伯爵様が昇格試験なんて受けに来たんだ?」

「お、おい...ワロウ...」


 レイナが思わずといった様子でワロウの発言を止めてくる。確かに貴族相手の言葉づかいではない。


 だが、それを聞いていたキール少年は薄く笑みを浮かべるだけで、特にそれを咎めようとはしなかった。


「先ほども言いましたが、かしこまる必要はありません。敬語も不要です。公の場ならともかく、ここには私とバルドしかいません。誰も見ていないのと一緒です」

「誰も見ていない...というのは言い過ぎですが...まあ、いいでしょう」


 お目付け役のバルドも、言葉遣いくらいなら気にしないと言ってくれた。よほどの不敬行為をしなければいいということだろう。


「それでは...お話しましょうか。まず、なぜ私が昇格試験を受けに来たか...」

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