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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第五十五話 不死身の化け物

 駆け付けてきたキール少年はワロウの方へ向かって叫ぶ。


「ワロウさん!レイナさんは!」

「大丈夫だ!だが、ケガが酷くて動けねえ!」

「そ、そんな...」


 レイナのケガが酷いと聞いて、キール少年は悲痛そうに顔をゆがめた。ただ、それは一瞬だけだった。


「わかりました!ワロウさん、こいつの注意をひきつけていただけませんか!」

「あ?ああ...まあできなくはないが...」

「その間に僕がポーションでレイナさんを治します!」


(...そうか!キールの奴、ケガ用のポーションもちゃんと持ってるんだな!)


 キール少年は複数のポーションを持ち歩いていたようだ。魔力用のポーションだけでなく、ケガ用のポーションもきちんと用意してくれていたのだ。


 最初は、キール少年に化け物の注意を引いてもらっている間にワロウの”回復術”で回復しようと考えていたのだが、ポーションで治せるのならばその方がいい。


 確かにワロウの回復術は何度もワロウの危機を救ってきてくれてはいる。だが、それはあくまでも”自分”に対してのみだ。もちろん他人に使ったことなど一度もないし、効果があるという保証も全くない。


 それに、キール少年にこの化け物の足止めを任せるのも少々酷だ。多少なりとも打ち合えるワロウが足止めしたほうが安全なはずだ。


(...やるしかねえか!)

 

 ガンガンガン!


 ワロウは早速化け物の注意を引くために、わざとらしく剣と盾を打ち鳴らした。化け物の目がぎょろりとワロウの方をにらむ。


 その迫力に思わず気おされるワロウであったが、ここは踏ん張りどころである。歯を食いしばって、真っ向からその視線を受け止める。


 その行為を挑発ととらえたのかはわからないが、化け物はワロウ目掛けてまっすぐに襲い掛かってきた。その隙にキール少年がレイナの元へと走り寄る。


(...任せたぜ!キール!)


 化け物の大きな横降りの腕の一撃がワロウを襲う。そして、ワロウはそれを盾で受け流そうとする。体がするりと動いて相手の攻撃に合わせて盾の角度を調整する。


 今まではこんな器用な真似は出来なかったのだが、先ほどのレッドウルフとの戦いの中で腕輪から得たこの盾術のおかげで出来るようになった。


(よし...これなら...)


 これなら防ぎきれる。そう判断したワロウに化け物の腕が叩きつけられる。次の瞬間、その力を受け流しきることができず、ワロウは盾ごと吹っ飛ばされた。


 思っていたよりかはるかに威力が高い。そのままふっ飛ばされたワロウは地面を転がった。


(な、なんつー威力だ...!)


 その巨体に見合うだけの攻撃力は持ち合わせているらしい。さらに化け物はワロウのことを叩き潰さんと追撃を仕掛けてくる。


 ワロウは慌てて地面から跳ね上がると、ギリギリのところで追撃をかわし切った。元々いたところを見てみると、その化け物の攻撃を受けたその部分は若干へこんでいた。


 間違いなく喰らっていたらそれで終わりだっただろう。その攻撃を躱せたことにやや安堵しつつワロウはレイナの方をちらりと見やった。


 そこには地面から立ち上がろうとするレイナの姿があった。キール少年が既にポーションを振りかけた後のようで、あれだけ満身創痍のボロボロだった彼女のケガはほぼ回復しきったようだった。


(よし、これなら...)


 レイナさえ回復してしまえばこちらのものだ。後はこの満身創痍の化け物を協力しながら倒せばいいだけである。確かに攻撃は速いし厄介だが、レイナが万全の状態ならば十分に相手できるレベルだろう。


 そんなことを考えていたワロウだったが、ふと気づくと、目の前の化け物がこちらに向けて手のひらを向けてきたところだった。


(ん...?なんのつもりだ...?)


 化け物の行動の意図がわからず、戸惑うワロウ。その時だった。


「危ない!避けろッ!」


 レイナが必死の形相でこちらに向けて叫んできた。避けろとはいったいどういうことだろうか。だが、ワロウはこういった非常事態に慣れていた。


 レイナの言葉の意味を考えるよりも先に足がその場を離脱しようと動き出す。そして、その場から逃れつつもワロウの視線は化け物に固定されたままだった。


 そして、ワロウの目線の先では化け物が向けてきた手のひらの中に火の玉のようなものができ始めていた。


(な...あれは...!)


 それは良く見覚えのあるものだった。シェリーの炎玉とそっくりだったのである。つまり、今目の前で見ているこの火の玉も同じものかもしれない。


 シェリーの放つ炎玉の威力は強烈で、並の魔物であればそのまま部位ごと消し飛んでしまうような威力だった。


 もし...目の前の化け物が放ってくるこの火の玉も同じような威力があるとするならば...



(マズい...!)


 一瞬でワロウの頭の中を様々な思考が駆け巡る。だが、化け物の攻撃はもうすでに放たれる直前だ。


 次の瞬間、膨れ上がった火の玉がワロウ目掛けて飛ばされた。レイナの警告によって少しだけ回避行動をとっていたワロウは直撃は何とか免れた。


 ただ、その火の玉はすぐに地面に着弾し、その時に生じた爆発は流石に避けられなかった。範囲が広く、少し移動したくらいでは意味がなかったのである。


「がッ...!」

「ワロウさん!」

「ワロウ!」


 爆発によって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたワロウ。それを見て思わず悲鳴のような声をあげるレイナとキール少年。


 だが、地面に叩きつけられたはずのワロウは意外にもすぐに起き上がってきた。


「...大丈夫だ!問題ねえ!」

「えッ?あれだけふっ飛ばされてたのに...」


 キール少年から見て、ワロウはかなり派手にふっ飛ばされていた。当然、かなりの衝撃がワロウに加わったはずだ。その衝撃をどうやって防ぎ切ったのだろうか。


(今...確かに吹っ飛ばされたはずだ...しかも地面に叩きつけられた。普通だったら息もできない...)


 ワロウ自身も、なぜあの衝撃から自分が大したダメージを受けていないのかよくわからなかった。間違いなく、喰らったら大けがを負うような威力だったはずだ。


 普通ならあり得ない。ただ、ワロウには一つだけ心当たりがあった。そう。あの時ワロウの魔力を吸い取りながらもうんともすんとも言わなかった”あれ”だ。


(もしかして...この鎧、相手の攻撃を弱める効果があるのか...?)


 本当ならもっと考察をしたいところだが、今は生きるか死ぬかの戦闘中だ。考えるのは後にしなければならない。


 ワロウに追撃を仕掛けようとしていた化け物は、すぐに起き上がってきたワロウを見て、少し戸惑ったような表情を見せた。


 あの火の玉を喰らってほぼ無傷だったのが驚きだったのだろう。化け物の角度からでは直撃したように見えたのかもしれない。


 その隙にケガから回復したレイナが凄まじい速度で切りかかった。


「ハァァァアア!」


ぐぉぉぉん!!


 レイナの一撃は化け物の腕を深々と切り裂いた。先ほどのワロウの一撃、そして今のレイナの一撃。どちらもかなりのダメージを化け物に与えていた。


 化け物の動きは鈍く、あちこちから血を流している。それに、腕と足に大けがを負っており、攻撃も回避もままならないだろう。


(勝てる...!)


 ワロウはそう思った。こちらはワロウもレイナもキール少年もほぼ万全の状態だ。確かに相手は魔法も使う強敵だが、流石にこの状態からはひっくり返せまい。...そのはずだった。


 だが、その化け物の目はまだ、光を失っていなかった。





 化け物はワロウたちからいったん距離をとるように後退した。そして、自分の体を腕で包み込むようにして丸くなった。


「な、なんだ...?」


 何かの魔法攻撃の予兆かもしれない。迂闊に突っ込むわけにはいかなかった。そのまま化け物を警戒しながら見ていると、化け物の体から淡い青色の光が漏れ出始めた。


(あれは...)


 ワロウはその光に見覚えがあった。その光は何度もワロウの危機を救って来てくれたのだ。そう...それは、回復術のときに生じる光と酷似していたのだ。


「マズい!奴を攻撃しろ!」

「えっ!ど、どういう...」


 攻撃しろとワロウが叫ぶも、レイナもキール少年もいきなりのことで反応しきれなかった。ワロウはなんとか怪物の行動を阻止しようと一人で切りかかった。

 

 だが、それは一足遅かったようだ。切りかかってくるワロウに対して、化け物は大きく腕を横に振るった。


 ワロウは盾を構えて少しふっ飛ばされつつもその攻撃を防ぎ切った。だが、そこにはすでに回復しきった状態の化け物がいた。


「クソッ!回復された!」

「な、なんだと!」


 レイナが驚いたような声をあげる。魔物が回復術を使うなど、普通だったら考えられないからだ。


 そもそも回復術は誰しもが使える技ではない。僧侶で、しかもその中から更に限られた人物しか使うことのできない神の御業とされている。


 その回復術を目の前の化け物は使ったのだ。そしてケガ一つない状態でワロウたちの前に再度立ちはだかるのであった。

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