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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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十三話 老婆心

「...仕方ねえ。ついて来いよ。採取の仕方を教えてやる。それでどうにかなるだろ」


 結局ワロウは3人の手助けをすることにした。先ほど疑ってしまったという負い目もあったし、心情的にもまだ若く駆け出しの彼らが困っているのを見て、年長者としては放っておけなかったというのもある。


 その言葉を聞いてダッドとシェリーが顔を明るくする。彼らもこの町に来たばかりで助けてくれる知り合いもおらず困っていたのだろう。採取ができるようになればディントンの町でも色々と依頼を受けられるようになる。


「えっ!いいんすか!?」

「さっき疑っちまったわびだ。このまま無理して討伐にでも行かれたら困るしな」

「助かるっす!本当に飢え死にするかもって思ってたっす!」

「えーっ、オレは討伐依頼のほうが...」


 ハルトはあまり乗り気ではないようで反対の声を上げかけた。が、ほかの二人に睨まれて言葉を途中で止めた。3人組の中では彼がリーダーのような雰囲気を感じていたが、そこまで発言権があるわけではなさそうだ。現に今は他の二人に睨まれて小さくなっている。


「よし、いいな。じゃあオレについて来い。はぐれても助けには行かねえからな」

「了解っす!」

「は、はい。お願いします」

「...仕方ないな」


 不承不承といった様子のハルトだったが、他の二人を押し切ってまで止めようという気はないらしい。ワロウが歩き出すと後ろを素直についてきた。


 先ほど話していた場所は森の中といっても道らしきものがあった場所であったが、ワロウはどんどんその道から外れて獣道しかないような森の中を進んでゆく。後ろの3人はあまり森の中に入る経験がなかったのだろうか、物珍しそうにキョロキョロしながら後をついていった。


 しばらく代り映えのしない風景が続き、3人も森にある程度慣れたところで辺りに独特なにおいが漂ってきた。そして、ハルトが真っ先にその匂いに気づいた。


「なんか...変なにおいがしないか?」

「確かに...言われてみるとちょっと独特な香りがしますね」

「うん?ホントっすか?特になにも感じないっすけど...」

「気づいたか?これが今から採取する”におい草”の匂いだ」

「えっ...これが?」

「なんでわざわざこんな変なにおいのやつを採取するんだよ。他の奴はないのか?」

「馬鹿野郎。におい草が一番採取が楽なんだよ。なんでかっつーと...」


 におい草は独特のにおいがするため、ほかの草と間違えにくいという利点がある。他の薬草はほとんど雑草と見分けがつかないものも多いのだ。

 なので、せっかく苦労して大量に採取したのにも関わらず、ギルドに持っていったらほとんどただの雑草でした...なんて笑い話もちらほらと聞く。


 また、におい草にはほかのメリットもある。比較的森の浅いところでもよく生えているのだ。なので、ほかの薬草よりも安全に採取することができる。ワロウもソロで活動しているため、安全で取りやすいにおい草をよく採取して加工することで生活の足しにしていた。


「な、なるほど。おっさん、結構物知りなんだな」

「伊達に歳食ってるわけじゃねえってことだ。多分ディントンじゃオレが一番詳しいぜ。...おっとここらへんか」


 そんな話をしているうちににおい草の群生地にたどり着いたようだ。辺りにはにおい草の独特なにおいが充満しており、見渡すといくつものにおい草が群生していた。そのうちの一つに近づくとワロウは採取の仕方を説明し始めた。


「いいか。これがにおい草だ。まだお前らじゃ見た目でわからんかもしれんが、さっきも言ったように匂いで判別しろ」


 ワロウがにおい草を指し示すが、3人にはその他の雑草と見分けがつかなかったようでぽかんとした顔をしている。

 におい草はにおいですぐに区別できるが、その見た目は確かに他の草と大差はない。


「確かに見た目じゃよくわかりませんね...」

「慣れればわかるようになる。いいか?採取するときは気をつけることがある。まずは...」


 ワロウは3人に採取するときは根っこごと傷つけないように採取すること、葉が変色しているものは取らないことを伝えた。

 根っこが傷つけてしまうと薬効が抜けてしまいやすくなり、薬にした時の効能が落ちやすくなってしまうのだ。また、葉が変色しているものは病気にかかっておりこちらも薬効がおちてしまう。

 それどころか病気の種類によっては人にも悪影響を及ぼす可能性があるため採取してもギルドは買い取ってくれない。


「おっと、あともう一つ忘れてたぜ。花が咲いてる奴は取るなよ。」

「花が咲くと薬効がなくなってしまうのですか?」

「いや、花が咲いてるやつまで取っちまうと、新しく生えてこなくなくなるだろ?だから花が咲いてる奴は取らない。花自体が薬効を持ってるものは別だけどな。におい草だけじゃなくて他の薬草もそうだからよく覚えとけ」


 花が咲いている薬草は取らないというのは冒険者の常識である。何か事実的な根拠はがあるわけではないが、花が咲いている薬草まで採取してしまうと、その薬草が生えなくなってしまうというのは経験的に知られていた。


 なので、花が咲いている薬草を持っていくとギルドに怒られるのである。ディントンの町では最初の登録時に注意事項として伝えられるため怒られる冒険者は少ないが、たまによそから来たあまり採取について詳しくない冒険者がたまにやらかすこともある。


 もちろん花自体が薬効を持っている場合は仕方がないのでそのまま採取するが、基本的にはすべて採取はせずに少し残しておくというのが暗黙の了解になっている。


 もっともこちらの方は確認するすべはないのでマナーが悪い冒険者は無視してすべて採取してしまうこともあるのだが。ワロウもノーマンのためにキール花を採取した時は必要最低限の採取で済ませている。


 3人はワロウの言葉を聞いた後興味津々な様子で、辺りをキョロキョロし始めた。早速取ってみたいのだろう。

 ワロウはそれを見て、習うより慣れろだということもあり早速採取させてみることにした。


「よし、こんなもんか...じゃあ後は自由行動だ。ただ、少なくともオレが見える範囲で動けよ。はぐれたら帰ってこれないと思え」

「お、脅さないでくださいっすよ...わかったっす。あまり遠くにはいかないようにするっす」


 ワロウの脅しが効いたのか、3人はお互いが見えることを確認しつつ採取を始めた。しばらく3人が採取する様子を眺めていたが、特に問題なさそうだったのでワロウも自分の分の採取を始めた。


(お、ここにも生えているな...これだけあればアイツらも十分採取できるだろう...)


 ここは人の行き交う道から外れた場所にあるため、あまり採取に来る冒険者はいない。なので、他の採取場所よりも多くにおい草が生えていることが多いのだ。


 しばらく採取をしていた4人だが、ワロウが辺りが暗くなってきたことに気づいた。自分の採取袋を見るとそれなりの量が採取できていたので、今日はこれくらいで採取を終えることにした。

 ワロウは帰り支度を始めていたが、3人はその様子に気づかず夢中になって採取を続けているので声をかけた。


「おい、そろそろ戻るぞ」

「えっ!もうそんなに集まったんですか?」

「めちゃめちゃ取るの早いっすね」


 3人の持っていた袋を見ると、全員合計してようやくワロウと同じくらいの採取量のようだ。これは、ワロウの方が圧倒的に慣れているということもあるが彼らが採取道具を持っていなかったことも大きい。


「慣れてるってのもあるが...お前らどうせ採取用の道具も持ってないんだろ?」

「なんだ。道具あるなら貸してくれよ」

「貸したらオレが使えねえだろうが。採取道具ぐらい町でいくらでも売ってるから買っておけよ....ほら、もう戻るから準備しろ」


 ワロウがそう急かすと、ダッドが名残惜しそうに辺りの茂みを見渡す。辺りにはまだにおい草が大量に生えている。だが、ここで欲をかくとろくなことにはならないことをワロウは知っていた。


「もうちょっと取っていきたいんすけどねー...」

「ダメだ。夜になると森狼が出てくる。もう暗くなりかけてるだろ?」

「う...ホントだ。迷宮だったら昼だろうが夜だろうが関係なかったんすけどね...」


 ダッドが首を振りながら、帰る準備を始めると残りの二人もそれに従って準備し始めた。

 駆け出し3人組の初めての採取はこうして無事に終了したのである。

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