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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第四十六話 ウシクの回想Ⅱ

 パーティ分けが発表された後、集まったBチームの面々は皆お互いの表情を伺っていた。初めて会う面子だし、話しづらいのもわからないでもない。だけど、このままだといつまでたっても話が進まないので、仕方なく俺が口火を切ることにした。


「あー...とりあえず、自己紹介でいいか?」


 俺がそう周囲に尋ねると、意外なことに真っ先に反応してくれたのはそのおっさんだった。


「いいんじゃねえか?なあ」


 おっさんが賛成してくれたおかげかどうかはわからないけど、とりあえずスムーズに自己紹介を始めることができた。


 自己紹介は俺を始めとして時計回りに進んでいった。まずはソールもアンジェの二人の話を聞いてたけど、見た目通りの装備と武器で、まあなんというか普通といった感じの冒険者だ。


 でも、少なくとも一次試験を突破できるだけの実力はある。依頼のときには頼りになるだろう。


 問題は残りの二人だ。まず、初めは子供の方...俺よりも一回りは年下であろう少年の自己紹介だった。武器は細剣みたいで、言っちゃ悪いがそこまで強そうには見えなかった。線も細いしな。


「ええと...僕はキールって言います。武器はこの細剣を使います。後...ちょっとだけ魔法を使えます」

「ま、魔法?」


 しまった。びっくりして思わずうろたえた声、出しちまった。


 ”魔法”..普通は冒険者で使えるような人間はほとんどいない。特に攻撃で使えるくらいの魔法を使えるのは本当にごく一部の人間だけだろう。俺も今までの冒険者人生の中で一度も会ったことはない。


 魔法っていうのはそれくらい珍しいし、かなり強力な攻撃手段でもある。矢と違って嵩張る荷物を持っていく必要もないし、魔法によるが殺傷能力だって高い。


 そんな強力な魔法をこの目の前の少年は使えるという。...思わず声が出るのも仕方ないだろ?


「あ、いや!使えると言っても初歩的な奴だけですから!皆さんが想像してるようなすごい奴ではないです...」


 キールは慌てたように手を振って否定してたけど、それでもすごいものはすごい。俺が驚いていると、おっさんがキールに対して色々質問し始めた。


「...ちなみにどんな魔法が使えるんだ?」

「ええと...水属性の魔法が使えます。まともに使えるのは水球くらいです」

「威力と射程は?」

「そこまで威力はないですね。当たっても強めに殴ったくらいの威力しかないです。射程は...大体この部屋の端から端くらいまで...かな」


(なんか...やけに魔法に詳しそうだな...)


 おっさんがすぐに射程とか威力を聞いているのを見てそう感じた。普通、魔法なんて触れる機会もないし名前だけ知ってる奴がほとんどだと思うんだけどな。...俺もだけど。


 それにしても、まさかこんな子供が魔法を使えるなんて正直驚いたぜ。一次試験を突破できたのも頷ける。


「いや...驚いたな。水を飛ばして遠距離攻撃するのか。大したもんだ」

「そうね。アタシも初めてだわ。なりはちっこいけどやるのね」

「い、いやあ...そんな...」


 俺たちが感心していたんだけど、おっさんとソールはあまり驚いていない様子だった。ソールはどちらかというとあまり興味がないといった感じだったけど、おっさんはどうなんだろう?


「それで?他の魔法は?」

「あ、いや...その...使えなくはないんですけど、師匠から使うなって...」

「ふーん...どんな魔法なんだ?」

「氷の魔法です。時間がかかるうえに、まだ制御が甘くって...動く相手にはまず当てられないんです。威力はかなりあるんですけどね」


 今の会話を聞いてると、やっぱり魔法に慣れている...そんな感じがするけど...どうなんだろうか。気になったので、直接聞いてみることにした。


「ソールと...おっさんはあんまり驚いてないみたいだな?」

「ワロウだ。ついこの間まで魔法使いとパーティを組んでたんでな。そのせいだ」

「魔法使いと?ふーん...そうなのか...」


 正直、意外だった。魔法も使えるような冒険者ならそれなりに高いランクにいるはずだ。その魔法使いとおっさんはパーティを組んでたという。


 だったらなんでそこを抜け出してまでこんな田舎町に来たんだろう?そのままその魔法使いと一緒にパーティを組んでれば仕事には困らなかっただろうに。


 もしかしたら実力が違いすぎるってことでパーティを追い出されたりしたんだろうか。幼馴染同士がパーティを組んでいたけど、実力差が大きくなりすぎてパーティが解散するなんて言う話もたまに聞く。


 ワロウもそういった事情を持っている一人なのかもしれない。とはいえ、パーティから追い出されたなんてことを考えると気になることも出てくる。


「剣士...ね。ちなみに失礼なのを承知で聞くんだけどよ...」


 正直、これを聞くのはかなり気が引ける。でも、これをはっきりさせておかないと俺たち自身が戦闘のときに危険な可能性だってある。できる限り不安要素は排除しておくべきだ。


「あんた、どれくらい戦えるんだ?正直なところを知っておきたい。一緒に戦うことになるんだしな」


 一応ぼやかして聞いてはいるが、かなり失礼な質問だ。なにせ”お前、弱いんじゃないのか”って真っ向から聞いてるのとそんなに変わらないからな。


 俺としてはかなり勇気を出して聞いたんだが、ワロウは全く怒る気配もなく、飄々とその質問に対して答えた。


「まあ、一次試験は突破できたんでな。足は引っ張らないと思うぜ」

「ああ...そうか。一次試験を突破してるんだもんな。それなりの戦闘力はある...か。悪い、変なこと聞いちまって」


 ...まあ、当然だよな。周囲よりも明らかに劣る奴が一次試験を突破できるとは思えない。それは最初からわかっていた。余計なこと、聞いちまったか。


「構わねえよ。同じ状況だったらオレだってお前と同じように疑うさ」


 反省していた俺に対して、ワロウは構わないと言ってくれた。...自分の実力を疑われたら誰だって不快に思うだろうに...なかなか度量が広いな。



 

 ...これでお互いの自己紹介と、気になるところを聞くことができた。次はパーティを組むときに必ず必要となる”リーダー”を決める必要がある。


 魔物の討伐は個々人が好き勝手に行動してどうにかなるようなものじゃない。指示する人間は必ず必要になる。 


「さて...じゃあ、次は誰がリーダーになるかを決めようか」


 俺がその言葉を口にした瞬間、自然とその場の全員の視線がワロウの方に向いた。まあ、リーダーと言ったら一番年長がやることが多いからな。


 悪い人間じゃなさそうだし、実力も最低限はあるとわかっている。ただ、彼に指揮ができる能力があるかどうかはまた別の問題だ。


 俺としては別にワロウがリーダーをやると言っても反論する気はなかった。だけど、心のどこかで今までリーダーをやってきた俺がやった方がいいんじゃないか...そんな思いもあった。


「注目してもらってるところ悪いが、オレはリーダーって柄じゃねえ。他の奴がやった方がいいと思うぜ」


 そんなことを考えていたら、ワロウが自分でリーダーになることを拒否してきた。


「え?ワロウさん、リーダーやらないんですか?」

「オレぁ基本的にソロで行動してたからな。指揮なんてまともにできねえよ」

「じゃあ誰が...」


 誰が...というキールの言葉とともにワロウの視線が俺たちの方に向けられた。誰がリーダーがいいだろうか。


 まず、キールにはリーダーは少々荷が重いだろう。アンジェはあまりリーダーには向いてなさそうだし、ソールもできなくはないだろうが、本人から積極的にはやりたがらなさそうだ。


 となると...俺が考えをめぐらせていると、ワロウが俺の方を見て軽い感じで言い放った。


「ウシク。お前でいいんじゃねえか?」

「俺か?」

「ああ。この試験、お前が一番やる気がありそうだからな」


 確かに、今回の試験は俺のパーティメンバーが落ちてしまった以上、俺だけでも絶対に受かってやらなきゃいけないと思っていた。

 

 そんな思いが表面にでていたのかもしれない。元々、パーティでリーダーをやっていることもあって、このメンバーの中では経験も多いはずだ。それに、俺だったらきっとうまくやれる。そんな根拠のない自信もあった。

 

「...わかった。では、俺がリーダーをしよう」


 そして、この試験では俺がリーダーをやることになったんだ。その後はちょっといざこざもあったりしたけど、俺たちはレッドウルフ討伐へと無事に出発することができた。


 ...その時はまさかあんなことになるとは思ってもみなかったのさ。

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