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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第四十四話 禁じられた研究

 魔物の研究。それは現在世界中で禁じられている研究だ。


 昔、魔物を使って世界を征服しようとしたイーガル王国という国があった。その国は魔物を自由に操る技術を生み出して、魔物をを兵士として扱い、その圧倒的な戦闘力を背景に周囲の国をどんどん飲み込んでいった。


 もはや、その国に単独で対抗するのは不可能だった。そして、その侵攻から逃れた国々は一つの同盟を結び、その国に対抗した。


 最初のうちは、その同盟はうまく働いていた。いかにイーガル王国といえど、一つの国で多数の国を相手取るのは厳しかったのだ。


 だが、その抵抗も徐々に弱まっていった。それほど魔物の兵士が強かったというのもあるが、真の恐ろしさは相手は損耗を考えなくてもいいということだった。


 魔物の兵士はどんなに不利な状況になっても逃げ出すことはないし、最後の一兵まで死力をふり絞って戦ってきた。相手の兵士がすべて死兵のようなものだ。魔物の兵士ならばいくらでも死んでも構わない。そういった王国の考えが透けて見えた。


 その損耗を無視した戦い方は、次第に同盟の心を蝕んでいった。何せ相手が攻めてきたら全滅させるか全滅させられるかの戦いが始まってしまうのだ。


 しかも、魔物の兵士には兵站という概念が無かった。...相手の兵士を餌にしていたから。同盟の兵士を喰らいながら、突撃を繰り返す王国の魔物達に、同盟の兵士たちの心は折れかけていた。


 兵站が必要なく、損耗を気にしないその王国ならではの侵攻は、同盟が考えているよりもはるかに早く、そして圧倒的に進んでいった。同盟の国々は一つずつ一つずつ切り取られるようにして壊滅していった。

 


 誰の目にも明らかだった。イーガル王国には勝てないということが。だが、ある日...戦況は一変した。


 あれだけ雲霞の如く攻め寄せてきていた魔物の群れが一気に自壊し始めたのだ。自分の軍の魔物同士で争い、そしてそれを止めようとしていた王国兵をあろうことか喰い始めた。


 まさにこの世の地獄を思わせるような光景だったと、その戦争に参加した兵士たちは口々に話している。


 原因は魔物の操るために装置の故障だった。本来であれば、じっくりと準備をしてから作っていかなければならなかったその装置は、あまりに急激な拡大戦略の弊害で、ろくにチェックもされず製造されていた。


 そして、ある日。その装置が暴走して、イーガル王国軍は自分たちが連れて行った魔物と戦う羽目になってしまったのである。


 当然、魔物を生み出して兵士として出荷していたイーガル王国の首都も例外ではなかった。今まで首都にたくわえられていた魔物兵が一気に暴れだしたのである。


 イーガル王国はその拡大する戦線に対応するために、首都内にはほとんど戦力が残っていなかった。その結果...王国は崩壊した。最初に装置が壊れてから一週間後のことだった。


 そして、イーガル王国の魔の手から逃れた同盟の国々は話し合った結果、この魔物に関する技術は禁忌だとし、一切の研究資料やデータなどは焼き払われ、焼失したとされている。


 それから、未来永劫魔物を兵士として扱うような研究は禁じられており、破ったものには例外なく永久追放という処分が下されることになる。


「このレッドウルフ...何かしらの研究によって生み出された...ということか...?」

「その可能性が高いだろうな。...あんまり関わりたくねえが」


 レイナが難しい顔をしながら、謎の板を睨みつけている。ワロウとしても、これはほぼ間違いなく違法な研究による成果物の一つだろうと考えていた。


 だが、ここまで規模が大きくなってくると、もはやワロウたちのような下級冒険者が関わっていい話ではなくなってくる。


 下手をすれば、この研究を行っていた口封じのために暗殺を仕掛けられても不思議ではないのだ。


 ワロウが心底嫌そうな顔をしていると、レイナが苦笑しながら、その謎の板をレッドウルフから慎重に取り外し始めた。


「まあ、見つけてしまった以上、ここで放置するというわけにもいくまい。ギルドへは私が報告するから君たちは知らぬ存ぜぬを通してくれればいい」

「...それでアンタがいいならな」


 ここでレイナが言ってくれるのであれば、ワロウたちは知らないふりができる。逆に言うとレイナが危険にさらされる可能性もあるが、Cランク冒険者ともなればそう簡単に殺すことはできない。


 それに、ギルドだって所属冒険者が殺されれば黙ってはいない。犯人探しに躍起になって、もっと高ランクの冒険者達を動員して犯人捜しを始めるだろう。組織だって馬鹿ではない。それくらいのことは考えて行動するだろう。


 ワロウがそんなことを考えていると、ウシクがその肩をばしっと叩いてきた。


「おい、難しい顔するなってワロウ。今はレッドウルフに勝ったことを喜ぼうぜ?」

「ああ...まあ、そうだな」

「なんだよ、その気の抜けた返事は。お前が今日一番活躍したんだ。もっとはしゃいでくれよ」


 ウシクのその発言にワロウは首をかしげる。


「一番活躍?オレが?なんの冗談だ」

「おいおい、そりゃこっちの台詞だぜ。なあ?」


 ウシクが後ろを向いて皆に確認すると、全員がそれに対して頷いた。


「だってそうだろ?今日の戦闘思い出してみろよ...」


Side ウシク


 はずれを引いちまった。この目の前の男と最初に会ったときはそう思った。


 俺はウシク。Eランクパーティのリーダーをやってる。昔からこのマルコムの町で冒険者をやっていて、今パーティを組んでいるのは子供の頃からの親友たちだ。

 

 俺たちはこの町で依頼をこなしながら、Eランク冒険者にまでなった。はっきり言ってあまり出来のいい方じゃなかった。Eランクになるまでも、ほかの連中よりも大分時間がかかったと思う。


 ここまで苦労した。だからこそ、Dランク冒険者の昇格試験を受ける権利を与えられたときはそれこそ死ぬほどうれしかった。あまりに嬉しすぎて、その日の夜は眠れなかったくらいだ。


 なにせDランクと言えば冒険者として一人前に見られるランクだ。これで俺たちも半人前から一人前になれる。今まで背中を追ってきた先輩たちにようやく追いつくことができるようになる。...すごいだろ?


 ただ、試験には条件があった。同じパーティのメンバーは二人までしか出れないとのことだ。なぜか聞いてみたら、ほかの冒険者とパーティを組んでもうまくやっていけるかどうか確かめるため、同じパーティメンバーの参加はできるだけ減らしているらしい。


 正直今のこいつら以外と組むことなんてないと思うけど、ギルドの言い分もわかる。それに依頼で他のパーティと組むことだってあるだろう。やって損はないと思うし、リーダーの俺は特にそういうのに慣れておいた方がいいだろう。


 というわけで、試験の日は俺と後もう一人だけで試験に向かった。


 それで試験の前に控室に集められたんだけど、そこはほとんど知らない冒険者ばっかりだった。どうやら他の町の冒険者達もまとめて試験するようだ。まあ、この町だけじゃ受験者は集まらないだろうしな。


 だが、その中に一人、周囲から浮いている受験者がいた。周りにいる冒険者たちはみんな十代から二十代前半くらいだったんだが、その男は明らかに”おっさん”だったからだ。

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