表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に名を馳せるまで  作者: niket
125/162

第四十二話 不可解な咆哮

「...危なかったな」


 そこにいたのは試験官のレイナだった。流石に今の状況では危ないと判断してレッドウルフに一撃加えてくれたらしい。


 それにしても流石はCランク冒険者。ワロウたち5人がかりで苦戦していたレッドウルフを一撃でぐらつかせたのだ。


 レッドウルフはその一撃がよほど効いたようで、すぐには動けなかった。その間にウシクやソール、ワロウもようやく咆哮のダメージから回復しきった。


「...助かったぜ。礼を言う」

「気にするな。元々危なくなったら助けると言っていただろう。それに...」

「それに?」

「介入は最小限しかしない。ほら、またお前たちだけで戦うんだ」


 一撃でレッドウルフをぐらつかせたレイナが参戦してくれるのであれば、もう終わったと言っても過言ではなかったのだが、さすがにそこまで試験は甘くないらしい。

 また、ワロウたちだけでレッドウルフの相手をしなければならないのだ。


「いや...しかし...」

「どうした?」


 その場から去ろうとしたレイナは、なにか気になることがあるかのようなことをポツリとつぶやいた。ワロウがそれに対して聞き返すと。レイナは釈然としない表情で答えた。


「...喉をああも傷つけられたならば、普通は咆哮は使えなくなるはずだ」

「何?どういうことだ?」

「咆哮は魔法の一種だが,発動するためには吠える必要がある.我々で言う呪文のようなものだ」


 レイナは出発する前に咆哮は魔法のようなものだと言っていた.それならばそもそも喉を傷つけても意味がないように思われるが、そういうわけではないようだ.

 

 あの咆哮を使うためには吠える必要がある。つまりワロウがその発声器官を傷つけた今、その咆哮が使えるのは何故なのだろうか。


「...理由はよくわからないが...気を付けて戦った方がいいかもしれん」

「んなこと言われてもなあ...」


 流石のレイナにも見当がつかないようだ。気をつけて戦えと言われても、そこまで言うなら手伝ってほしいというのがワロウの正直な感想だったのだが、試験ということでそれも難しいのだろう。


 なにより、冒険者であればこのような不測の事態であっても対応できなければ死ぬだけだ。そこに冒険者としての技量が生きてくる。


 ワロウとレイナが会話している間に、ウシクとソールも起き上がってきた。


「なんか...さっきよりかは楽だったな」

「ああ。一番最初に喰らった時はもっときつかったはずだ」

「そうなのか?」


 どうやら先ほどの咆哮は一番最初の咆哮に比べると、幾分かマシな威力だったらしい。最初の咆哮を喰らっていないワロウにとっては比較対象がないため何とも言えないのだが。


「しかし、いくら楽になったといってもあれを喰らいながら攻撃しに行くのは危険だ...」

「ちくしょー...なんでアイツ咆哮使えるんだよ...」


 ウシクがぼやくようにつぶやく。そうなのだ。レッドウルフの喉元はワロウによって切り裂かれておりとてもではないが吠えられるような状態ではない。


 なぜレッドウルフが再度あの攻撃を使えたのか。そして、気になることはもう一つある。


「...ワロウ。さっきは喰らっていたようだが...」


 ソールが油断なくレッドウルフの方を見据えながら、もう一つの気になる点について尋ねてきた。そう。最初、ワロウに効いていなかったはずの咆哮が二回目は効いてしまった。それはなぜか。


「悪い。逆に最初喰らわなかった理由がよくわかっていない」

「む...そうか」


 ワロウにもその理由はよくわからなかった。なぜ、最初の”一回”だけは防ぐことができたのだろうか。


(...ん?最初の”一回”だけ...)


 ワロウにはその言葉に聞き覚えがあった。


『...一定以上の魔法がくると自動的に防御魔法が発動して一回だけ身を守ってくれます』


(そうだ...シェリーからもらったお守り...)


そして、ワロウは先ほどのレイナの言葉も思い出していた。


(奴の咆哮は”魔法”か...!)


 パズルのピースがピタリとはまった。最初の咆哮による魔法攻撃はシェリーのお守りによって無効化されていたのだ。だが、その効果は一回のみ。放置しておけばワロウの魔力を吸い取って再度使えるようになるが、戦闘中の短い時間では当然無理だ。


 つまり、二回目の咆哮に関してはシェリーのお守りが発動せずに、そのままモロに喰らってしまったというわけだ。これでまずわかったことが一つある。


(次からの咆哮を防ぐのは無理だってことか...)

(このお守り、一回使っちまったらいつまた使えるのか...)


 次からの咆哮はまともに喰らう羽目になってしまう。そして先ほどの戦闘から、アンジェとキール少年の二人だけでレッドウルフを押しとどめるのは難しそうだった。つまり、前衛3人が咆哮で倒れると、ほぼそのまま負けてしまうということだ。

 

 それに、もう一つ気になることもある。


「さっきレイナから聞いたが、普通のレッドウルフだったらあそこまで喉を傷つけられれば咆哮は使えなくなるらしい」

「え!?どういうことだよ!?アイツ、今の状態でも普通に使ってきたじゃねえか!」

「理由はわからん。ただ、喉を傷つけたことで威力自体は下がったみたいだな」


 先ほどのウシクとソールの反応から咆哮の威力が弱まっていることは確かなようだ。だが、使えることに違いはない。威力が弱まっているとはいえ、行動不能になることは非常にまずい。


「クソッ...!どうなってんだよ...!」

「マズいな...このまま戦っていても、あの咆哮を自由に使われると動けなくなるぞ...」


 ソールの懸念はもっともである。あの咆哮を妨害できないとなると、迂闊に近づくわけには行かなくなってしまう。


 また先ほど同様に前衛3人全員で喰らってしまうと、先ほどの繰り返しで、またレイナに助けてもらわなければならない。


 レイナに助けてもらうこと自体は別にNGではないのだが、さすがに何回も同じようなことが続いてしまうと不合格になってしまうかもしれない。


 ワロウたちはレッドウルフと戦闘を続けつつも、必死にその対応を考える。だが、喉を傷つけても咆哮を使われてしまっている今、もはや相手を一撃で倒すくらいしか方法は思いつかない。


 だが、そんな一撃を持った仲間がいない。このパーティの中ではワロウが一番有効打を与えてはいるが、到底一撃で相手を倒せるレベルではないのだ。一体どうすればいいのか。考えている間にも戦闘はどんどん進んでいく。


 先ほどと同様にウシクとソールで足止めして、援護にアンジェとキール少年、そしてその隙にワロウが攻撃する。このフォーメーションでの攻撃は上手くいっているのだ。...今のところは。


 だが、そのフォーメーション自体も永遠に保てるわけではない。


「ごめん!そろそろ矢が無くなっちゃうわ!」

「僕も...そろそろ魔力が厳しいです」


 ついに遠距離攻撃組の限界が来たのだ。元々アンジェの持っていた矢の数には限りがあったし、キール少年の魔法だって魔力が永遠に続くわけでもない。


 このまま戦っていれば遠距離攻撃ができなくなってしまう。だが、それを解決するすべは見つからない。かといって今遠距離攻撃を温存して、このフォーメーションを崩してしまえば、どこからその影響が出てくるかわからない。


 遠距離攻撃なしでレッドウルフの相手をするのはウシクとソールの負担が大きすぎる。流石にそれで戦うのは厳しいだろう。


「クソ...どうすりゃいい...!」


 ウシクの表情に苦悶が走る。だが、悩んでいる間にも遠距離攻撃のリソースは減っていく。このままではまずい。


 その時だった。再度レッドウルフが咆哮の構えをとった。最悪の状況だ。ワロウは少し離れたところでレッドウルフの隙を伺っていたので、範囲から逃れようと思えば逃れられそうだ。


 だが、足止めのためにレッドウルフの周りで戦っているウシクとソールは別だ。このまま咆哮を喰らい倒れてしまうだろう。


 そうなってしまえば、アンジェとキール少年が遠距離攻撃ができない以上、ワロウ一人でレッドウルフを押さえなければならない。


 だが、最初の咆哮を喰らった時に遠距離攻撃がある状態ですらワロウ一人でレッドウルフを抑えるのは厳しかった。そして、その援護が期待できないとなると、ほぼ不可能と言っても過言ではない。


 もちろん、アンジェとキール少年も剣を持っているので近距離で戦えはするが、ウシクとソールの代わりをできるほどではない。むしろ中途半端な実力でレッドウルフに近づけば余計に危険が増す可能性だってある。


 一瞬でこれらの思考がワロウの頭の中を駆け巡る。八方ふさがりだ。全滅の文字が頭をよぎる。もちろん、そんな事態が起きる前にレイナが助けてくれるはずだが、慌てていたワロウの頭にはそのことがすっかり抜け落ちていた。


(マズい...!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ