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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第三十九話 洞穴での接敵

 洞穴の中を進んでいくワロウとアンジェ。この洞穴自体はそこまで深くはない。二人はすぐに洞穴の奥までたどり着いた。


「うわ...本当に真っ暗じゃない...こんなとこで矢射っても絶対当たらないわよ...」


 アンジェが小声でぼそぼそと不満を垂れ流す。まあ、矢もただではないのでそれが無駄になってしまうのを嫌がるのはわからないでもない。特に下級冒険者にとってはその出費が大きく感じるのだろう。


「しっ...!静かにしろ。...聞こえるか?」


 そんなアンジェに対して静かにするよう伝えるワロウ。ここまでくれば呼吸音が聞こえるはずだ。


 ワロウに言われて耳を澄ませるアンジェ。しばらく無言でじっと暗闇の奥の方へ耳を済ませていたが、アンジェにも呼吸音が聞こえたようだ。無言でワロウに顔を向けると頷いた。


「...いいか。呼吸音の方向はわかるだろう。そちらに向けて矢を放つんだ」

「そうね...もう少し離れましょうか。ここだと多分近すぎるわ」


 呼吸音が聞こえるということはそれだけ近いということである。確かにレッドウルフは大きいのでそれ相応に呼吸音も大きいだろうが、さすがに周囲に響き渡るほどの大きさではない。


 呼吸音からある程度距離をとり、アンジェが弓に矢をつがえる。


「...全然見えないわね。もう適当に打つからね!」

「おう。まあ最悪当たりゃいいんだ。気楽にやれよ」


 ワロウのその言葉にアンジェの緊張も少しほぐれたようだ。”外れたら矢が無駄になるんだけどね!”と文句を言いつつも奥の方に狙いを定める。


 矢を放つ。矢はまっすぐな軌道を描いて暗闇の中に消えていき、見えなくなった。そして矢が見えなくなった後。


....ギャウン!


 低く吠える音が聞こえてきた。間違いない。矢が当たったのだ。


「あ、当たったみたい!」

「そいつぁ幸運だ!さっさと引くぞ!」


 当たったならばあとはレッドウルフを外まで引っ張り出すのがワロウたちの役目である。ワロウとアンジェは急いで洞穴の入口へ向かって逃げ出した。


 逃げ出してすぐに後ろから大きな足音が追ってきているのが分かった。この薄暗い中で後ろから魔物に追われるのは中々の恐怖である。アンジェもその音に顔を引きつらせながら必死に走っている。


 ワロウとしてもこの状態はディントンの森で散々森狼に追われたのを思い出して、トラウマを刺激される。思わず震えそうになる足を叱咤しながらなんとか走り続ける。


 ワロウとアンジェは全力で走っていたのだが、足音が徐々に近づいてくるのがわかる。レッドウルフの方が足が速いのだ。


「ちょ、ちょっと!近づいてきてるわよ!」


 走っている最中に後ろを確認したアンジェが悲鳴を上げる。もうすぐ入口にたどり着くところでもう洞穴の中は明るくなり始めており、レッドウルフの姿を視認できるようになったのだ。


(チッ...マズいな。このままだと追いつかれるぞ...)


 このまま走っていても入口にたどり着く前に追いつかれてしまいそうだ。ここは何か一計を案じる必要がある。


「おい!オレが一回奴を足止めする!その隙に矢をうて!」

「え!?それでどうするのよ!」

「矢に怯んだすきに逃げる!このままじゃ逃げ切れねえだろうが!」

「わ、わかったわ!」


 アンジェが頷いた瞬間にワロウは足を止めて後ろを振り返った。そこにはすでにレッドウルフが目前まで迫っていた。かなりギリギリの判断だったようだ。


 目の前で足を止めたワロウに対して好機と判断したのか、レッドウルフは走ってきた勢いそのままに飛びかかってくる。


 かなりの巨体であるレッドウルフの体当たりをまともに喰らえば、無事では済まない。ワロウは持っていた小盾を使って何とか受け流そうと試みた。


「ぐあッ...!!」


 その試みは失敗に終わった。ワロウの盾を扱う技術は正直高くはない。その腕前で、突進してきた巨体を受け流すのは土台無理な話だったのだ。


 そのまま思いっきりふっ飛ばされて地面に叩きつけられるワロウ。だがその割には衝撃はあまりこなかった。何か弾力があるもので受け止められたような感じだ。


(何だ...?何かやわらかいもので受け止められたような...)


 ワロウが派手に吹っ飛ばされたのにもかかわらず、ダメージを受けなかったのは彼が装備している防具のおかげだった。


 ワロウの魔力を吸って元の機能を取り戻したサバイバルベストは、レッドウルフの突進で吹っ飛ばされた分の衝撃を吸収したのだ。


 だが、衝撃は吸収しきったものの、直接突進を受け止めたワロウの左腕はあらぬ方向に曲がってしまった。


「ちょ、ちょっと!大丈夫!?」


 アンジェの悲鳴のような声が聞こえてくる。ワロウのケガの状態はひどいものだが、ワロウには”奥の手”がある。幸い辺りは薄暗く、アンジェにも気づかれはしないだろう。


「問題ない!今のうちに矢を射れ!」

「ホントでしょうね!」


 ワロウの様子を気にしつつも、そちらにばかり気を取られているわけにもいかないアンジェはすぐに矢をつがえてレッドウルフ目掛けて射る。


 そのおかげで、矢が当たったレッドウルフの動きが一瞬止まる。その隙にそのまま矢継ぎ早にアンジェは矢を放つ。ふっ飛ばされたワロウに回復する時間を作ってくれているようだ。


 その時間を利用してワロウはアンジェに気づかれないようにこっそりと自分の右手で曲がってしまった左腕の辺りをかざした。そして治れ治れと念じる。


 するとワロウの右手から淡い水色の光が飛び出したかと思うと、ひどい状態だった左腕が見る見るうちに治ってゆく。これがワロウが腕輪から得た力の一つ。回復術だ。 


 一日に3回までしか使えないという制限はあるものの、ケガをすぐに治せてしまうかなり強力な術である。ただし、この術は僧侶しか使うことができないとされている。


 周囲にバレるとまずいことになる可能性もあるので、ワロウはこっそりと回復術を使っているのである。


 腕を回復させたワロウは再度レッドウルフの前に立ちはだかる。ふっ飛ばされたものの大きなケガをしていないワロウを見て、安心したようにアンジェが一息吐く。だが、状況としては依然と厳しい。


 とにかくワロウたちが逃げ切れるほどの時間を稼がなければならない。そのためにはそれなりに手痛いダメージを負わせないと無理だろう。


(なんとかアイツの隙を作らねえと...)


 ワロウとしては自分が何とか隙を作って、その間に急所に矢を射ってもらうつもりだった。だが、思ったよりも相手の一撃が重く、思うようにいかない。


 どうしようか考えあぐねているワロウの前で、レッドウルフが再度飛びかかろうと構え始める。


(チッ...!考えてる暇はねえか!)


 ワロウがもう一度相手の攻撃を受けようと身構えたその時、ワロウの腕輪が輝き始めた。


『敵性生物からの攻撃動作を確認。先ほどの戦闘結果から防ぎきれないと判断します。防御スキルの検討を開始します』


(....!この声は...!)


 もはや聞きなれたと言ってもいい。腕輪から発せられる声だ。実は先ほどふっ飛ばされたときにも反応していたのだが、当のワロウはふっ飛ばされている最中で気づいていなかったのだ。


『防御スキルの検討が終了しました。”盾術D”を取得します。所持エーテルを消費します』


(この感覚は...!)


 レッドウルフが動きが止まったワロウに向けて飛びかかってくる。先ほどワロウがふっ飛ばされたときと同じ光景だ。だが、今は違う。


 どこに盾を構えてどのように力を入れれば相手を受け流せるかがわかる。後はその通りに行動するだけだ。


 次の瞬間、ワロウは左手の盾で飛びかかってきたレッドウルフの巨体を完全に受け流しきった。受け流されたレッドウルフは姿勢を崩してそのまま壁に衝突する。


 壁に衝突して軽い脳震盪を起こしたレッドウルフは少しふらつきながらも立ち上がる。結構な勢いでぶつかったはずなのだが、かなり丈夫なようだ。


 とはいえこの状態で全力疾走するのは不可能だろう。


「今だ!逃げるぞ!」 


 レッドウルフが全力で追いかけられない今のうちに逃げ出すのが最善の手だろう。ワロウがそう叫ぶと、アンジェと共に洞穴の入口まで逃げ出すのであった。

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