表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に名を馳せるまで  作者: niket
121/162

第三十八話 おびき寄せる方法

 全員で洞穴の前にたどり着いた。洞穴は大きく、中は薄暗い。まるで不気味に口を開けてワロウたちが入ってくるのを待ち構えているようだった。


「こりゃ...中々雰囲気あるな...」

「ちょ...ちょっと...変なこと言わないでよね...」


 ウシクとアンジェはその雰囲気に押されてか若干引き気味でその洞穴の奥を覗いている。

だが、いくら覗こうとも洞穴の奥は見えない。


「...ここにいてもしかたなかろう。奥に行こうではないか」

「そ、そうですね...」


 ウシク達が恐れおののくその一方で、ソールはそこまで感じるものはなかったらしい。さっそくと言わんばかりに洞穴へと踏み出すが、このまま行くというのは少々まずい。


「ちょっと待て。さっき少し奥まで行ったが、中は結構狭いぞ。少なくとも5人で戦える広さじゃねえことは確かだ」

「む...そうなのか」


 そう。この洞穴は大柄なレッドウルフに合わせてか人が立って入れるほどの空間がある。とはいえ、5人がそれぞれ獲物を振り回せるほど広いかと言われると流石にそこまで広くはない。


「それに中は真っ暗だぜ。流石にその状態で相手は厳しいんじゃねえか」

「げ、そんなに暗いのか...」

「そうですね。さっき一緒に入りましたけど、とてもじゃないですけど戦うのは難しそうです」


 暗闇の中で戦闘するのは非常に危険である。特にこの狭い空間だと仲間同士で切りあうことになってしまいかねない。それに加えて夜行性のレッドウルフはある程度夜目が効くだろう。こちらが一方的に不利になりかねないのだ。


「仕方ねえな。じゃあ外におびき出すしかないか...」

「それがいいと思うぜ。どうやってやるかは考えねえといけないがな」

「うーん...今は寝てるんでしょ?ウシクかソールが一発大きい一撃入れちゃえば?それから逃げ出せばいいじゃない」


 アンジェの言う通り、今はレッドウルフは寝ている可能性が高い。であれば寝ている間に強力な一撃を喰らわせたいというのは自然な発想だ。


 そうなると今の面子の中で一番攻撃力が高そうなのは体格がいいウシクかソールということになるだろう。ウシクなら剣で、ソールなら槍で相手に一撃喰らわせるのだ。


「それは危険だな。やめておいた方がいい」

「えー!なんでよ!せっかくのチャンスじゃない!」


 ワロウが否定すると、アンジェは不満そうな顔で文句を言う。やれやれと思いながらもワロウが説明しようとするとキール少年から援護射撃が加わった。


「僕も危ないと思います。中は暗くて攻撃してもどこに当たるかもわからないし...もし、洞穴の中で追いつかれたら絶体絶命ですからね」


 一撃喰らわせるとはいっても、相手がどこにいるのかすらよくわからない状況で下手に攻撃すると大したダメージを与えられないうえに、ケガを負った相手が激高するという最悪の状況になりかねない。手負いの獣は何よりも危険なのだ。


 しかも、洞穴から外に連れ出す最中に相手に捕まってしまえば、狭い洞穴の中で戦闘するしかなくなってしまう。狼相手に競争を挑むのは流石に分が悪いだろう。


「むむ...確かに。流石キール君。頭いいのね!」

「え、そ、そんなことは...」


(おい、オレのときと態度が全然違うじゃねえか!)


 ワロウが言ったときとキール少年が言ったときで、あからさまにアンジェの態度が違う。まあ、おっさんに注意されるよりも美少年に注意される方がいいのは当然と言えば当然なので仕方がないといえば仕方がない。


 ...少々理不尽な感じは拭えないが。


「うーん...そうかあ...ちょっともったいねえけどなあ...」


 ウシクは相手が眠っていて最初に一撃入れられるという好機を惜しく思っているようだ。...方法がないわけではない。相手に間違いなく大ダメージを与えられる方法もあるにはるのだ。


「まあ、確実に相手に奇襲を成功させる方法がないわけでもないぜ」

「え、そんな方法あるのか!最初からそれを言ってくれよ」


 期待しているウシクには悪いが、その方法はほぼ実行不可能なのだ。だからワロウも提案しなかった。


「ほら、そこで暇そうにしてるパーティの最大火力がいるじゃねえか」


 ワロウが指さした方向を全員が見ると、そこにはまさか自分が指さされるとは思っていなかったのかビクリと肩を揺らしたレイナの姿があった。


 そう。ワロウが思いついていた方法はレイナを使う方法だった。Cランク冒険者の彼女であれば、暗闇だろうとなんだろうと眠っているDランクの魔物に対して致命傷を負わせるのはそこまで難しくないはずだ。


「ダメに決まってるだろう。説明のとき私は基本的に危ないときにしか参加しないと言ったではないか」

「ほら、今ちょうど危ない話をしてるところだぜ?参加してくれないのか?」


 ちょっとからかうようにしてワロウが更に言い募るが、レイナは首を横に振って、後は我関せずといったようにそっぽを向いてしまった。少々機嫌を損ねてしまったようだ。


「...手助けを得るのは無理そうね。まあ、私たちだけでなんとかしてみましょ」

「で、話は元に戻るけどよ、どうやっておびきだすかだが...」


 ウシクが言う通り、おびきだすにもどうやってやるかが問題だ。迂闊に近づくと手痛い反撃をもらいかねない。となれば...


「遠距離から攻撃...でしょうか」

「そうだな。まあ、大声だせば起きるとは思うが...もしかしたら急所に攻撃が当たるかもしれないからな」


 洞穴の中で叫べばおそらくレッドウルフは目を覚ますだろうが、相手にダメージを与えることはできない。だが、遠距離攻撃すれば運よく急所に攻撃が当たる可能性もある。ここは遠距離攻撃したほうがよさそうだ。


「じゃあ、私かキール君?」

「そうだな。射程が長い方がやればいいんじゃねえか」


 遠距離攻撃するにしてもなるべく距離は離れていた方が逃げやすいだろう。その後キール少年の魔法よりもアンジェの弓の方が射程が長そうだとわかったため、攻撃役はアンジェが担当することになった。


「うう...私が攻撃しなきゃいけないのね...」


 強敵相手に最初の一撃を喰らわせて、その後逃げ切らなければいけないというのは結構なプレッシャーになっているようだ。アンジェは緊張して、若干声が震えている。


「やっぱり僕がやった方が...」

「いえ。いいの。キール君は後ろで待っていて」


 それを見かねたキール少年が自分でやると言い出そうとしたが、アンジェは一瞬でそれを拒否して後ろで待っておくように言った。なんともわかりやすい態度である。


「...一応オレもついていく。ちょっと不安だからな」

「え!ホント!助かるわ!」


 アンジェの様子がちょっと不安だったので、自分もついていくことにしたワロウ。それを聞いてアンジェはほっとしたような表情になる。

 

 頼りにされてうれしいという気持ち半分、キール少年とは違い自分は心配されないのかという気持ち半分、ワロウはなんともいえない複雑な気持ちになった。


「...いいのか?一緒に行くってんなら俺が行ってもいいんだぜ?」


 少し心配そうな表情でウシクが自分が行こうかと提案してくる。ワロウよりも戦闘に自信があるということなのだろう。


「いや、いい。今回は逃げるだけだからな。お前よりオレの方が速く走れるだろう」


 今回はレッドウルフに矢を射た後に逃げて洞穴の外へとおびき出すのが目的である。ならば当然走るのが早い方がいい。


 この面子の中ではレイナを除き一番早く走れるのはアンジェだろう。体力の方はないが、軽装で早く走るのは得意だとも言っていた。


 その次速いのがおそらくキール少年かワロウだ。素の速さであればソールとウシクも負けてはいないと思われるが、二人ともそれなりに重装備をしている。速く走るのには向いていない。


 若いキール少年を送り込むのも気が進まないし、ワロウのように盾を持っているわけでもないので相手の攻撃を防ぐのも難しい。というわけでワロウが最も適任であるといっていい。


 ワロウが代わらなくてもいいと言うと、ウシクは少し考え込んだが、確かに足の遅い自分が行くと逆に危険だと思ったのか、納得してくれたようだ。


「...わかった。じゃあ、頼むぜ。逃げるだけでいいからな?」

「わかってるって。しっぽ巻いて逃げるのは得意なんだ。任せておけよ」


 ワロウが冗談めかしながらそういうと、ウシクは少しだけ笑った。


「よし!じゃあ任せたぞ。俺たちはここでレッドウルフを待ち構えてるからな」

「ああ。じゃ、行ってくるぜ」


 そして、ウシクたちに見送られながらワロウとアンジェは洞穴の奥へと歩を進めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ