第三十七話 見つけた洞穴
現在多忙中につき、今後不定期更新となる可能性が高いです。申し訳ありません。
レッドウルフを求めて雑木林の中へと突っ込んでいった一行。雑木林の中は鬱蒼と木々が生い茂っており、レッドウルフがいそうな気配はなかったが、地面を見てみると一部分だけ明らかに踏みしめられた跡があった。
「これは...もしかして...」
「そうだな。獣道ってやつだ。間違いなくここを行き来する生き物がいるってことだな」
その獣道をよくよく観察してみると、そこにもいくつか足跡が残っていた。先ほど見たあの足跡と全く同じだ。
「ねえ!さっきの足跡もあるじゃない!」
アンジェもそれに気づいたようで興奮気味にその足跡を指さす。まず間違いなくその足跡の持ち主はここを通っているのだ。
(...ん?あれは...)
そのときワロウは獣道の横に生えている木々に何か糸のようなものが絡まっているのに気が付いた。近づいてよく見てみるとそれは赤い糸のようだった。
(これは...ただの糸...ってわけじゃねえよな。もちろん)
「あれ?どうかしましたか?ワロウさん」
その糸を手に取ってしげしげと観察していたワロウだったが、キール少年に話しかけられたのでいったんそれを中断して、その糸をキール少年にも見せてやる。
「ほら。これだよこれ」
「これは...糸、ですか?」
この赤い糸。ワロウにはそれがなんなのか心当たりがあった。
「おそらくだが...レッドウルフの体毛じゃねえかな」
「体毛!...成程。赤い糸じゃなくて赤い毛なんですね」
レッドウルフのものと思われる獣道の横に、赤い毛があった。これはほぼ間違いないだろう。この毛はレッドウルフの体毛の可能性が非常に高い。
「お、なんかあったのか?」
向こうで足跡を調べていたウシク達ががこちらに気づいたようだ。ウシク達にも先ほどまでの経緯と赤い毛を見せてやると、ウシクは感心したように頷いた。
「よく見つけたな、こんなの」
「まあ、慣れてるからな、こういうのは」
森狼の縄張りを確認するために、何カ月も森の中を歩き回りながら痕跡を探し続けたこともある。ワロウにとってこれくらいは基本中の基本なのだ。
「よし、もうここにいることはほぼ間違いないだろう。また手分けして探すとしようか」
ウシクは先ほどのように手分けをして探すことを提案してきた。それ自体に異論はないが、少々気を付けなくてはならないこともある。
「ああ。だが、気をつけろよ。狼は耳がいい。いくら寝ていたとしても迂闊に近寄ると目を覚ます可能性もあるからな」
「わかってるって。お前ら、あんまり草とかがさがさ鳴らしながら探さないようにしろよ?」
「...なるべくね。この生い茂った雑木林の中じゃできるのにも限界があるわよ」
アンジェの言う通り、このあたりはかなり密集して木々や草が生えている。音を一切慣らさずに探すというのはほぼ不可能だろう。それは仕方がない。
というわけで、ワロウたちは雑木林の中を探し始めた。最初丘の上で探し回っていたときとは異なり、ここの辺りにいるのはほぼ確定である。否が応でも緊張感が高まる。
探し始めてからしばらくした時、キール少年が小さな声でワロウのことを呼んできた。
「ワロウさん...ちょっといいですか?」
「ん?どうした?」
「向こうの方にちょっと怪しげな洞穴があったんです。一緒に来て確認してもらってもいいですか?」
「よし、わかった」
キール少年に案内されるがままについていくと、確かにそこにはぽっかりと空いた洞穴があった。その大きさはかなりのもので、ワロウが立っても大丈夫なくらいの高さがある。
「...成程。こいつぁ”当たり”かもな」
「で、ですよね。一人で調べるのは危ないかなって思って...」
「いや、いい判断だ。それが正しい」
一人で調べに行って万が一レッドウルフが起きていたりすればそれこそ一巻の終わりである。こういう時は複数人で事を行うのが正解だ。
ワロウとキール少年はおそるおそるその洞穴の中へと入ってゆく。その途中で、ワロウは壁のとがっているところに赤い毛がついているのに気が付いた。
(...ほぼ確定、だな)
この赤い毛は先ほど雑木林で見たものと同じものだ。この洞窟の中にレッドウルフがいるのはほぼ確定とみていいだろう。
「ワ、ワロウさん...それって...」
音に気を使ったのか、キール少年が非常に小さな声でワロウに話しかけてくる。それに対してワロウは無言で頷いて、持っていた赤い毛をキール少年に見せてやった。
それを見てキール少年も理解したようで、顔を少しこわばらせた。先ほどよりも更に緊張感が増したようだ。
そのまま洞穴を進んでいったが、意外とこの洞穴は深く、その奥まで見通すことはできなかった。それでも、なんとか暗い中を進んでゆくと何やら物音が聞こえてきた。何かが呼吸する音だ。
(これは...いるのか?)
もしやと思いその奥を覗こうとしてみるも、真っ暗すぎて何も見えない。ただ呼吸音が聞こえるということはほぼ間違いなくそこに何か生き物がいるということである。
(...これ以上は危険だな)
中にいるのは十中八九レッドウルフに違いない。こちらに気づいた様子はないが、これ以上近づけばどうなるかわからない。
ワロウは二人でこれ以上進むのは危険だと判断し、探索を断念した。そして、うしろをついてきていたキール少年に合図を送ると、そのまま洞穴の入口へと戻ったのであった。
入口に戻るとキール少年は興奮した様子でワロウに話しかけてきた。
「わ、ワロウさん!い、いましたか?レッドウルフ...」
「いや...暗すぎて何も見えなかった。お前は?」
「僕も全く見えなかったです...」
「そうか...」
流石にあの暗闇ではキール少年も中に何がいるかは見えなかったようだ。ただ、何かがいるということはまず間違いない。
「ただし、呼吸音が聞こえた。何かがいるのは間違いないだろう」
「うーん...まあレッドウルフ...と考えてもいいんでしょうか...」
「ああ。ほぼ確定だろう。とりあえず皆のところへ戻るぞ」
ワロウとキール少年は先ほどのところまで戻ってきた。するとそこにはすでにワロウとキール少年以外の全員が集まっていた。
「おお、やっと戻ってきたぜ。なんで二人一緒なんだ?」
「いや、キールが怪しい洞穴を見つけたっていうんでな。オレとキールの二人で確認してきたんだ」
「お!ホントか!よかったぜ。こっちは何も見つからねえなあって話してたところでよ」
他のメンバーは特に怪しいところを見つけられなかったようだ。まあ、寝床は一か所だけだろうし、キール少年しか見つけられなかったというのは至極当然のことではあるのだが。
「それで?どうだったのよ。その洞穴は」
「“当たり”だ。おそらくな」
「え!ほ、本当に?」
「ああ、洞穴の中にさっき雑木林で見つけたのと同じ赤い毛があった。あそこにレッドウルフが行き来しているのは確定と言ってもいいだろう」
ワロウのその言葉に一気に沸き立つ仲間たち。ついにレッドウルフのねぐらを発見したのだ。となれば次に気になるのは中にいたかどうかである。
「それで?レッドウルフはいたのか?」
「いや、周りが暗すぎてそれは判別できなかった。ただ...」
「ただ?」
「呼吸音が聞こえた。何かがいるのは間違いない」
レッドウルフが住み着いていると思われる洞穴。その中にいる生き物で考えられるのは当然レッドウルフしかいない。
全員の顔に緊張が浮かぶ。これからいよいよ大捕り物の開始だ。
「よし...じゃあ、行くか...?」
ウシクのおそるおそるといった言葉に仲間たちはしっかりと頷きを返すのであった。




