第二十五話 レイナとの戦い
最初はどちらも様子見から戦闘は始まった。お互いに相手の出方を伺っているのだ。
この戦闘、ワロウはそもそも自分から仕掛ける気は全くなかった。相手はCランク冒険者だ。しかも剣は細剣で軽い。ワロウよりも早く動けるに決まっていた。
速い相手に対して自分から切りかかっていくのは自殺行為だ。避けられて反撃を喰らう自分自身が容易に想像できる。
なので、ワロウが選べる戦闘方法は、ひたすら耐えてカウンターを狙うといったようなものしかないのだ。
しばらくの間、お互いにじりじりと距離を詰めたり離れたりしていたが、このままでは埒が明かないとしびれを切らしたのかレイナが一気に踏み込んで切りかかってきた。
(来やがったか!)
カウンターを狙うなら今しかない。ワロウは必死にカウンターを決められるような隙を探すが、レイナの動きが早すぎて間に合わない。
ワロウにできたのは何とか盾を構えてその攻撃を受けることだけだった。
レイナの剣を盾で受け止めた瞬間、盾を持っていたワロウの左腕に大きな衝撃が来た。とてもではないが細剣で打ってきているとは思えない威力だ。
盾の構え方が良くなかったこともあって、ワロウは姿勢を崩してしまう。だが、幸いなことにレイナはその隙には付け込んでこなかった。
(なんつー威力だ...ホントに細剣かよ)
とてもではないが細剣で出せるような威力ではなかった。だが、ワロウがそれに驚いている余裕はなかった。盾で一度防がれるやいなや連続でレイナは剣技を繰り出してきた。
一つ一つが正確でかなり重い。相変わらず、ワロウは盾で防ごうとするが、うまくいかない。何度か姿勢を崩してしまいそうになる。そもそもまともに盾を使ったことなどほとんどないのだ。下手なのも当然と言えば当然だ。
そこで、ワロウは盾で防ぐことをきっぱり諦めて、剣で対抗することにした。下手な盾で防ぐよりも、腕輪の力によって強化されている剣技の方に賭けようと考えたのだ。
この方法はある程度うまくいった。必死に食らいつきながらではあるが、ワロウは何とかレイナの剣を受け続けることができていた。ワロウのこの奮闘が意外だったのか、レイナは一旦距離をとると、ワロウに笑いかけた。
「ほう!正直どこまでできるか怪しいと思っていたが、ここまで動けるとはな!貴殿、本当に今までEランクだったのか?」
「正真正銘Eランクだっつーの!さっきギルドカード見せただろうが!」
「ふむ...まあ、それはそうだな。しかし、ここまで戦えるなら...」
次の瞬間。レイナの放つプレッシャーが何倍にも増加した。思わずワロウも身構える。
「もう少し、本気を出しても良さそうだ」
(クソッ!!やっぱり今までは本気じゃなかったってか!)
ワロウもうすうすは勘づいていた。いくら腕輪の力で強化されているとはいえ、Cランク冒険者の猛攻に自分が耐えられるわけがない。
逆に言うと、今まで耐えられたということはイコール相手が本気ではなかったということを意味する。少し本気を出すといったレイナの剣撃は先ほどとは比べ物にならないほどの脅威だった。
先ほどから受けていたレイナの剣は正確で重かったけれども、速度はそこまで早くなかった。だからワロウでも何とか対応できていたのだ。
だが、今は違う。先ほどの倍はあろうかという速度で剣が振られるのだ。ワロウはあっという間に劣勢になった。何とか攻撃は防げてはいるが、完全に防戦一方で、いつこの均衡が破られてもおかしくない。
(このままじゃやられるだけだ...!無理やりでもいい。隙を作れないか...!)
必死にこの状況を打開できる方法を考えながら、レイナの猛攻を防ぎ続けるワロウ。そのとき、あることに気づいた。
(...さっきよりかは遅くなってきてるのか...?)
少し余裕ができたワロウはレイナの様子を伺った。すると、レイナは相変わらずこちらを攻撃し続けているが、若干息が荒くなり始めていることがわかった。
いくらCランク冒険者だからといってもスタミナが無尽蔵であるわけではない。ずっと攻撃をし続けていれば疲れるのは当たり前だ。しかも、彼女はワロウの前に20人近くの受験者と戦っているのだ。その分の蓄積もあるだろう。
(動きが鈍り始めた今がチャンス...か)
(...よし、こちらから仕掛けてやるか!)
仕掛けると決めたワロウは大胆な行動に出た。今までワロウはレイナの剣を剣で受け流すようにして防いでいたのだが、今度は逆に振られたレイナの剣に向かって盾で体当たりしに行ったのだ。
今まで剣で対応してきたワロウがいきなり盾を構えてそのまま突っ込んできたので、レイナはそれに対応するのが一瞬遅れてしまった。
その隙をワロウは見逃さなかった。そのままレイナの剣を跳ね上げるようにして盾をぶつける。レイナは手から剣を離しはしなかったものの、完全に剣が上を向いていて隙をさらけ出していた。
(今だ!)
これほどの好機はない。ワロウはすかさずレイナに向かって剣を突き出した。隙をついた完璧な一撃だ。これで勝負が決まる。そう思っていたのだが...
実際は上にはじき飛ばされていたレイナの剣は次の瞬間には、ワロウの目の前に突き付けられていた。あまりの早業にワロウの目は全く追いついていなかった。本当に目の前に剣が出現したと思うくらいの速度だったのだ。
目の前に剣を突き付けられてしまってはもはや負けと言わざるを得ない。ワロウは素直に負けを告げた。
「降参だ。流石Cランク。最後のは早すぎてほとんど見えなかったぜ」
「あ、ああ...いや、驚いたな...」
勝ったというのにレイナは戸惑ったような表情でワロウのことを見ていた。
「何がだ?」
「...最後の私の一撃。あれは完全に本気だった。...本気を出さなければ負けていた」
最後のまるで剣が瞬間移動したかのような攻撃。あれは紛れもなくレイナの本気の一撃だったようだ
「うん?だからどうしたってんだ?」
「いや...こういうのも失礼だが、正直Eランク冒険者相手に本気を出すことがあるとは思ってもみなかった」
冒険者のDランクから上の階級は階級が一つ違うだけで強さが全く異なる。しかもワロウはまだEランクでレイナとは二階級も差がある。その状態で本気を出さなければ負けてしまうほど追いつめられたのが信じられないようだ。
しばらくそのまま考え事をしていたレイナだったが、ふと思いついたようにワロウに質問を投げかけてきた。
「そうだ...貴殿、誰に剣を習った?」
「剣?いや、ないね。全部自己流だよ」
昔、ワロウ自身も一回は剣を習ってみようとかつてのパーティのリーダーに頼み込んで教えてもらったこともあったが、結果は惨敗。自分に剣の才能がないことを嫌というほど思い知らされたのだ。
それ以来ずっと自己流で戦ってきたワロウ。当然どこかの流派に属しているということもないし、師匠だっていない。
「何?そんな馬鹿な...」
「一体どういうこった。なんでオレが剣を習ってると思ったんだ?」
レイナはワロウが剣を習っているはずだと思っているようだが、ワロウからしてみれば逆になぜ彼女がそう思っているのかが知りたかった。
「先ほど戦っているときに思ったのだが...貴殿の剣はきれいすぎる。まるでどこかの流派のお手本のようだ」
綺麗な剣筋。ワロウには心当たりがあった。あの森狼と戦ったあの時からワロウの剣のは格段に向上していた。単純に速度が早くなったというだけではなく、その技術が上がっていたのだ。
その向上ぶりは他人から見てもはっきりとわかるようで、実際に一緒にリザードマンと戦ったバルドからも剣を習っていたのかと聞かれたこともあった。
「それに...」




