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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第二十二話 不思議な少年

(うーん...なんかパッとしねえ天気だな)


 バルドが推薦をしてくれてから三日後。ワロウはギルドの前までやって来ていた。もちろん昇格試験を受けるためである。


 これからやってやるぞというワロウの意気込みとは裏腹に、天気の方はぐずっており今にも雨が降り出しそうな気配がする。


 結局あの後、回復した後もリンネの容態を見てほしいとのペンドールの頼みを断り切れず、ずっとあの高級な宿に泊まり続けていた。ふかふかなベッドとおいしい食事によってワロウの体力、気力はともに申し分ない状態だった。


(まあでもこれでその高級宿生活ともおさらばだな...)


この試験に受かってしまえば、すぐにでもワロウはこの町を出ていく予定だった。そもそも思ったよりもかなりこの町で長居してしまったので予定が大幅に狂っているのだ。


 ワロウがギルドの中に入ってゆくと、そこはいつも通り冒険者達でごった返している。その間をすり抜けながら、近くにいたギルドの職員に話を聞くとどうやら受験者用の控室があるようだ。


 職員の指示に従って、ギルドの中を進んでいくと、ワロウの目の前に大きな扉が現れた。ここが受験者たちの控えの部屋となっているようだ。


「こちらでお待ちください」

「ああ、どうも...」


(さて...じゃあ、受験者たちの顔でも拝むとしようかね)


 ワロウがゆっくりとその扉を開けると、中にいた冒険者達の視線が一気にワロウに注がれた。今から同じ試験を受ける人間が気になるのだろう。


 視線を感じながらもワロウは、ゆっくりと部屋の中を見渡した。中には20人程度の冒険者たちが思い思いの場所に座っている。そして、その冒険者達にはある共通点があった。


(こいつぁまいったな...ガキばっかじゃねえか)


 今回の試験を受けるのはワロウよりも一回りも二回りも若い冒険者達のようだ。パッと見た感じワロウの次に歳をとっていそうな冒険者でも20歳そこそこといった外見をしている。


 それはある意味仕方のないことだった。今回の昇格試験はDランク昇格試験であり、丁度一人前になろうとしている冒険者達が受けるものなのだ。普通は17,8歳くらいで受けることが多い。

 

 ワロウのように40近くになってやっとDランク昇格試験を受けるというような奇特な冒険者はいなかったのである。


 一縷の望みとしては、今まで傭兵として戦っていた戦士が冒険者に転職する際に推薦を受けて現れるという可能性もあった。その場合はある程度歳もとっているだろう。


 だが、そんな転職をする人間は非常に限られている。案の定今回の試験ではそのような人間らしき姿はなかった。


(相当悪目立ちするな...これ。勘弁してくれよ...)


 元々ワロウはこのギルドで少し有名なのだ。...もちろん悪い意味で。それはバルドと会うまで、ずっと臨時パーティに応募し続けていたことが原因である。


 臨時パーティに応募するということは当然ワロウの情報が向こうに伝えられるということだ。なので、この町の冒険者達にはワロウのことがある程度知れ渡ってしまっているのだ。あの年にもなってまだEランクの冒険者だと。


 この部屋にいる冒険者達はよその町から来ている者もいるために、まだそこまで騒ぎにはなっていない。が、当然ワロウのことを知っているものもいるようで、ワロウを見ながらひそひそと内緒話する様子も見られた。


(...これ、二次試験でパーティ組んで依頼を受けるんだよな...?)


 このままでは二次試験が始まる前にはワロウの良くないうわさが広がってしまいそうだ。とはいっても本当にEランクの中年冒険者なのだから言い返すことはできない。


(...今から不安になってきたぜ)


 ワロウが今後の試験について憂鬱な気分に浸っていると、部屋の中にいた一人の冒険者が話しかけてきた。年はまだハルト達と同じか少し下くらいで14,5くらいに見える。


「あ、あの...」

「...なんだ」


 一体なんだというのだろうか。この明らかに部屋の中で浮いているワロウに話しかけてくる理由が思いつかない。こちらを馬鹿にしたりするのならまだわかるが、どうやらそういうわけでもないようだ。


 というよりもむしろ彼の目からはこちらに対する緊張が見て取れた。だが、ワロウにはその原因に全く心当たりがなかった。もちろんこの少年に会ったこともないし、知り合いであるという可能性もない。


(一体なんだってんだ...?)


「あ、あなたが今日の試験官ですね?よ、よろしくお願いします!」

「.....」


 思わず心の中でワロウは頭を抱えてしまった。確かに何も知らない受験者からしてみれば、部屋の中に入ってきた中年の男を見たら、ベテラン冒険者の試験官と勘違いしてもおかしくはないかもしれない。


 が、実際には彼と同じただの受験生である。それを明かすの何となく格好がつかないがこの誤解をそのままにしておくわけにもいかない。ワロウは不承不承といった様子でその少年に本当のことを告げた。


「こんな見てくれだが、試験官じゃねえよ。お前と一緒の受験者だ」

「あっ...え...そ、そうなんですか?」


 少年の瞳には戸惑いの色が見える。それも仕方がないだろう。この歳にもなってDランク試験など受けている方がおかしいと言えばおかしいのだ。が、少年の目には特に負の感情は見られない。


「わかりました!じゃあ、一緒に頑張りましょう!」


(...ああ。なんか...いい奴だな。コイツ)


 今まで冷たい世間の風にさらされていたワロウ。少年の思わぬ暖かい言葉にあっという間にほだされてしまった。なんともちょろいおっさんである。


「すみません。申し遅れました。わた...じゃなくて僕はキールと申します。あなたは?」

「ワロウだ。見ての通りのただの中年のおっさんさ」


 ワロウが自己紹介すると、キール少年は何か考え込むような仕草をした。


「あれ...ワロウさん...ワロウ...えーと、昔、どこかでお会いしたことありましたっけ?」

「あん?....ねえと思うが」


 少なくともワロウはキール少年に見覚えは無かった。ワロウは最近までずっとディントンに引きこもっていて他の町の冒険者とはほとんど関りがなかったのだ。


 それに、昔といったら彼がまだ一桁くらいの年齢だったときの可能性もある。もしそうなら昔あったことがあったとしても、今の彼とはだいぶ見た目が違うだろう。ワロウが気づかなくても無理はない。


「あれ...そうでしたか。なんか名前に聞き覚えがあったんですよね...気のせいかな...」

「たまたま同じ名前の冒険者だったんだろ。珍しい名前でもねえし」

 

 ワロウという名前は、ごくありふれた名前かというとそうでもないが、全くいないというわけでもない。きっとキール少年は他の”ワロウ”にあったことがあるのだろう。


 ワロウがそういうとキール少年は若干首をかしげながらも、気にしないことにしたようだ。


 それからしばらく雑談をしていたのだが、キール少年は非常に人懐っこい性格だった。

明らかに周りから浮いているワロウに対しても何の隔たりもなく接してくれる。だが、その彼と話しているうちにワロウは二つ疑問に思うことがあった。


 一つ目はキール少年がどうやら一人で試験を受けに来たようであるという点である。


(コイツ...誰かと一緒に来たわけじゃねえのか...)


 キール少年はずっとワロウのところにいるが、ほかに知り合いのような人物の姿は見えなかった。普通、同じ町の冒険者ならある程度の交流はあると思うのだが。彼は一体どこから来たのだろうか。


 そして二つ目は...


「それでですね...あれ?ワロウさん?聞いてますか?」

「あ...いや、悪い。ちっと考え事してたわ。なんの話だっけか」

「僕の父...じゃなくて、お、親父?の話ですよ!」

「ああ...そうだったか」


(言葉遣いがきれいなんだよな...冒険者にしては。どっちかっていうとこっちに合わせてるって感じか)

  

 二つ目の気になる点はキール少年の口調がやけに丁寧であるということだ。こういっては何だが冒険者は基本的に敬語を使うような人間は少ない。


 元々商人の教育を受けていたワロウは使おうと思えば使えるのだが、もうすっかり冒険者の話し方に染まってしまっていて今更敬語を使おうという気もなかった。


 それに比べてキール少年は言葉づかいはしっかりしているし、話し方にも気品があるというか、きちんとしている。


(...つまり...そういうことなのか...?)


 ワロウはキール少年の話に相槌を打ちつつも、彼の装備をじっくりと観察してみた。彼の装備はとてもシンプルで剣と革の防具、そして小盾を持っている。構成としてはワロウと全く一緒だ。


 しかし、そのどれもがかなりの高級品に見えた。色が派手ではないので特殊能力付きではないようだが、普通の装備としてもかなりの品物であることは間違いないだろう。


(間違いねえ。こりゃあ...貴族様ってやつだな)


 周りに知り合いがいない。そしてやけに丁寧な言葉遣いと質の良い装備。ここから導き出されるのは彼が貴族、もしくはそれに準ずる位の人物であるということである。貴族ならば冒険者に知り合いがいなくても不思議ではない。


(しかし...なんでまたギルドの昇格試験なんぞに出てきてるんだ?)


 彼が貴族である可能性は高い。だが、一体何のために試験を受けに来たのだろうか。ワロウのように生活に困っているわけではないだろう。何か目的はあるに違いないが、ワロウには全く見当がつかなかった。


 ワロウがキール少年の素性について考えていると、部屋の扉が開いた。ワロウの時と同様に部屋中の視線がそちらへと注がれた。

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