第二十話 防具の秘密
「それにしても...その防具でよかったのかよ」
「ああ。特殊能力付きの奴は派手すぎる。こいつだって金属でもないのにそこそこ硬いし、いい防具だと思うぜ?」
「まあ、確かにそれ単体で見りゃそうなんだが...普通に特殊能力付きの防具を買えちまう値段だからなあ...」
ワロウの言う通り、このベストは見た目は革っぽくもあるが、革と比べてかなりの強度を誇っており、しかも軽い。普通に見たら十分にいい防具だと言えるだろう。
だが、高い。とにかく高すぎる。一般的には白金貨10枚もあればなんらかの特殊能力付きの防具を買えるのだ。更に白金貨30枚も払えばそれこそかなり強い特殊能力がついた防具ですら買うことができる。
あの防具屋でこの防具が全く売れなかったのはそのせいである。ちょっと軽くて硬いいい防具と、特殊能力付きの防具だったら誰だって後者を選ぶだろう。
(まあ、そうだろうな。...普通だったら)
そう。ワロウはこの防具が普通ではないことを知っていた。彼の右腕にはまっているこの腕輪が反応した以上、これはただの防具であるといった可能性は低い。きっと何かしらの能力が備わっているはずなのだ。
バルドはワロウが防具に満足している様子を見ると、若干納得がいかないような顔をしたが、本人がそれでいいと言っているので、それ以上は何も言わなかった。
「まあ、お前が満足してるならそれでいいけどよ...それで、剣だってそれでよかったのか?」
「おいおい、さっき言ったばかりじゃねえか。特殊能力付きのは目立つから嫌だって」
「いやいや、確かに特殊能力付きの剣は目立つから良くないかもしれんが、普通の剣でももっといいのあったぞ?」
実は先ほどの商店で防具のほかに剣も買っていた。元はと言えば、バルドが先に言い出したのは剣を報酬にすることだったのだからそちらの方が主目的ともいえる。
それで特殊能力付きの剣なのだが...これがとにかく目立つ。防具の方もかなり目立つのだが剣はさらに目立つかもしれない。色が派手なのはもちろん、特殊能力を使うと剣から火が出たり、剣が氷をまとったりなどかなりわかりやすいのだ。
それだけ目立てば当然良からぬ輩の目につくのは必然といえるだろう。
というわけで、ワロウは先ほどの商店では普通の剣も購入していた。こちらの方は正真正銘ただの剣で、腕輪が反応したりもしていない。とはいっても金貨80枚する業物で、ワロウが今まで使っていた剣と比べると雲泥の差があるのだが。
バルドが言っているのは普通の剣を買うにしてももっといい剣があったということである。ワロウが買った剣は値段的に言うと中の上くらいで、もっと高い剣はいくらでもあった。
確かにバルドが言うようにもっと高い値段の剣の方が性能がいいのは間違いない。だが、それでもワロウがこの剣を選んだ理由があった。といっても、どちらかというといたし方がない部分があったといった方が正しいだろうか。
「いや、長さとか重さとかを考えるとコイツが一番前の剣に近かった」
ワロウは前の剣をかなり長く使ってきた。普通の冒険者なら一年か長くても二年くらいで剣を替えることが多い。それだけ激しく魔物と戦っているのだ。
その一方でワロウはソロで活動してきており、今までどちらかというと戦闘を避けるようにしてきた。そのおかげで、ディントンに来てからは一度も剣を替えていなかった。
これだけ長く同じ剣を使っていると、もはや他の剣を振るだけでかなりの違和感を感じる。今買ってきた剣はその中でもマシな方を選んできたのだ。
「そんなのまた違う剣に慣れればいいだけじゃないか」
「おいおい、勘弁してくれよ。おじさんはそんなにすぐに新しいモノには慣れねえんだよ」
「おじさん...ねえ。ペンドールさんと同い年くらいだっけか?...それにしてはリザードマンと戦った時、動けてたよな」
「まあ...鍛えてるからな。一応」
かなり動けている方というよりかは最近になって動けるようになってきたというのが正しい。あの森狼との戦いでワロウは一気に強くなったのだ。...この腕輪の力によって。
(こっちに来てからはうんともすんとも言わなかったが...いきなりあそこで反応したからな...)
(やっぱりこの防具だけは入手しておきたかった。後は調べてみてのお楽しみってやつだな)
ワロウがそんなことを考えながら腕輪をボーっと眺めていると、バルドが肩を叩いてきた。ワロウが慌てて辺りを見渡すと、すでに目の前に宿が来ていた。
「おい...おい!なにボーっとしてるんだよ。宿、通り過ぎちまうぞ」
「おっと...悪い悪い。もうここまで来てたか」
「おいおい...しっかりしてくれよ。...で、どうするんだ今日は?」
今後の予定を聞いてくるバルド。何か用事でもあるのだろうか。訝しげに思ったワロウだったが、それを顔には出さない。
「一応この宿にいるつもりだ。娘さんの様子も気になるしな」
「おお、そうか。それはありがたい。じゃあ俺はちょっと用事があるから一旦ここで別れよう」
「うん?そうか。まあ、わかったぜ」
用事があるといったバルドはすぐにどこかに向けて去っていった。
ワロウはそのまま宿の中に入ると足早に自分の部屋目指して歩いていった。先ほどから気になって仕方がなかった防具のことをよく確認したいと思っていたのだ。
部屋に着いて持ってきていた装備を床へと降ろす。結構な重さだったので、そこそこ疲労していたが、好奇心には勝てずさっそくずっと気になっていたサバイバルベストを装備することにした。
昔腕輪を手に入れたときには腕にはめた瞬間に腕輪から声が聞こえてきた。この防具もきっとそういうたぐいなのだろうとワロウは踏んでいた。
(お...実際に着てみると思ったよりも軽いな)
(これはいい買い物をしたかもしれん)
『サバイバルベストA-2型の装着を確認しました。内部チップとの接続を開始します』
「...来たか。相変わらず何言ってるのかは全く分からんが...」
ワロウがベストを装備した瞬間にまた腕輪から声がし始めた。もしかしたらこの腕輪とセットの防具なのかもしれない。
そういえば、著名な冒険者の中には、ダンジョンから見つけられた一式の装備で強大な力を得たという者がいたという話を聞いたことがある。もしかしたらこれがその防具という可能性だって十分にありうる。
そう思うと、否が応にでも期待は高まってゆく。もしかしたらすさまじい威力の魔法を使えるようになったり、体に穴が空いても回復できるような不死身の再生力を手に入れられるかもしれない。
『内部チップに接続しました。サバイバルベストA-2内のエネルギー枯渇により、性能が著しく低下しています。魔力をエネルギーに変換することが可能です』
(....体が軽くなったりは...しないな)
ワロウがベストを着てから特になにも変化は起きない。試しに魔法を使ってみようとうんうんうなってみるがやはり何も起きない。..まあ、ワロウは魔法の使い方など全く分からないのだが。
(あれ...もしかして当てが外れたってやつか?)
腕輪が反応したのは確かだったはずなのだが、どうにもこうにも変化が起きた様子はない。これはもしや...普通の防具を買っただけなのでは。そんな不安が頭をよぎる。
その時だった。
『魔力をサバイバルベストA-2へと充填いたします。急激な魔力消耗により立ち眩み等が発生する可能性があります。ご注意ください』
(ん?またなんか言ってるな...うおっ...!?)
急激に体の中から何かを奪われるような感覚を覚えて思わずふらつくワロウ。何とか近くにあったベッドに倒れこむと、そのまま意識を失ってしまったのであった。




