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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第十九話 高い買い物


「...わかった。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうか」


 ペンドールの申し入れに対してワロウは頷いた。そのことにペンドールは顔に喜色を浮かべた。


「そうか!じゃあ、さっそく王都の商人に連絡を...」

「お、おい。待て待て。王都の商人だと?何言ってやがる」


 話が決まりかけた矢先に早速暴走し始めるペンドール。王都の質の高い装備を仕入れようとしてくれるのはありがたいが、それを待っていたらいつまでここにいる羽目になるのかわからない。


 ワロウ自身も別にこの町にとどまっていたいわけではなく、むしろ早く目的地に向かって出発したかった。ただ、冒険者ランクがEになってしまったため、思わぬ足止めを食うことになってしまっているだけだ。


 それに、あまりいいモノを身に着けているとそれはそれであまりよろしくない。


「しかし...この町でいいモノを揃えるのは限界がある。多少時間がかかってもいいモノを手に入れた方がいいんじゃないかね?」

「いや...あまり身分に不相応なものを身に着けてると目立つからな...悪い意味で」


 弱そうな冒険者がいい防具を持っている。それを見れば色々とよからぬことを考える者が増えるだろう。王都の質の良い防具なんて着ていたらそれこそ付け狙われるに違いない。


「そうだな...ペンドールさん。ここはワロウの言うことが正しい。この町で何か見繕った方がいいでしょう」

「む...そうか。ベテラン冒険者の君が言うなら、実際そうなんだろう。バルド、君に財布を預けるから、その武器と防具を見繕ってはくれないか?」

「え...お、俺が...ですか?」

「私もある程度は目利きできるが、武器と防具に関しては君の方が上だろう」

「...わかりました」


 どうやらバルドがある程度見繕ってくれることになったようだ。正直ワロウは武器の目利きなどほとんどできないので、ペンドールのお墨付きのバルドが来てくれるのは心強い。


「じゃあワロウ。いつがいい?俺はいつでも割と時間あるぜ」


 ”お嬢さんの件もお前のおかげで落ち着いたしな”と、ベッドの方を見ながら付け加えるバルド。ここ最近はリンネの件であちこちを駆け回っていたようだが、それが一気になくなったため暇になったようだ。


「そうだな...じゃあ今から行くか?昇格試験用に慣らしておきたいしな」


 バルドから聞いた感じだとDランク試験は中々に難易度が高そうだ。できるならいい装備で向かいたい。


「わかった。ペンドールさん、いいですかね?」

「ああ、構わないよ。本来なら私も行った方がいいんだろうが...今はこの子のそばにいてやりたいんだ。申し訳ない」


 そう言ってペンドールは頭を下げる。


「別に構わねえよ。代わりにCランク冒険者がついてきてくれるしな」

「おう。ま、それなりに目利きはできると思うぜ。色々と剣は見てきたしな」

「そいつぁ心強いね。...よし、行ってくるか」

「ああ。気を付けて行ってきてくれ。もし、他にも何か必要だったら遠慮なく買ってくれて構わないよ」


 ペンドールの太っ腹な言葉を聞きつつワロウとバルドは武具屋へと向かったのであった。






「えーと...ここだここだ。武具屋ムール。この町じゃ一番デカい武具商店だ」


 バルドに案内されて着いたのは、いかにも古めかしい感じのする建物に入っている商店だった。


 この町で一番デカいというだけのこともあり、広さ的にはかなりのもので、中に展示されている防具や武器の数もかなり多い。少なくともディントンの町にはここまでの規模の店は無かった。


 早速ワロウは目に入った防具に近寄った。それは盾、鎧、マントからなる一式の防具のセットでそのどれもが白く輝いていて非常に目立つ。この一式はどうやらこの店の一番の品のようだ。


 ついでに値札の方を見てみると...


「げっ...!! これ、白金貨100枚もするのかよ...!」


 思わず後ずさってしまうワロウ。とてもではないが手を伸ばそうと思える金額ではない。というかこんな田舎の町にこんな品があっても誰も買わないと思うのだが...


そんなワロウの反応に興味を持ったのかバルドが横から覗き込んできた。


「ふうん...結構いい値段するんだな。まあ、これはダンジョン品みたいだし仕方ないんじゃないか?」

「ダンジョン品?」

「なんだ。知らないのか?迷宮都市のダンジョンで発見される武器とか防具のことさ。普通の武器とかと違って、特殊な能力がついてることが多い。例えばこれだと...ほらこれだ」


 バルドはその防具の横に置いてあった鑑定書のようなものを指さす。そこには”壊れた部分が自動修復する”と書いてあった。


「自動修復ってどういうことだ?」


 ワロウには自動修復という意味が分からなかった。まさかひとりでに防具が修復されていく...というわけでもあるまい。そう思ったのだが...


「そりゃ、読んで字のごとく、だぜ。どこかが欠けたり穴が空いたりしても勝手に直っていくんだ。便利だろ?」

「な...ホントかよ。便利っていうか...ヤバいな、それ」


 勝手に修復する防具など見たことも聞いたこともない。だが、それが本当にあるとすれば便利なんてものではない。勝手に修復するなら、最悪手入れをする必要もないし,

防具を買い替える必要も薄くなる。

 

 冒険者にとっては垂涎ものの特殊能力だろう。だが、それはそう簡単に手に入るものではない。


「まあすげえ便利なのは確かなんだが...如何せん高いんだよ。特に特殊能力付きで自動修復もついてるとめちゃくちゃ高くなる」

「どういうことだ?」

「つまりだな...」


 バルドの説明によると、自動修復単品でもそこそこ値が張るのだが、特に自動修復と後何か特殊能力がついているものは特に高くなる傾向があるとのことだった。


 それはなぜかと言うと、いくら強力で使いやすい防具が手に入ったとしても、壊れてしまえばその特殊能力はおじゃんになってしまう。


 その一方で、自動修復と何か特殊能力がつくような場合、壊れても元通りになってくれるため、壊れるということを気にせずに使うことができる。その点が大きいようだ。


「ちなみに俺が今まで見た中で一番高かった防具は自動修復、魔力補填、魔法軽減、身体能力上昇がついてて虹金貨50枚ってやつだな」


 虹金貨は使われている硬貨の中で最も価値の高い金貨で、白金貨の100倍の価値がある。  ここまで来ると一般人が使うようなレベルではなく、大商会同士のもののやり取りや、貴族たちの取引で用いられるくらいである。


「虹金貨50枚って...そりゃどっかの商会まるまる買い取れるような金額じゃねえか」

「それだけ貴重だったってことだな。ちなみに結局それは国のお偉いさんが買っていったらしいぜ」

「...成程な。将軍とかに持たせる用か」

「かもな」


 その国にとって将軍は替えが効かない大事な役職だ。位の高い貴族がその地位にいることも多く、その彼らを死なせないために色々と特殊効果の付いた装備を持たせるのだろう。


「んで?そいつにするか?」

「白金貨100枚は厳しいとか言ってなかったか?」

「冗談だよ。どうせそんなの着ねえだろ?」

「当たり前だろ。こんな目立つ鎧なんかつけて外歩けるかっつーの」


 ワロウが見ていた防具は、どれも真っ白に光り輝いているようなもので目立つことこの上ない。こんな鎧を着て歩いていたらいい意味でも悪い意味でも注目を集めるだろう。


「ああ。それはしかたないのさ。ダンジョン品の特殊効果付きの装備は大体派手な色と形をしてるからな。すごいわかりやすいんだ」

「はあ?なんでだよ。地味な色のはねえのか?」

「理由は俺も知らん。ただ、地味な特殊能力付きってのは見たことないな」


 バルドは知らなかったが、実は特殊能力がつくような材料は限られており、そのどれもが特徴的な色を持ったものなのだ。なので、特殊能力付きの装備は色が派手で目立ちやすい。


「普通の防具でいい。今のよりはいい奴が欲しいけどな」

「欲がない奴だな。ここで逃したら特殊能力付きの防具なんていつ手に入るかわからないぞ?」

「特殊能力は欲しいが、盗人どもに狙われる能力までついてくるんだろ?勘弁してくれよ」

「お、うまいこと言うじゃないか。盗人どもに狙われる能力は確かについてくるな」


 はっはっはと朗らかに笑うバルドだが、ワロウにとってはおかしくとも何ともない。今のワロウにとっては特殊能力付きの防具は邪魔にしかならないのだ。


 特殊能力付きの防具から目を離して、ワロウは今度こそお目当ての防具を見つけるために辺りを散策し始めた。

 

 店に入ったときも思ったが、ここにはかなりの数の防具が置いてある。一つ一つを見ていたら、あっという間に日が暮れてしまうだろう。ある程度目星をつけながら探す必要がある。


 と、その時ワロウの目にある防具が目に入った。それは地味な色をしていたが、明らかに周りのものとは材質が違うようだった。


「なんだこりゃ?初めて見る材質だな」

「うん?ああ...なんだろうな、コレ。金属でもなさそうだが...どっちかっていうと革っぽいけどな」


 ワロウがもっとよく見てみようと手に取ったとき、異変は起こった。


“サバイバルベストA-2型を確認。ベストの内部チップと接続可能な状態です。接続を行いますか?”


「うおっ!?」


(今の声は...!!)


 ワロウは思わずその装備を落としそうになった。そんなワロウの様子を見てバルドが不思議そうな顔をする。


「おいおい、どうしたんだ?呪いの装備だったとか言うんじゃねえよな?」


(...バルドには聞こえてないのか?)


 今の声は間違いなくワロウの腕輪のものだった。何も知らないバルドからすれば、今どこからか謎の声が聞こえてきたはずなのだ。しかし、当の本人はそのような素振りを見せなかった。


 それを確認するためにも、ワロウは少し探りを入れた。


「いや...今、どっかから声が聞こえなかったか?」

「え?聞いてないぜ。お前もしかして、その装備から...やっぱり呪いの装備じゃねえのか?」


 バルドは薄気味悪いモノでも見るかのようにワロウの持っている防具を見ている。その反応から見るに本当に聞こえていなかったようだ。


(これ、オレにしか聞こえてなかったのか。まあその方がありがたいが)


 もし、周囲にも聞こえる仕様だったら、ワロウの腕輪は間違いなく呪いの装備だと勘違いされていただろう。聞こえない仕様で助かったと思った。


(それにしても...コイツが反応したってことは...これも古代の遺物なのか?)


 前はワロウが死にかけていた時に反応していたが、今は別に死にかけているわけでも何でもない。そしてワロウがこの変わった防具を手にした瞬間に声が聞こえてきた。


 それらを総合して考えると、この目の前にある防具はこの腕輪と何らかのつながりがある可能性が高い。...となると気になることがある。


「これ、誰が作ったやつなんだ?」

「聞いてみるか?おーい。ちょっといいか?」

「はいはい。なんでしょう」


 バルドが大声で店の奥の方に呼びかけると、中から仕立ての良い服装をした一人の男が現れた。年はワロウと同じくらいでいかにもベテランといったたたずまいだ。


「これ、誰が作った奴なんだ?ちょっと変わった防具だが」

「ああ、それですか。それはですねえ...」


 店員の話によると、この防具はある冒険者が遺跡から見つけてきたということで売りに来たものだったらしい。


 ただ、見た目こそ変わってはいるが、滅茶苦茶硬いというわけでもなく、何か特殊能力がついているというわけでもなく、ただの変わった防具になってしまっているとのことだった。

 

 流石に遺跡から見つかった古代の遺物ということだけはあって、普通の皮鎧とかと比べるとかなり丈夫なのだが、如何せんそれだけでは物足りない。


 この商店には特殊能力付きのもっと使えそうな防具がいっぱいあるため、このちょっと丈夫な変わった防具は今まで売れなかったそうだ。


「ちなみにいくらなんだ?」

「はい。白金貨30枚...」

「高え!!」

「一応、古代の遺物ということもありまして...素材自体も希少でしょうし、一応他の革防具と比べると硬いし軽いということもありまして...」


 焦って色々と理由をつけてくる店員。少し隠し事をしていそうだ。


「どうせ、古代の遺物だっていって焦って高値で買い取っちまったからとかじゃねえのか」

「......」

「調べてみたら特に能力もないただの防具でしたってオチだったんだろ」

「......」


 ワロウの指摘に対して黙っている店員。その顔からは脂汗が見て取れた。どうやら図星だったようだ。


「おいおい、ワロウ。あまりイジメてやるなよ」


 その様子を見て哀れだと思ったのかバルドがワロウのことをたしなめる。


「いや、別にイジメてるわけじゃないんだが...それにこれ、買うつもりだしな」

「えっ! これを買うのか?」

「ほ、本当ですか!お客様!」


 バルドと店員が二人とも驚いたような表情でこちらを見てくる。特に店員の方はやっと不良在庫が捌けそうで嬉しいのか目がきらきらと輝いている。


 ワロウからしてみれば、この腕輪が反応した時点で買わないという選択肢は無かった。もしかしたら前のように力が上がったり剣技が上手くなる可能性だってあるのだ。


 ただ、なにも無かった時のことを考えると、そのまま普通に買うには白金貨30枚は少々高すぎる買い物である。


「まあオレは金属鎧でガチガチに固めるタイプじゃないしな。軽くて硬いなら悪くない。...ただし白金貨30枚ってのは勘弁してくれよ?特殊能力もついてないんだろ?それ」

「...わかりました。では白金貨28枚でいかがでしょうか?」

「ほとんど変わってねえじゃねえか。それだったら他の特殊能力付きの防具を買うね」

「む...む。では白金貨26枚で...」


 当然店員側も安くは売りたくない。小刻みに値段を減らして粘ってくる。


 どうしてもこの不良在庫を捌けたいという店員側の弱みを突いて交渉するワロウ。結局のところ白金貨26枚にさらに追加で盾をセットにすることで決着がついたのであった。

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