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世界に名を馳せるまで  作者: niket
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第十七話 目を覚ました娘

「うぅむ...む...」


(いってえ...ちいとばかり飲みすぎたな...)


 次の日の朝、目覚めたワロウはひどい頭痛に襲われていた。昨晩ペンドールとバルドとの話が盛り上がり、その分いつもより多くの酒を飲んでしまっていたのだ。


 ワロウ自身もそこまで弱くはないと思っているのだが、バルドとペンドールはそれを上回る酒豪で、ワロウよりもかなり多く飲んでいたはずなのにピンピンしていた。ボルドーといい勝負かもしれない。


 ...まあ、朝になったら彼らも今のワロウと同じように頭痛に悩まされているかもしれないが。


 とりあえずふらふらとテーブルに近寄ったワロウは、その上にあった水差しからコップに水を注ぎ、それを一気に飲み干した。


「くぅぅ...たまんねえな...」


 思ったいたよりもワロウの体は水分を欲していたようだ。体の隅々まで水がしみわたっていくような感覚になる。まるで生き返ったような気分だ...というのは言い過ぎかもしれないが。


 水を飲んだ後はまたベッドへと倒れこむ。昨日は酔っぱらっていて気が付かなかったがこの布団も相当な高級品である。こんなふかふかなベッドで寝たことなど今までの人生で一度もなかった。


(流石...高級な宿は設備も違うな...)

(ああ...戻りたくねえなあ...)


 人間、一度贅沢を経験してしまうと中々元の生活に戻ることは難しい。ワロウもこの至福のひと時を経験してしまったことで、元の宿に戻りたくないという気持ちが出てきてしまった。


 もちろん今のワロウはここの宿にずっと泊れるほど稼ぎはないので、今日の夜からはその宿へと逆戻りするのは確定事項だ。だが、今はそんなことは考えたくもない。


 そんな感じでワロウが昨日の疲れ(大半は酒のせい)を癒していると、乱暴にドアがノックされた。ドンドンと響くその音がワロウの頭痛を促進させる。


「おい!ワロウ!俺だ!バルド!」

「うるせえな...開いてるよ。勝手に入ってくれ...」


 どうやらこの騒がしい来訪者はバルドだったらしい。ワロウは痛みが増した頭を抱えながら入っていいと許可を出す。


 するとバルドが興奮した様子でワロウに詰め寄ってくる。何かあったようだ。


「ワロウ!今からペンドールさんの部屋に行くぞ!」

「おいおい、どうしたってんだ?」

「お嬢さんが目を覚ましたんだ!」

「なんだと?」


 今まで半分寝ていたワロウの頭が一気に覚醒する。ここでぐずぐずしている場合ではなさそうだ。ワロウは慌てて寝間着から着替えると、身だしなみもそこそこにバルドとともに部屋を飛び出した。

 

 走りながら部屋まで向かっていると、途中ですれ違う宿の店員が迷惑そうな目でこちらを見てくるが、それどころではない。


 ペンドールの部屋までたどり着くと、一旦息を整えてドアをノックする。するとペンドールが内側からその扉を開けてくれた。


 彼の顔は喜色満面といった様子で、どうやら娘が目覚めたというのは本当らしいと分かった。


「ワロウ君!来てくれたか!娘が...娘が....」

「目を覚ましたんだろ?バルドから聞いている」

「そうか!体調は大丈夫そうだが、一応君にも診てもらいたいと思ってね。朝から呼びつけてすまない」

「いや、いいさ。で、その娘さんは今はどこにいる?」


 ”ああ、昨日と同じベッドでまだ休んでいるよ” そう言うとペンドールはベッドのある部屋の中へと入っていく。ワロウもそれに従って部屋の中へと入る。するとそこにはベッドから体を起こした少女の姿があった。


 その少女はワロウの姿を目にすると、不思議そうな顔をした。


「お父さん...この人は?」


 当然彼女はワロウのことなど知らない。ワロウが初めて会ったからずっと意識が無かったのだから。


「冒険者のワロウ君だ。リンネ、お前の病気を治してくれた人だ。挨拶なさい」


(...病気?)


 一瞬ワロウは訝しげな顔をした。今回彼女がとこに臥せっていた原因は病気ではなく毒だ。ペンドールもそのことはわかっているはずなのだが。


 ワロウがこっそりと視線をペンドールに向けると、ペンドールはリンネに気づかれないようにワロウに向かって小さく頷いた。


(そういうこと...か)


 彼女は身近な人間の裏切りによって毒を飲まされていたのだ。その事実はひどく彼女を傷つけることになるだろう。なので、ペンドールは病気のせいにして、毒殺ことは隠すつもりなのだ。


 確かにもし、本当のことを伝えるにしても、体が弱り切っている今言うべきではないだろう。


「わかりました...私はリンネ。病気を治してくれてありがとうございました」

「ああ。こいつぁ丁寧にどうも。冒険者のワロウだ。以後お見知りおきを」


 ワロウが芝居がかった所作で丁寧にお辞儀をすると、リンネはクスリと笑った。少しばかり打ち解けてくれたようだ。


「で、体調の方はどうだ?今、目覚めたばかりなんだろう?」

「あ、はい。そうです。さっき目が覚めて...起きたらお父さんがすごい勢いで突進してきたからびっくりしちゃいました」

「私も喜びを隠しきれなくてね...なにせ4日も意識がなかったんだ」

「えっ!私、4日も意識がなかったの?」


 どうやらリンネは自分が長い間眠っていたことをまだ伝えられていなかったらしい。本人からしてみれば一日くらいにしか感じていなかったのかもしれない。


「そうだ。本当にぎりぎりのところだったんだ。ワロウ君がいなかったら今頃どうなっていたか...」

「そんな...」


 自分が本当に死にかけていたと今やっと実感したらしい。リンネの体が小刻みに揺れる。死にかけていたことに対して恐怖を覚え、震えているようだ。まだ、体が本調子ではないのにここであまり精神に負荷をかけるのはよろしくない。


「死にかけたのは確かだが、今はもう薬も飲んだし大丈夫だ。昔のことなんかより、今は後のことを考えた方がいい」

「後のこと...?」

「そうだ。4日も寝込んでりゃ結構体がなまってるはずだ。まずは普通に生活できるところまで持って行かなきゃならん」


 ワロウがさりげなくこれから先についての話に誘導すると、リンネもそちらの方に気を取られたようで体の震えが収まった。


「そう...ですね。さっき立とうとしたらふらついちゃって...」

「な、何!危ないじゃないか、リンネ!立つときは私かバルドがいるときにしなさい!」

「もう...うるさいなあ、お父さんは」


 過保護な父親とその扱いに頬を膨らませる娘。ワロウもバルドもその光景を見て笑いを隠せずにいた。先ほどまであった憂鬱な雰囲気はどこかへ行ってしまったようだ。


「さて...まあ、体調の方は大丈夫そうだが、回復にはちっと時間はかかりそうだな」

「そ、そうなのかね...まずは何からやればいいんだ?」

「まずは...飯か。まだ固形物は体が受け付けないと思うから、粥とかから食事を始めるんだ」


 長い間ものを食べなかった後に、急に食べ始めると体が拒否反応を示すことがある。初めは柔らかくて消化に良いものから食べていかなければならないのだ。


「後は運動だな。多分調子が悪くなった辺りからあまり動けてないんだろ?」

「そうですね...体調が悪くなってからはずっと部屋に籠りっきりでした...」

「だろうな。まあ飯と同じように軽い運動から始めていくしか...ん?どうした?」


 ワロウが今後について話している最中に、リンネは何かに気づいたようだ。辺りをしきりに見渡し始めた。


「あ、いえ...ねえ、お父さん。マリーはどこにいるの?さっきから姿が見えないのだけれど」

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