すごい薬と便利なスキル
それは昨日の夜に見た夢だった。
いや、違うのかもしれない。
ステータスに新しいスキルが増えていたから。
記憶遡行 ってスキルなんだ。
触れた相手の過去の記憶を体験するように
見ることができるスキルだそうだ。
スキルを使ってどれだけ長く見ていたとしても、
現実世界で経過している時間は一瞬だそうだ。
何だか、人が使っていいスキルじゃない気がするんだけど。
あまり楽しい気分にならなかった気がするから、
使う気になれなかった。
ふと、そんな現実逃避をしたくなるような
箱の山が目の前にあったんだけど、
今は新たに獲得したスキルで
綺麗に消え去っていた。
ホッとしていると、またロアンヌさんに驚かれた。
いや、何で次から次へとこうもスキルが手に入るのって
言われても、自分でも全くわからないんだけど。
とりあえず、荷物は亜空間収納のスキルで楽に持っていけそうだから、
明日届く分はまた明日にして、今日の荷物をギルドの上の
ロアンヌさんの部屋まで持っていく事にしたんだ。
・・・忘れていた。。ココが山の麓で待ってるんだ。
ロアンヌさんにそのことを話したら、
「ちょうどいいわ。
先に昨日討伐したフレイムオーガの体が
もう冷えているでしょうから、素材を回収したら、
薬草採取に付き合うわ。
私の荷物を運んでもらうんだし、採取している間の
護衛くらいさせてね。」
そうだった、昨日何となくヒーロー気分で討伐した
フレイムオーガの魔石とかを
冷えてから回収する事にしてたんだった。
ロアンヌさんが昨日着て寝たスウェットも
亜空間収納に取り込んだ。
ステータス画面経由で中身が見れるんだけど、
あまりにも箱が多すぎて、気持ち悪くなるくらい
画面をスクロールしまくらないと
俺の荷物が見つけられそうにないので、
ギルド裏の解体場に一旦全部出して
俺の荷物と選別する事にした。
99%はロアンヌさんの荷物だけど・・・。
来た時と同じ装備になったロアンヌさんはかっこいいけど、
混合燃料を満タンにした草刈機を肩から下げて、
片手剣を腰に挿して、盾をリュックに合体させて背負った
俺は知らない人が見たら完全に危ない人だな。。
気を取り直して、ガルダホルンの街を目指して
草原の奥へ歩き出したんだけど、
「そう言えば、カケル君。
この辺りには薬草はないのかしら?
珍しい葉の形の草ばかりだけど。」
えぇっ!それは目から鱗だった。
あるかもしれない。
今こそ薬草鑑定の出番だ!
・・・苦いけどお茶にできそうな葉っぱ類がほとんどだった。
そんなものは無かった事にして、先を急ぐ事にした。
あの壁を越える時にちょっと試してみることにした。
まず、ロアンヌさんだけで歩いて行ってもらうと、
見えない壁に当たって止まってしまった。ツノが痛かったそうだ。。
後ろから、ロアンヌさんの肩に俺の手を触れながらだと、
スルッと通れた。
やっぱり、俺が触れていないと越えられないようだ。
ワイルドウルフがこっちの世界に来ていなかったのも
同じ理由かもしれない。ちょっと安心できた。
下って行く途中で、まだ少し熱を感じる
フレイムオーガの遺体があった。
嫌だったけど、亜空間収納に全部入れて
ギルドの解体場で取り出す事にした。
さらに下って行くと、
畦道に生えている花摘みをしているココが見えてきた。
こうしてみると、かなり幼い気がするけど、年齢とか
聞いてはいけない人が横に並んで歩いているので、
ココの年を聞きたい気持ちをグッと飲み込んだ。
待たせてしまったココにごめんねと謝って、薬草採取を始めた。
ココが採取するのは癒し草という傷薬になる薬草だそうだ。
待たせたお詫びがてら、薬草鑑定で探してあげると
とっても喜んでくれた。
俺は薬草から対火炎傷丸薬を作るついでに、
癒し草から傷薬も作ってみた。
どういう仕組みか全く分からないけど、
傷薬はカットガラスの瓶入りの液体の状態で出来上がってしまった。
ココもロアンヌさんも、俺も唖然として
俺の手の中に出来た傷薬の入った瓶をしばらく見つめていた。
製薬のスキルで中身が確認できた。
完全回復薬
怪我人に飲ませるか、かける事で効果を発揮する。
体の欠損含めて修復し、HPと耐久が最大値に回復する。
あ、これすごいやつだ。
何本か作ってストックしておこうと思って、
数本作った時にロアンヌさんにガシッと肩を掴まれて止められた。
「カケル君、スキルを使いすぎると
M P切れで倒れてしまうこともあるわよ。
そこまでにしなさいな。」
そうだった。スキルはMPを消費するから、
MPが0になってしまったら使えなくなるんだった。
気絶することもあるのか、気をつけよう。
MPがかってに増えるというか、自動で元に戻れば
楽だよなぁと思ってしまった。
(ピロン
MP自動回復のオートスキルを獲得しました。)
また、都合よく便利なスキルが獲得できたみたいだけど、
オートスキルって何だろう?
MP自動回復をタップしてみた。
MP自動回復
常時MPを自動的に回復する。
知力値が高いほど回復量が増える。
このスキルはオートスキルのため。
獲得時点から常に発動している。
これはすごいな。
じゃあと続けて、対火炎傷丸薬を10個ほど作って、
薬草も3束分ほど刈り取ってギルドに向かう事にした。
ギルドの受付には、カイルさんと戯れているシルバと
初めてみたウサ耳のお姉さんがいた。
シルバが尻尾をブンブン振りながら駆け寄ってきた。
可愛くて思わず抱き上げてしまった。
なんか一晩でずっしりとした気がする。
シルバと手を繋いで、カイルさんの列に並ぼうとしたら、
ロアンヌさんに裏手の解体場に先に行きましょうと声をかけられた。
ウサ耳のお姉さんの列に並んだココと別れて、ついていった。
別れ際に、ココが後で串焼きを奢ってくれると言ってきた。
荷物とか解体作業があるので、ギルド前で待ち合わせする事にした。
解体場には、隻眼で片足が義足の虎模様の、いや、
まさに虎という感じの強面のおじさんがいた。
「おう、坊主、見ない顔だな、旅人かい?
俺はダガーだ。よろしくな。
で、手ぶらで何しに来たんだ、ロアンヌ?」
「あ、カケルです、昨日駆け出しの冒険者になりました。
これからもよろしくお願いします。」
「ダガー、実はちょっと内緒にして欲しいのだけど、
人払いはいいかしら?」
「ああ、ちょうど他のもんは休憩に行ったところだ。
俺しかいないぜ。
何だ?」
「じゃあいいわね。
カケル君、全部出しちゃって。」
「はい。
(亜空間収納 全開放)」
広い解体場に白い靄が広がり、スゥッと消えていくと、
そこには箱の山と、その上にスウェットの塊がちんまりと、
少し離れてフレイムオーガがゴロンと転がっていた。
収納した時系列で並んでいる感じがした。