異世界で初お買い物
ココに連れられてお店に入ると、
小柄なお姉さんが店番をしていた。
「いらっしゃい。
どんなものをお探しですか?」
「わたしと同じ薬草採取用のナイフが
欲しいのにゃ。
護身用の剣も見繕ってあげて欲しいのにゃ。」
口を開く前にココが欲しいものを言ってくれたので
頷くだけだったよ。
「薬草採取用のナイフは清潔にしておくことが
重要なんですよ、いいですか?
間違っても魔物とかに
向けないようにしてくださいね。
護身用の剣だけど、
それなりに力があるなら両手剣、
盾と一緒に使うのなら片手剣がおすすめね。
盾も小振りなものから
大型の戦闘用のものまであるわよ。
君なら中型の盾でも使えそうね。」
「じゃあ、片手剣と中型の盾でお願いします。」
「なら、このセットがおすすめね。
この盾は普段背中に背負っておくことができるのよ。
銀貨2枚でいいわよ。」
「お得にゃ。
それでいいと思うのにゃ。」
「うん、じゃそれでお願いします。
支払いは?」
「冒険者カードで引き落とせるわ。
あら、アイアンクラスだったのね。
これからもご贔屓にお願いね。」
「わわっ、すごいにゃ。
カケルはやっぱりベテランクラスだったにゃ。」
腰に巻きつけて使う剣を差すベルトも
セットでもらえた。
これでなんとか様になってきた感じがする。
「ところで、肩から下げてるものって何かしら?
初めて見るんだけど。」
「あ、これは草刈機です。
雑草とかをまとめて刈り取る機械なんです。」
「あら、マキナの類なのかしら?
不思議なものも持っているのね。
ちょっと見せてもらってもいいかしら?」
「どうぞ。」
ワイルドウルフも刈ってしまった機械だけど。
お姉さんは構造を繁々と観察して、
メモを書いていた。
「ありがとう、とっても面白い構造ね。
参考になったわ。
じゃあ、これはお礼でおまけしてあげる。」
両肩を守れるショルダーガードという防具だそうだ。
硬い革製なので比較的軽くて丈夫なのだそうだ。
お礼を言ってお店を出たら、
ココが美味しい串焼きがあるから
食べに行こうって言ってきた。
「すぐそこにゃん。
あの屋台にゃん。」
聞けば1本銅価1枚だそうだ。
結構いい値段がする串焼きだけど、
大きめの肉が5個もついてて
1本でお腹いっぱいになったよ。
ココにも1本奢ってあげたんだ。
一緒に食べていると目線が気になって、
気配を手繰っていくと
足元に小さな犬耳の子供がいた。
かなりぼろっとした感じの服を着ていて
お腹を鳴らして見つめてきていたから、
条件反射でもう1本買ってあげていたよ。
可愛い短いしっぽがちぎれて
飛んでいきそうなくらい
振って喜んでくれた。
「あー、知らない子にあげたらダメにゃん。
きっと面倒な事になるにゃん。」
ココが言った通り、その犬耳の子は
俺のジーパンのを掴んで離れなくなって、
仕方がないので連れていく事にした。
ココとは明日、出会った山の麓で落ち合う事にして、
俺は犬耳の子を連れて親御さんを探す事にした。
「坊や、お父さんかお母さんは何処にいるのかな?」
「いない。」
「えっ?いないって、じゃあ今までどうやって
暮らしてきたの?」
「落ちてるものとか、貰いものとか食べてた。
串焼きは初めて食べた。
お兄ちゃんについていきたい。
ボク、お手伝い頑張るから、連れて行って。」
うーん、いいのだろうか?
困ったな。
そうだ、冒険者ギルドで聞いてみようと思った。
冒険者ギルドにつくと、
夕方近くになっていることもあってか、
人がほとんどいなくてカウンターに並ぶ人もいなかった。
「カイルさん、ちょっと教えて欲しいのですが。
この子、孤児みたいなんですけど、
一緒に連れて帰ったり、連れ歩いたりしても
問題ないんでしょうか?」
「ああ、スラムの子だね。
うん、奴隷商の子だと首輪がついているから
買い取らないと連れ歩けないけど、
そうじゃない孤児の子は
誰が引き取っても問題ないよ。
薬草採取に連れて行ったりするのなら、
カケルの荷物持ちとして登録するといいよ。
今手が空いてる事だし、やっておこうか?」
「お願いします。
坊や、名前なんて言うのかな?」
「わかんない。お兄ちゃんつけて。」
「えっ?いいのかな?
そうなんだ、いいんだ。
じゃあ、そうだなぁ。」
その子の毛並みをじっと見ていると、
薄汚れているけど洗えば銀色に輝きそうに思えて
その子に向けて手をかざして念じてみた。
(洗浄)
やっぱり、綺麗な銀色の毛並みの子だった。
「うん、シルバでどうかな?」
「うぇっ?お兄ちゃん何したの?
身体中がスッキリした気がするんだけど。
うん、シルバでいいよ、
いい名前つけてくれてありがとう、
お兄ちゃん。」
「うわっ!カケル君、君はスキル持ちだったのかい?
しかも服も顔も髪も体も綺麗にできるなんて、
すごいスキルだよ。
本当は手続きに費用かかるけど、
僕にもそのスキル使ってくれるなら
無料でいいよ。」
「あ、じゃあ、使いますよ?」
カイルさんにも手をかざして、
(洗浄)
「おおっ!
これは凄いよ、カケル君!
何となく体の不調も治ってる感じが
するくらいだよ。」
その様子を見ていた隣のツノがあるお姉さんまで
グイッと近寄ってきていたけど、
なんだか片足を引いていたように見えた。
「あら、凄いスキルを持っているのね?
どうかしら、私にも使ってくれたら、
その子の靴とか装備も
プレゼントしてあげるけれど。」
言われるまで気づいていなかったんだけど、
シルバは裸足だった。
「ごめんね、シルバ、
気がつかなかったよ。
お姉さん、お願いできますか?
スキルはまだ使えそうなのでいいですよ。」
ステータスを見ると、MPがまだまだ余っていた。
どうやら洗浄のスキルはMP1しか使わないみたいだ。
「じゃあ、お願いね。
私はロアンヌよ、よろしくね。」
「あ、俺はカケルです。こちらこそよろしくです。
じゃあ、使いますね。」
ちょっと緊張して力が入ってしまった。
綺麗なお姉さんだからもっと綺麗になるのかな
痛めてそうな足も治るといいなと思いながら
ロアンヌさんに手をかざしてみた。
今までと違って白い靄がかかって
すぐに消えていくのが見えた。
ロアンヌさんは突然立ち上がると、
その場で屈伸運動を始めたんだ。
何故か、ロアンヌさんは泣き出して
カイルさんに縋り付いていた。
(ピロン
浄化回復のスキルを獲得しました。)
あ、また新しいスキルを獲得できたみたいだ。
ロアンヌさんは魔物に膝を切り裂かれてから
まともに歩けない状態だったそうだ。
神殿でも治せないレベルだったから
諦めていたそうだ。
カウンターから出てきて泣きながら感謝されてしまって
何か俺が悪いことをして泣かせたみたいな気がして
居心地が悪かった。
「何を騒いでるんだ?」
カウンターの奥の方からずんぐりとした
ヒゲモジャのおじさんが出てきた。
「ギルドマスター、見てください。
私の膝が治ったんです。
歩けるんです。もう諦めていたのに。
奇跡が・・・」
ロアンヌさんはそのままギルドマスターさんに
縋りついて泣き続けていた。
「そうか、そうか。
辛かったな。」
優しく肩をトントンしている姿は
娘をあやしているお父さんのような雰囲気がして、
少し羨ましかった。
しばらくすると、ロアンヌさんが落ち着いて
改めてお礼を言われた。
ギルドマスターのガランさんからも、
感謝の言葉をもらって、
ギルド内の食堂で夕ご飯をご馳走になった。
シルバはものすごく美味しいといい笑顔で
一心に食べていた。
やっぱり小さい子の笑顔はいいね。
このところ、ワイルドウルフが増えてきて
ロアンヌさんのようにひどい怪我を負う人が
たくさん出て困っているそうだ。
教会でも治せない人には、
ギルドは討伐以外の簡単な仕事を
斡旋しているけれど、
それも出来ないくらいのひどい怪我を
負っている人がいるそうなんだ。
その時、思った。
俺はきっとこのためにここに来たんだって。
周りには他の人がいなかったこともあって、
俺はこことは違う世界から来たことを話す事にした。
最初は信じられないという顔をされたけど、
ギルドにはステータスを見ることのできる
ボードがあって、
それを使って俺のステータスを見てもらった。
スキルの多さにもびっくりされたけど、
目の前で、薬草から一瞬で丸薬を作り出して見せたら、
あんぐりと大きな口を開けて驚かれた。
普通は色々な器具を使って
時間をかけて作るものだそうだ。
女神様のギフトを持っていると分かると
王都へ召されてしまう可能性があるから
今後絶対他の人には見せないように、
と念を押されてしまった。
ガランさんから、このギルド専属の薬草士として
登録することを勧められた。
何かあっても冒険者ギルドの職員待遇で
対応、介入できるから守ってもらいやすくなるんだって。
確かに王都とかに連れて行かれるのは
なんか嫌な感じがするのでぜひお願いしますって
頭を下げた。
いや、こちらこそお願いしますと
皆さん席から立ち上がって
お辞儀をされてしまったんだ。
さっき座ったままでお願いしますって
言ってしまったから、
少し恥ずかしくなった。
ふと思い立って、
まだ明るいうちに一度元の世界に戻れるか
確認しにいく事にした。
それならとリハビリとお礼を兼ねて
ロアンヌさんが一緒についてきてくれる事になった。
シルバはギルドの上階にある職員用の部屋があるので、
カイルさんが一晩面倒を見てくれるそう。
しばらく待っていると、
ロアンヌさんは双剣を腰に差したかっこいい姿になって
一緒に山に向かっていく事になった。
俺は草刈機をいつでも始動できるように手に持って
山を登って行った。
進む先の方から遠吠えが聞こえた気がした。