潜在スキル
ほのかに硫黄の香りがついた単純温泉の
お風呂にヘスティア、シロミズチ、ココ、
ザラ、ソフィに遅れて、さつきが
加わって浸かっている。
メイドの二人は最初は遠慮したが、
ヘスティアから一緒に入ってと
頼まれては拒めなかった。
「あら、カケル君、
調理することを楽しんでるみたいね。
いい傾向ね。」
「うむ、新たなスキルを
うまく使って欲しいものだ。
生きることの楽しさを
実感できるようになれば、
カケル殿の魂の輝きも強くなる。
隠者のような生き方をするには
若すぎるのだ。」
「えっ!?
また鞍馬君は新しいスキルを
獲得したんですか?
いーなー」
「カケルはどんどんスキルが
増えていくのにゃ。
普通は一つでも獲得できたら
いい方なのにゃ。
すごいことなのにゃ。」
ヘスティアとシロミズチの発言を受けて、
さつきとココがそう反応した。
「そうそう、カケル君には
いずれやって欲しい事があるのよね。
だから、もともと持っていた隠身の
固有スキルは使わない生き方を
これからはして欲しいのよ。」
「「「「えっ!?
固有スキルって、何(なのにゃ、ですか、
でしょうか)?」」」」
ここは丸い目をより一層見開いて、
さつきは湯から立ち上がって、
ザラとソフィは小首を傾げて聞き返した。
「あら、あなた達みんな揃って知らないって
顔しているわね。
そうよね、伝承されることもないから
知られていなくても仕方ないことよね。
固有スキルっていうのは、ステータスには
はっきりとは現れないわ。
簡単に言うと、持って生まれた力よ。
カケル君の場合だと、鞍馬一族特有の
隠身 のスキルがあるのよ。
カケル君はこっちの世界で学生時代に
無意識で頻繁に使っていたみたいね。
ココには、 危険探知 があるわね。
あなたはその力を無意識に使っているから、
これまで薬草採取の時に、魔物に
出会わなかったのではなくて、
スキルで自然とその場所を避けていたのよ。
さつきには、 集中 のスキルがあるわね。
これまで自然と発動していたから、
自分より強い相手でも全然怯まなかったり、
動きを見切れたり、緊張しそうな時ほど
余計な力が抜けたりしていたはずよ。
ね?思い当たる節があるでしょ?
貴女は欲しいスキルは持っていたのよ。
自分の強さを弱さを認めて前に進めばいいわ。
その純粋さにカケル君を巻き込んで欲しいわ。
ザラは 魅了 があるわね。
うーん、聞かなかったことにして欲しいけど
貴女はある種族の血を引いているからなのよ。
人としての欲が少ないカケル君に、
出来れば意図的に使ってくれると、
いい意味で目覚めてくれそうだわ。
カケル君は周りへの気配だけでなくて、
自分の感情も、夢も、希望も、性欲までも
心の奥へ隠してしまったのよ。
もちろん、貴女さえ良ければ色々と
教えてあげてくれてもいいと思うわ。
あら、まんざらでもないのね、ふふふ。
ソフィは 精霊使い のスキルがあるわね。
気付いていたかしら?
貴女が何かを望む時、精霊はそっと力を
添えているわ。
今の貴女では、目では見えない存在だわ。
でも、確かにそこにいるの。
貴女は一人じゃないのよ、ソフィ。
ずっと貴女を見守っている精霊がいるわ。
そうね、聖化が進めば目で見えるようになるわ。
でも、今まで通りの生き方はできなくなるわ。
そうね、ここにいるみんなに
共通することだけれど、
ここは神域の一部なの。
そこに取り込んでしまったのは
私のミスなのだけれど、
貴女達はみんな聖化が進んでしまったわ。
そうね、普通の人より長生きになると思って。
今言えるのはそれだけだわ。」
みんな思い思いに自分の手のひらを見つめたり、
天井に登る湯気を見つめたり、揺らぐ湯面に映る
顔の見つめたりしていた。
「過去を悔いて生きていく生き方は美しくない。
我は過去に酷いことした龍であったが、
ヘステイア様に救われた身だ。
これからをよりよく過ごしていくことで
やり直そうと心に決めているのだ。
そなた達も過去に様々なことがあって
心に傷を負っているとは思うが、
この湯で体を癒すだけでなく心も癒して
これからを強く生きていって欲しいのだ。
そんな願いをこの湯の中に溶け込ませてある。
そなた達の思いは、そこから溢れる湯のように
ごく自然に流されて消えてゆくのだ。
我は時間薬という表現が好きだ。
この湯が時間薬の効きを早めてくれることを
願っているのだ。」
俯いていたザラとソフィは目を潤ませていたが、
シロミズチの言葉と願いを聞き終えると、
一つ大きく息を吐いてホッとしたように
互いの顔を見合わせて笑顔を浮かべあった。
女神達がそんな話をしている間に、カケルは
広間の方で、テーブルに菓子類の配膳をしたり、
甘い香りがついたホットミルクの入った鍋を
ガスコンロの上で保温したりしていた。
キッチンの方では、シフォンがカケルに教えられて
レンジでチンしたご飯を炊飯ジャーに移して
サフランライスにしている。
調理士のジョブを共有獲得して選択した後に、
食材加工のスキルが付与されており、
そのスキルを使って、出来上がっているご飯の中に、
サフラン、塩、バターを絡めて浸透させている。
カレーも何種類かのレトルトパックを加熱調理して
深底鍋に移して食材(フレームオーガの肉とか)を
足してさらに温めている。
食欲をそそる香りにシフォンは満足していた。
もう一品はサケの切り身を軽く炒めて、野菜と
味噌ダレに絡めた前菜を出す予定だ。
食後のデザートはパック入りのあんみつを
ガラスボールに移して、氷水を入れた
大きめのガラスボールに浸して冷やすことにした。
器によそったあんみつの上には、
さっきのパンケーキのトッピングで作った
ホイップクリームをのせて完成させる。
ホイップクリームを電動ミキサーで作っている時に
泡が飛んで頬についてしまっていたのだが、
気付いたカケルがシフォンの頬から指で取って、
そのまま舐めとったという行為があった。
獣人の自分を嫌うどころか何も気にせず、
頬についた泡クリームを舐め取られてシフォンは
命を救ってくれた薬をくれた恩義以上の思いを
胸に抱いてしまった。
何より、何を作るか考えている時に
素材も味もよくわからないシフォンに
優しく接してくれたカケルのそばに
ずっといたことで距離が縮まった気がしていた。
そんな中で新たなスキルとジョブを得た彼女は
カケルを運命の人と心に決め、一生そばに仕えたい、
一緒にいたいと願うのだった。
一方のカケルはいい匂いのするシフォンのそばに
ずっといたことと、頻繁に触れられたことで
性的な衝動ではない、これまでに感じたことのない
感情が少し芽生え始めていた。




