薬草士の家は豪華だった
もっとスキルを!力が欲しい!とか叫びながら、
貴船さんが宝石のついた宝剣を振り回している。
薙刀は俺の亜空間収納に直してある。
どこに向かって叫んでいるのか分からない貴船さんを
ギルドの解体場にそっと放置して、
俺達はその場を逃げるように離れることにした。
ココとシルバと一緒に、このガルダホルンの街で
薬草士として活動できる拠点となる家を探すためだ。
ギルドの食堂の奥の方に、物件情報が書かれた紙を
ぺたぺたと貼ったボードがあった。
ココ曰く、薬草の保管室、乾燥室、下処理室、
調合室と製薬室は一緒でもいいけど、
4部屋は欲しいそうだ。
寝る部屋は小さくていいし、他に台所とトイレ、
小さなお風呂(湯浴みレベル)があれば十分だそうだ。
結構大きな家じゃないと無理そうだし、
家賃高いだろうなぁと思っていたら、
家賃は1年銀貨1枚とか、売り家でも金貨1枚とかで
10部屋前後ある家がゴロゴロしていてびっくりした。
安すぎない?と思っていたら、
「この街は冬の寒さが厳しいから
定住する人が少ないのにゃ。
宿は多いけど、家は空き家だらけなのにゃ。
この物件とか、この物件は、
貴族の別荘だった家にゃ。
この街は夏場の避暑地として、
貴族がたくさんきていた時があったそうにゃ。
北側に広がる湖が汚れてからは、
今のように夏場でも人が少ないのにゃ。
おかげでお得な物件がいっぱい安く出ているのにゃ。
湖の匂いはきついけど、他の条件はいいのにゃ。
同じ金貨一枚でもこっちの物件の方が
部屋が多くていいのにゃ。
この物件がお勧めなのにゃ。」
金貨一枚か、割り勘で出すにしても安いな。
「俺には異論ないよ。
シルバもいいかい?」
「うん、僕は広ければ嬉しいな。」
じゃあ、一度見せて貰おうということで
その紙を持って受付に行った。
ウサ耳のネイルさんは人気の受付嬢らしくて
長い列が伸びていた。
暇そうにしてるカイルの前に行くと、
先に入金するよっと言って
ギルドカードの提出を求められた。
今日は都合が悪くなって、カイルもロアンヌさんも
向こうの俺の家には遊びに行けなくなったそうだ。
ロアンヌさんからは
荷物が届いたら、面倒だけど、
ギルドまで持ってきてくれると嬉しいわ
と伝言があったそうだ。
明日も納品に来る予定なので、
いいですよと返事をしておいた。
俺とココは一緒に出して入金してもらった。
昨日と今日の2日間で採取した薬草があったから、
一人金貨一枚以上の高収入になった。
物件の案内をしてくれるのは意外な人物だった。
解体場にいるはずのダガーさんだ。
「カケル!
後で、目一杯礼を言わせてくれ。
まずは、物件を見に行こうか。」
ダガーさんは昨日まで隻眼で片足が義足の
虎人族のおじさんだった。
今はどこにでもいる普通のおじさんだった。。
体の欠損部分が全部直ったんですね?
俺の作ったあの薬かな。
街の北門より西側に湖が広がっている。
湖はヘドロのようなものが堆積し、
嫌な匂いを湖畔に漂わせている。
その匂いの中にその物件は建っていた。
27部屋もある貴族の一家が
一時住んでいた大きな屋敷だ。
部屋の内装も豪華だ。これで金貨一枚とは安い。
ココも気に入ったようだけど、匂いがきつくて
気分が悪くなりそうだにゃと心配していた。
シルバはキツすぎるのかすっかり元気をなくしている。
スキルを使おうと思った時、ダガーさんが
がっしりと両手を握ってきた。
「カケル!
この屋敷には俺たちしかいねぇ。
礼を言わせてくれ。
カケルが作ってくれたあの薬のおかげで、
俺はまた冒険者に戻れる体になったんだ。
もう諦めていたけどよ、やっぱ嬉しいよ。
ありがとう!感謝してもしきれねぇ!
もし、ここがいいのなら是非俺に出させてくれ。
それでも足りないくらいの恩があると思ってるんだ。
それと、絶対厄介な奴らがちょっかいを出してくる。
ギルド長は何としても守ると言っていたが、
王都にまで知れてしまったら、どうなるか分からん。
ただ、そうなったら、あの薬の納品を頼むことに
なるかもしれねぇ。
その調合に必要な材料があるんなら、言ってくれ。
俺にも薬草採取を手伝わせてくれ。
で、どうだ?」
「うん、ここがいいと思う。
湖にスキル使ってみたいんだけど。」
「えっ、この匂いを消せるのか?
ちょっと待ってくれ。
・・・・。
うん、今この屋敷には俺たちだけだ。
使っても大丈夫だ。」
何かを探るような顔をしていたダガーさんの
大丈夫の言葉を聞いて、
俺は家の中から湖に向けてスキルを使った。
この匂いがマシになるようにと願いながら。
(浄化回復)
家の中と湖面を覆うように白い靄がかかっていた。
やがて、靄が晴れると、澱んでいた湖は
淡い青色に透き通った湖になっていて、
匂いが消えていた。
波打つ湖面が涼しげな風とともに
喜んでいるように思えた。
それから、ココの常宿に戻って荷物を引き上げ、
俺の亜空間収納に一時預かっておいて、
必要な物をココとシルバと3人で買いに出た。
ダガーさんは、屋敷の維持管理も
出来る住み込みメイドを俺のために
雇ってくれるそうで、ギルドに戻っていった。
後で貴船さんの回収兼ねて寄るので、
その時に面接して決めることになった。
「調合用の道具類もこれで何とかなるのにゃ。」
理科の実験道具のようなものが沢山並んだ専門店で
買い物を終えた俺達は、ギルドに戻って
貴船さんと合流した。
「ちょっと、鞍馬君!
置いていくなんて
ひどいじゃないの!
私も家の中を見たかったわ。
後で絶対に見せてよね。
それと・・・
鞍馬君はああいうメイドさん達が
好みなのかしら?意外だわ。」
放置していかれて、ちょっと怒っていた
貴船さんだったけど、
ダガーさんの横に並ぶメイドさん達を見て、
より一層機嫌が悪い顔になっていた。
「いや、ダガーさんが雇ってくれる方達なので、
俺の好みとかいうことはないです。」
メイドさんは3人並んでいて、みんな胸が大きくて
胸元が深く開いている。
ついそこに目線が吸い込まれそうになる。
3人とも美人なお姉さんだ。
「この服は彼女達の娼館の服だったんだ。
後で普通の服を買って渡すから、
今だけ勘弁してくれ。
実はこの3人とも昨日まで死にかけてたんだ。
そうだ、俺と同じ薬で命を取り留めたんだ。
彼女達にカケルのことと、メイドの話をしたら、
自分達から進んで、是非カケルの家で働きたいと
言ってくれたんだ。
出来たら、3人ともあの家に住み込みで
雇ってやりたいんだが、どうだろう?」
「俺は全然構いません。」
「ココもいいのにゃ。」
「僕は遊んでくれる人ならいいよ。」
3人全員のオーケーが出たので
お姉さん達は嬉しそうな笑顔で
よろしくお願いしますわ、ご主人様
と色っぽい声で挨拶された。
「あ、鞍馬君。
私も住ませて貰うけどいいわよね?
お金ならお給料として払うから。」
否応なく貴船さんも住むことで決定して、
全員で家に向かうことになった。
最初は遠慮されたけど、途中で
メイドのお姉さん達の服や生活用品も
支給品ということにして無理矢理買って渡した。
家を初めてみた貴船さんとメイドさん達が固まっていた。
どこからどう見ても一流貴族の屋敷の佇まいだそうだ。
お姉さん達は気合を入れて掃除を始めた。
メイド長には、最年長者の羊さんみたいな
巻ツノがある赤い髪と瞳の魔族の
ザラさんになって貰った。
当然、年齢は聞いていません。命は大切にしないとね。
家事一般は色白で面長美人の白銀狐族の
シフォンさんがお料理好きということで
主担当になってもらい、
庭周りの薬草の世話とかは
緑色の髪と薄い水色の瞳の
エルフ族のソフィさんになってもらうことになった。
家は3階建てで1階がホールと食堂、お風呂があって、
客間が5部屋に、メイドさん達の給仕室が10部屋、
2階はダンスホールのような広間と食堂、客間が5部屋、
3階はゲストルームのようなおまけの部屋がついた
主寝室と客間が5部屋ある。
主寝室はココに使ってもらうことになった。
俺はシルバと1階に、貴船さんは
刀剣が振り回せるからと2階に部屋をもつ事になった。
1階の残り4部屋が薬草研究用に使う部屋となった。
食事は1階の食堂を使うことにして、
早速みんなでお昼にした。
シフォンさんが手早く軽食を作ってくれた。
お昼を食べる習慣がないそうなので、
軽食で丁度いいかなと思った。
一息ついたら神殿に行きたいと俺が言ったら、
ココにもダガーさんにもメイドさん達にも反対された。
でも、俺がヘスティア様に声をかけられたと話すと
それでも出来れば準備をしてからにして欲しいと
明日以降で調整することになった。
シルバは、さっきまで元気よく軽食を食べていたのに、
今はメイドのお姉さん達に抱っこされて、
そのままお昼寝タイムになるようだった。
メイドさん達にお願いして
寝かしつけてもらうことにした。
ダガーさんはギルドに戻っていった。
ココとメイドさんと貴船さんと一緒にお見送りした。
なんか本当に自分達の家っぽいなと思った。
ココは早速部屋を整備して薬草研究用にするそうだ
俺は特に手伝う必要がないそうなので、暇になった。
まだ、向こうの家に戻るには早過ぎる時間だったので、
2階の広間であの薙刀を振ってみたくなった。
貴船さんがいい笑顔でついてきていた。
青い色の空の風景が描かれた綺麗な天井の広間だった。
薙刀を振り回しても全然平気な高さがある。
亜空間収納から薙刀を取り出して、
軽く振ってみた。
何となく、振り方を体が覚えているような感覚があった。
そんなはずないのに。
何となく、夢でみた記憶がある気がした。
今は亡き父さんが揺らぐ炎の明かりの中で
薙刀を振っている姿が浮かんできた。
目を閉じて自然にその動きをトレースできる気がした。
シュッ! シュッ! シュッ!
足捌き、体捌きがどんどん早くなっていくような
気がした。
(すごい!鞍馬君 本当に初めて振るのかしら?
動きがとても綺麗で無駄がないわ。
でも、これって型じゃないわね。
何かしら、どこかでみた記憶があるのだけど、
思い出せないわ。
どんどん早く鋭くなっているわ。
いいスジしているのね。羨ましいわ。
私もお母さんくらい振れたらいいんだけどな。)
さつきが見つめる前で、瞑目したままの翔は
彼女以外の誰かが見つめる気配を感じ始めていた。




