本当の結婚式
春。
ジルベールとリリディアは、リリアの花に囲まれた教会で結婚式を挙げることになった。
小さな教会にはヴァルフォン家の使用人、そして兵士たちやその家族だけではなく、エルベルトの皇子であるヴィクトールや彼の側近たちの姿もあった。
前枢機卿の弟である青年神父の前で、二人は夫婦として誓いをたてる。
「あなたはリリディアを妻とし、ディアナ神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
厳かに問う神父の声にジルベールは力強い口調で答える。
「誓います」、と。
神父は次にリリディアに問う。
「あなたはジルベールを夫とし、ディアナ神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
リリディアは頬を染め、嬉しそうに答える。
「誓います」
神父は若く美しい二人を眩しそうに見つめながら、彼らに言った。
「それでは誓いの口づけを」
二人は向かい合い、ジルベールは花嫁のベールを上げる。
そして――――
アロナは零れる涙をハンカチでおさえる。
彼女は母親のような姉のような、妹のような……とにかく家族と同じ気持ちで、二人のキスシーンを見守っていた。
ああ、なんて素敵な光景なのだろう?
ジルベールが、リリディアが幸せになって本当に良かった、と彼女は心の底から思っていた。
「次は俺たちの番だな」
甘く囁くのは横に立つヴィクトール第一皇子だ。
アロナはかぁぁぁっと顔を真っ赤にする。
ニールデン王国侵攻では多大な活躍をし、猛将ヴァルフォンを味方につけた彼は、既に皇帝を凌ぐ権力を持っていた。
そして彼は亡国の姫君であるアロナージュ=ルビナスを正妃に迎えることを宣言している。
教会から出たリリディアとジルベールは周りから祝福の花びらのシャワーを浴びる。
リリディアは手に持っていたブーケを高く投げる。
ブーケはアロナの手の中におちた。
「リリディア」
「次はあなたの番ね、アロナ」
「リリディアぁあぁ」
アロナは感極まってしまい、リリディアに抱きついた。
大泣きしながら「リリディア、大好きっっ!!」と叫ぶ少女に花嫁は慌てる。
そんな光景にヴィクトールは苦笑する。
「やれやれ、妬けるなぁ」
優しい日差しと暖かな風が吹き抜ける春。
リリアの花吹雪もまた二人の結婚を祝っているかのようだった。
後にジルベール=ヴァルフォンは、エルベルト帝国第一王子、ヴィクトール=エルベルトに仕えることになった。
同時に亡国の姫君、アロナージュ=ルビナスが正妃としてヴィクトールの元に輿入れをした。
まるでアロナ神の化身のよう。
エルベルトの人々は、美しいアロナージュを大いに称えたという。
実際に彼女は守護神であるアロナにとても愛された存在だった。
勇猛果敢な騎士でもあった彼女は、政敵となった現皇帝の軍がヴィクトールの住む城に攻め込んで来た時、先頭に立って果敢に戦い、指揮官の首をとったという。その強さはまさに神がかっていたと、後世に伝えられている。
ヴィクトールが皇帝の座に就いたと同時に、ジルベールは将軍の座についた。
妻であるリリディアと共に、ディアナ神から気に入られるようになった彼は、戦では負けなし、ヴァルフォン領も年々産業が豊かになり、エルベルト帝都に次ぐ都として発展していった。
ヴィクトールは生涯、ジルベールに友として接し、またジルベールも彼の気持ちに応えるべく誠心誠意仕えた。
リリディア=ヴァルフォンは、ますます美しい女性に成長し、ジルベールとの間に6人の子供を授かることになる。
男女ともに美しい顔をした子供であったが、娘たちはみんな不思議とリリアの花の色と同じ髪の毛の色だったという。
後に、姉妹の中でも最も美しい娘リリベール=ヴァルフォンは、エルベルトの第一皇子、アロナードに見初められ結婚することになる。
リリディアは沢山の子供、そして孫に囲まれて、夫と共に穏やかな老後を過ごしたという。
次回、最終話です!
本日中に更新しますので、よろしくお願いします。