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虐げられた令嬢とカエル辺境伯  作者: 秋作


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結婚式

 オルディアナ教会控え室。

 リリディアの花嫁衣装を着せ終えたシスターたちは、その輝くような美しさに、うっとりとした。


「なんと美しい花嫁」

「リリア色の光沢のドレスなんて初めて見ましたわ。とても、とてもよくお似合いです」

「あああ……何故か私ディアナ神に祈りを捧げたくなりましたわ」

「私もです。この美しさは、神のなせるわざとしか思えません」


 まるで神々しいものを見るかのように自分を見つめるシスターたちにリリディアは戸惑う。

(やはりディアナ様から賜ったドレスは凄いのね。普段の私を数百倍美しくみせているんだわ)

 九割はリリディア自身の生来の美からくるものなのであるが、リリディアにはもう一つその自覚がなかった。

 そこにアロナが控え室に入ってくる。

 彼女はリリディアの護衛として、女性騎士団の正装を身につけていた。

 彼女の凜とした美しさに、シスターたちはまた別の意味で見惚れてしまう。


「なんと凜々しいお方」

「ヴァルフォン軍女性騎士団団長のアロナ様ですわ」

「私……あの方ならば……は……何を邪なことを!?」



 アロナに手を引かれ、リリディアは礼拝堂へ向かう。

 運命の時が訪れようとしていた。



 一方礼拝堂では。

 鉄仮面をかぶった花婿が花嫁が来るのを待っていた。

 その姿を見て人々はざわめく。


「おやおや……ヴァルフォンは随分と恥ずかしがり屋なようで」

「無理もない。あの醜いカエル顔はこの神聖なる礼拝堂には相応しくないと思ったのであろう」

「そうだな。前回の社交界の時もまさに美女と野獣であったからな」


 可笑しそうに笑い合う貴族たちに。

 ジルベールの顔を知るレイスターの面々は何とも言えない複雑な表情を浮かべる。

 やがて扉が開かれ真っ白なブーケを持った花嫁が入場する。

 まるで女神が具現したかのような美しさに、その場にいる人々は目を見張る。

 ヒルディアはその時、自分の許嫁になるであろうフランクスもまた、リリディアに目を奪われているのを見て唇を噛みしめる。

 式に参列している一人が思わず祈りを捧げる。

 もう一人。

 さらに一人。

 何とも言えない異様な光景だ。

 リリディアの手をジルベールがとったその瞬間。


 シルバーの鎧に身を包んだ騎士達が礼拝堂に乱入し、ジルベールと花嫁を取り囲んだ。

 リリディアの側に控えていたアロナが剣を構える。


「そこまでだ、リリディア=ヴァルフォン。貴様がそこのアロナージュ姫と結託して、エルベルトと繋がっていることが判明したっっ!!」


 声高に言うのは枢機卿ブランエだ。

 礼拝堂にざわめきが起こる。

 ヒルディアとその母親は目を合わせてから、嬉々としてその光景を見る。

 一方父親はこの先の伯爵家のことを思い頭を抱える。

 すると式に参列していた国王が立ち上がり、厳かな声でジルベールに告げる。


「ジルベール=ヴァルフォン。君の妻は国家反逆罪であることが判明した。潔く彼女の身をブランエに引き渡すがよい」


 声とは裏腹に。

 国王は好色ににじんだ目をリリディアに向けていた。

 彼は、既にこの少女を罪人として幽閉し、事あるごとに愉しむことを考えていた。

 そしてブランエもまたリリディアとそしてアロナにも欲望の目を向けていた。

 飛んで火に入る夏の虫だ。

 呪いがあるかぎり、ジルベールは自分たちの思うがまま。


 さぁ、夫に裏切られ絶望しながら、お前は私に犯されるがいい!!


 心の中で高笑いをする枢機卿、そして国王。

 しかし彼らが待ち望んだジルベールの返事は、全く期待外れのものであった。



「嫌だ、と言ったらいかがしますか?」



 国王とブランエは同時に目を剥いた。

 信じがたい言葉に。

 ブランエが顔を真っ赤にして怒声を上げる。


「き、貴様っ!!分かっているのか、私が祈りを捧げなければお前の呪いは未来永劫解けぬのだぞ!!いいから、早く、お前の妻を寄越せ!!」

「そうじゃ!!あまりごねておるとお前も国家反逆罪として捕らえねばならぬぞ!!」

 国王も苛立たしげに言う。


「結構です。呪いは既に解けておりますので、あなた方の力は必要ありません」


 きっぱりと断るジルベールに。

 ブランエが裏返った声で必死に怒鳴る。


「ならばその仮面をはずせ!!呪いがとけたのであれば……お前はもうカエル顔ではないはずっっ」


 ブランエの言葉に応えるようにジルベールは鉄仮面を外す。

 そこから現れた美しい青年の姿に参列者は目を見張る。

 艶やかな深緑色の髪、トパーズ色の目は涼しげな切れ長、整った鼻梁、引き締まった唇。 女神の化身のような花嫁の夫に相応しく。

 神の如き美しくも精悍な青年の姿があった。


「う……嘘だ……偽物だ、偽物を連れてきたんだっっ!!」

 首を横にぶんぶんと振って叫ぶブランエ。

「勝手に疑っていろ。つまり俺を縛るものはもはや何もない。国家反逆罪で結構。妻を罪人として捕らえるつもりであるのなら、例え国王軍であろうが教会騎士団であろうが、迎え討つまでのことっ!」

 ジルベールが高らかに声を上げた瞬間。

 礼拝堂に武装をした一般市民がなだれ込んできた。

 いや、一般市民ではなく。

 一般市民の格好をしたジルベールが率いる私設軍たちだった。

「ば……馬鹿な……ヴァルフォンの軍勢が来ている情報など」

「何、二週間かけて一般人の格好をさせた我が精兵を少しずつ王都に送り込んだだけのことよ。幸い、我々の結婚式で王都もまた浮き足立っている状態。また行商人の出入りも多かったが故にたやすく紛れ込むことができたよ」

「き、貴様。はじめから我らに刃向かうつもりで」

「そうでなくては、こんないかにも浅はかな者が考えた罠に俺が掛かるわけがないだろう」

 ジルベールの言葉に、浅はかと称されたブランエは額に青筋を立てる。

 そこにアロナが前に出てきて、くすっと笑う。

 少女とは思えぬ、どこか妖しさを秘めたその笑みに、ブランエは一瞬だけ怒りを忘れ、その笑みに魅入った。

 リリディアが淡々とした声で告げる。



「アロナ神から伝言があります。ブランエ枢機卿……いえ、バン=ヘルガンとお呼びした方が良いでしょうか」


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