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家族との再会

 

 執事に案内され、父親の執務室に通された瞬間。

 ドーマー=レイスターの怒鳴り声が響き渡った。


「今まで何をやってたんだ!?挨拶もなく!!」


 ジルベールは不快そうに眉を寄せ、アロナは思わずレイピアの柄を手に持つ。

 リリディアはそんな父親をただ冷めた目で見ている。

 さらに怒鳴ろうとしたドーマーだが、よく見ると自分の知っているリリディアの姿がない。

 そこにいるのは、見違えるほど美しくなったリリディアだ。

 ドーマーは目をこれ以上にないくらい見開いた。


「え……オルガ……オルガ……お前なのか?」


 震える父親の声にリリディアは訝る。

 ふと部屋に飾ってある肖像画が目に入り、リリディアは納得をする。

 肖像画の母と、自分は生き写しであるかのようにそっくりだった。


「お父様、違います。リリディアです。私はお母様じゃありません」

「リリディア、だと?あああ……なんてよく似ているんだ。お前は、お前は、こんなにも美しかったというのか」


 わなわなと身体を震わせながらドーマー=レイスターはリリディアの両手を取る。

 何故か、ぞわぞわぞわっと寒気がした。

 父が娘に駆け寄って手を取るのは普通のこと。

 普通なら喜んでも良いのに。

 何故かぞっとしたのだ。

 父は娘として自分を見ていないような気がして。


「ずっと、お前の母親を愛していた……私は今のお前の継母と付き合っていたが、レイスター家から結婚の話が来た。相手があのオルガだと知った時、私は天にも昇るような心地になって結婚を承諾した。本当に夢みたいだと思っていたのだ」

 ……ああ、最低だ、この男。

 付き合っていた女性がいたにもかかわらず、別の女性との結婚を承諾したのだ。

 なんという不誠実な。

 自分が継母に憎まれるわけだ。元々先に付き合っていたのは彼女の方だったのだ。

  それをリリディアの母親に奪われる形になったのだ。

「お前がオルガの生まれ変わりだと分かっていれば、あのカエルにお前をやることはなかったのにっっ」

 ぎゅっと抱きしめようとするが、リリディアは父親の胸を押しそれを断固として拒否する。

 もうどこから突っ込んでいいのか分からない。

 自分は母の生まれ変わりでも何でも無いし。

 父の言うあのカエルは、目の前にいる青年だというのに。

 ジルベールがリリディアの腰に手を回し、自分の方に引き寄せる。


「そこまでにしていただきましょうか。義父上」

「義父上?」

「初めまして。リリディアの夫であるジルベール=ヴァルフォンです」

「え……え?あのヴァルフォン伯爵が貴方……いや、でもカエル顔じゃ」

「ああ、髪の毛がカエルに似てるとはよく言われますね」

 ジルベールはそう言って軽く笑った。

 ドーマーは信じられぬという表情を浮かべる。

 彼は内心怒鳴りたい気持ちであった。


「話が違うではないか!!」と。


 これほど見目麗しい若者であれば、ヒルディアを喜んで差し出していた。

 そしてリリディアを自分の手元に置いていたのに!!

 そうだ。

 リリディアもこんなに美しかったなど話が違う。

 何故、あんなに醜くなった?

 ああ……そうか。

 食事を与えなかったからか。

 誰が、そんなことをした?

 そうか……妻が使用人に指示をしていたか。

 リリディアには一食で十分だと。

 あの女はリリディアに嫉妬していたのだ。

 だからリリディアがみすぼらしい姿になるよう、わざと食事を与えなかった。

 ああ、騙されていた。

 自分はあの女に騙されていたのだ。


「ヴァルフォン伯爵、今すぐ娘をお返し下さい!全ては間違いだったのです。本来あなたに嫁ぐのはヒルディアという娘であって」

「娘を今更入れ替えても無駄だ。リリディアを手元に置いてどうするつもりだ?まさか、亡き妻の身代わりにしようとなど思ってはいまいな?」

「……そ、そんなことはございません」

 額に冷や汗を浮かべながら上ずった声で否定をするが。

 どう見ても図星を指され焦っているようにしか見えない。

 リリディアの身体に悪寒が走る。

 思わず、自分の身を抱きしめた。

 ああ、父は自分を母の代わりにしようとしているのだ。


 

「どうなんだかな。今更リリディアを返すわけがないだろう?ドーマー=レイスター、まさかお前は今まで娘にしてきたことを忘れたわけではあるまいな。俺ははっきり言って貴様への殺意で頭がおかしくなりそうなのだが?」

「ひ……っっ」

 鋭く冷ややかな視線に射貫かれ、ドーマーは凍り付く。


「挨拶は済みましたので、これにて」

「ま、待って下さいっっ!!ヴァルフォン卿っ!!どうか我が家に融資を」

 父親の懇願にリリディアは呆れる。

 挨拶の催促の本題はこれであったか。

 彼はリリディアに無心しようとしていたのだ。

「融資ならリリディアをもらい受ける条件として十二分の額を融資したはずだが。その金はどこへ消えた?」

「そ……それは」

 ドーマーが答えかけた時。

 一人の少女が部屋に飛び込んできた。


「パパ、イボガエルとぼろ切れはまだ来ないの?」


 開口一番の娘の言葉に、顔面が蒼白になるドーマー。

 姉のヒルディアは以前よりも化粧が濃くなり、少し膨よかになっているようだった。

 それにつづいて扇子をぱたぱたさせながら、妻であるロザーヌも入ってくる。


「ほほほ……そんなこと言うものではないわ」


 可笑しそうに笑っていたロザーヌであるが、リリディアと目が合った瞬間。

 その目を大きく見開いた。

 そして顔を蒼白にし、腰を抜かす。


「オルガ……何故、あなたが生きてるの?」

「義母様、私は」

「そんな……あの時……確かにあなたは死んだ筈」

 信じられぬ、と首を振る一方、ヒルディアはジルベールの姿を認め、頬を朱に染める。

「あ、あら。あなたはどなた?とても素敵な方ね」

 声音をワントーン上げて、すり寄ってくるヒルディアに。

 レイピアの刃が突きつけられる。

 アロナがヒルディアの鼻先に刃を突きつけたのだ。

「あんたごときが我が主に気安く触れようとしないで頂戴」

「な、なによ!!私は伯爵令嬢よ!?」

「辺境伯はこの国において重要な人物がなる役職。貧乏伯爵とでは天と地の差よ」

「だ、誰が貧乏伯爵ですって!?」

「現にあんたの父親は我が主に無心をしているじゃないの。貧乏という以外何者でもないわ」

 冷ややかに告げるアロナにヒルディアは目を剥いた。

「我が主って……イボガエルからお金は貰った覚えはあるわよ。ボロ姉を嫁に出して親戚になったんだから、カエルのお金はうちのお金に決まってるでしょ!?あなたの主からお金なんか貰ってないわよっっ」


「お前がイボガエルと罵っている当人が俺なのだが?」


 ものすごく冷ややかな声で告げるジルベールに。

 ヒルディアは目をまん丸くする。

 そして首を横に振る。


「え……嘘でしょ……噂と全然違うじゃない……この前私が休んだ社交界だって、リリディアとカエルが楽しそうに踊っていて滑稽だったってベリアが言ってたわ」

 ヒルディアの言葉に私は大きく頷いた。

「確かに、あの時のダンスはとても楽しかったですね。ジル様」

「そうだな。あの時のお前はだれよりも美しかった」


 絵になる美青年と美少女が顔を見合わせ笑い合う。

 その光景を見てヒルディアは、その時初めてリリディアの存在を認識した。


「嘘……何でそんなに綺麗になってんの……それに凄いドレス……そんな高級品、何であんたなんかが着てるわけ?」

「ジル様から頂いたのです。今日の為に準備してくださったのです」

「なんで……なんでよ……なんでそんな素敵な人があんたの夫なのよ。本当だったら私が彼の元に嫁ぐはずだったんでしょ!?お父様」

「そ、それは……」

 言いよどむドーマーに、ジルベールは冷たく切り捨てる。

「別に君を指名したわけじゃない。こちらとしては、レイスター家の娘が来れば良かったからな。でもまぁ、リリディアが来てくれて良かった。その点においては義父上、大いに感謝していますよ」

「オルガを……いやリリディアをお返し願えないのですか?」

「義父上、彼女は亡くなったあなたの妻ではありませんよ。いい加減に目を覚ましなさい……では帰ろうか」

 そう言ってジルベールはリリディアの肩を抱いた。

 嬉しそうに頷く異母妹の姿。

 一番見たくない幸せそうな表情を見せつけられ、ヒルディアは拳を握りしめた。

 部屋を出て行く三人の後ろ姿を睨みながら、彼女はヒステリックな叫び声を上げた。


「認めない、認めない、認めない……あんたたちの結婚なんか私、絶対に認めないんだからぁっっっ!!」





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