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冬も近く頃だかやけに陽の光が暖かな日だ。木陰に風がヒューと吹き付けるとぞわりと寒気が襲う、日向へと歩を進めれば陽が身体を包む。その繰り返しを心地よく感じながら川辺の路をゆったりと歩く。ふと川面にチョコンと浮かぶ鳥を見て寒くないだろうかと幼稚な考えすら浮かんだ。
すたすた川を見ながら歩くうちに、川辺は背の高い雑草の生い茂る光景へと変わっていた。その足元には泥塗れのペットボトル、表紙もわからないほどしわくちゃの漫画誌なぞで溢れている、いわゆるゴミ溜めだ。それを尻目にまだすたすた歩いて行く、その刹那、脚がぴたりと固まる、同時に心音の一拍がドッと耳に圧をかけ、全身に虫でも這ったかのような寒気が襲う。目が合ったのだ、草陰に見えた紅い眼と。
無意識のうちに視界は川辺から真逆の田んぼに切り替わる、そのまま駆けて川を離れることも出来たが、どうも一瞬の出来事であったが為に自分の気のせいか、見間違えか将又本当に何かあるのかといった好奇心の方が勝り、確かめてやろうという気が起こる。そして恐る恐る川辺の方へと目をやった。
例の草陰を今度は凝視してみるも、さっき感じた気味の悪い空気は失せて平穏な日常的な景色だけが広がっている。
一歩二歩と後ろに下がりながら探し続けると、草陰にキラリと光るのが見えた。一瞬また心音がドッと鳴ったが、それを確認すべく今度は川までスタスタと降りる。川辺の草陰の辺りを探すと漸くあの光ったモノを見つけた。それは目を閉じたアンティークの人形であった。どうやらキラリと光ったのはガーベラを模した髪飾りらしく、花片に施されたピンク色の鍍金が鮮やかに輝いている。精巧なモノであった為見つけた瞬間に冷や汗がワッと襲ったが確と見る内にその佼しさにスッカリ魅力されていた。ふと無意識に艶やかな顔肌に触れ、雑草に隠れた身体の部分を丁寧に掻き出し、持ち上げる。周りのゴミ溜めからして人形の衣服はスッカリ泥塗れかと思ったが、不思議な事に恰もついさっきそこに置かれたかのようなキレイなものであった。持ち上げてみてやはり顔の佼しさに見惚れる。そして、これほどの逸品とあらばやはり瞳を拝みたいと...閉じた瞼に手を掛けようとするがその手は固まり、冷や汗が流れる。
元々はあの紅い眼を見たが為に川辺までノコノコとやって来たのだ、この人形の眼がもしも紅い眼をしていたらこれ以上の悍ましいことはない、コイツが私を睨み瞼を閉じたということになる。だがそんなオカルトは起きるのか、起こるはずはない。ドウセ初めの紅い眼だってコイツの髪飾りやもしれない。キットそうだ。違いない。
兎に角、私はその人形の眼の色を確かめたいのだ。固まっていた手はスッと瞼にかけられ眼の色がわかる、それは紅い眼であった。