第三話 秘密とウソ
「アンブラカナムって三木君が持ってる超能力じみた力のこと? それとも影のこと?」
目線が定まらず、汗がどっと吹き出してきた。
「教えてよ」
そうだ、サキが本当に心が読めようと他の理由があろうとこの場でできる回答は一つだ。これならば動揺していてもなんとかなるはずだ。
「……『アンブラカナム』は影の犬という意味で影に潜む怪物のことだよ」
ルイの答えを聞いてサキは勝ち誇ったかのようににんまりと笑った。
「へぇー、んで?」
「オレはそれが見えるんだ。カナムは危険な怪物で常に気を付けてるんだ。時には戦うこともある」
「ふーん。はじめから正直にそう言えばいいのに」
「それで、聞いてどうしようっていうの?」
「ワタシも見ていたいの、そのアンブラカナム」
話すうちにルイは冷静になってきた。
「無理だよ」
「どうして? 危険だから?」
「もっと決定的な理由」
これなら大丈夫だ。
「なに?」
「本当に心が読めるんだな、驚いたよ」
「だからそう言ってるじゃない」
「板東さんにカナムを見せることはできない」
そう、エスパーなんてことがあり得ないように、こんな話もまたあり得ないことなのだ。
「なぜなら、今の話は全部オレの妄想だから」
「妄想?」
「そう、妄想。戦い方とか考えてるのもちょっとした遊びだよ」
「ウソ」
「本当」
「……ふーん、あくまでそう言い張るつもりなんだ」
「だってマジだし」
「そ。じゃあ今日の予定もあくまで妄想だって言うんだ」
「もちろん。じゃあ、悪いけどこれで帰りますよ。クラスの人気者があんまり変なこといわない方がいいですよ」
「あ、ちょっと!」
少しの心配を残しつつも、ルイは急場をしのいだと満足して帰路につくのだった。
* * *
帰宅し、短い休息をとった後、服を着替えながらルイは考えていた。
冷静に考え直せばエスパーなどあり得ない。やはり影についてサキはどこかで聞いたのだ、そしてルイの行動から気づいたと考えるのが妥当だ。
いや、なんなら同類かもしれない。
しかし、待てよ。
おかしい。
はじめからわかっているのならばなぜあんな回りくどい接触の仕方をした? なぜ今日だった?
そう、サキがふと言ったように今日は確かに予定がある。自分だけの予定だ。なぜそれを知っていた? 誰も知らないはずだ。
もし、本当に、サキが少しだけ心を読めるのだとしたら?
危険もわからずに興味本位で秘密を追及しようとしたら?
疑問が確信に変わる前にルイは原付に飛び乗っていた。




