13.はちみつ作りと畑
人口の少ない村でのデメリットはプライバシーと言うものがほとんどないこと。しかし、逆にメリットとして人探しがとても簡単だということでもあった。
ソニアにはちみつを作っている家を尋ねると北区の森の入り口近くだという。行けばすぐにわかると言われて半信半疑のまま訪れてみれば、花に囲まれたファンシーな家が他の家と少し離れてポツリとあった。
チャイムはないので軽くドアをノックして入る。
「あらー、アイサちゃんいらっしゃい。どうかしたの?」
「こんにちは。ちょっとおじいさんにお話があって」
「そうなの、でも今ちょっと手が離せないと思うのよ。もう少し待っててくれる?」
ふんわりとした雰囲気の女性、喉の薬をもらいに来た少女の母親が、アイサを土間のテーブルへ招く。
喉の調子はよくなった。あののど飴はとても食べやすくてよかった。娘が食べたがって大変だった。
お茶を飲みながらたわいのない話をしていると、ガラリと大きな音を立ててドアが開き、少女が飛び込んできた。そして遅れておじいさん。
「こら、あんまりひどく開けると壊れるって何度も言ってるでしょう」
「ごめんなさい」
母親の叱責にシュンと肩を落とした少女は、すぐに客の存在に気が付いて駆け寄ってきた。
「のど飴のお姉さん! 今日はどうしたの?」
「こんにちは。ちょっとおじいさんにお話があってきたの」
「ん、わしにか?」
作業着を脱いでいたおじいさんがまさか自分が呼ばれるとは思わず首を捻る。背筋のしっかりと伸びた矍鑠とした老人であった。
「はい、初めまして。最近、村長さんの倉庫を改装して診療所兼薬屋をしているアイサと申します。この前お孫さんが薬の代金にはちみつを持ってきてくれて。そのはちみつのことでお話をさせていただきたいと思いまいりました」
「ほう? あれか、この前喉が痛いって言ってた」
「そうなのよ。そのはちみつを使って飲みやすい喉薬を作ってくれたみたいって言ったでしょ。その子」
膝に孫を乗せてにっこりと微笑むアイサをふむと見つめて、おじいさんは少し考えてからテーブルの向かいに座った。
「もしかしてはちみつを融通しろということか? だが、はちみつはわし個人が趣味で作っとるもんだからあまり量はないぞ」
急にやって来てはちみつを薬のために分けろと言って、はいそうですかと貰えるとは思っていなかったアイサ。
「いえ、あまり量はないということはお孫さんに聞いて存じ上げております。もしよろしければ私に養蜂の技術を教えていただけないかと思いまして。もちろん、お礼も用意しています」
アイサの作る薬はよく効く。しかし、とても苦い。薬草のまま食べたりするよりはいくらかマシではあるものの子供たちにはかなり不評であった。そんな時であったのがこの家で作られているというはちみつ。もちろんすべての薬で使えるわけではないが、それでも甘いものと一緒に飲めばいくらか苦みもまぎれるであろう。また、薬としてではなく飴として売り出すことも検討していた。
「ふむ……礼とかそんなのはいらんが、技術と言ってもな。わしが若い頃、知り合いの養蜂家のところにお世話になって手伝いと称してちょろっとお遊び程度に教わっただけだし、道具とかほとんど自己流だぞ?」
「かまいません」
「うーん、でもなあ……」
「まあ、お父さん。アイサちゃん真面目だし、最近腰を曲げるのがつらくて作業が大変だって言ってたでしょ。お手伝いしてもらうっていうのにしたらいいじゃない。どうせ趣味なんだし」
「はい! 一生懸命頑張ります」
キラキラと期待を込めておじいさんを見つめること数秒。根負けしたおじいさんに半ば強引に養蜂の手伝いを取り付けたのであった。
***
勉強をすることは得意だ。物心ついたころから無理やり好きでもない教育を受けてきたアイサにとって、興味がある、自ら学びたいという気持ちをもったものに関しての習得率は半端なものではなかった。水を吸収するスポンジのごとく貪欲に知識を得ていく彼女に、初めの頃は戸惑っていたおじいさんもいつしか教える喜びというものを感じていた。
「よし。とりあえずこれだけ知っていれば最低限収穫することはできるだろう。あとは、時期や周囲の環境、気温なんかによって変わってくるが、お前さんならやれるさ」
太鼓判を受け取ったアイサは、意気揚々と診療所へ帰っていくのであった。
数週間の研修を終え、おじいさんから道具一式も借り入れると、さっそく村長へ養蜂の許可を得に行く。診療所は村長宅の土地であるため勝手に養蜂を始めてしまうと何かと問題がある。
あっさりと許可を得た後は、診療所の裏手に巣箱を設置し、ふと周囲を見渡して独りごちる。
「なんか、物足りない」
もともと倉庫であった診療所の周りは当然殺風景で何もない。そこでアイサは畑を作ることにした。薬草と蜂のための花畑。これでわざわざ森から薬草を採集しなくてもよくなるし、蜂的にも近くで花の蜜が取れれば楽なのではないかという打算的な考えだ。幸い、城ではカティアのために作られた温室で薬草を育てていたので栽培方法は理解している。
しかし、それ以前の問題として。
「畑というのはどうすれば作れるのかしら?」
庭師によって全て整えられていた温室と、長年放置されていた更地。
「ロンに聞いたら分かるでしょう」
結局人に丸投げをするアイサなのであった。




