何で追ってくるのよ聞いてない!!
お読み頂き有難う御座います。今回で終わりですね。
ヒロインはチャラ男との攻防を繰り広げ、サポートキャラは悪役令嬢の兄から逃げようともがいています。
そして私は氷点下の対応を貫いた。
奴が話し掛けてきても冷淡に、若しくはキレ芸を放って刺々しい態度を保ち、強制イベントにはズル休みや遅刻で乗りきって、フラグを潰すのに徹した。
「メアミ、一緒に帰ろう」
「轟と呼んでください。
そしてその背後にいる方々にモテながら、勝手に集団下校でお帰りください」
なのに、奴は手強い。何故メゲない。
流石に、ゲームの始まる前から五重丸の顔赤いデレデレアイコンなだけある。
アサギ様に昨日も張り付か……いや、一緒にいて、ぐたっとしてるララちゃん情報に因ると全く変化なしらしい。
下がれよ好感度。マゾ担当なのかチャラ男?
そんな事実知りたくなかった。
「驚いた」
「どうしたの、ララちゃん。お弁当凄いね」
最早豪華すぎて、料亭のなんちゃら御膳とかだよね。チラシか写真でしか見たこと無いけど。
細工包丁してあるユリ根入ってる昼御飯見たこと無いなー。凄いねー。
まさか、アサギ様の手作りとかじゃなかろうな……。
「会心の出来のオムライス弁当が、朝にすり替えられてたの!!ってそんなのどうでもいいの!!」
「アサギ様の仕業かあ。
従兄とはいえ、おうちのセキュリティが心配で怖いね」
「恐ろしくて仕方ないよ!!」
アサギ様のお家はお金持ちだが、ララちゃんのお家は一般家庭だからな。
根回しかお金の力か知らないけど、アサギ様怖い。
まあ、普通にララちゃんのお母さんに頼んで入って来ただけかも知れないけどね……。
普通か斜め上か……アサギ様は両方使ってくるからなあ。
ハイパーウルトラ可愛い主人公でも、中身凡人な私如きには……アサギ様は分からない……。
ララちゃんは嫌がりつつも口だけで、若干絆されているような気はするけど突っ込めない……。
「でもそれよりメアミ!澪くんだよ!!」
「あー、チャラ男が女の子の恨みを買って突き落とされて溺れるイベント?
大丈夫、今の私は生まれ変わった未来の戦士、新・メアミセカンドエディションだから、例え死んでも助けに行かないよ!」
「何で中途半端にヒーローものみたいなの!?違うよ!!彼女が居ない!!」
「…………?」
彼女?奴の周りに女の子が居ないって事?
ん?そうだっけ?
この頃気にしてないから覚えて無いな……。
「この、4月から全く女の子の影が無いの、メアミ!!」
「ほー、隠し彼女とかでは?」
「通学から帰り道もメアミにくっついてるのに!?」
今は8月だ。
ゲームでは、奴が周りの女を切る時期と重なり……プールに落ちるイベントが起きる。
しかし、4月から?4月には、もう関係を切ってたってこと?
何故に。
「いや私には関係無いよ」
「シフトチェンジが行われてない!?
乙女ゲーに有りがちな奇跡、チャラ男→一途進化!?」
「二股相手に刺されそうになって、助けてくれた男に目覚めたとかの方がまだ信じるなあ」
「澪くんへの泣けるほどの信用度の無さ……」
奴への信用なんて、とっくの昔に蒸発して燃えカスも尽きてるってば。
「兎に角、私は愛だの恋だのけしからんものは高校生活から棄てて、聖ドイナッカ女子大に受かるよう頑張るの」
「乙女ゲーのヒロインの科白じゃない……。後、大学の名前が酷い…」
「受かったら合コンに明け暮れるから。
オフィスラブ的な乙女ゲーの舞台に迷い混むのも、有りだと信じてる!」
「多分それ、メアミがヒロインじゃないと思う!!」
「アサギ様に何されるか分からな……悪いから、死んでも合コンには呼ばないけど、私達はズッ友だからね」
「感動していいんだか分からないし、アサギから逃げたい」
そう、学生たるもの恋だの愛だの要らないんだよ!!
推しのゲスさで私は目覚めた!!
勉強とララちゃんとの友情に明け暮れるぞ!!
こうして私の乙女学園2年生の生活は……この顔と設定を死蔵し、モブに徹することに決めたのだった。
あ、一応残りの攻略対象は見たよ。極力関わって無いからね。上履きも無事だよ。
そう、私の青春は大学生活から始まる!!
「メアミ……」
「轟と呼んでください」
ってしつこいなあ。
3年生になっても未だ寄ってくるよこのチャラ男。
先月ゲームは終わったの!ゲーム終わったっって分からん位日常として終了したの!!
それなのに何で?しつこいわあ!
隣の家だから寄ってきやすいってのもあるなあ。
ついこの間までは海底と陸地以上の距離感だったのに。いや、海溝となんちゃら星雲ぐらい心は離れてたかな……?
「なあ、何で怒ってんの?
元カノに絡まれてたのに助けなかったこと?約束すっぽかしたこと?ドタキャンしたこと?」
自覚あるのかい。羅列すると酷いな。改めて聞くとゲスいぜこのチャラ男め。
しっかし……腹立つことばっかやられてんのね、私。
何なのチャラ男。
「竹市くん、私は単なる隣に住む同級生(17)なの。華やかな交遊関係がお得意の貴方と話すことは無いの。アンダースタン?」
「違う!!俺はずっとメアミが好きだ!!」
「ほほお、ビックリいー」
知ってたけど!!
知ってたけど、あの態度だかったから……ね。
ララちゃんがサポートキャラとしての自信を失うほどにな。
……だからそんな真っ赤な本気の顔で言わないでほしい。
「最初はさ、可愛い子だけど他の子と同じかもって思ってたんだ」
「その認識で有ってます。私は普通の感性を持った女子です」
「でも、他の子と違って女の子と一緒に居ても俺を取り合わないし」
「ふざけんなゲス……いえ、私は知らない女の子と貴方を取り合う趣味は無いです」
「でも普通に接してくれるし」
「したことを若干後悔してますし、苛ついてました」
「苛つきながらも、俺が鍵忘れたときは家に入れてくれたりしたし……」
「私のお母さんが呼んで来いって言ったからね」
「好きなんだよメアミ」
「だから轟と呼んでください」
「メアミい……」
RPGの村人ばりに同じ科白を繰り返してると言うのにしつこいな、チャラ男の癖に。
推しの泣き顔ってどうしてこう、覚悟してた筈なのに心臓がゴトゴトと言うのかな。
顔は推しだが中身はゲスなのに……。
「約束すっぽかしたことと、ドタキャンは、恥ずかしかったから、行けなくて」
「待ちぼうけ食らわされた方は、堪ったもんじゃない」
「女の子に絡まれてた後、ちゃんと言っといた」
「態々見てたくせに?
その場で助けなかった事が嫌」
「メアミとカッコ良く付き合いたいから、色んな子と付き合って、予習してただけなのに」
「うおお、最低……」
……うーん、生まれ変わったチャラ男(純粋悪気なし)みたいなことを言われても。
すれ違ってました、ですら無いじゃ無いのよ。知らんがなとしか言えないよ。とても許せるもんじゃないよ。
うっかり、推しのしょげた顔と言う……。
致命的な超攻撃にひれ伏しそうになって、許しそうになるけど、許せない。
そうよ、今までの所業を思い出して私!!
「そこまで俺が嫌?嫌い?」
「寧ろ好きでいると思う方がビックリ」
「心を入れ替える」
「好きにしたら?」
「絶対に、メアミを諦めない」
「私は諦めたの」
サヨナラ、浮気者の王子様。
陸と貴方を諦めて、海の底に帰るわ。
こうして私は推しを振ったのだった。
帰って……涙で瞼が腫れた?些細なことよ。うん。
生き残れただけ、マシだわ。
私の人生はこれからなの。だから、今は過去となる。
過去は泣いてもいいのよね。
青空に何処で鳴らしてるのか分からない、鐘の音が響く……。
参加者は声高らかに、新郎新婦を祝福している。
新婦の目は涙で光り、白いウェディングドレスも良く似合って美しい。
新郎はその手を携え……いや、抱きかかえて引き摺っている。
……絵に描いたような光景……では無いし、若干常識から外れている、けれど……何ておめでたい光景かしら。
「おめでとう……ララちゃん。素敵よ」
「何で!?どうしてこうなったの!?
エンディングはメアミの結婚式じゃないのおおおお!?」
「ララ、お前は本当に世界で一番可愛いな。
俺に滅茶苦茶大人気だ。ドレス良く似合ってるぜ、一刻も早く剥がしてえ」
「ぎゃあああ!!離してえええ!!」
「ははは苦しゅうないぜお前ら!!存分に祝えや!!」
「ワー、アサギサマ、オメデトーゴザイマース」
………卒業式の終わり、何処からともなく現れたアサギ様に、ララちゃんはかっ攫われ……その、既成事実が……いや。
取り敢えず子供は居ないらしい、まだ。
うん、……ララちゃんの事を思うと……良かったのか悪いのか……。
今日は良き日和の3月吉日。
此処は何処だと言わんばかりの豪華なお城、いやホテルでウェディングです。親戚のお姉さんのお式以来だなあ、結婚式のお呼ばれなんて。
いやあ、天気はいいし、やたら綺麗なご飯が美味しいですなあ。
……やる事が早すぎるぜ、アサギ様。
卒業したとはいえ、未だ身分的には高校生なんだよね?私達は。あれ?ご家族の許可とか要らないの?もぎ取ってる?さっすがあ!
卒業式と同時に籍入れたらしいよ……。
……おーう、すごーい行動力ー。さっすがー。
何と太っ腹な事に、学生にはご祝儀無しとのこと。つまりご飯が食べ放題。
周りの女子はレンタルドレスで華やかだが、私は地味目の緩めのグレーとピンクのワンピース。
だって、主役はララちゃんだもの。私が目立ったってしょーがないじゃない。
それに今は同級生だらけ。
男ウケとかどうでもいい。緩い造りのワンピースだし、散々食べよう。
ドケチのアサギ様からの賜り物だ、こんな機会は滅多にないぞ!!
「メアミ、こっちも旨いよ」
そして……何でコイツも招待されてんだよ!?
おーい其処で嫌がる新婦にババロア餌付けしてるアサギ様!!大変ですよ!!
大事なララちゃんのダチである私のピンチ!!大事件!!私にとって不審者が絡んできているんですよ!!
うん、全く見てない……。チャラ男寄るな!!
海老のはさみ揚げを、お皿に乗せてくんな!口に運ぶな!!
うわ滅茶苦茶旨っ!何味!?って海老味だけど、複雑なお味がお口の中に広がる!!
「隣にいることを許可した覚えはない、竹市くん」
「10年掛けて詫びる」
「要らぬわ」
「後、10年掛けて口説く」
「残念だったな。
私は他府県の女子大に進学するから、貴様とは永遠のお別れだ」
塩対応も佳境に入って、ラスボスみたいな口調になってしまったけど、退かないな!!
何真っ直ぐ清らかそうな目で見てるんだ!!私が攻略するまえに強制失敗を繰り返す位濁りを結集した行いしたチャラ男の癖に!!
お前に今までされた事、絶対忘れねえからな!!真剣な推しの顔に…負けそうで負けない!!
「俺、4月から聖ドイナッカの隣の市の大学生」
「あっそ」
「お前の怒りが解けるまで、何でもする」
「口約束は信じないの」
……うぜえわ!
絶対絆されるもんか。……くっそ真摯な推しの声……超萌えるんですけど!!負けねえ!!
て言うか何で私の大学知ってんの!?え!?ご近所ネットワーク!?
私のプライバシーは主婦の井戸端会議で丸裸!?おばちゃんーーー!!
「アサギ様に土下座した」
「……は?」
「メアミに会って、謝らせてくれって……」
ちょおおおお!?
何してくれてんすかーーーアサギ様ーーー!!
あっ、漸く目が合ったと思ったら!!……悪い顔でニヤッとされた!!
確信犯!?酷い!!
助けてくれるって言ったじゃないですか嘘つきいいいいい!!!
「俺のメアミへの想いを捲し立てたら『ねちっこくて気持ち悪ぃ、気に入った。許可してやる』って」
「うおおおおおおいアサギ様ーー!!?」
アサギ様勝手に何してくれてんのーーー!?勝手に何で許可出てんの!?
何時から私の保護者になったの!?私、ララちゃんのお友達よおおおお!?
しかも、澪がねちっこくて気持ち悪いだとおおお!?
お前、私が冷たくするまでチャラ男らしく、アッサリしまくってたじゃないかあああ!!
「ずっと気持ち悪がられると思ってたけど…。
俺、何処でも聖地……メアミんちの方向を向かないと寝られないんだ。だから常に方位磁針持ってる。最近お前んちを示してくれるアプリ開発したんだ」
「本当に気持ち悪いな!!聖地って何だよ!!お前んちの隣の建売住宅の借家だよ!!
しかもアプリ開発したって何よ!?そんなもん簡単に出来ないよね!?」
「ああメアミが情熱的に一杯喋ってくれた……。幼稚園の時に1個だけくれたチョコ永久保存してる」
「……思考もチョコも絶対腐ってる……」
「冷凍庫にあるから」
幼稚園の頃から女の子を侍らしてたから、見切り前に1個渡したんだっけ。
……棄てて!!頼むからその危ない思考と一緒に棄てろ!!
頬っぺた赤くしてトロッとした顔向けないで!!
恋心が爆発して萌え死ぬ!!いや死なない!!私は生まれ変わった戦士だ!!気合を入れろ!!負けるなメアミ!!
「メアミ……俺だけのメアミ。
これまでの人生で女の子を練習台にして、大体分かったから何不自由無くお前に尽くせる……」
「そんな酷い経験を元になんて、尽くして要らぬわああああ!!」
手を握るなあああ!!夢にまで見たシチュエーションが悪夢だわ馬鹿あああ!!
私は……助けを求めて、周りを見回したが皆サッサと目を逸らしやがる!!
クラスメイトの裏切り者!!
澪くんってあんなタイプだったんだ。いや、あいつ結構あんなもんだよってヒソヒソ話すんなーー!!
そういう情報は私にも共有しろーーー!!
しかし、しかし!!希望の光が有った!!アサギ様に逆らい中のララちゃんと目が合った!!
きみだけか!!私とシンクロするのは!!
ああ、親友よ、私も戦う意志が出来てしまった。さっきは祝福して御免よ。
此処は、友情エンドだ。それしかない!!
だけどヘルプミー!!アサギ様の手を自力で抜け出して私の元へ来てえええ!!
「ララ、お前アイツ等どう思う」
「……結局、メアミは澪君が好きなんだと思うし、何発か殴って……過去を乗り越えられてのハッピーエンド希望。
…………アサギ、手を離して!!」
「だよなあ。お前はダチの幸せを願う粋な女だよなあ。世界一中身も可愛いぜララ。お前の望みは俺の悲願。何が有っても叶えてやる」
「離せばかあああ!!」
ちょ、何そこ私に不利益を話し合ってるの!?
ぜ、絶対屈しないんだからなあああ!!
と奮闘虚しく。
「……」
「ありがとう、皆……。
俺は心を入れ替えた。生涯メアミと幸せになるよ……」
「馬鹿な………」
私は燃え尽きていた。尽きるものなんかないと思っていたのに……。
「ははは、漸く諦めたか、バカな奴め。
ララ、遠慮せずに俺に凭れかかれ。もう俺ひとりの為の体じゃないんだからな」
「……離せばかあ……私の体は私のもんだ」
助けてくれるってのは、どうなったんすかアサギ様ああああ!?
とある1年後の小春日和……目が死んでいたのは、私とララちゃんだけだった。
……何で攻略してないのに、攻略されるんだろうね……。
うん、まあ……一応アイツ……二度と女遊びはしない、改心しやがったと私に洗脳……いや、信じさせたんだよ。きっちり通い妻ならぬ、通い夫ヅラして毎日毎日押し掛けてさ。
「メアミ、大好きだよ」
笑顔で、毎日だ。毎日言うんだそんな事を朝昼晩……!!
……推し……いや、好きな人にそんなことされてみ?
私の心は冷たい海水もゆだる程に熱に魘され、へこたれてしまったわよ。
勿論あんなに腹立たしい日々を送らされた、あの年数を忘れてはいない。
だが……好みの面が献身的に接してきてさ…毎日横に居られたら……陥落するよ。
「此処でメアミと式を挙げるって憧れてたんだ。何年掛かろうと……念願叶って嬉しすぎるよ」
「ううう……」
くっそう、頬っぺたにチューしてきやがるし……。
駄目だ、最早、チョロインと言われても、最早甘んじて受けるよ……。
………くそう!!誰か敵を取ってくれ!!無念だ!!
同じシチュエーションに嵌まったヒロインは、是非とも抗ってくれええええ!!
「……押しに弱かったんだね、メアミ…」
「……お互いにね……」
「言わないで……」
……あ、ララちゃんは…はい、アサギ様と愛とか情熱とかの結果を……その、お腹に宿しておられます。
……早いよね。
いや、アサギ様的には遅かったのかな。……推して知るまい。
「俺達も早く欲しいね」
「………」
嗚呼、……明日は、我が身……。
舐めるように私の下っ腹見てくんな澪!!
そこはなあ!!大抵の女が見られて嬉しい部位じゃ無いんだよ!!
寧ろ目を背けて欲しい位置なんだよ!!
私は……一年前に親友が結婚した城、いやホテルで……推しと結婚式を挙げたのだった。
……こういう障害を乗り越える気では、全く無かったと、記憶している。
ツッコミどころの多い話を読んで下さって有難うございました!
ご感想やご評価を頂けると、励みになって浮かれて創作意欲に繋がりますので、宜しければお願いいたします。