二日目の始まり
結局、寝たのは3時間ほどだった。
別に寒かったわけでもない、それなのにすぐに目が覚めた。
「・・・暇だな。」
早く起きてもすることはない。
周りが暗いから視界も上手く使えない。
もう一度眠ろうとしても、睡眠時間は短いのに頭がスッキリしているから眠れない。
「・・・。」
俺は隣の茜の顔を見る。
俺の肩に頭を預ける茜を見る。
穏やかな寝息が俺の耳を占領するからか、無意識に左手が茜の頭を撫でていた。
「・・・死ぬ・・・のか。」
昨日のことを思い出す。
茜は人を殺した。そして俺の胸で泣いた。
覚悟を決めるために、最後となるだろう涙を流した。
「死ぬ必要なんて・・・あるのかな。」
茜の決めた覚悟は茜を殺す。
けどその覚悟は必要なのだろうか。その疑問は消えてはくれない。
確かに茜は人を殺した。
この世で自分と同じ一つの魂に終わりを下した。
いくら正当防衛でも犯罪を犯した。
だから、その罪悪感に耐えられないから、死を決めた。
でも・・・
「生きてもいいんじゃないか・・・。」
わかってる、これは茜自身が決めたことだ。
他人の俺が口出せることじゃない。
もし俺のお願いが優先されて生きたとしても、これから茜の待つ未来が安全というわけではない。
世間の目は必ず厳しくなるだろう。
だから・・・他人の俺が、痛みを味わえてやれない俺では・・・止めてはいけない。
でも俺は生きて欲しいと思ってる。
俺が茜を失いたくないから・・・
茜が・・・好きだから。
「それを言っても・・・多分無駄だよな。」
頭の中ではわかってた。
俺が思いを伝えても茜は止まらない。
決めた事は最後までやり通す茜は・・・止まってはくれない。
俺は・・・必ず茜の死を・・・目のあたりにする。
そして俺自身も・・・
「・・・不思議だ・・・怖くはない。」
体で茜を感じる。
茜が隣にいるってだけで俺の心は落ち着いている。
一週間後に死ぬ、それを自覚しているのにも怖くはない。
茜が隣にいてくれるから死ぬなんて、恐ろしくはないと思えてしまう。
「・・・意味って・・・大事だな。」
俺はこの日、この瞬間・・・生きている意味を見つけ出した。
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「おは・・・よう・・・」
日が出て、寒さが少し和らいで来た頃、茜が目をこすりながら起きた。
その姿はなんとも子供らしく可愛らしい。
「・・・おはよう、眠かったらまだ寝てていいよ。」
俺は思わず笑いってしまい、無意識に茜の頭を撫でていた。
茜は猫のように頭を擦り寄せてくる。
「・・・大丈夫・・・もう起きるから。」
素直に甘えてくれるので茜が望むだけ頭をなでてやる。
数分間撫でてやると、やっと意識が覚醒したのか・・・
「・・・そっか・・・夢じゃ・・・なかったんだ。」
俺の膝に頭を置き、ポツリと呟いた。
多分・・・夢と思っていたのは昨日の事だろう。
俺も茜の立場なら夢だと頭の端では考えていたと思う。
だから俺は・・・
「そうだな・・・夢なんかじゃ・・・ないな。」
泣きそうな声音をする茜にそう言った。
「・・・。」
茜は腕で瞳を隠し、数分動かなかった。
そして再度、俺の顔を確認して・・・
「おはよ、愁。」
「・・・おはよう、茜。」
今度はお互いがちゃんとそこにいるのを確認するように挨拶を交わした。
「・・・サンドイッチあるから朝ごはんにしようか?」
「うん、お腹減った。」
「じゃ、外に出ようか。」
俺たちは毛布を畳み、バックに入れ外に出る。
冬の寒さが二人の体温を低くしていく。
それに耐えながら俺たちは公園に水飲み場で顔を洗い、身支度を整える。
そして昨日コンビニで買ったサンドイッチとおにぎりを食べた。
茜はおにぎりを一口齧り・・・
「・・・朝にお肉食べれるんだぁ〜。贅沢だよねぇ〜。」
子供のように嬉しそうに頬を緩めてそう言った。
俺はそれに笑いながら・・・
「フルーツのやつもあるけど?」
フルーツが具のサンドイッチを片手で渡す。
茜は目を真ん丸にして・・・
「食べるっ!」
齧り付いた。
「甘……い………だとっ!?」
「・・・そのキャラ何だよ、普通に食べろ。」
一口で驚いた口調で俺を見たから、俺はチョップして食事に集中させる。
俺たちは数分で朝食を終わらせた。
そして食休憩をしてる最中に・・・
「これから山に入る。」
これからの行動について茜に話した。
「大人たちは俺たちが行くところを知らない。
から、ここで山を渡ればそれなりに時間も稼げると思う。
とりあえず今日は山を渡って途中の街を走り抜けるから。」
「うん、分かった。」
「・・・疲れたらちゃんと言ってよ。」
「・・・ふふっ、分かってるよ。
疲れたらちゃんと言うからそんな心配しないで。」
茜は笑いながら俺の頭を撫でてくる。
恥しいのだが、何処か心地よいので振り払えない。
俺は顔を赤くしながら茜の横で身を休めた。
「・・・・そろそろ・・・行こうか。」
5分ぐらい、二人で体を寄せ合い休んでいたら、茜がそう言った。
俺の手を握り、そういった。
俺は・・・
「うん・・・。」
俺は離さないために、握る力が強くなった茜の手を強く握った。