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竜騎士と俺  作者: 5u6i
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第六話 竜騎兵団長

前回のあらすじ


 異世界トマトスープは体に染み渡り、少しずつ明るさを取り戻してくれた。

 翌朝、日の出前に起きると、彼女はもうすでに出発の準備を済ませていて、俺に声を掛ける。

「Antaux ol miaj amikoj venu, ni faru malmultan praktikon.」

 彼女は手早く鞍を取り付けると、トントンと俺の腹を蹴って急かす。


 夜明け前の練習は楽しい。

 足元には見渡す限り真っ黒な森が広がり、漆黒の空に散りばめられた無数の星と大きな天の川が夜景のように横たわる。宙返りしたりするとどちらが地面かわからなくなるくらいだ。

 凛として澄んだ空気の中を力いっぱい高く昇っていくと、東の彼方に見える山脈の稜線から、わずかにオレンジ色が夜の世界にこぼれおちて、やがて空全体が侵食されていく。

 しばらくひねりを加えた宙返りなど複雑な動きの練習をしていたが、やがて太陽が地平線に現れるかという頃合いになると、洞窟の上空の高いところでゆっくりと旋回するように指示してきた。

 彼女は鞄から六枚の三角形の鏡を取り出すと手早く組み立てて、真ん中に小さな穴の空いた大きな一枚の鏡を作り出した。

 不思議そうにそれを眺めていると、彼女はおもむろに立ち上がると鏡を太陽の方向に向け、その反射光が昨晩通信していたと思われる方角に向けられていた。しばらくそちらに向けていると、朝もやの中を一本の光の筋がこちらに向かって帰ってきた。

「Ni iros hejmen.」

 俺たちは洞窟に戻った。俺は洞窟の水で少し喉を潤すと横になって、彼女が巻いていた包帯を外して傷の様子を見てくれるのを眺めていた。あれほど沢山の槍が刺さっていたにもかかわらず、傷は綺麗にふさがり、痛みもほとんどない。


 突如バリバリと雷鳴のような大きな音が響いた。

「Ho, jen ili venas!」

 彼女が嬉しそうに洞窟の入り口に走り出す。

 俺もすぐその後を追うと、ものすごい風が吹き込んできて、眼の前に俺の5倍はありそうな巨大な竜が飛んでいた。

 俺の全身程もありそうな大きな首を洞窟の中に突っ込んできて、俺を見てにこやかに微笑む。いや、見るからに爬虫類だから笑うというのもおかしな話だが、少なくとも俺にはそう見えた。

「Du bist der beruehmte fliegende Drache. Wie fuehlst du dich?」

 低いしゃがれ声が洞窟の空気を震わせる。

「あ……あの……はじめまして」

「Hab keine Angst mein Freund.」

 大きな恐竜にウインクされても、これから食われるんじゃないかと身構えてしまうが、彼女が手綱を引くので横を見ると、ピッと背筋を伸ばして額に手をかざして敬礼している。俺もそれに習って翼を閉じてまっすぐに立つ。

「Bonan matenon! Kiel vi fartas?」

 凛とした明るい声が響き、白く輝く白銀の鎧をまとった女騎士がその巨大な首を滑り降りて来た。鎧の左肩から金モール、右肩からは赤いサテンの襷と勲章がついているので、偉い人なんだろう。ヘルメットを外すとブルネットの髪をアップにした、ビスクドールのような整った顔立ちの女だった。

「Mi fartas bone, sinjorino.」

 彼女は敬礼を崩さずに答えている。

「Cxu vi enkondukis vin al li?」

「Ankoraux ne, sinjorino. Mia nomo estas Amelio. Jen la drakoj kapitano Jxosefo.」

 何を話しているのかわからなかったが、彼女が敬礼を解いて、私の方を向いて自分とあとから来たお偉いさんを交互に示しながら、喋っているので自己紹介なのだろう。多分彼女がアメリーオ、お偉いさんがジョセーフォということだろう。

「アメリーオ?ジョセーフォ?」

「Vi pravas. Bonega!」

 ジョセーフォが拍手をする。

「Kio estas via nomo?」

 ジョセーフォが私の方を向いて微笑みながら顎で合図をする。私の名前を聞いているのだろうか。

「守口鳥彦」

 文法などわからないから、ぶっきらぼうに聞こえるかもしれないが、名前だけを答える。ジョセーフォが口元の笑みを崩さずに肩眉を上げ一瞬思案したような表情を見せる。

「Morigo? Torio? Nu, estas malfacile prononci. Kiel mi nomus vin tiam?」

 まあ、難しいだろう。日本語は諸外国語に比べて音程が平坦で、しかも名前となるとかなりスペルが長い。モリーゴだのトリーオだの言っているので、この世界では名称はオで終わるのが普通なんだろう。どうせ正しく発音できないなら、何だっていい。俺が覚えればいい話だ。

「モリーゴが発音しやすいなら、……モリーゴ……でいい」

 俺は名前の所を少し間を開けて答える。

「Morigo, Morigo. Bona tiam. Mi nomos vin Morigo.」

「Morigo... Morigo... Dankon, sinyorino!」

 アメリーオもはしゃいでいる。

「Konekto estas grava. Komprenis? Tiam helpu min malsxargxi la sxargxon.」

 ジョセーフォは俺たちに微笑むと、踵を返して巨大な竜の方に戻っていく。

「Venu kun mi, Morigo.」

 アメリーオが嬉しそうに早速俺の名前を呼んで、こっちへ来いと手を振っている。

「おうおう。モリーゴ様が今そっちに行くぞ!」

 俺も調子に乗って笑いながら、のっしのっしとアメリーオの方に向かう。

用語解説


・ワンポイント・エスペラント語

 今回ポイントとなる単語をおさらいしておきましょう。

 Bonan matenon=おはよう。直訳すると、良い朝

 Kiel vi fartas?=調子はどうだ?直訳すると、あなたの健康状態は如何に?

 Mia nomo estas~=私の 名前 は~

 Kio estas via nomo?=あなたの名前はなんだ?

 ここで、ちょっとだけ文法の話。英語に訳すと、KielはHow、KioはWhatとなります。

 Kiel vi fartasはそのままHow are you、Kio estas via nomoはWhat is your nameなのです。

 NomoはNameで名前、EstasがそのままBe動詞(英語ならis)と考えて大丈夫。

 以前Miが私、Viがあなたと書いたけれど、英語で私のIと私のもの(所有格)のMyが違うように、エスペラント語でも語尾が変わって格変化を表します。

 私のものはMia、あなたのものはViaとなります。つまり、~aがついてたら~のものという意味ですね。したがってVia nomoであなたの名前となります。

 ね?簡単でしょ?


・巨大な竜

 こちらは大型翼竜といい、主に輸送任務を担当する大きな竜。大型の観光バスが3台2列に並んだくらいの大きさ。

 ハーネスは鎖帷子のように胴体を覆うように取り付けられていて、背中の部分には荷室と砲塔が取り付けられている。

 積載量としては10トンから20トン程度。飛行速度や回避運動能力に影響するので、作戦によって異なる。

 この個体もやはりエスペラント語を話せないようだ。


・名前/名詞

 エスペラント語では名前をはじめとする名詞は-oで終わる決まりになっているので、外国語から持ち込まれた単語もこのルールに従います。

 例えば盆栽=Bonsaoボンサーオ、刀=KatanoカターノJosephヨーゼフJxosefoジョセーフォといった具合です。

 このルールにしたがって守口モリグチをエスペラント語にすると、Morigucxoモリグーチョになりそうですが、その辺りは割と自由で、結局彼はMorigoモリーゴと短縮することにしたようですね。


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