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竜騎士と俺  作者: 5u6i
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第二十三話 凱旋パレード

前回のあらすじ


 プルプラちゃんのご神託により、悩んでも仕方ないと悟った守口鳥彦モリーゴだった。



「Vekigxu! Vekigxu! Morigo! Bonvolu vekigxi! Ne mortu!」

 アメリーオの声で目を覚ました。

 薄目を開けるとアメリーオが不安そうな顔で覗き込んでいる。

「Mi timas, ke io okazas al vi.」

「ああ、すまん」

 見回すとジョセーフォとカローロと作業服を着た若い連中が何人か、竜厩舎の外からレオポルドとハオランも心配そうに覗き込んでいる。

 俺の悪い癖で、本気で寝入ると中々起きないのだ。やれやれと言わんばかりに肩をすくめて散っていく人を見ながら、少し申し訳ない気分になる。


 ブランチにはパンとスープを食べた。昨日の宮中で食べた様な高級感はなかったが、こっちは具沢山で腹にたまる。フォン・ド・ボーとワインで煮込んだ高級なビーフシチューの美味さと、寝起きで腹が減っているときの豚汁の旨さと比較するようなもので、どちらもありがたいものには変わりがないのだ。

 腹ごなしに少し身体を動かしたいと思っていたら、ちょうどアメリーオが作業服の連中を何人か引き連れてきて、あっという間にハーネスを付けてしまった。

 どうやら飛行訓練をするようだ。


 促されるまま外に出ると、ハオランとレオポルドが外で待機していた。

「Nun, ni praktiku por la triumfo-ceremonio. Kiel mi diris, esence, sekvas Leopoldo; Haorano en maldekstra, Morigo en dekstra.」

 ジョセーフォは右手を握り拳にして、左手をくねらせるように左後ろから近づけ、次に左手を握り拳にして、右手をはためかせながら右後ろから近づける。

 おそらく握り拳がレオポルドで、くねらせたのはハオラン、はためかせたのが俺だろう。左右の後ろから近づいてV字フォーメーションを作るってことだと理解した。

「Kiam ni atingos la urbon, Harano kaj Morigo faros la fluganta spektaklo. Reen al la baza formado. Tiam la malaltan altecon fluganta spektaklo ene de la dua muro.」

 今度は左手をくねらせながら、右手をはためかせながら、左右に離していった。散開するときの動きだ。その後、再び両手を近づけて、下に降ろしていく。つまり再度フォーメーションを組んで、高度を下げろということか。

「Por la fluganta spektaklo parto, Haorano desegnos nian moton, Morigo desegnos nian embrion.」

 ジョセーフォは作業服のワッペンを指さして、カローロに向けて文字の書かれている部分を、アメリーオに向けてワッペン全体を示している。散開と集合の位置を指示しているのか、ちょっとわからなかった。

 ジョセーフォが大げさに身振り手振りを交えて説明しているので、言葉はわからないがなんとなく伝わる。

 隊列を組んで飛んだ後、ハオランと俺でそれぞれ飛行訓練をやるみたいだ。


 城の広場からの離陸と違って、ここは滑走路が有るので、旗艦のレオポルドから先に離陸するようだ。今日は風もなく穏やかな日差しが気持ちいい。

 レオポルドが滑走路の端に向かってゆっくり歩く。その後ろをハオランが蛇のようにくねりながら進み、さらにその後ろを俺が歩く。

 初めて見るレオポルドの平地からの離陸は豪快だった。翼を大きく開いて何度か羽ばたくと、その巻き起こった風の反動を使って走り始める。

 長い尻尾を使って背中の艦橋を微動だにさせないようにバランスを保ち、ドシンドシンと地響きを鳴らして走り出す。全力で走ると俺より速いかもしれない。

 滑走路の半分を越えた辺りで、地面を蹴って高く上に伸ばしていた翼を一気に叩きつけると、巨体がまるで風船のようにふわりと浮き上がる。

 そして翼の先の方からしならせるように羽ばたいてしばらく水平飛行を続けた後、大きく羽ばたいて高度を上げていく。やはりスムーズさと美しさが違う。


 ニョロニョロと鎌首をもたげたまま、スルスルと登っていってしまうハオランの離陸は何度見ても違和感が拭えないが、空力を完全に無視した魔法か何かの飛行方法だからある意味仕方ない。


 最後は俺だ。尻尾を使った超短距離の離陸に比べれば、これだけ助走距離が取れるなら楽勝だ。

 滑走路の端から十五歩も走れば、翼を広げただけで十分な揚力を発生する。

 レオポルドを見習って尻尾を使ってバランスを取ると、身体の上下運動が抑えられて翼のコントロールもしやすいというのがわかった。

 尻尾のありがたみが身にしみる。陸上競技をやってた頃に欲しかった。

「Vi faras pli bonan! Mirinda!」

「ふふん。こういうのは得意なんだぜ」


 上空に上がると、レオポルドの左斜め後ろにハオランが並んでゆっくり旋回している。俺もレオポルドの右斜め後ろについて、隊列を組む。

 ジョセーフォの号令に合わせて、大きく八の字を描いて飛ぶ。空気が澄んでて気持ちがいい。

「Morigo, forlasu dekstren.」

 アメリーオが手綱を引く。右に曲がれということだ。ハオランが左に離れるのと同時に俺も右に離れた。

 カローロが煙の出る松明を掲げると、ハオランは少し高度を下げて泳ぐように複雑な動きをする。すると、ハオランが通った後が煙の文字となって空中に残るのだ。

 アルファベットのようにも見えるが、俺の知ってる単語ではないのでなんて書いてあるのかは判らない。


 今度は俺の番だ。アメリーオの手綱捌きに従って、スピードの速い動きや、複雑な運動を繰り返す。アメリーオも煙の出る松明を掲げてたみたいだ。

 少し離れると、少し歪んではいたが、長槍と竜の翼の模様が入った大きな盾の意匠が空中に描かれていた。

「そうか、航空ショーをやるんだな!」

 航空ショーを撮影した時のことを思い出し、懐かしさと共に身体の中の血が騒ぐのを感じていた。


 太陽が西の山にかかる手前まで、俺達は何度も練習を繰り返した。俺はアメリーオの手綱捌きがなくても一発で空中に盾を描ける様になった。

 滑走路に降りてくる途中目に入った、竜厩舎の横に掲げられていた大きな旗に、さっき俺が描いた盾の意匠があしらわれていた。この部隊の紋章らしい。

 厩舎に戻るとハーネスを外して、身体をきれいに拭ってもらい、軽く食事をして、そのまま敷き藁に突っ伏した所で記憶が途切れた。


 翌朝は日の出と同時くらいにアメリーオに起こされた。流石に昨日の件があるから、頑張ってすぐ起きたつもりだった。

 半目を開けたら、きっちり準礼服を着込んだアメリーオの呆れ顔があった。

 朝食のスープに浸したパンを食べている間にハーネスを付けてもらい、松明と部隊旗を積み込んで、滑走路に出る頃には、城も城壁もすっかり明るく朝日に照らされていた。

 レオポルド、ハオランに続いて飛び立って、身体を温めながら城壁の上空を大きく八の字を描いて飛んでいると、下から花火が打ち上がった。

 見下ろすと第二城壁の内側の街並みには人が溢れていた。皆、航空ショーを見ようと道路に出てきているのだ。

 敷物を敷いてパンをかじる者、走り回る子供、小さな旗や手を振る者もいる。


 再び花火が上がると、アメリーオが話しかけてきた。

「Ni faru kiel ni praktikis hieraux!」

「合点承知の助!」

 鼻息荒く答えると、ハオランを横目で見ながらタイミングを合わせて右に離れる。くるくると激しい動きで飛び回ると、街の中から歓声が上がる。急降下からの切り返しをすると子供たちがキャーキャー騒いでいる。

 ハオラン達が松明を掲げながら空に文字を描き始めたので、こちらも部隊の紋章を描き始める。昨日何度も練習したので、もう目をつぶってもできる。

 全体が描き終わると、再び花火が上がり、街中から歓声や拍手が聞こえてくる。

 レオポルドのもとに戻って隊列を組むと、大きく旋回しながら高度を下げて城壁の内側に入る。屋根の上をかすめながら街の中を飛ぶと、あちこちの窓から手を振ってくれる。

 カローロもアメリーオも部隊旗を掲げながら、手を振り返している。


 街の上空をくまなく飛び回ったあと、再び高度を上げて、城の周りを大きく旋回すると、一台の馬車が城を出て行くところだった。

 俺達は花火と歓声に送られながら、城と街を離れると、一旦遠くの第三城壁のあたりまで飛んでいった。

 麦畑や果樹園から人々が見上げて手を振ってくれる。こちらも左右に翼を振って答える。

 ぐるりと一周して、飛び回った滑走路に戻る頃には、城を出た馬車もそこに到着していた。

 レオポルドから順に、着陸して、馬車の前に整列した。

 ジョセーフォ達が緊張しているので、なんとなく俺も身体をこわばらせて不器用に真っ直ぐ立ってみる。

「Vi ne devas nerva ankaux.」

 ジョセーフォが笑っている。俺もつられて少しはにかんだ。

用語解説


・ワンポイント・エスペラント語

 今回のポイントとなるセリフを解説します。

 「Vekigxu! Vekigxu! Morigo! Bonvolu vekigxi! Ne mortu!」

 →「起きて!起きて!モリーゴ!お願いだから起きて!死なないで!」

  Vekigxuは起きろ、Bonvoluはお願い(Please)です。Mortuは「死ね」ですが、Ne(否定)がつくので、「死ぬな」となります。


 「Mi timas, ke io okazas al vi.」

 →「なにが起きたのかと思って心配したぞ。」

  Timiは恐れるです。

  Keは英語で言うThatとおなじで、後ろに続く部分を一つのフレーズとして扱います。

  Ioは何か、Okaziは起きる、al viであなたにとなります。

  直訳するとI'm afraid that somthing happend to youですね。

  英語だと自分の意志から離れた事象を過去形で、I was afraidと表したりしますが、

  エスペラント語は時制の一致が厳密ですのでそういう過去形の使い方はしません。


 「Nun, ni praktiku por la triumfo-ceremonio. Kiel mi diris, esence, sekvas Leopoldo; Haorano en maldekstra, Morigo en dekstra.」

 →「これより凱旋式典の練習を行う。先程話したとおり、基本はレオポルドに続け。左にハオラン、右にモリーゴだ」

  La triumfo-ceremonioが凱旋式典セレモニーです。

  Kiel mi dirisはAs I saidです。Diriが話す、意味するです。Esenceは「基本的に(Essentially)」ですね。

  Sekviが後に続く(Follow)です。Dekstraが右、Maldekstraが左ですね。


 「Kiam ni atingos la urbon, Harano kaj Morigo faros la fluganta spektaklo. Reen al la baza formado. Tiam la malaltan altecon fluganta spektaklo ene de la dua muro.」

 →「市内に到着したら、ハオランとモリーゴの飛行実演、隊列に戻り、第二城壁内の低空飛行実演だ。」

  Antigiが到着、La urbonでThe cityとなります。

  Fariは行動する、完遂するです。

  La fluganta spektakloでThe flying show/demostrationつまり飛行実演です。

  後半はMalaltan altecon、「低い高度で」が加わります。

  Ene de la dua muroでIn the second wallつまり第二城壁内でという意味です。


 「Por la fluganta spektaklo parto, Haorano desegnos nian moton, Morigo desegnos nian embrion.」

 →「飛行実演パートでは、ハオランが我々のモットーを、モリーゴが我々の紋章を描いてくれ。」

  パートはPartoですね。Desegniが線画を描く方の「描く(Draw)」です。ちなみに絵の具を使う方の「描く(Paint)」はPenikiです。

  Motonがモットー、Embrionが紋章(Embrem)です。


 「Vi faras pli bonan! Mirinda!」

 →「うまくなったな!凄いじゃないか!」

  Pliは比較級を表す語で、Pli bonanは以前に比べて良い、つまりBetterです。

  Mirindaは素晴らしい(Amazing/Fantastic/Marvellous/Wonderful)です。

  他にもFantazia、Sperbelaなどがあります。同じ系統ではMiriga、Mirindaega、Miregigaなど比較級の使い方で度合いが変わってきます。


 「Morigo, forlasu dekstren.」

 →「モリーゴ、右に離れるぞ」

  これもグーグル翻訳が上手く機能しないタイプの文です。

  離れる(Leave)はLasiですが、離れていく様を表すのにFor(離れる)を重ねて、Forlasiとします。命令形なのでiはuに変わります。

  Dekstra「左」は副詞の-eに対格-nをつけて、Dekstrenとなります。


 「Ni faru kiel ni praktikis hieraux.」

 →「モリーゴ、昨日の練習の通り行くぞ!」

  Fariは前述の通り、行動するでしたね。

  Kielは英語のHowやAsと同じです。

  Praktiki練習、Hieraux昨日ですので、As we practiced yesterdayとなります。


 「Vi ne devas nerva ankaux.」

 →「お前まで緊張することはないぞ」

  Deviは強制の意味で英語のMustやHave toと同じです。

  Nervaは緊張する(Be Nervous)、Ankrauxは共にですので、You don't have to be nervous tooとなります。

  ここも英語だとhave to be nervousで、Be動詞+形容詞と表現しますので、グーグル翻訳するとDevas esti nervozojとなってしまいます。

  エスペラント語には緊張するという動詞が有るので、シンプルにDevas nervaと表現出来るのですね。


・竜騎士団の紋章

 竜騎士団の紋章の形(エスカッション)はくぼみの有るスイス式です。紋章は上部三分の一が青色(アジュール)、下部三分の二が銀色/白(アージェント)に塗り分けられていて、上部中央(ミドルチーフ)の部分に竜王公国の印である竜があしらわれています。中央やや下部分(ノンブリル・ポイント)描かれている(チャージ)のは、黒の長槍と緑のドラゴンの片翼が交差する意匠です。

 紋章記述では、Swiss escussion Argent, a chief Azure with charged with a dragon, on a nombril point charged with a lance sable and a dragon wing vert crossed となります。多分。



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