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竜騎士と俺  作者: 5u6i
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第十六話 反撃の狼煙

前回のあらすじ


 咆哮(ムジャード)は思ったより体力を消耗する技だった。

 温かい食事で身体をいたわりながら、戦いに備えるのだ。

『ナカマニ ナレ』

 またあの不気味なしわがれた声が頭に響く。ビリビリと空気が震えている。

 霞がかった夜空に浮かぶクジラのような化け物だ。

 焼け焦げた森と、散らばった橙色の飛竜の肉片が思い浮かぶ。

「ふざけるな!」

『ナラバ コロス』

 化け物が大きく口の開き、青く光る。俺はすぐさま振り返り、ハオランとレオポルドに向かって叫ぶ。

「来るぞ!!!」

 その瞬間すべてが青白い光に包まれた。


 酷い悪夢だった。

 俺が人間だったら全身汗だくだっただろう。全身が小刻みに震えている。

 まだ夜は開けていない。アメリーオとカローロは既に起きて鎧を着込み、パンを齧りながら豆茶(カーフォ)を飲んでいた。ハオランはとぐろを巻いたまま小さな寝息を立てている。

「Morigo, vi jam vekigxis. Permesu al mi sxangxi vento-kristalo de la amuleto.」

 アメリーオが気付いてこちらにやってきた。

「Ho vi skuas. Trankviligxu. Ni gajnu cxifoje!」

 明るく笑ってみせるが、アメリーオの手も震えていた。こんな時間に起きて、臨戦態勢にあるという事は、これからなにか一悶着あるんだろう。

「またあの化け物と戦わなければいけないというのか。今度はハオランもレオポルドも居てくれるんだよな?」

 アメリーオは俺の頭を抱えるように頬をよせて、小さな声で歌いだした。

 夜明け前の洞窟にアメリーオの静かな歌声が響くのを静かに聴いていると、身体の震えが収まって行くのを感じていた。

 やがてアメリーオは大きな水色の水晶を取り出すと、俺の首の周りについていた割れた水晶と取り替えた。

 理屈はよくわからないが、水色に仄かに光を放つ水晶は、以前のものより力強さを感じた。


「Bonan matenon. Aromo de tiu kafo vekis min. Cxu mi povas havi tason de tio?」

 ジョセーフォが洞窟の上から降りてきた。

「Jes, sinjorino!」

 カローロが走ってコーヒーを持ってきた。

「mmm, bongusta.」

 カローロの顔がぱっと明るくなる。

「Nu, ni spiru profunde kaj preparu.」

「「Jes, sinjorino!」」

 洞窟内が慌ただしくなる。ハオランも起きて、ハーネスと鞍の固定を確認しているカローロを見ている。

 アメリーオも長槍のチェックをしている。いつもの訓練用の長槍より太く、本数も多いので、ずっしりと重みを感じる。

 ボウッと大きな羽音がして、レオポルドが飛び立っていった音がした。続いてカローロとハオランがくねるように洞窟から飛び立つ。そして俺とアメリーオも続く。

「Iru, Moringo! Ni gajnu xhifoje!」

「ああ、今度は俺らがめった打ちにしてやるぜ!」


 東の空が微かに明るくなってきている。

 遠く上空にレオポルド、少し前にハオランが飛んでいる。

 少し目を凝らして遠くを見ると、北側の森の上に橙色の飛竜の大群が見えた。

「Tie! Jen gxi.」

「やつらだ」

 高度をかせぐ為に力強く羽ばたいている翼に、さらに力が入り、すぐにハオランとレオポルドに追いついた。

 ジョセーフォは艦橋から、大声でアメリーオとカローロに指示を出している。

「「Jes, sinjorino!」」

 空全体が明るくなってきた。

 俺達は高度を維持しながら、橙色の飛竜の大群に上から近づく。前回のときより数が増えて百匹以上はいる。そして中央には奴が見え隠れしている。

 レオポルドは旋回運動に入った。ハオランはこちらを見ると、小さくうなずいて下降して行った。


「Iru!」

「おうよ!」

 俺は翼を畳むと、ハオランを追い越して一気に急降下する。アメリーオは重い長槍をしっかりと構えている。

 尻尾で細かく軌道修正しながら、物凄いスピードで落下していく。飛竜の大群がみるみる迫ってくる。

 二十メートル……十メートル……五メートル……。

 ザッと言う音と微かな衝撃が、アメリーオの長槍が橙色の飛竜を切り裂いていくのを伝える。

 それを八つ数えた頃には、雲を突き抜け地面が迫ってきていた。後ろからギャアギャアと飛竜たちの騒ぐ声が聞こえる。

 ここで翼を広げ一気に水平飛行、そして再び上昇に向かう。


 その頃には、ハオランも飛竜たちと格闘戦を繰り広げていた。ぬるりぬるりと予想外の動きをするハオランに、飛竜たちは苦戦している。

 上昇の速度が落ち着いた所で、今度はハオランの尻尾の辺りを目掛けて再び急降下に転じる。

 ハオランは動きがトリッキーだが、身体が長いく動きが伝わるのに時間がかかるので、尻尾の方は動きを予測しやすいのだ。

 アメリーオもそれを分かっていて、ハオランの尻尾の辺りに向けて降下するように、手綱を引いてくる。

 こうしてハオラン達が飛竜を引き付けて格闘戦で倒し、俺達が高速突撃で蹴散らし倒していく。

 大群の外側に散った飛竜は、レオポルドからジョセーフォが大砲と弓矢で援護射撃してくれる。


 数度目の急降下攻撃で飛竜の数も半分ほどになり、位置エネルギーを失って急降下の速度も落ちてきたので、俺も水平飛行を含む空中戦に切り替えていく。

 ハオランが飛竜の首根っこを捕まえ、尻尾に齧りついて抑えている間に、俺が鉤爪で斬りつけて仕留める。

 ハオランの後ろから回り込んくる飛竜はカローロが長槍で倒す。俺の突撃を避けた飛竜をジョセーフォが弓で落とす。

 レオポルドに体当りしてくる飛竜はハオランが尻尾で弾き飛ばし、俺が下から急上昇して、アメリーオが長槍突き上げる。

 完璧なチームワークだった。


 突如、橙色の飛竜達が左右に別れて散った。奴だ。クジラの化け物が来たのだ。

 青白い炎をあげる目が、ギロリとこちらを睨む。

『ナカマニ ナレ』

 頭に響く声はハオランやレオポルドにも聞こえているようだ。

「ならねぇよ!」

「Buhui!」

「Niemals!」

『ナラバ コロス』

 化け物が大きく口の開く。青白い巨大な歯が威嚇する。喉の奥が青く光り、辺りの空気が吸い込まれて行くのがわかる。

 俺はすぐさま振り返り、ハオランとレオポルドに向かって叫ぶ。

「来るぞ!!!」

 離れていたレオポルドと、気流に左右されないハオランは、すぐさま射線から外れたようだ。

 俺は吸い込まれる気流から、必死に羽ばたいて逃げようと努力する。

「くそっ!っざけんなぁぁぁ!」

 胸元の水色の水晶が煌々と光を放ち、周りの気流が止まる。

 俺は水の中を泳ぐようにゆっくり、スローモーションで奴の正面から外れる。

 次の瞬間、辺りは白い光に包まれ、すべての音が消失した。


 俺は反射的に翼を畳むと、首をかがめて、受身の姿勢を取っていた。

 ギリギリ直撃は逃れたものの衝撃波が腹にドシンと響くのを感じた。すぐさま翼を広げて姿勢を安定させる。

 アメリーオは大丈夫だろうか。そう思ったら後ろから声がした。

「Ne retirigxu! Ni batalos reen!」

「ガッテンだ!あの化け物クジラ、絶対に許さん!」

 俺の中で血液が沸騰するのがわかる。

「臨兵闘者皆陣烈在前!!」

 沸騰した血液が一斉に腹に集まりボコボコと膨らむ。かつてないほどの凄まじい吐き気が襲う。

(まだだ、もっと我慢して威力を増すんだ!)

 必死に吐き気と闘いながら横目で見ると、少し離れた所でハオランも目を白黒させている。

 俺は化け物クジラのぽっかり開けた口の正面に移動すると、ハオランもそれにならって俺のすぐ下に来た。


「「Fajoro!!!」」

 アメリーオとカローロが同時に叫ぶ。俺とハオランはその凄まじい吐き気を開放した。

 俺の口から吐き出された空気の玉は、ハオランの吐き出した火炎を吸い込んで、みるみるうちに直径数十メートルの巨大な火球となって、化け物クジラの口中に撃ち込まれた。

 化け物クジラはすぐさま口を閉じたが、すでに時遅し。俺達の放った火球は奴を腹の中から焼き尽くしていた。

 やがて、その光沢のある黒い身体に、赤いヒビが入って炎が吹き出した。

「来るぞ!」

 衝撃波が白い壁となって襲ってくるが、俺が受身を取るよりも早く、胸元の水色の水晶が再び青白い光を放って、俺とハオランの前に空気の盾を作り出す。


 俺が再び目を開くと、化け物クジラだった物体がゆっくりと燃えながら堕ちていくところだった。

 振り返るとアメリーオが、渦巻き模様の彫り込まれた長槍を構えたまま虚ろな目をしていた。

「Mi faris gxin..」

用語解説


・ワンポイント・エスペラント語

 今回のポイントとなるセリフを解説します。

 「Morigo, vi jam vekigxis. Permesu al mi sxangxi vento-kristalo de la amuleto.」

 →「モリーゴ、起きたのか。ちょうどいい、お守りの風精晶を取り替えてやろう。」

  英語にすると Morigo, you woke up already. Well, let me change Air-Crystal of the amulet.ですね。

  Jamは既に、Permesuは~させる、Alは方向を示す語、Sxangxiは交換する、Vento-Kristaloは風精晶、Amuletoはお守りです。


 「Ho vi skuas. Trankviligxu. Ni gajnu cxifoje!」

 →「なんだ、震えているじゃないか。大丈夫だ。今度は勝てるさ!」

  Skuasが震える、Niは我々、Gajnuが勝つ(意志)、Cxifojeが今回です。


 「Aromo de tiu kafo vekis min. Cxu mi povas havi tason de tio?」

 →「コーヒーの香りで目が覚めたよ。私にも一杯貰えるかな」

  英語にすると Aroma of that coffee wakes me up. Can I have a cup of that. です。

  Aromoは芳香、Tiuはこの、Kafoは珈琲、Vekisは起こす(-is過去形)、Minは私(Mi)の対格ですね。

  Cxuは疑問詞、Miは私の主格、Povasは可能、Haviは手に入れる、Tasonはコップ、Tioはそれですね。

  割と英語だと直訳です。


 「Nu, ni spiru profunde kaj preparu.」

 →「さ、深呼吸して出発の準備だ」

  Spiruは呼吸(-uなので意志)、Profundeは深い(-eなので副詞)、Preparuは準備する(-uなので意志)、です。


 「Ne retirigxu! Ni batalu reen!」

 →「怯むな!反撃だ!」

  Retirigxuは退く、Bataluは戦う、Reenは再びです。

  どうしても意志法というか命令形が多くなります。


・ならねぇよ!

 『ナカマニ ナレ』に対しての三人(匹?)の回答は

 「ならねぇよ!」 日本語ですね。

 「Buhui!」 不会! 中国語で「できません!」です。

 「Niemals!」 ドイツ語で「ありえない!」ですね。英語だとNeverにあたります。


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