表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜騎士と俺  作者: 5u6i
15/24

第十五話 作戦前夜

前回のあらすじ


 模擬戦闘訓練でレオポルドを倒した、アメリーオ/モリーゴ、カローロ/ハオランだったが、まだ学ぶべきことは多かった。

 アメリーオは風魔法を、ハオランのとモリーゴは咆哮(ムジャード)を手に入れたのだ。

 俺はジョセーフォとカローロとハオランとアメリーオに見つめられて、にっちもさっちも行かなくなった。

「……わかったよ。やってみる」

 仕方なく思いつく呪文を唱えてみる。

「臨兵闘者皆陣烈在前!」

 すると、あたりの空気が一斉に胃の辺りに集まってきて、はらわたが暴れて二日酔いのような気持ち悪さが襲ってくる。口の中が酸っぱくなり、今にも吐きそうだ。

「うぼわぇぇぇっ!」

 たまらず俺は何かを吐き出した。凄まじい反動と音で俺は尻餅をついた。

 どこからどうやって出たのか、大きな空気の塊が洞窟の外の森に向かって、白い飛行機雲のような尾を引いて飛んでいって、遠くの方でメリメリと大きな音を立てて大木を倒してしまった。

(なんじゃぁ! こりゃ!)

 俺は尻餅をついたまま声にならない叫び声を上げていた。


「Morigo! Vi faris nekredeblan laboron!」

 ジョセーフォが拍手をしながら立ち上がると、カローロとアメリーオも立ち上がって俺のところに走り寄ってくる。なんだか気恥ずかしい。

 ハオランだけは不機嫌そうな顔をしていたが、カローロがニコニコと笑ってハオランのところに戻って、ハオランの頭を抱えて撫でているうちに、すこし落ち着いたようだ。

 確かにすごい技なのは認めるが、俺からしてみればただの嘔吐だし、この吐いた後のようなげっそりとした疲労感は辛い。できればあまり使いたくない技だ。

 俺の猫の毛玉吐きみたいな技に比べ、ハオランの火炎放射はかなり竜らしい技だ。上手く使えば複数の敵を一度に倒せるかもしれない。

「Wo taoyan zhe weiteng……」

 やはりハオランも気持ち悪そうな顔をしていた。アイツも不機嫌なのは吐き気のせいらしい。


 夕方まで掛けて、俺達はそれぞれの魔法や技を練習していた。そう、技もだ。

 俺とハオランはあの後、二度ずつ吐き気に苦しめられた。おかげで、技を出す強さや向きなどを、コントロール出来るようにはなった。

 アメリーオは本を片手に何度も練習しているうちに、一瞬だけならかなり強力な突風を作り出すことが出来るようになった。

 太陽が西に傾く頃には、俺らはみんなぐったりと疲れ切って座り込んでいた。


 その間に、奥の竈の周りでは、カローロとジョセーフォが夕食の準備をしている。

 正直言って、三度も力一杯吐いた俺は、何も食べられる気がしなかった。ハオランも似たようなものだ。

 アメリーオにいたっては、うなだれて小さないびきをかいて寝ている。


 俺も調理場から聞こえてくるリズミカルな包丁の音や、何かの煮える音や炒める音を耳にしているうちに、ウトウトとしてしまった。

 日が暮れる頃には、テーブルには料理が並び、懐かしい香りが俺の鼻をくすぐり、もう夕食の時間だと俺を起こす。

「Wa, zheshi zhouma?」

 ハオランも香りにつられて飛び起きたようだ。アメリーオはもう席についている。俺たちもテーブルに向かう。

 テーブルの上には大きな鍋がいくつも並ぶ。豆腐と冬瓜のスープ、雑穀粥、茹でた鶏肉の酢味噌掛け、カブと白菜のあんかけ、ピーナッツ入りミルク粥と、胃に優しそうな料理が並ぶ。これなら俺もハオランも食べられそうだ。


「Preparante por la batalo plano por morgaux」

 ジョセーフォが姿勢を正して訓示を始めた。

「Karolo elektis receptojn, kiuj estas malpeza kaj facila sur via stomako」

 カローロが料理を作ったのだろうか。自慢げに胸を張っている。

「Ni mangxu bone kaj dormu bone. Por la regxo kaj la drakoj!」

「「Por la regxo kaj la drakoj!」」

 カローロはお腹が空いていたようで、待ってましたとばかりにガツガツと食べ始めた。

 アメリーオとジョセーフォは談笑しながら、茹でた鶏肉を食べている。

 ハオランも長いスプーンで器用にスープと粥をすする。

 俺もスープから順に味わうことにした。


 豆腐と冬瓜のスープは、丸鶏のスープに、冬瓜と豆腐が入った塩味のスープだ。胃がじんわりとあたたまる。スープを飲み干すと、底の方にナツメが入っていた。爽やか甘みを感じたのはこれのためだろう。

 雑穀粥は米ではなく、(ひえ)か、(あわ)か、(きび)のようななにかで作られた、やや黄色がかった粥だ。これもシンプルだが、口の中でほのかな甘みを感じる。

 茹でた鶏肉の酢味噌掛けは棒々鶏に近い味わいだが、味噌が変わっていて胡桃の香りがする。実家近くの中華料理屋を思い出させる。

 カブと白菜のあんかけは、丸鶏のスープで煮込んだカブと白菜が、しっかりと味を吸っていて美味しい。生姜の香りがたまらない。

 ピーナッツ入りミルク粥は赤い薄皮のついた大粒のピーナッツが、米と一緒に柔らかくなるまでしっかり煮込まれている。彩りに添えられたクコの実が美しい。ミルクの濃厚な香りとがホッコリした気分にさせる。


 新しい技の練習で痛めた胃も、滋味あふれる温かい食事ですっかり癒やされ、さっきまでウトウトと寝ていたのに、また身体が睡眠を要求してきた。

 ジョセーフォは洞窟の上の台地に停泊しているレオポルドの艦橋に戻り、アメリーオとカローロも明かりを消して横になっている。

 ハオランは大きくあくびをすると、洞窟の入り口近くのお気に入りの場所でとぐろを巻いた。

 俺もいつもの寝床で横になると、十も数えぬうちに眠りに落ちてしまった。

用語解説


・ワンポイント・エスペラント語

 今回はジョセーフォのセリフを復習します。

 「Morigo! Vi faris nekredeblan laboron!」

 →「モリーゴ!やるじゃないか!」

  英語にすると You did incredible works! なのです。IncredibleがNekredeble、WorkがLaboronです。


 「Preparante por la batalo plano por morgaux」

 →「明日の作戦行動に備えて、」

  Preparante=準備する、Batalo Plano=戦闘計画、Morugaux=明日です。


 「Karolo elektis receptojn, kiuj estas malpeza kaj facila sur via stomako」

 →「カローロが身体に負担にならない献立を選んでくれた。」

  Electis=選択した、Receptojn=レシピ、Mapleza=Mal-Pleza=軽量で、Facilia=Easy=優しい

  英語にすると Carlos chose recipes that are light and easy on your stomach です。


 「Ni mangxu bone kaj dormu bone. Por la regxo kaj la drakoj!」

 →「しっかり食べて、しっかり休もうではないか。竜王と我ら竜騎士団のために!」

  Mangxu=食べる、Dormu=寝る、Regxo=王、Drakoj=竜騎士団です。

  Niは我々で、次の動詞の語尾がuは意思を表しますから、Ni mangxuで我々は食べる。

  どのようにがBone=良いですから、Ni mangxu boneで我々はよく食べるとなります。



・今夜の献立

 本文でもだいぶ触れましたが本日のメニューです。

 ・冬瓜汤(Donggua tang)

 冬瓜のスープとしては香港料理の冬瓜盅(Donggua zhong)という、飾り切りをした冬瓜をまるごと蒸したスープが有名ですが、ここではもっとシンプルな家庭料理として、丸鶏のスープに冬瓜と豆腐、そして紅棗(ナツメ)が入ったあたたまるスープにしました。ナツメは日本ではあまり見かけませんが、ベタベタしないスッキリとした甘みがあります。

 ・小米粥(Xiaomi zhou)

 雑穀粥のことです。(ひえ)(あわ)(きび)などをベースに、小豆や蓮の実などが入ります。

 ・棒棒鶏(Bangbangji)

 茹でた鶏肉の酢味噌掛けですが、実はこの茹でた鶏肉は、丸鶏スープを取るときに、途中で引き上げて身を外したものだったのです。

 この世界では味噌と言うと、胡桃をすり潰して発行させた胡桃味噌(ヌクソ・パースト)なので、胡桃の香りがします。

 酢はややキツめなのですが、砂糖大根の搾り汁をあわせているので、甘みがきつい酸味をマスキングしています。

 ・白菜烩大头菜(Baicai hui Datoucai)

 丸鶏のスープで煮込んだ大头菜(カブ)の甘みがたまらない一品。大头菜というと日本の蕪よりもやや緑色で、英語圏ではKohlrabiとして知られている品種です。なお、烩というのはあんかけという意味です。

 ・牛奶花生粥(Niunai Huasheng Zhou)

 煎ってない生のピーナツを柔らかくなるまで茹でると、なんとも言えないピーナツの香りと甘みが楽しめる逸品なのですが、これを牛乳入りのお粥にいれます。

 胃が弱っているときに良いメニューということです。


・解説が長い

 飯レポ回なので……すみません

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ