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9.泥棒


零は武器屋を出た時と同じ速度で戻っていた。もちろん『戦力隠蔽』も発動したままだ。


そして土煙がたっているところに着くと状況を確認する。


「家一軒だけをきれいに壊すとかAランク冒険者って荒々しいな。」


そこには隣の防具屋と民家に全く傷をつけることなく、武器屋だけが文字通りつぶれていた。そしてうつぶせに倒れている大男が肩から血を流していた。隣にはルネが瓦礫(がれき)を探っている。少し離れたところに3人組がおり、真ん中の男は少しいら立っているようだ。


「君が僕に剣を渡さないのが悪いんだ。ま、この剣だけは貰っていくよ。人が来る。2人とも帰ろう。」


そういって風の貴公子ラスバルドはどこかに去っていった。


(どあほおぉぉぉ!!貴公子!?泥棒じゃん!え?捕まらないの?)


零は混乱していた。が、すぐに元に戻らざるをえなくなった。去る意思がない人が1人———


「ラス様に剣を渡さないとはいったいどういうご身分なのかしら?ゴミはゴミらしく切り刻まれてくださいまし!」


―——赤髪のビストが振りかぶり剣を振り下ろそうとしていたからだ。しかしそれが鍛冶師ドーグに届くことはない。


我流(片手)真剣白刃取り、、なんちゃって。」


零が反応できないわけがないのだ。それはそうと、顔を見てみれば照れてはいるが、やりたいことができて満足そうである。


「な、い、いつのまに!?」


「まあまあ!それより早くいかないと人が来ちゃうんじゃないですか?」


(帰れ帰れ帰れー!!お願いだからこのまま帰ってくれ~!)


我が強い人が苦手なため見るからにわがままそうな目の前の女性を早く追いやりたいのであった。


「くっ、聞きたいことがいろいろありますわ!しかし時間がないのも事実、、。あなたの運がよかったと思うことですわね!」


そして剣を引き抜こうとするビスト。しかし、、


「ちょ、ちょっと!剣を離してくださいます!?」


「んーごめんなさい、これなかなか良さそうな剣なので頂きますね。ほいっと!」


剣の先端をつまんだままねじるようにして引き抜き、マジックバッグに放り込む。やることはまさにカツアゲだ。


(人前で使う用の確保完了!さすが俺!)


やった本人は気分がいいがやられた側はたまったもんじゃない。入手してから手入れを怠らず、ずっと共に冒険してきた相棒のはずだからだ。だが、今回の場合それには当てはまらない。なぜなら―――


「もう!せっかくここで手に入れたものですのに!次会うときは覚悟してくださいまし!」


―——そう。先ほどラスバルドが武器屋を壊した時ちゃっかり盗んでいたのだ。それを零が知っていたかどうかはさておき、結果的に取り返したことになる。


(ふぅ。やっと去ったか。それにしてもあの剣がもともとこの店のものだったとは、、。まぁいっか!)


知らなかったようだが済んだことである。


「さて、通行人が来る前に早く片付けて退散しましょう!」


くるっと180度回って後ろにいる2人に言う。


「あ、あぁ。だがしかし人が来る気配がないのだが?わしの店が倒壊してからそこそこ時間がたっておるはず、、。」


「先ほどまであの人たちが防音の結界を張っていたからだと思います。というかおっさん怪我してたはずじゃ?」


「割れていないポーションが残っていましたので。中級があったのは幸運でした。」


ドーグの横にいたルネがサッと答える。落ち着いているようで、頼もしさがあふれている。


「それはよかった。えっと、、、これどうします?」


指を下に向け散らばっている残骸に目を向ける。ドーグが顎をさすりながら唸っている。


「ううむ、、。仕方があるまい。ルネよ、マジックバッグみ素材と道具を詰められるだけ詰めよう。」


「でもそれですとここに散らばっている武器たちまでは、、。」


「道具さえあればまた作れるのだ。それにだな、ここにあるものは全てたいした思い入れなどない。そこの少年に渡した刀を完成させるので精一杯だったからな。加えてわしが全力でつくったものが簡単に扱われるのはあまりいい気がせぬ。」


そう言ってドーグはニカッと笑った。


(ふぇぇ、手を抜いてこれなのか。いや、手を抜くは失礼かな。ともかくこれだけ捨てていくのはもったいなさすぎる!どうすれば、、あ、魔法を作ればいいのか!やはり空間系は必須だな。早速必要になるとは。)


そう思うなり目を閉じてただ周りの状態をイメージする。


『「空間支配」「空間把握」を獲得しました。』


「よし、成功したか。」


「ん?何か言うたか?」


「あ、何でもないです!」


(てかこの2人なら色々ばらしても問題ない気がする。職人気質の人って口堅そうだし。)


色々、というのはもちろん零自身のことである。


「うむ、意外と空きがあるな。じゃがこれは念の為に空けておこう。」


「持てるものは持ちました。ですが建物がこうなってしまってはかなり問題かと、、。」


「いっその事さら地にしたいところじゃ。」


今まで村にあった武器屋が倒壊した状態になっていたら誰もが驚き混乱するだろう。そうなった場合めんどくさくなるのは目に見えている。かといって立て直すのはあまりにも現実的ではない。今後使う誰かのためにせめて土地だけの状態にしようと思ったのだろう。


「任せてください。えーと、まずは僕たちを浮かせて。」


と言いながら零は『空間支配』を使って3人を空中に浮かせた。下位互換の『空間操作』ではできない芸当だ。


「な、なんと、、。」


「きゃっ!」


ドーグは目を見開いて驚きながら。ルネは普段の落ち着いた雰囲気からは想像できない可愛らしい声を出しながら宙に浮いていた。その際ルネの顔が少し、いやはっきりと紅く染まっていたのはここだけの話である。


「あとは下のものを全て異空間にしまえばいいんだ。」


零は右手を下に向け念じる。すると、一瞬で全てなくなったのだ。武器も建物に使われていた木材も、である。


「これはすごいものだ、、。今日は驚いてばかりだな。」


「はい、私もです。」


などという感想に零は苦笑いですましておく。


(しっかしそれにしても仕分けとかめんどくさいな。処理能力に特化したスキルとかないものか。)


『「システム」を創造しました。』


(ん!?そ、創造しちゃった1?ま、まぁ必要だったし、、うん。)


思いのほか簡単に手に入ったことで少し冷静になり自分がかなりおかしいことに気付いたが無理やり納得させた。


(よ、よし!落ち着いてからもう一度整理するか!)


この場合逃げ、と捉えられるかもしれないが現実は見ての通りゆっくりできる状況ではなく零は自己の正当化に成功する。


「終わったので降ろしますね。ほいっと。」


「ふむ。なかなか面白い体験をさせてもらったようだ。ありがとう。」


ドーグを見ると軽くではあるが頭を下げていた。


「ちょ、頭まで下げなくてもいいですって!大袈裟すぎますよ。それよりこれからを考えましょう。」


「はい、そのことに関してなんですが私は旅をしたいと思っています。」


ルネが一歩前に出ながら言った。


「旅?ここ以外にも住める場所はたくさんあるんじゃ、、?」


「いや、確かにそうじゃがわしが意外と有名でな。すぐにバレて武器の手入れやら作製やらを依頼されてどうせゆっくりできんのは目に見えておる。ならば旅をしてみるのもいい案かもしれぬ。」


(なるほど。確かに毎日依頼依頼では大変そうだ。さて、俺はどうしたもんかね、、。」


などと思案していると突然零の体が光の粒子になり始めた。が、その表現だけでは正しくない。


『アルペンに適応しました。それによりただ今からメインとなる体を変更いたします。』


「ほぇ?」


呆けている間に粒子になったところから構成し始めているのだ。それは短時間の出来事だった。そして全てが再構成された時にそこにいたのは宿屋で確認したこの世界、アルペンでの姿をした零だった。つまり12~3歳相当の幼い顔をした銀髪の、それもたいへん整った容姿をした少年?少女?である。今のところ性別の概念がないためそのどちらでもないのだが、、。


「あれ、体縮んじゃった、、?おかし――えっ!結界も消えちゃってる!まずい、おっさんはやく逃げよう!」


「ん、あ、あぁ。聞きたいことはあるがあとにしようか。ルネよ、準備はよいな?」


ドーグが問いかけるが反応がない。


「ルネ、どうした?」


「は、はい!いつでも行けます。」


「そ、そうか。ならこの村から出るとするかの。」





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