仮面
何処でもいいが、とある地域では毎日仮面舞踏会が開かれる。会場は床が美しく反射する薄氷のようなガラス張りの床だ。このガラスは決して割れない素材でできているらしい。
「俺」は生まれてから色んな人と踊り続けてきた。綺麗な麗人、可憐な少女、凛々しい淑女に至るまで、それこそ様々に。毎日毎日飽きもせず。この舞踏会では仮面をつけるが、はじめのパートナーに自らが作った仮面を渡してつけてもらうしきたりがあるので、手間はかかるが毎日毎日同じ仮面を作っている。
こちらも仮面を貰うから家には数えきれないほどの仮面がある。それが日常。毎夜、それまで何をしていたかも忘れて踊る。
不思議と飽きはせず、友人も親兄弟も生まれた時からそうしていた。死ぬまで踊り続ける。段々と踊る相手には気にも留めなくなり、変わらずに踊り続けることだけを一心に、まるで薄氷が割れないように静かに時に激しく踊る。時々相手の仮面に自分の顔に見えることがある。別段気にもしなかったが、とても可笑しな顔をしていた気がする。
ある日、「仮面」舞踏会だというのに仮面もつけずに踊る女性がいた。周りも別段気にする様子はなかったが、その女性は「俺」に興味を持ったのか、何故かはわからないが、頻繁に「俺」と踊ることが多かった気がする。
いつしか彼女の顔が気になるようになっていった。彼女だけが毎夜同じ顔を晒していた。
ある時彼女が、
「私を見て」
と言った。
何を言っている、「俺」はこうして貴女と顔を合わせて踊っているじゃないか。
「何を怖がっているの?」
怖がっている?ますます訳がわからない。
生まれた時から続いているこの踊りに、最初こそすれ、恐怖するときもあれば、今更そんな感情沸くはずもないだろうに。可笑しな人だ。そういえば、あの頃は一体何に怖がっていたのだろうか。まぁどうでもいいだろう。
「臆病な人。貴方だけよそんな人」
「俺」だけ?みんな各々の仮面をつけているじゃないか。みんな違ってみんないい。綺麗事だが良い表現だ。これもまさにそうだろう?みんながみんな違う仮面をつけて、楽しそうに踊っている。
「ああ、可愛そう。貴方はきっと病気なんだわ。臆病という病気よ」
勝手なことを言う。「俺」はすごいんだぞ。
踊ることと、仮面を作ることに関しては他に右に出るものはいないほど。毎夜踊る相手も皆口を揃えて言うぞ?
「皆お世辞が上手いのかしら?」
バカにするのも良い加減にしろ。なら、今日は「俺」と夜通し踊り明かそうじゃないか!
世辞出ないことを証明してみせよう。
そんな問答を続ける内に変わらない、同じ顔の彼女が気になり始めるようになってきた。
仮面を作っては舞踏会に出かける日々に、刺激が増していく感覚と言えば良いのだろうか?
今日は踊りも仮面の出来も過去一番な気がした。彼女は相変わらず「俺」に悪口を言ったりしたが、不思議と嫌じゃなかった。
新しい感覚、仮面の奥を覗き込んでいるような、言い知れぬ背徳感とでも言うのだろうか。不思議と気分が高揚した。
しかし今日は特別だった。
「そう、不安なのね貴方」
不安?一体何が?
「貴方ずっと1人なんだわ」
1人?「俺」には友も兄弟もいる。1人ではない。
「なら何故、仮面を作るの?」
しきたりだから?
「違う」
‥何が?
「貴方は自分が見えないことに不安を感じてる。他の人もそう。皆、自分が見えないことが怖い。自分は何処にいるか分からないことが怖い。だから仮面を作るの」
仮面を作ってそれが何になるというのだ。
「だって皆が渡す仮面は自分と同じ顔をしているじゃない。そこに自分がいるのがわかるよ、それで。」
それがしきたりだ。そうやって生きてきたのだ。
本当に可笑しな女性だ。
初投稿です。
ふと描きたい思いを文字に起こしただけなので、
拙い文章となってしまいました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。